千年の平和の袂で 第1章

 

 プロペラが空を裂く音が響き渡る。
 音の主、二つのプロペラを持つ軍用の輸送ティルトローター機の中で五人の男女が座っている。
 乗り降り用の後部ハッチに備えられたスクリーンに黒い背景に緑のラインで描かれたブリーフィング画面が姿を表す。
「1時間前に市街地に出現したターゲット・アルファは依然幹線道路を南下中。日中かつ悪天候につき月面のマスドライバーは使用不能。幹線道路は通常軍により閉鎖が進んでいますが、当該市街地の避難は完了していません」
「王国軍じゃ”奴ら”の相手はきついだろ」
「日本列島には常駐の騎士団がいないから仕方ないでしょう、アレク。そして、だからこそ私達、東天騎士団がここまで来たんだし」
 ハッチの側面に置かれたスピーカーから流れる状況説明に、最も若い男が笑い、その横に立つ女性がそれを嗜める。
「その通りです。今回東天騎士団第三十二騎士隊に与えられた任務は王国軍及び国民に被害が及ぶより可能な限り先にターゲット・アルファを排除する事です。また、同時期に日本に出現したターゲット・ブラボー、ターゲット・チャーリー、ターゲット・デルタが付近の市街に存在しています。いずれも他の騎士隊が対応にあたっていますが、いずれのターゲットも同一目標に向かって進行中。対応が遅れれば合流する恐れをあります」
 スピーカーからブリーフィングが続く。
「エンジェル、ターゲット・アルファの詳細を」
 先程の女性が問いかける。エンジェルとは、能動的神経全範囲環境連携active nerve gamut environment linkageシステム、略してa.n.g.e.l.の事で、簡単にいうと、今スピーカーから響いている人工知能システムの略称である。彼らの作戦をサポートするのが主な目的だ。
「ターゲット・アルファはパターンM。形状はサソリ。攻撃方法は通常のそれと同様、とのことです」
「パターンM、瘴気Miasmaか。余裕だな。アデーレ姉とアリスが攻撃を抑えて、俺とユーリで倒す、隊長の出る幕はなっし、な、ユーリ?」
「アデ……女性に盾役を任せることの是非を置いて考えれば、まぁ、それで問題なさそうだ」
 アレクと呼ばれた若い男が元気よく宣言し、同意を求められた男、ユーリが肯く。
「エンジェル、他のターゲットもパターンMなの?」
「その通りです」
 引き続き女性が問いかける。
「それぞれ離れた場所にいるパターンMが、揃って同じ方向に移動? エンジェル、各ターゲットの移動方向に……」
「アリス、それ以上、余計なことを考える必要はないわ。私達の任務は当該ターゲットの撃破。難しい事は評議会に任せておけばいい」
 目を閉じたまま座っていた美しい白髪の女性が先ほどまで質問を繰り返していた金髪の女性を止める。
「しかし、カーチェ……」
「エカテリーナ隊長と呼びなさい」
「失礼しました、隊長。しかし、我らの王国は今を乗り切ればそれで終わりではありません。後980年の時をこの王国と、そして私たちは……」
「アリス、それを考える事は私たちの仕事ではないわ。私達は評議会の指示の通りに動けば良いの」
「……はい、隊長」
 目を閉じたままのエカテリーナを名乗った女性に押し切られ、アリスと呼ばれた女性が黙る。
「まもなく目的地上空です。降下の準備を」
 a.n.g.e.l.がそういうと同時に、ティルトローター機がホバリングモードに移行し、後部の扉が開かれる。
「準備はいいわね、東天騎士団第三十二騎士隊、出撃」
 エカテリーナが目を閉じたまま、ティルトローター機から飛び降りる。
「よし、行くぜ!」
 続いてアレク、アリス、アデーレ、ユーリと続く。

 

 ここで一度それぞれの特徴を整理しておこう。
 隊長と呼ばれたのが常に目を閉じ白く長い髪を輝かせるエカテリーナ。
 その隊長をカーチェの愛称で呼ぶのが金髪ロングのアリス。水色を基調とした服がどことなくいいところのお嬢様感を出しているが、それ以上に快活さが目を引く。
 もう一人の金髪ロングお嬢様がアデーレ。こちらはシックな黒いドレス風の服で髪にも黒いカチューシャをつけている。大人しそうで深窓のお嬢様と言った風だ。まぁ戦場に出てきているので深窓のお嬢様ではないわけだが。
 そして男に視線を移すと、元気とやる気に満ちた最も若い男がアレク。元気さが髪から発露してるかの如くツンツンした髪型が特徴的だ。
 一方、やや気の弱そうな、あるいは悪く言えば陰気そうな男がユーリ。髪型はこれといって特徴のないストレートな短髪。

