1917 ~青い霧と花冠~ 第3章「上陸作戦」
〝ブルフォグ〟と戦うため、そして、ある時に会った少女との、花冠の少女達のように強くなったら腹一杯の天ぷらをご馳走するという約束を果たす為、大江はアフリカ、エル・アラメインで戦う。
その戦いの中で、大江は機転を利かして活躍し、日本軍の窮地を救う。
その活躍を見ていた者によって、大江は花冠の少女達を支援する直掩隊へと抜擢される事となった。
第二小隊の直掩隊として、エジプト戦線で戦う大江。その判断力で小隊を支援する傍ら、天ぷらの約束を果たすべく、天ぷらの用意や情報収集を続ける。
第一小隊の隊長、アリアナ・フォーグがかつて日本にいたことがあるという噂を聞くが、あの時の少女とアリアナの姿は一致しない物であり、少女であるかは分からないままだった。
直掩隊として着実に戦いを続ける大江、彼らは次は何処で戦うのか。
「カサブランカ?」
花冠の少女達の母艦、フューリアスの甲板で大江は知らない地名を聞き、首を傾げた。
「そう、カサブランカ。〝ブルフォグ〟に覆われる前はフランス領だった大規模な港町」
ルージュは机に広げた地図に指を付け、アフリカ大陸とヨーロッパの境界であり、僅かな海で二つを隔てるジブラルタル海峡から指を滑らすようにアフリカ大陸をなぞり、ジブラルタルの南西、カサブランカを指さす。フューリアスは現在、ジブラルタルに停泊しており、そうやった方が位置を示しやすかったのだ。
「被弾もしてないのにジブラルタルに来たと思ったら、カサブランカを目指すって、何が目的なの?」
エレが尋ねる様に、大江の初陣となった先の戦い、その後のいくつかの戦いによって、エジプト戦線はエル・アラメインから大きく進んでいた。エル・アラメインも戦線が遠ざかった事によって、湾港としての機能を回復、そこから陸揚げされる物資によって、戦線を維持する為の補給も容易になっていた。
第二小隊が機能する事で安定した戦線を離れて、そことは反対側のアフリカ、距離にして三千キロも離れたところで一体なにをするのか。それは当然の疑問であった。
「ジブラルタルの防衛にしては、遠い所ですよねぇ」
ユリアが地図を眺めながら呟く。ヨーロッパでアフリカに最も近い地域であるジブラルタル。元々は海を渡れない〝ブルフォグ〟であったが、飛来し青い霧を拡散させる〝バーネスト〟の誕生以来この地は危険に晒されている。
ジブラルタルから〝ブルフォグ〟をヨーロッパに入れるわけにはいかないと、艦艇や花冠の少女達によって定期的に対岸側に攻撃が行われ、〝バーネスト〟の生成を阻害するという防衛作戦が定期的に行われている。
だが、ユリアが言う様にカサブランカはジブラルタルの防衛というには遠い場所であった。地図上は近いようにも見えるが、実際の所、それはアフリカの巨大さがそう見せているだけで、直線距離にして三百キロ超え。〝バーネスト〟はおろか、人類が開発したあらゆる火砲でさえ届く事はない距離であり、防衛の為に押さえるには遠すぎる地点であった。
「その通り、一時的な攻撃ならあまり意味のない場所ね。でも、今回は一時的じゃない」
ルージュはそう言いながら、地図の上に新しい書類を置く。それは、カサブランカの海岸線が示された地図であり、その洋上には船舶を意味するらしい記号が複数並び、それぞれの近くに名前が記されている。
「マレーヤ、バーラムにフォン・デア・タン。コン…ゴウにヒエイ? ぱっと見ただけでかなりの数の戦艦ね」
「こっちの船は……商船? 上陸部隊!?」
エレが海岸線に平行に並ぶように配置された戦艦達の名前を読み上げる中、おずおずと地図を覗き込んだリルンが大きな声を上げる。
