縦書き
行開け
マーカー

新たな宇宙生物

by:メリーさんのアモル 

 

 
 

GUFのパイロットはその日、新たな脅威と出会う

 

中央政府の統一軍・GUFに所属するイファン人類ハーディン・アンドレゴト・アグートは、偵察任務中、パルス・レーザーによる攻撃を受ける。
それは新たな脅威と出会う先触れであった。

 


 

「♪〜 ♪〜 ♪〜」
 私は歌を歌いながら、真っ暗闇の中を飛んでいた。
 私の名前はアンドレゴト・アグート。新宇宙政府統一軍GUFのパイロットだ。
 今は、戦艦「ストレーガー」の哨戒艦載機として偵察任務を遂行中だ。
 一人ぼっちで宇宙そらを飛ぶのは気持ちが良い。この辺りは近くに主だった恒星もないようで、コンピュータの補正がなければ文字通り真っ暗だろうが、それが却って自身の孤独感を増してくれて、気分が良い。
「良い歌ですね」
 だが、その気分はその通信によって失われた。
「なっ、い、いつから聞いていた……!?」
「五分くらい前から、でしょうか。歌い終えたら情報を伝達しようかと、待っていたのですが」
「その間ずっと盗み聞きか? 地球人は意地が悪いな」
 その声の主を私は知っていた。ストレーガーのオペレータ、確か、アンナ・タカナシとか言ったか。我々の母星たるイファンから見て、絶対方位で東方にある惑星を母星とする種族だ。数百年前、まだイファンが独立国家であった頃に建造された戦艦であるストレーガーのクルーは主に我々イファン人類ハーディンで構成されているので、アンナは少し浮いている。
「そんな言い方ないじゃないですかー。同じ、GUFの同志でしょう?」
 私のストレートな物言いに、アンナが不満げな声を上げる。
 我々ハーディンが母星たるイファンから宇宙へと版図を広げたのが既に何百年と前。我々ハーディンはやがて他の知性体と出会い、戦争を始めた。
 我々を西方の魔女ウェストウィッチと呼ぶ東方の野蛮人、その野蛮人が巨人の軍勢ヨイツンヘイムと呼ぶ更なる野蛮人、そして、ワ・ロニス感応帝国を名乗る全ての生命自我を統一しようと言う野蛮人、挙げればキリがない。
 だが、ハーディンは他の知性体と共に歩く道を選んだ。知性体達で集い、それぞれの母星から離れた一つの場所を中央政府と定め、新宇宙政府が樹立した。新宇宙歴New Universe Ageの始まりだ。
 そうして生まれた新宇宙政府の連合統一軍がGUFだ。
 だから、我々ハーディンの艦艇であるストレーガーに他の種族が乗り込んでいるのは決しておかしいことではない。
 それでも、私は面白くなかった。ハーディンはハーディンだけで生きていけばいい。
「お前達だって同じじゃないのか?」
「そんな……私はセントラルアースの人間とは違います」
 自分の考えをまとめてアンナに伝えると、アンナは率直に反論してきた。
 セントラルアース。現在のGUF二大脅威の片割れだ。
 地球至上主義者であり、地球政府を世界の中心に取り戻そうと言う連中だ。
 九隻の巨大複合艦を持ち、いつも宇宙のどこかでGUFや過激派反差別組織であるネオ・アドボカシーボランティアーズなどと戦っている。
 正直、気持ちが分からないではない。
 私も、イファンが再び世界の中心に戻ればいいのに、と思うから。
 だが、それは同時に再び戦争を発生させようと言う思想に他ならない。セントラルアースやワ・ロニス感応帝国との戦線、各地の小規模な紛争。それらに目をつぶれば、銀河の大半は今、平和だ。
 それを再び戦火で焼こうなどと、おおよそ考えて良いものではない。
「それで、要件は?」
「グリッドデルタトゥースリーに謎の発光が見られたとのことです。ストレーガーもそちらに回頭し、急行していますが、現時点では、アンドレゴドさんが最も近いので、偵察をお願いしたいとのことです」
「承知した」
 現在、ストレーガーは対ワ・ロニス感応帝国と呼ばれる国家との前線に向かっている。
 ワ・ロニス感応帝国は知的生命体の脳に機械を埋め込む事で統一意志を実現し、高みに至ろうとしている宗教が中心となっている文明で、今もなお様々な惑星にチャーチシップと呼ばれる艦船を降下させ、無理矢理に脳に機械を埋め込んで、統一意志を作り出そうとしている。
 まだ最前線までは距離があるが、GUFとてこの広い宇宙全てを統制下に置けるわけではないから、防衛ラインをこっそりと抜けてきている艦艇がいても不思議ではないだろう。
 目標グリッドに近づく。
 直後、翼のエネルギー転換装甲がエネルギーを受けて変換に成功したことを告げる表示が出る。
