Angel Dust 第9章
 ルシフェルと呼ばれる白い巨人に滅ぼされつつある地球。
 かつてソビエトと呼ばれていた国家が所有していた旧モスクワに住む少女フレイ・ローゾフィアは、ついに旧モスクワに現れたルシフェルの前に死のうとしていた。
 そこに現れたのは
 銀朱色の巨人はルシフェルと戦い、そして突然、その機能を停止した。今度こそ死を覚悟したフレイに、銀朱色の巨人「デウスエクスマキナ・ヴァーミリオン」は「死にたくないのか?」と声をかける。
 半ば強引にヴァーミリオンに乗せられたフレイは見事ヴァーミリオンを操り、ルシフェルを撃破せしめたのであった。
 そして、フレイを乗せたヴァーミリオンは突然白い光に包まれる。
 転移した先は『クラン・カラティン』と呼ばれる対ルシフェル用にデウスエクスマキナ、通称「
 そのリーダーであるメイヴはフレイの生活を保証し、共に戦おうと誘う。
 承諾するフレイだったが、DEMの
 フレイはその実力を遺憾なく発揮し、安曇に勝利するが、そこにルシフェルが襲来してこようとしていた……。
 フレイとメイヴ、そして安曇の三人は協力して旧サンフランシスコに襲撃してくるルシフェルを撃破した。
 それからしばらく、フレイは『クラン・カラティン』の一員として実戦経験を積んだ。
 マラカイトのエンジェル・
 ある日、美琴しか出撃出来ない状況が発生するが、美琴は一人での戦闘には向いていない。フレイはメイヴのDEM・スカーレットに搭乗する許可を得て、スカーレットを操り、美琴と共にルシフェルを撃破したのだった。
 スカーレットを操ってしばらく後のこと。フレイが新たにカタログから呼び起こした武器をメイヴも使えることが判明し、メイヴはフレイに他のDEMも使ってみないか、と打診する。
 ヴァイオレットのエンジェル・グラーニアの承諾の元でヴァイオレットで出撃したフレイは、そこで上級ルシフェルと出会う。
 上級ルシフェルはさらに堕天と呼ばれる現象まで引き起こしたが、神話オタクのグラーニアの助言と英国海軍の援護射撃の甲斐もあって、なんとか勝利したのであった。
 続いてフレイが出会ったのは、リチャード騎士団所属のメドラウドだった。剣術を学びたいフレイはメドラウドに師事し剣術を習うがなかなか上手くいかない。
 そこで、メドラウドは彼のDEM・ラファエルをフレイに預け、タンデムして剣術を教える事にする。
 鍛錬の最中、襲撃してきた上級ルシフェルを見事退け、フレイは剣術をある程度ものにしたのであった。
 そして会議が始まる。それはピッツバーグ解放作戦開始の狼煙であった。
 ピッツバーグ攻略作戦が開始。フレイ達は線路沿いを進み、線路の状態を確認しつつピッツバーグへ向かっていた。
 フレイはそこで美琴の生い立ちや家族の話を聞くのだった。
 様々なエンジェルと交代交代に線路沿いを進むフレイ。次に話をしたのはダンデライオンのエンジェルであるスジャータとチュンダの姉弟だった。
 そこでインドの話を聞くと同時に、ルシフェルが部隊を組むようになったという話を聞く。
 その後交戦したルシフェルの部隊に対し、ダンデライオンが切り込み、フレイがグングニルで援護する。グングニルの威力は強力であり、地面に巨大なクレーターをいくつも作るほどだった。
 
 
『美琴さん、日本がルシフェルに襲われたのってなんででしょうか?』 
 美琴さんと合流したその日の夜、早速美琴さんに聞いてみる。 
『随分唐突ですね。どうしてその疑問に突き当たったんですか?』 
『今向かっている新生アメリカ政府、それからインドにも残っている勢力があると聞きました』 
『えぇ、最近よく食べているカレーの材料や綿花なんかを輸出してくれているスヴァスラジュ藩王国などが代表ですね』 
 綿花とかもなのか。そして勢力の名前も知らなかった。 
『それで、それらが生き残ってる理由は単に見逃されてるだけだって』 
『えぇ。あえて滅ぼす理由が無いからでしょうね』 
『で、逆に日本がわざわざ徹底的に滅ぼされた理由って何なのかなって。イギリスとか島国はむしろあまり襲われてないんですよね?』 
『そうですね。まぁ、島国というなら、キューバなんかも既に滅ぼされているのですが』 
 そうだったのか……。キューバ……確か、アメリカの南の方にあるカリブ海にある島だったはずだ。どうしてだろう。 
『まぁ、でも、日本が滅ぼされた理由には心当たりがありますよ』 
『本当に?』 
『はい。どこから話しましょうか……。あ、ルシフェルやDEMがお互い以外に傷つける事が難しい理由、覚えていますよね?』 
『うん。神性防御、でしたっけ?』 