こんな声が出るのかとそっちに驚きながら、大江もリルンが見ていた所を見ると、カサブランカの湾港が在った位置に頭を向けた記号、軍艦として聞いた事のない英語、ドイツ語。そして何々マルという日本船の名前。そしてそこに書かれた大隊、中隊という言葉、これは上陸を目指している部隊だ、というのは大江が見ても明らかであった。
「そう、カサブランカに上陸する。東側のエジプト戦線に加えて、西側にモロッコ戦線を構築。〝ブルフォグ〟と面する戦線を増やすことで奴らの排除ペースを加速。一気に解放地を拡大する戦略よ」
エジプトでの〝ブルフォグ〟との戦いは、安定し、着実に進んでいたが、そのペースは芳しくなかった。進んでも再拡大する〝ブルフォグ〟の勢いに一時撤退、再び進み直す事を続けており、その進行速度は一日平均数十メートルという状態であった。
これは、人類が〝ブルフォグ〟に対して与えられる打撃と人間が届かないエリアで増える〝ブルフォグ〟の量が釣り合っていないからだと考えられており、〝ブルフォグ〟へ攻撃できる面積を増やすというのは急務であった。
「エジプトだけじゃなくて、モロッコからも〝ブルフォグ〟を叩けばもっと早くやっつけられるって事ですか?」
「そういう事、もっと言えば、日本軍、そして
ユリアの発言にルージュが補足する。戦線にいくら兵士を並べても、そこまで〝ブルフォグ〟対策に有利になる訳ではない。むしろ、大戦力が固まる事は、〝バーネスト〟の落下によって大きな被害を受けると最近では不利になると敬遠までされている。
戦線に貼り付けられる兵士が多くないと、危機的状況を打開しようと世界中から兵士が集まっているのに多くの兵士が後方で待機しているという状況となってしまう。それはかなり勿体ない状況であった。
「それは分かっているけど、以前、このジブラルタルの対岸に向かって上陸しようとして戦艦を複数失ったでしょう? なにか勝算はあるの?」
エレが僅かに見える対岸を示しながら言う。その示す先には、対岸であるアフリカと、その途中に海面からいくつかのマストが突き出ている。このマストは、上陸作戦を支援しようと海岸に近づき、D型の〝フォガー〟一般に〝ランス〟と呼ばれる攻撃を受けて沈んだ戦艦の慣れの果てだ。
かつて、サーヴェナを撃ち落としたこの〝フォガー〟は戦艦をも沈めるだけの力を持つ。高速で飛び出し、突き刺さるだけの存在であるが、遠くから曲射のように飛んでくる〝ランス〟は軍艦の甲板に突き刺さる。重装甲の戦艦だが、砲弾が真横から飛んでくる事が前提とされており、装甲は海面から垂直の舷側が中心であり、水平の甲板には装甲が殆ど無かった。にも関わらず、装甲に対する自信から、過度に接近してしまった戦艦達は、甲板の装甲を貫通され、弾薬庫の誘爆、機関室の破壊などでその能力を次々と喪失、数隻の戦艦が失われたのだ。
この〝ランス〟の脅威があるのに、どうやって上陸作戦を行うというのか。エレが言いたいのはそういう事であった。
「そう、この海峡はもちろん、〝ブルフォグ〟に支配された海岸線にはD型が配置されていて船舶の接近は困難。長距離砲撃でその勢力を弱める事が出来ても、全てを無力化することは出来ないから、脆い商船を用いる上陸作戦なんて不可能」
弱点が発覚したとはいえ装甲のある軍艦が容易に沈む環境。そんな環境に兵士を満載した商船が突入してどうなるか、想像せずとも分かる事であった。
「ああ、その不足分を私達が上空支援で補うって事ですねー」
ユリアがそう言うのに大江とリルンは納得してウンウンと頷く。第二小隊が出来て、小隊を上陸支援に出せるようになったから実施するのだろうと。
「それも駄目ね。〝ランス〟は対艦だけじゃない、元々は“サーヴェナ”を撃ち落とした“フォガー”よ。最近は私達を見て組成を変えて散弾の様に飛ぶ事もある。D型の密集地を長時間飛ぶことは私達少女にとっても危険なことなの」
エレがその様子に少しため息をつきながら指摘をする。エジプトではあまりD型と出会わず、ユリア達が知らないのは無理無い事であったが、脅威を経験した者として少し不満があった。