 

 さて話を戻して降下中。
「敵を確認。アデーレ、結界を展開して私たちを減速させて。遠距離攻撃手段を持つものは攻撃開始」
 目を閉じたままのエカテリーナ、その先には確かにサソリ型の巨体。
「はい」
 アデーレがロザリオに触れると一行の一人一人を水の中の泡のようなものが包み込み、落下する速度が緩やかになる。
「行くぜ、ユーリ!」
 アレクの右手に白く輝く非実体のクロスボウが実体化する。
「わかってる……」
 ユーリの両手に白く輝く非実体の東洋風の弩が実体化する。矢が乗るはずの場所にコンテナ状の木箱が載っているそれは、中国の連弩に似ていた。
 そして、都合三本の機械弓から白く輝く非実体の矢が放たれる。
 特にユーリの連弩はどういう仕組みか引き金を聞くと同時に本来手動で動かすはずの木箱が自動で前後し両手から連射される。
 アレクのそれは一本一本手動で弦を引き直しているために連射率はそこまでだが、それゆえに一射一射が力強かった。
「ユーリ、3時の方向のビルの屋上に着地して砲撃準備」
「え、しかし、あの位置からは死角に……」
「あの狭い道ではどのみち戦闘はできません、実際の戦場は奥の交差点になります」
「了解しました」
 ユーリはエカテリーナの指示に従い、空中を蹴るようにして移動し、ビルの上に着地する。
「アデーレは毒針を警戒、基本的にその結界で毒針を封じる事を第一としなさい、余裕があれば他の仲間を助けても構いません。アリスはアデーレを庇いつつ正面を担当しなさい。アレク、先ほど私は不要と吐きましたね。あなたが仕留めなさい。まずは尻尾、その後頭部です」
 エカテリーナが一息に残りの三人に指示を出す。
 三人は頷き、各々がその指示を果たすための行動に移る。
 アデーレはロザリオを握り、祈るような姿勢を取る。
 アリスは左右の腕に白く輝く非実体の鉤爪を展開する。
 アレクは白く輝く非実体の大剣を出現させる。
「でぇぇぇえい!」
 アレクの大剣がサソリ型の敵に突き刺さる。
 サソリの毒針がアレクに迫るが、アデーレの結界により、毒針は無力化されており、ただ強いパンチを食らって吹き飛ばされるに留まる。
 が、アレクが飛ばされた先はサソリ型の敵の目の前。サソリの鋏がアレクに迫る。
 サソリの鋏を空から降り立ったアリスが鉤爪で受け止める。
「想定通りです。そのまま攻撃を受け止めつつ後進してください」
 上空で浮遊しながら複数のホログラフモニターに囲まれているエカテリーナが目を閉じたまま指示を送る。
「アレク、武器を構え直して!」
「お、おう!」
 サソリに刺さっていた白く輝く非実体の大剣が消滅し、アレクの手元に再出現する。
「アデーレ、ユーリの位置から北東のビル屋上へ移動して、反射フィールドを用意。ユーリからの直射砲撃を受け止めて、2人が後退してる先の交差点に届くように」
「分かりました」
 アデーレが空中を蹴り、指示通りの位置へ移動を始める。
 アリスとアレクはサソリの巨大な左右の鋏を片方ずつ受け止め、少しずつ後退する。
「アレク、アリス、よく聞きなさい。このあと、砲撃が来ます。砲撃で相手が怯んでる間になんとしても敵の武器を封じなさい。アレクは毒針、アリスは鋏。以降はその結果を見て判断します。なお、砲撃直前は毒針のシールドが消えますから、毒針には絶対当たらないように」
 視点をビルの屋上に移すと、そこには中世から近世にかけてヨーロッパで使われていたような大砲が展開されていた。
「隊長、こちらユーリ。射撃準備完了です」
「よし、アデーレ、反射結界を全開に。ユーリ、アデーレに向けて全力で撃ちなさい」
「了解」
 いつも仲間に撃つときは緊張する。まして撃つ相手はか弱きアデーレである。
 ユーリはごくりと唾液を飲み込んで、本来大砲にはないはずのトリガーに手をかける。
 手をかけたこと自体をきっかけに、大砲にエネルギーが蓄積し始め、大砲の先に十字架を基本とした魔法陣のようなものが二重に出現する。
 そして引き金が引かれる。
 大砲から膨大なエネルギーが噴き出し、魔法陣がレンズのように収束させ、次の魔法陣がさらに収束させ、アデーレに迫る。
 アデーレは円形に展開した反射結界でこれを受け止め、交差点のサソリ型の敵にエネルギーの方向を変換させる。