『その通りです。この神性防御と便宜上呼ばれている現象ですが、実際には単に「神性」と言います。「神性」を帯びた存在は「神性」を帯びた存在以外によって傷つけられない、そう出来ているのです。それによる防御の事を便宜上、神性防御、と呼んでいるわけですね』 
『なるほど……。あれ、でもどうしてそれが分かったんですか?』 
 私の疑問に嬉しそうに微笑む美琴さん。 
『はい。答えは簡単です。神性と言う存在はルシフェル出現以前から知られていたからです。安曇を知っていますからご存じでしょうが、この世には神や幽霊、悪魔といった存在が実在しているのです。そして、それに対して日夜戦っている組織があった』 
『美琴さんのいた宮内庁?』 
『正解です。そして宮内庁は、人に仇なす神や悪魔や幽霊……ひとまとめに霊害と呼称しますが、と戦う組織として、当然、戦う為の方法を持っていました。それが、天皇の力を借りる事です』 
『天皇って言うのは……日本の第一書記みたいな存在ですよね?』 
『えーっと……日本には総理大臣っていう国のトップがいて、その下で議会制民主主義が行われていて、天皇は国民の象徴みたいな存在ですから、フレイが思っているような権力者ではないですよ?』 
 そういうものなのか。民主主義というのはいまいち理解が遠い。 
『そんな国民の象徴である天皇ですが、天照大神の子孫である
『天照……大神?』 
 さらに話が分からなくなった。 
『厳密には違いますが北欧神話におけるオーディンのようなものです』 
『オーディン?』 
《オーディンの方が偉いがの》 
 私に分かるように説明してくれたつもりのようだが、さっぱり分からない。ヴァーミリオンが張り合ってる意味も分からない。 
『……なるほど。まぁ、ざっくり、天皇は神様の子孫だ、と理解してください』 
『つまり天皇も神様?』 
 神様の子供が神様なのかはよく分からないけど。 
『そうです。話が見えてきましたね。神の血を引く天皇はその神性を宮内庁の霊害対策課、つまり私達に分け与える事が出来るのです』 
『え、それって、宮内庁の人たちはルシフェルと戦えるって事!?』 
 そういえば、父と姉がルシフェルと戦ったと言っていた。DEMもなしに無謀だと思ってたけど……。 
『まさにその通りです。宮内庁の構成員はルシフェルの神性防御を突破し、攻撃する事が可能でした。事実、私の父上は上級ルシフェルを二体、撃破する事に成功しています』 
 え。 
『えっと、人類の兵器では、雑魚ルシフェル一体が精いっぱいで、下級ルシフェル相手となればそれだけで対処困難って事、でしたよね』 
『はい。まぁ、攻撃が散発的だったからなのもあります。父上も二体を一度の戦いで倒したわけではありません。一体ずつ襲撃してきたのを倒したのです。そして、ルシフェルは今本部が襲われている時にそうなっているように、三体もの上級ルシフェルを送り込んできました。その数に、流石の父上も対処出来ず……』 
『なるほど』 
 つまり、ルシフェルは、まず日本の危険性に気付き襲撃を行った。そして散発的な攻撃は無意味と理解し、全力で攻撃して滅ぼした、という事か。 
『あれ。ってことはキューバとかも、ルシフェルが滅ぼしたいと思うような理由があった?』 
『かもしれません。私達には分からない事ですが』 
 キューバの状況に詳しい人はいない。これ以上を考えるのは難しそうだ。 
『ところで、どうやって上級ルシフェルを倒したんですか? その、コアはかなり高い所にありますよね。足元から切っていったんですか?』 
『まさか。日本の霊害戦用の手段は宮内庁の天皇の加護だけではありません。討魔組の持つ血の力。そして、自衛隊の「鋼」。父上はかつて第二次世界大戦に対霊害技術が投入されて以降、開発されたばかりの「鋼」を使っていましたから。それを使って、空を飛んで戦ったのですよ』 
『Hagane? 日本語ですか?』 
 またぶっ飛んだ話が出てきた。人間が空を飛ぶ? いや、まぁ、ヴァーミリオンのメギンギョルズも本当にあの翼で飛べるとは思えないので、オカルト的な何かで空を飛ぶのは今更かもしれないけど。 
『えぇ。日本の霊害技術の最初の初歩、玉鋼から取られた名前です。魔術の適性が高い人間が装着して、その人間の魔力で稼働する外骨格モジュールです。本来は単に霊力と身体能力を高める為だけの物でしたが、第二次大戦に投入するべく、様々に改修されました。飛行能力もそのうちの一つですね。対霊害用の技術を戦争で使うなど、本来なら許されないような事ですが、第二次世界大戦中にイギリスが対霊害用の本土防衛用最終術式である「