「エレが疑問を言ってくれて助かるわ。その通り、上空から接近しても、散弾で待ち構えられて終わり。そう、上空から近づくならね」
ルージュはそう言いながら、甲板を歩き縁にある手すりの側に立つ。そして、その先にある海面を示す。
「なら、彼かに気づかれずに忍び込めばいい」
ルージュがそういうと同時に、海面が膨らむように盛り上がり、水の中から何かが浮き上がる。
「潜水艦!? 今のはこんな大きいのか…」
大江が手すりに駆け寄り、手すりに掴まり少し身を乗り出して浮上してきた船を観察する。その後ろに付くようにリルンも大江の影に隠れるようにしながらそれを眺めている。
「ドイツのUボート。奴等は海に侵入できないし、観察も困難であると判断されたわ。水中を進むこの艦なら、奴等が我々に備える前に襲撃できる」
ルージュが胸を張る様に言うのにユリアがぱちぱちと拍手をして、エレは不満そうな顔をする。
「本当に大丈夫なの? もし見つかっていたら逆に警戒する敵のど真ん中よ?」
「心配ない。確認した」
と大江の知らない声。それは浮上したUボートの艦橋に姿を表した少女の声で、その姿は他の少女達と同じ、つまり、花冠の少女。
「クラリッサちゃん! 第一小隊から戻って来てたんですねー」
その少女に向けて、ユリアが手すりに体を預けて大きく体を伸ばす。リルンは大江の影に隠れながらお辞儀をしている。
「うん、ただいま。そして、ルージュ隊長、只今帰隊致しました」
クラリッサは、ユリアに軽く手を上げて答えて、ルージュに対して敬礼をする。
「お帰りなさい。帰り際に追加任務を頼んで悪かったわね」
「いえ、久々に母国を思えていい任務でした。おっと」
ルージュとクラリッサが会話をしている中、クラリッサと大江の目が合う。すると、クラリッサはUボートから飛び立ち、フューリアスの甲板に降り立つと同時に、真正面に大江を捉える。
「あなたがソウヤ・オオエ? 私はクラリッサ・ミュラー。よろしく」
そう言いながら丁寧なお辞儀をするクラリッサに、大江もお辞儀を返す。
「クラリッサちゃんは暫く第一小隊の応援に行ってたんですよー。これでようやく第二小隊のフルメンバーですね!」
ユリアの解説で大江はようやく腑に落ちる。自分は初対面なのに周りは知っている花冠の少女というのはどうも不思議に思っていたのだ。
「再開もめでたい事だけど、確認したって言うのは?」
ほんわかした雰囲気になりかけたところ、エレが釘を刺すように口を開く。
「クラリッサがUボートに乗ってこちらに来るまでの間、いくつかのアフリカ沿岸で潜航して奴らの迎撃範囲を航行したのよ。結果、〝ブルフォグ〟はなんの反応も示さなかった」
「今浮上する前もあの対岸から来た、ここから見ても変化なかった筈」
クラリッサがいう通り、大江達がここから青い霧に包まれた対岸を見ていても、全く変化が無かった。D型は大きい〝フォガー〟である為、攻撃を用意するだけで目立つ。それこそ対岸からでも変化に気付く事が出来る筈だった。
「これで問題ないわね? 戦艦隊の砲撃が終了すると同時に、我々が敵前に浮上。砲撃を生き残ったD型を撃破し、上陸部隊の安全を確保する」
ルージュが片手を真上に上げながらそう言うと、大江含めた部隊全員が大きく頷く。
「よし、それじゃあ。各員は準備にかかれ!」
= = =
大西洋、洋上。
大江は、Uボートの甲板上で甲板に備え付けられた備砲の操作を船員に教えてもらった後、許可を貰って甲板に固形燃料で加熱できるコンロと油の詰まった鍋を置き、揚げ物の用意を始めていた。
「本当にどこでも揚げ物作るんだ」
その背中に声が掛かり、大江が振り返ると、そこにはクラリッサがいた。
「こんにちは、クラリッサさん。ドイツ語は得意じゃないが、どうだろうか?」