 そして交差点が爆発した。
 もちろん実際には膨大なエネルギーがサソリ型の敵に照射され、それが爆発を招き、結果的に交差点が爆発に包まれただけなのだが、何も知らずにその光景を見たものは交差点が爆発したとしか見えなかっただろう。
「今よ、アレク!」
「おう!」
 アリスがしゃがみ、手と腕を足場とする姿勢を取る。アレクは大剣を消滅させ、アリスの足場に飛び乗り、アリスがアレクをはね上げると同時にアレクも飛び上がり、サソリの上に飛び移る。
「うぉぉぉぉぉぉ」
 アレクの手に再び白く輝く非実体の大剣が現出する。
 アレクが大剣を横一文字に薙ぎ払い、毒針を持つ尻尾を切断した。
 切断された毒針は地面に落ちる直前に紫色の霧となって霧散する。
 一方アリスは砲撃と大剣による切断を受けて鋏を振り回しだしたことで、窮地に立たされていた。
「くっ、これじゃ攻められない……。アレク! 戻ってきて支援を!」
「はっはっは! 毒針のない針じゃ、俺は倒せないぜ!」
 アレクは上機嫌にサソリの尻尾と戯れており、アリスの声は聞こえない様子である。
「ちっ、この……」
 アリスが舌打ちしつつ、後ろに飛んで鋏を避ける。次ぐ鋏を半身逸らしで避け、さらに次ぐ鋏を……。
「支援砲撃をしようにもユーリの大砲はまだ放熱中……」
 ユーリの砲撃は強力だが、射撃の度に大砲の放熱を要する。
「仕方ありませんね、ユーリ、私のシリンダーを使って、砲身ごと再構築なさい」
 エカテリーナがユーリのそばに着地し、右手の装置から輝く液体の入った円筒状の容器を取り出し、ユーリに差し出す。
「ありがとうございます」
 ユーリも右手から同じ容器を取り出すと、赤熱化し放熱していた大砲が消滅した。ユーリのシリンダーの中の液体はエカテリーナのそれと違い、かなり減っていた。
 エカテリーナとユーリがシリンダーを交換し、エカテリーナは再び空中に浮かび、ユーリは大砲を出現させる。
 放熱に時間がかかるなら、多少リソースを多めに費やしてでも、大砲そのものを作り直す。それがエカテリーナの判断であった。
「アデーレ、反射防御壁」
 再び砲撃が放たれる。アデーレが収束された光を跳ね返し、サソリ型の敵の動きを止め、アレクを吹き飛ばした。
「ナイス支援!」
 その隙を逃さず、二つの鋏を切断する。
「これで武器は全て封じた! あとは焼くなり煮るなり倒すなり、捕獲するなり……っ!」
 しかし、サソリ型の敵はそれで止まらなかった。まるでモードが切り替わったかのように道を突進して進み始め、アリスを吹き飛ばした。
「アデーレ、壁を!」
「はい……、くっ、追いつけません」
 高速で移動を始めたサソリ型にアデーレは追いつけない。
 ユーリとアレクも武器を携行遠距離武器に持ち替えて追跡するが、サソリ型の速度に追いつけない。
「あと10秒で王国軍の検問にぶつかります」
 a.n.g.e.l.が警告音声を発する。
「やむを得ませんね」
 エカテリーナが目を開く。その目に瞳はなく、あるのは瞳の虹彩と瞳孔のように二重三重に十字架を讃える魔法陣が輝くのみ。
 直後、エカテリーナ以外の全員が、空気がどろりと粘性を持ったように感じた。
 あらゆる人間、サソリ型を含めたあらゆる全ての動きがゆっくりになっていた。
 時間そのものの流れがゆっくりになった、というのが端的な表現だろうか。1秒が10秒に。1分が10分に。1時間が10時間に。あるいは世界がスローモーションと化した、という表現でも良い。
 そのゆっくりと進む時間の中、エカテリーナだけが普通の時間と同じように進む。
 エカテリーナはそのままサソリ型の前に廻り込み、その場にアデーレを呼び出した
 アデーレの表情が少しずつ驚愕に染まっていく。
 エカテリーナは突如サソリ型の目前に出現したアデーレの腕の機械に触れる。
 すると、そこに結界が形成された。
 エカテリーナは空中に浮かび上がり、空中にアレクを呼び出す。
 やはりアレクも喜びの混ざった驚愕に表情を変えていくが、エカテリーナにより、大剣を持たされる
 さらにその結界の向こうアデーレより前にアリスを、サソリ型の後ろにユーリを呼び出した。
 そしてエカテリーナは再び高度を上げ、目を閉じる。