「レーザーか!」
 素早く反応し、操縦桿を倒して右旋回。
 味方に射線を知らせる為に着色された赤い破線のパルスレーザーがさっきまで私の機体がいた場所を通り過ぎていく。
「こちらアンドレゴド。回避機動ディフェンシブ! 会敵マージ
「敵機は視認できますか?」
「いや、だが赤いパルス・レーザーだった」
「と言うことは、セントラルアース?」
 レーザーの色は触媒となるフェザナイトの色で変わる。一般的なGUFのフェザナイトは青いため、レーザー光も青い。
 しかし、全てを地球産に拘るセントラルアースは地球で合成される人工フェザナイトを使っており、これは赤い。
「かもな」
 レーザーはその名の通り光の速度で進む武器で、一光秒以上離れているのでない限り、発射と同時に狙った場所に命中する。そしてそんな距離離れているなんていう戦況はほぼ考えられない。要は回避が不可能な攻撃だ。
 とは言っても、レーザー攻撃は熱量による攻撃であるため、近年の宇宙戦闘機に装甲として使われているエネルギー転換装甲は、熱量のエネルギー変換が得意なので実際に与えられるダメージは少ない。
 私はレーザーの飛んできた方向へ視線を向けつつ、ランダムな回避機動を取って、攻撃を回避していく。
 それはそれとして光源がレーザー光しかない状態なので、敵機の位置がよく分からない。
「ストレーガーが照明弾を発射します」
 そうアンナの通信が聞こえてきたと思った直後、小規模な恒星が空に登ったかのように、辺りを照らし始めた。
 それで、敵の姿が見えた。
「なんだあれは、ほぼデブリじゃないか」
 それは残骸だった。宇宙戦闘艦の残骸。GUFとセントラルアースが共に用いている地球産の戦闘艦、オセアニア級だ。
 強力な〝粒子〟砲によるアウトレンジ戦法を得意とするオセアニア級が、単艦でこんなところに浮遊しているとは考えづらい。ワ・ロニス感応帝国辺りに撃沈されて取り残されたのだろうか。
 今なお撃ってきているパルス・レーザーは、自動迎撃システムがまだ起動しているからか?
 自分の考えをアンナに告げる。
「あの……」
 アンナが言い淀む。
「なんだ、早く言え。こちらは撃たれてるんだ」
 直ちに致命傷にはならないパルス・レーザーとて撃たれ続ければエネルギー転換装甲がオーバーヒートして撃墜されてしまう。
「そのオセアニア級に乗り込んで、調査できませんか?」
「何?」
 思わぬ言葉に思わず聞き返す。アンナは単なるオペレータではなく、分析官でもある。そのアンナが言うのであれば必要なのだろうが、残骸に乗りこめ、とは。
「そちらのセンサアレイからのデータを分析したところ、その残骸から生体反応が確認されています。誰かがまだいるのかもしれません」
「誰かがいる? あの残骸の中で生き延びている知性体がいると?」
「はい。であれば、GUFとしては助けないわけにはいきません」
「……それは道理だな」
 オセアニア級戦闘艦、そして、赤いパルス・レーザー。それが指し示すのは、あの残骸の艦艇は、GUFに敵対的な組織であるセントラルアースの所属である、と言うことだ。恐らく、乗っているのも十中八九セントラルアースの構成員だろう。
 だが、GUFとしては救助が必要な知性体がいるのであれば、これを助けないわけにはいかない。
「そちらから揚陸要員を送れないのか?」
「可能ですが、まだ時間がかかります」
「そうか」
 ストレーガーはまだイファンが独立していた時代に作られた戦艦だ。イファン文明は〝粒子〟操作技術に一日の長があり、ビーム砲撃やビーム砲撃からの防御には長けているが、推進器やレーダーのような技術は他文明と比べると一歩遅れている状態だった。
 それで、今の私がやっているような偵察任務が必要となるし、分析官もわざわざハーディンではない知性体を頼らなければならない状況だ。
「任務了解した。これより、残骸に強制着陸を試みる。着陸後も引き続きバックアップを頼む」
「はい、お任せ下さい」
 赤いパルス・レーザーを回避しつつ、機体を残骸の裏手に回り込ませる。
 戦闘艦であるオセアニア級にも着艦用スペースがあるはずだが、残骸ではどこがそれなのかさっぱりわからないし、ビーコンなども特になかったので残骸の比較的平べったい位置に強制的にアンカーを放って着陸する。
【パイロットスーツセルフチェック……[OK]】
 着陸に成功したのを確認次第、船外活動服を兼ねたパイロットスーツの状態に問題がないかセルフチェックをする。
【警告:ブラスターが取り外されました】