大江は、揚げ物の用意を続けながら、クラリッサにドイツ語で話しかける。
「いいね。でも私は英語を使うから問題ない」
クラリッサの言葉は、最初はドイツ語だったが、途中から英語に代わる。クラリッサはドイツ人であったが、第二小隊で主に使われているのは英語だ。全員が話せるのが英語なので自然とそうなっていた。
「分かりました、では英語で」
大江はあの約束を交わした少女が、実は英語が母語でないのではないかとふと思い、一応学べる外国語は学んでいた。しかし、実践の機会は無かった。申し訳なくも思ったが、英語で会話出来るのなら、そちらの方が大分助かる状況であった。
「今は何を作っているの?」
「トンカツです。豚のカツレット。我が家だとカツ、勝つというゲン担ぎで大事な時に食べるようにしているので、皆さんにね」
そう説明しながら、大江は卵液に付けた豚肉にパン粉をまぶしていく。
「……コートレットは天ぷらではないのでは?」
クラリッサがこぼす。同じ油を使った揚げ料理ではあるが、表面の衣にパン粉を使うカツ・フライと、水や卵に溶かした小麦粉を使う天ぷらというのは大分違う料理だ。
「……そうなんですけどね。カツは勝つなんだと父が」
大江は一瞬作業を止めてそう返す。天ぷらとカツは似ているが違う物、大江も十分承知であったが、父がそう言って店にすらトンカツを出すので大江家ではトンカツはもはや天ぷらであった。
「そういえば、天ぷらを揚げてるって有名になっています? 会う前から知っている様子でしたが」
第二小隊の直掩隊として活動する傍ら、大江はよく天ぷらの材料集めに奔走していた。もしかすると、その行動が見咎められているのかもしれないと不安に思ったのだ。
「ん、第一小隊のフォーグ隊長が天ぷらに興味があるらしく、第二小隊に戻ったら是非食べてみてと」
「フォーグ隊長が?」
まさかの名前が出てきて、大江は作業の手を止めてクラリッサの方を向く。
「うん、昔、日本人には親切にしてもらって、その時に天ぷらに興味を持ったと」
親切、そして天ぷらとなると、あの約束を交わした少女の事を思い出すが、やはり大江の中で少女ととても凛々しいフォーグ隊長の姿は繋がらない。
「おっと、作業の邪魔をした、カツ、楽しみにしている」
しばらく考え込む大江を見て、クラリッサはその場を離れようとする。大江はその動きを手で制する。
「ああ、大丈夫ですよ。ちょっと気になっただけです」
「そう? でも、カツをもっと楽しみにしている子もいるし、これ以上は邪魔しない」
クラリッサはそう言いながら、艦橋、といっても見張り用の小さな出っ張り程度の物だが、その方に顔を向ける。大江もつられてそちらを見ると、艦橋からすこし顔を出してリルンが様子を伺っていた。二人の目線が向けられるのを見て、リルンはさっと艦橋に隠れる。
「おや、では急がないと」
「そうしてあげて」
そう言って、クラリッサは艦橋に上って、リルンがいた場所に声を掛けてから、艦橋にあるハッチから艦内に戻っていく。大江はそれを見届けてから十分に熱せられた油にトンカツを投入し、その調理を再開した。
しばらくすると、リルンがまた艦橋からちょこっと顔を出してその様子を見守りだしたが、大江はそちらに目を向けない様に黙々と調理を続けた。
= = =
このUボートと呼ばれる潜水艦は、魚雷を用いて敵艦を攻撃する事を目的とした艦である。しかし、今回の任務は花冠の少女達、その第二小隊をカサブランカの湾港内に送り届ける事。アイデンティティであるはずの魚雷はすべて下ろされ、空いたスペースは第二小隊が航行中に待機するスペースとなっていた。
「外の様子は分からないし、これは中々堪えるわね」
そう呟いたのはエレだ。その額には汗が浮かび、その視線は天井に向けられている。
「本当に見つからないんですよね?」