 直後、時間の進みが戻る。

 

 サソリ型がアデーレが展開した結界の壁に激突する。
「でやぁぁぁぁ!」
「はぁぁぁぁ!」
 アレクとアリスが上方と前方から武器を振るい、後方からユーリが両手に持った連弩を連射する。
 サソリ型は堪らず倒れ、そのまま霧へと帰っていった。
《ターゲット・アルファ、郡上消失を確認。間もなく迎えが参ります。お疲れ様でした》

 

 再臨予言A.P.960年。
 世界が"王国"により統一されてから既に40年が経っていた。
 戦争もない平和な世界の中、唯一存在する脅威が"神秘"と呼ばれる超常現象である。
 通常兵器では対処出来ないこの脅威に対し、四方を守る4つの騎士団が秘蹟サクラメントと呼ばれる技術を用いて対抗していた。
 エカテリーナを隊長とする東天騎士団の三十二騎士隊もそんな騎士隊の一つである。
 主な任務は東天騎士団管轄地の外縁部海洋地域つまり、かつて日本と呼ばれていた弓状列島からハワイ諸島辺りまでを含む広大だが陸地が多いとはいえないエリアの神秘討伐である。
 範囲の割に陸地が少ないと言いつつ、特に日本やハワイは"神秘"の発生が多く、ハワイ付近を起点に太平洋騎士団の結成が検討されつつあるほどである。
 とこかく現状、人員の増員は全く間に合っておらず、未だに東天騎士団の外縁部対応を主任務とする騎士隊達は激務を強いられているのであった。

 

 そんな激務続きで有名な外縁部対応部隊の一つである三十二騎士隊がこの度、評議会から直々の命令を受けることとなったというので、この日の東天騎士団朝礼は荒れに荒れた。
 激務の中、それを担う部隊が一つ消える、これは尋常な事ではない。残りの騎士隊がその穴を埋める事になる以上、これまで以上の激務が彼らに降りかかることは必定だったのである。
 そんなわけで、その日の朝礼はブーイングの中終わろうとしていた。
「ぐちぐちブーブーウルセェ奴らだ。しかもまるで俺たちが悪いみたいに言いやがる」
 流石にアレクも少し居心地が悪そうだ。
「実際のところ、東天騎士団外縁対応部隊が忙しい事は上も分かってるはずだからね。その上でつい最近補充されてきたばかりの僕らをまた配置変えするって言うのは、僕らに問題があったんじゃないかと、僕らでさえ思うよ」
 ユーリが自身なさげに呟き、アデーレもですよね、と頷く。
「何言ってんの、私達第三十二騎士隊は東天騎士団の中ではそれなりのスコアを持ってるわ、だからこそ西アジア対応部隊から、この激戦区の外縁対応部隊には位置変えされたのよ。それを今からまた配置変えなんて、変な話だわ」
 ま、スコアについてはカーチェのおかげって側面も強いけど、添えながらアリスが立腹気味に反論する。
「アリスの言う通りです。私達のスコアに恥いるものはありません。評議会もそれは理解しているはずです。恐らく相応の任務なのでしょう」
 エカテリーナが目を瞑ったまま、部隊の全員にそう言い聞かせるように言った。
「さて、朝礼も終わりです、話を伺いに行きましょう」

 