 コックピットから自衛用のブラスターを取り外し、機外に出る。
 ブラスターはライフル程度のサイズの〝粒子〟ビームを撃ち出す銃だ。
 〝粒子〟はこの世界に満ちている物質で、特定の刺激を与えることで、強い熱を持ち緑色に光るようになる。これを利用して軍艦のエンジンや、軍艦の砲などが作られている。ただし大型にしなければ十分な出力を得られないため、一般的なブラスターにしてもライフルサイズでようやく拳銃の射程だ。しかし、宇宙空間では物理弾はどこまでも飛んでいってしまうため、勝手に減衰する”粒子”ビームは都合が良いこと、”粒子”はこの世界に満ちているため時間経過でリチャージが出来ることなど、このサイズである以上の利便性がある。
 それだけではない。我らがイファン文明は〝粒子〟操作技術に一日の長がある。そのため、我らがイファン製のブラスターは通常のブラスターより威力が高い。
 それでも、最近GUFに加入した組織たる〝アドボラ〟が運用しているフェアリーガンには劣るのだが。まぁ、あれは〝サーミル〟感染者にしか使えないブラスターだ。それを羨むのは違う。
 艦内に入る。あちこち穴だらけの廊下を進む。
「生体反応はその廊下をまっすぐ行った先です」
「相手がセントラルアースだとしたら、こちらがハーディンと見れば即座に襲ってくるだろう。その時は自衛するぞ」
「はい、それは勿論です」
 私の言葉にアンナが平然と頷く。
「同じ地球人だろう? 傷つかないのか?」
「同じ地球人として心が痛まないと言えば嘘になりますが、そうは言ってもGUFに敵対する以上は、それを生かすために味方を、アンドレゴドさんを差し出すわけにもいきません」
「そう言うものか」
 実は私はハーディン同士で争ったことがない。だから、アンナがどう考えているのかは分からなかった。
「生命反応、その角の向こうです」
「分かった」
 ブラスターを構えたまま、私は角の向こうを見る。
 直後、赤いパルス・レーザーが飛んできて、私の左肩を焼く。
「っ」
 慌てて、角に隠れる。
「ラルコースだ!」
 チラッとだが見えた。丸っこい胴体に足が二本ついたそれは、ラルコースだ。地球製の強襲用無人戦闘ロボットで、戦闘機に足をつけ、壁面などに張り付くことでコロニー内などで安定して戦闘が出来るように設計された機体。
「対物モードの使用を申請する」
「待ってください、依然、角の向こうに生体反応があります。すぐそこですよ、見えませんでしたか?」
「ラルコースだけだったぞ」
 ラルコースは無人機だ。有人ロボットも例があるが、ラルコースに知性体が入るのは物理的に無理だ。いや、小人種族がいればいけるかもしれないが。セントラルアースにはいないだろう。
 直後、ラルコースから放たれたのであろう〝粒子〟ビームが角を削る。
「このままではこっちがやられる。撤退か対物モードか、許可を」
「先ほどの話の通りですね。反撃をするなとは言えません。対物モードの使用を許可します」
「よし」
 ブラスターにハーディンだけが持つ特殊な装置を装着し、ブラスターを対物モードへと切り替える。
 角から飛び出して、ブラスターの照準をラルコースに合わせる。もう片目で一応一瞬周囲を見るが、やはり知性体らしき姿は見えない。
 だが、私が角から飛び出すのと、ラルコースのランチャーからグレネード弾が放たれたのは同時だった。
「!」
 私は咄嗟に、ハーディン製ブラスターにだけ搭載されている〝傘〟と呼ばれる機構を展開する。これは弾丸である〝粒子〟タンク内部の〝粒子〟を文字通り傘のように展開し、障壁とする技術だ。
 飛んできたグレネードが〝傘〟を構成する緑色の〝粒子〟に激突し、消滅する。
 ラルコースに四基搭載されたパルス・レーザーのジンバル機構がこちらに狙いをつける。
 だが、それより私が引き金を引く方が早かった。
 ブラスターから〝粒子〟ビームが放たれ、ラルコースの丸っこい胴体を吹き飛ばす。
「脅威を排除した。生体反応は?」
「まだ健在。目の前です、本当に見えないんですか?」
「何?」
 正面を見る。だが、そこには破損したラルコースがあるだけだ。万一、ラルコースが有人仕様に改造されていたとしても、胴体がこうも破壊されていては、地球人類は今頃蒸発しているはずだ。
 それなのに、生体反応だと?
 ブラスターを対人モードに戻しつつ、ラルコースに近付く。
 直後、ラルコースから無数の触手が伸びてきた。
「!」
 鋭くしなる触手の一撃が私に向けて飛んでくる。私が咄嗟にブラスターでガードすると、ブラスターは綺麗に弾き飛ばされて、壁に激突し、破損する。