ユリアも天井や床、壁を見回しながら不安そうにそう言う。実はすでに発見されていて、次の瞬間には大穴が開いてしまうのではないか、周りの様子が分からない為、そう思うのも無理のない話だ。
「えっと、なんとなくですけど。誰もこっちを見てない気がします。多分、大丈夫です」
おずおずとリルンが発言すると、全員の視線がリルンに向かう。
「なんとなく、ね。まあ、信じるわ。あなたの勘は結構当たるから」
視線が集まった為、さっとルージュの後ろに隠れたリルンを宥める様に優しい口調でルージュが言う。
「リルン、攻撃の予兆とかよく気付く」
「そういえばそうですねぇ。じゃあ見つかってないんですね!」
「そういう説明できない感覚ってあるものね。私も信じるわ」
第二小隊の面々がそれぞれの言葉でリルンを評価する。リルンはおずおずと、ルージュの背中から出てきて、照れくさそうにお辞儀をする。
「みんなの絆が深まった所で申し訳ないが、まもなく浮上するそうです。用意してほしいと」
そんな会話を見守っていた大江が、水兵から報告を受けて、それを全員に通達する。全員の顔が真剣なものと変わり、魚雷発射管室から出て艦橋へと続く梯子へ移動する。
「じゃあ、予定通り私とエレ、ユリア、リルンが生き残ったD型を徹底的に叩く。クラリッサは艦上で待機してこの潜水艦を守る。大江は後方艦隊との連絡調整」
梯子に手を掛けながら、ルージュが浮上後の動きを確認する。全員が力強く返事をした直後、一番上のハッチに手を掛けていた水兵がハンドルを回し、ハッチを開放する。多少の海水が降り注ぐが、誰も濡れる事等気にしていない。
「第二小隊! 出撃!」
ルージュがそう声を上げると同時に、梯子を駆けあがり、そのままの勢いで空へと飛び出す。続いて、エレ、ユリア、最後に少しふらつきながらもリルンが続いて、大江はクラリッサに続いて甲板へと転がり出た。
すぐ目の前にはボロボロに崩壊した街。そのあちこちに薄く青い霧が残っているし、辺りを見回せばかなり濃い霧もある。そして、その霧の隙間から見える巨大な槍。D型の〝フォガー〟が所々に姿を見せていた。
「見える範囲全部一本型。やっぱり水中の私達を探知出来てない」
クラリッサの言う通り、見えるD型はすべて一本の長い槍だ。花冠の少女に対抗する為と思われる散弾型であれば、その見た目も槍からトゲトゲが枝分かれしたような物となる。
前方上空を往くルージュ達が地面に向かって光線を放つと、光線によって分解、破砕された〝フォガー〟の破片が空に舞い、パラパラと青い霧の中に落下していく。
クラリッサも、甲板にしっかりと体を預けて、狙撃をするようにD型に向かって射撃をしていく。大江も活躍する皆に負けない様に状況を見て整理していく。
第二小隊が飛んでいる位置から離れている高濃度の〝ブルフォグ〟が存在するエリアを把握して、それを支援艦隊に打電する。最大射程で撃っている長距離砲撃は高い所から落ちて来る。それは空を飛ぶ少女達に当たる可能性も十分にあるという事で、砲撃を行う場所と少女達が飛んでいる場所が一致してしまっているというのは危険な状態であった。第二小隊の進路を予想し、砲撃の弾着までそのエリアに確実に侵入しないと断言できるほどの経験を大江は第二小隊と共に積んでいる。大江の適切な情報により、支援砲撃は危なげなく実施されている。
敵の数は着実に減り、上陸部隊の艦船達が潜水艦からも視認できるようになり、上陸部隊の直掩を務めている前ド級戦艦、装甲巡洋艦等が水平に射撃を開始し、上陸地点に僅かに残っている〝ブルフォグ〟を晴らしていく。
D型の抵抗はない。上陸の成功は目前と思われた。
その時だった、上陸部隊の先頭を進む一隻の前ド級戦艦に何かが高速で衝突して、そして戦艦が爆ぜる。
「まだ生き残りのD型が!?」