 霊害技術をほとんど持っていないアメリカと主に戦う日本が霊害技術を戦争に投入する理由はないので、所詮建前ですが。と、独り言にしては長い言葉を小さく呟いた。第二次世界大戦。1939年から1945年の6年にも渡る世界を巻き込んだ大きな戦争だ。そんな中で、日本は人間が空を飛んで戦うような技術を開発した、という事なのか。 
『ちなみに私の姉は宮内庁には入らず自衛隊に入って、新しい「鋼」の装着者になろうとしていたのですよ。さて、そろそろ寝る時間ですよ。まずは私が見張りをしますから、寝ていなさい』 
『はい』 
 美琴さんの指示に従って、私は寝袋に入る。 
『そういえば美琴さん、昨日、日本の霊害戦の手段は天皇の加護と「鋼」の他に、もう一つあるって言ってましたよね。確か、血の力?』 
   〝私〟は、歩きながら美琴さんに尋ねる。何もないときは基本的に暇なのだ。 
『えぇ。血の力ですね。討魔組に所属する討魔師はその家系の持つ力を継承します。例えば、私の、中島家の血の力は、三種の神器を使用する、というものです』 
『三種の神器?』 
『まぁ、DEMが使う武器みたいなものです』 
 なるほど。つまり、美琴さんはその血の力という力でDEMみたいに武器を使える、と。ん、それすごいな。 
『止まって』 
 と美琴さんが不意に止まる。言われるまでもなく、私も奇妙には思っていたので、止まる。それは、大きな斜面であった。 
《というより、巨大な穴じゃな。上から見ると、ぽっかりと穴が開いているぞ》 
 どうやって上から見てるんだろう? 上を見ると、二匹の鴉が飛んでいる。あれくらい飛べたらな。 
『美琴さん、これは?』 
『ネバダ州の大クレーター……』 
『え?』 
 ネバダ州はサンフランシスコのあるカリフォルニア州の隣の州だ。当然、こんな場所ではない。もう遥か以前に通過している。 
『いえ、しかし、参りましたね。このクレーターによって、完全に線路が……』 
 美琴さんに言われてみると、この斜面……ヴァーミリオンによれば巨大な穴によって線路が完全に途絶えている。あー、穴ってもしかして。 
『地面が抉れてこの穴が出来てる?』 
 何か美琴さんが日本語で呟いたのが聞こえる。アイビー作戦という言葉だけが聞き取れた。アイビー作戦? アイビー作戦って何だろう。 
『美琴さん?』 
『あ、失礼しました。とりあえず、本部と連絡を取りましょう。それから、クレーターには絶対に入らないように』 
『わかりました』 
 なんで入ってはいけないのかはよく分からないけど。すぐに連絡を取る。 
『……そう、新生アメリカ政府は、またアレを……。まぁいいわ。今来てるデータによれば、少し引き返したところで線路の分岐点があったわね? その先を見てみましょう。方向と過去の路線図から判断するに、新生アメリカ政府の領内へのルートだけど、こうなったらやむを得ないわ。アメリカまで鉄道を通して、そこから政府の領内を取ってピッツバーグまで通しましょう』 
『わかりました』 
 美琴さんとモニター越しに視線を通わせ、移動を開始する。 
■ Third Person Start ■
「仕方ない、わね」 
 指令室でメイヴが悔しそうに呟く。当初の予定では、ルシフェルとの戦いが終わった後、この世界で最も巨大な勢力になるであろう新生アメリカ政府とは出来る限り関わりを持たず、ピッツバーグも、アメリカに気付かれないようにこっそりと占拠する予定であった。その為には独自の輸送網は必須である。その構築が難しいのなら、新生アメリカ政府を頼るしかない。 
「ルシフェルの反応! ……多い。過去最大規模です!」 
「なんですって?」 
 安曇の叫びに、メイヴはモニターに表示される情報を確認する。 
「下級ルシフェルが最低でも五十。上級ルシフェルも複数匹? ……今動けるエンジェルを全員招集して。全力で出撃するわよ」 
「分かりました。直ちに」 
◆ Third Person Out ◆
「くっ、多い……」 
 下級ルシフェルがわらわらと迫ってくる。〝私〟はグレイプニルで敵の動きを止めていく。それを美琴さんが、八握剣でその敵を倒していく。 
『キリが無いですね』 
 まったくもってその通り。 
『待たせたわね!!』 
 と、上空に、緋色の巨人が出現する。メイヴのスカーレットだ。手に握られた赤い槍が投擲される。それはこのエリアの敵をまとめて全滅させる……かと思ったが。 
『くっ、防御型か』 
 上級ルシフェルと思われる敵が空中に盾を打ち上げ、透明な天井を生成し、その槍の投擲を妨害する。 
『ならば一人ずつ粉砕していくまで、ですよ』 
『応よ!』 
 そこに、さらに紫色のDEMが二体、片方はヴァイオレット、もう片方は……? 