 その後第三十二騎士隊はホログラフ通信室へと案内された。
 ホログラフを利用した通信を行える部屋で、主に評議会との通信に用いられる。
 そしてホログラフの投影が開始する。
 評議会は、この王国の運営の中枢であり、4つの騎士団の中枢でもある。要は騎士隊の面々にとっては最高司令官にあたる。
 と言っても評議会は常に様々な話題で忙しく、多くの場合、全権大使と呼ばれる評議会の言葉を預かった"預言者"がその役目を代行するのが通常だ。
 しかし、
「外縁部対応部隊に着任し一週間での華々しい戦果、私達の耳にも届いている。ご苦労だな、東天騎士団第三十二騎士隊」
 現れたのは適切な服装をすればイケメン男性としても通用しそうな美形の女性だった。日本で言うと宝塚風、と言ったところだろうか。
「私は王国評議会最中枢四大天使の一人、《神の炎ウリエル》。此度はお前達の戦果を評価し、直々に頼みがあって呼んだ」
 王国評議会にはいくつかの段階があり、最も権力を持つのが最中枢四大天使と呼ばれる四人である。
 今目の前にいる女性は自分こそがその一人であると告げたのだ。
 アレクを除く騎士隊の面々は慌てて跪き首を垂れる。
「ちょっと、アレク!」
 アリスが慌てて声をかけるが、アレクはなんだ? と首を傾げる。
「そう畏まらずとも良い。首をあげ、立ち上がれ。早速本題に入らせてもらうが、これまでの作戦中、この風貌の女性を見た事は?」
 女性の手のひらの上にホログラフモニターが現れ、銀髪の少女の姿が映し出される。
「いえ、私の管制範囲にそのような人物は捕捉されていませんね」
 誰に確認することもなくエカテリーナが答える。エカテリーナは基本的に上空で部下の管制を行うことを任務としており、作戦エリアの全域をその視界に収めているから、部下が知っていてエカテリーナが知らないと言う事はあり得ないので、それに異を唱えるものはいなかった。
「で、こいつがなんなんだよ? 大罪人か?」
 アレクが単刀直入に尋ね、アリスとアデーレが嗜める。
「まさしく、ね。この王国の転覆を企む、この世界最大の犯罪者。その罪深き名はフレイ・ローゾフィア。サタンズなる集団を密かに組織し、再臨予言を遂げるよりも速やかに、この王国を破滅に導こうとしている」
「この平和な王国を転覆させようと……? どれほどの悪意を溜め込めば、そのような発想に至るのか。考えるだけで恐ろしい」
 エカテリーナが大袈裟に反応するが、残りのメンバーの見解もおおよそ似たようなものだ。
 王国の成立以降、"神秘"という脅威こそあれ、戦争も自然災害も人々を脅かすことなく40年もの時が過ぎている。
 これは人類史上においてこの王国以外なし得なかった奇跡だ。
 それをよりによって破壊しようと言う存在がいるなど、彼らからすると理解の埒外である。彼らだけに限らず、この世界に住むほとんどの人間にとって、そうであろう。
「それは分からないが。まぁ動機など考えても仕方ない。この大罪人は数年前に東天騎士団外縁部の弓状列島に移動したところで足取りが途絶えている。だが、外縁部の激しい"神秘"の発生と無関係ではないだろう。まして、ここ一週間、君たちが遭遇した"神秘"はいずれもパターンM、しかもやけに目的を持ったような動きをしていたと聞く。王国評議会は……いや、私達最中枢四大天使は、これが大罪人による計画の始まりではないかと警戒している」
「つまり、今後の作戦においては、周囲をより警戒し、その大罪人がいないか……」
「違う。もちろんそれは他の騎士隊にも徹底させるが、お前達にはより積極的な捜索を依頼したい。つまり、明日から君たちには日本列島に向かい、この大罪人を捜索せよ。そして発見したら容赦せず討ち取れ」
「なるほど。しかし、私達のスティグマータ・ガントレットの稼働にはワンダーの入ったシリンダーが必須です。これは騎士団本部でなければ補給が……」
「分かっている。そこで君達にはこの新型スティグマータ・ガントレットのテストも同時に頼みたい。特殊な護符テレズマを内包させることで、時間経過によってワンダーを再補充する機構を搭載している。本部での補充のような高速補充ではなく、少しずつ補充される形になるゆえ、戦闘中に同じシリンダーをもう一度使うといったような事は無理だろうが、常に補充するようにしておけば、よほど無茶な戦闘を続けるのでない限りは長期間本部に戻らなくても平気だろう。もちろん緊急時には補充部隊を送ることも考慮するため、必要と思った時には言ってくれ。また、秘蹟武器サクラメント・ウェポンそのものの出力も上がっているはずだ。相手は王国全体を相手取るほどの人間、秘蹟武器への対策も何かしているだろう。せめて一助になればと思う」
護符テレズマを利用してのチャージ……と言う事は、護符テレズマそものもを破却することで、シリンダーが無い状態でも一度は高出力の秘蹟を展開出来ますね?」
 アリスが尋ねる。
「さすがはカッリストの娘、聡いな。その通りだが、護符テレズマは今、ここにいる五人分の新型スティグマータ・ガントレットを生成する分を作るので手一杯だった。使うと補充は効かない。本当に最後の手段だと思え」
「それは残念ですね、とはいえ、最後の手段があるのとないのでは大違いです。覚えておきましょう」
 エカテリーナが頷く。
「では通達は以上だ。明日より日本列島に向かい、大罪人フレイ・ローゾフィアを発見し、討て!」
 全員の了解の返事が部屋の中をこだました。

 

 To be continue...

 


 

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