大江は思わず叫ぶ、青い霧の濃い所はある程度残っているが、D型が隠れられるような規模、地形ではない。だが、現実として上陸艦隊がD型の攻撃を受けている。
「見えた。奴ら地形を変えて隠れてる!」
クラリッサが彼女らしくない大声を出すと同時に、空に飛び出す。素早く飛ぶと、地面に向かって一閃、光線を放つ。
光線によって青い霧が晴れたそこには、深くえぐられた溝とそこに隠れる様にして存在していたD型の姿。
クラリッサの行動を見て状況を把握したルージュが指示を出し、リルン、ユリアが光線で薙ぎ払い霧を薄め、隠れ潜むD型をルージュとクラリッサが発見して仕留める、そういったサーチ&デストロイのパターンを素早く構築していく。
そうやって、素早く態勢を立て直したかに見えたその時、大江はある事に気付く。
崩壊した市街地の瓦礫に埋もれる様にしてD型が潜んでいる。それは組成を変えて表面に多数のトゲをもつ対空状態になっているD型で、必死でサーチ&デストロイを繰り替えてしている第二小隊に向かってその槍を持ち上げる。
支援砲撃は間に合わない、上陸部隊から市街地は見えていない筈だ。エレに警告するのも微妙だ。モールス信号を打ち、エレがそれを理解する事にはすでに〝ランス〟は放たれているだろう。
そうだ、備砲がある。Uボートには魚雷を使うまでもない相手用に、対艦用の砲が搭載されている。駆逐艦程度の砲であるが、直撃させられればD型に何かしらの影響は与えられる筈だ。
旋回のハンドルを掴み全力の力で回す。照準を覗き込んで仰角のハンドルを必死に回す。砲弾は、意図を察した水兵が素早く装填した。
引き金を引く、発砲の衝撃で砲が後退し、後方に薬莢を弾き飛ばす。飛翔した砲弾はD型の手前に落下する。
なら仰角を上げる。水兵が次弾を装填したのを確認すると同時に引き金を引く。
空では、D型の存在に気付いたリルンがその進路上に立ちふさがりながら光線銃を構えようとしている。が、D型は〝ランス〟を今まさに放とうとしていた。
D型の土台から、〝ランス〟が離れたその時、〝ランス〟の先端に潜水艦の砲撃が命中する。着弾の衝撃で〝ランス〟は大きく向きを変えながら、飛翔。直ぐに多数の子弾となって空を覆いつくしたが、その先には誰もいなかった。
被弾しなかったリルンが光線を放ち、D型の土台を撃破する。守ってくれたことへの感謝だろうか、リルンは大きく大江とUボートに向かって手を振り。意図を察したのかそれにユリアも加わる。大江はそれを見て大きく手を振り返した。
結局、これが最後の抵抗で、この後は上陸部隊ですら対処できる少しの妨害しか起こらなかった。
商船たちが次々と浅瀬に近づき、その側面から多数のボートが下ろされ、兵員を次々と海岸へと運んでいく。
そのボートの中には一般的なボートに交じって、艦首に展開可能なスロープを持つ上陸戦用の新型ボートも混ざっていた。
「機械の時代だな。この潜水艦も、ああいう船もどんどん新しい物が生まれていく」
大江はそう呟きながら、ふと頭に浮かんだことがあった。もし、〝ブルフォグ〟が来ていなかったら、これらの兵器、機械は何に使われていたのだろうか、と。
そんな大江の感傷は関係なく、上陸作戦は続き、兵士達は必死で塹壕を掘り、水夫たちは数時間かけて重砲、そして大量の砲弾が陸揚げし、カサブランカの市街があった場所に〝ブルフォグ〟と戦えるだけの陣地と装備が揃った。
第二小隊の活躍によって、カサブランカ上陸作戦は成功裏に終わった。潜水艦によって〝ブルフォグ〟を出し抜く事が出来たように見えて、〝ブルフォグ〟も人類に対抗せんと策を練っている事が明らかとなった。戦いはますます激しさを増していくことになるのだ。
To be continued…
第4章へ!a>
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