「ちぃっ」
 私は腰に下げたコイルガンを抜く。
 無重力下では物理体はどこまでも飛んでいく恐れがあるため、宇宙空間では原則使用が禁じられているが、私はいつも携行していた。
 物理的な弾丸を放つ銃には火薬式銃リコイルガン電磁式銃コイルガンがあるが、私は反動の少ないコイルガンを好む。
 引き金に手をかけると、蓄電器キャパシタに電力がチャージされたチュインという音が響く。
「なんだこれは。見えてるか?」
「見えてます。コイルガンなんて持ち歩いてたんですか?」
「そこじゃないだろ。あれはなんだ、地球人がかつて遭遇したというイレギュラーか?」
 イレギュラーは触手を持つ宇宙生物だったはずだ。
「違います。イレギュラーでもサーミルでもグラルモンスターでもありません。未知の生物です」
 ラルコースから脱皮するように、触手を持つ生物が出てくる。再び触手が持ち上がり、私に向けて殴打の一撃が飛ぶ。
「っ!」
 私は後方に飛び下がりながら、躊躇なく引き金を引き、その触手を打ち抜く。
 触手がバラバラに砕け、地面に落ちる。
 だが、異変は直後に始まった。
 地面に落ちた触手が泡立つように動き出すと、そのまま大地を黒く染め始めたのだ。
「生体反応増大! ……これは、その残骸そのものを覆っていきます! アンドレゴトさん、急いで逃げて!」
 悲鳴のようなアンナの声。
 私はすぐさま踵を返して戦闘機に向けて走る。
 後方からは未知の生物が追ってくる。
 周囲を見ると、壊れたはずの壁や床が黒い何かで覆われ、修復されていく。
 左手の端末を操作し、戦闘機をアイドリング状態に移行させつつ、飛び乗り、発進する。
 私の戦闘機が残骸を脱出するのと、残骸が黒いオセアニア級へと復元されるのは同時だった。
 直後、猛烈な対空パルス・レーザーの雨が襲いかかる。
 流石にエネルギー転換装甲でも受け止めきれない。私は脱出の準備をしつつ、最大出力でとにかく黒いオセアニア級から離れる航路を取る。
「アンドレゴトさん、これよりストレーガーから支援砲撃を行います。射線から離れてください」
 レーダー上に赤い警告表示が出る。速やかにそのエリアから出た。
 直後、猛烈な〝粒子〟ビームが黒いオセアニア級を飲み込んだ。
 優れた〝粒子〟操作技術を持つ我らがハーディンの開発したストレーガーによる強烈な〝粒子〟ビーム。
 砲撃が終わった。
「アンドレゴトさん、戦闘損害評価BDAお願いします」
「あぁ。跡形もないな。僅かにごくごく小さなデブリが浮かんでいるだけだ」
 なんだったんだ、と私はシートに背中を預けながら呟く。
 と、思った直後のこと。
 周囲のデブリが一斉に泡立ち、再び黒いオセアニア級が復元され始めていく。
「これは……!」
「まさか、少しでも自身が残る限り無限に復元するとでもいうの!?」
 アンナも流石に驚きを隠しきれない様子だ。
「アンドレゴトさん、撤退してください。ストレーガーも救援要請を出しつつ撤退します」
「了解」
 新たな宇宙生物。どうやら、GUFの苦労はまだまだ続くらしい。
 そう思いながら、私は全速力で赤いパルス・レーザーから逃れて、ストレーガーに回収されるのであった。

Topへ戻る

 


 

この作品を読んだみなさんにお勧めの作品

 AWsの世界の物語は全て様々な分岐によって分かれた別世界か、全く同じ世界、つまり薄く繋がっています。
 もしAWsの世界に興味を持っていただけたなら、他の作品にも触れてみてください。そうすることでこの作品への理解もより深まるかもしれません。
 ここではこの作品を読んだあなたにお勧めの作品を紹介します。

 

  未来を探して
 新宇宙歴を舞台とした最初の作品です。作中で言及のある〝アドボラ〟がGUFに加入するまでの物語です。

 

  空虚なる触腕の果てに
 新宇宙歴を舞台としたホラー作品です。作中で言及のあったセントラルアースを扱った話でもあります。

 

  未来を探して 2018クリスマスSS
 『未来を探して』と本作を若干繋いでいるお話です。本作で言及されているワ・ロニス感応帝国との戦争の始まりを描いた物語になります。

 

 そして、これ以外にもこの作品と繋がりを持つ作品はあります。
 是非あなたの手で、AWsの世界を旅してみてください。

 


 

「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。

 マシュマロで感想を送る この作品に投げ銭する