『
 私の疑問に美琴が答える。まだ会った事の無いエンジェルもいたか。 
 ヴァイオレットが剣と槍を、紫水量が雷で出来た巨大な槍を、それぞれ構えて交戦を始める。スカーレットも直後に現れたダンディライオンと一緒に、追加装備コンテナから装備を回収し、各々武器を構える。 
『上級ルシフェルはお任せを!』 
 ラファエルが一気に飛び出し、盾を展開した上級ルシフェルとそれを護衛する騎士型の上級ルシフェルと接敵する。 
「上空にルシフェルの反応! 数は先ほどの二倍!!」 
『うそっ!』 
 安曇から通信が入る。ってことは最低100!? 冗談じゃない、ルシフェルって何体いるんだ。 
『待たせたな、レディ』 
 薄い赤色のぶっとい光の筋が斜めに飛び出していき、降下してくるルシフェル達を撃破していく。あれは見た事がある。パパラチアのブラフマーストラだ。筋の出所を見ると、そこには、蓮の花のような形状の板、パドマを背負い、肩に大型のビーム砲、ブラフマーストラを装備した薄い赤色の巨人がいて、さらに、その横に琥珀色の巨人が出現する。確か、アンバー、とか言ったかな。 
『3つの力、《トリシューラ》。先輩は後ろから射撃を! 僕が護衛します』 
 琥珀色の巨人がその手に三叉の槍を出現させる。薄い赤色の巨人、パパラチアのエンジェルであるイシャンを先輩と仰ぐのは、琥珀色の巨人、アンバーのエンジェル、シャイヴァだ。 
『行け、パドマ!』 
 そして、その言葉に合わせて、パパラチアの背中の蓮の花弁がバラバラに空中に浮かび上がる。あれがパドマ。パパラチアの持つ浮遊ユニットだ。
 私は一度、パパラチアに乗った事があるけれど、不思議な事に、パドマを操作する事は上手く出来なかった。あの後イシャンと、「もしかしてパドマはエンジェルオーラではない何かで動いているのか?」と話をしたのを覚えている。
 それから、パパラチアは他のDEMと違って、あんまり私を歓迎してくれなかったのを覚えている。よく分からないけど、とにかくイシャンのことが気に入っているようだった。 
 ちなみにイシャンの事をイシャンと呼んでいるのは、向こうがイシャンでいいといったからで、だいたい全員にそう言っているらしい。 
 そんなパパラチアのパドマのブラフマーストラが上空から現れる敵を粉砕したが、しかし。 
「さらに、ルシフェルの反応! 数は不明。最低でも上級ルシフェルが二十」 
『おいおい、流石にそれはまずいぞ』 
 上級ルシフェルはピンキリあるとはいえ、基本的にDEMで一対一でようやく、と言った相手だ。現在、味方が、ヴァーミリオン、マラカイト、スカーレット、ヴァイオレット、紫水晶、ラファエル、パパラチア、アンバーと、八体しかいない。その状況で二倍以上の上級ルシフェルと戦う? 無茶だ。 
「よくない報告です。新生アメリカ政府領内から航空機の発進を確認。機種は
『まさか、アレを使うつもり?』 
「その可能性が高いかと」 
 話が見えない。私なりに考える。戦略爆撃機と言う事は大型の爆弾の類を使う航空機という事だ。そして、「アレ」。「アレ」? ついさっきも聞いたな。確か、「新生アメリカ政府は、またアレを……」とメイヴさんが言っていた。「また」? そういえばこの反応がメイヴさんから得られた報告した大きな穴を見て、美琴さんは、確か「ネバダ州の大クレーター……」と言っていた。あの大きな穴は「ネバダ州の大クレーター」を連想させるんだ。そしてこの穴は「アレ」に関係していて、「アレ」は「また」だから、以前にも使われている。それはおそらく「ネバダ州の大クレーター」。つまり、「大きな穴」は「アレ」を使われた事によって作られた。そして戦略爆撃機を見て「アレ」と言う言葉が出る、というのは、つまり……。 
『あの大きな穴を作るような爆弾が投下される!?』 
『おそらく、ね。安曇、撤退するわ。今すぐヨグソトス回廊を開いて、この戦域の全DEMを本部に』 
『いや、まだ方法はあるかも知れない』 
 私は思いつきを口にする。
『何か考えがあるの、フレイ?』
『はい。前に使えなかったミョルニム、メギンギョルズで空中から投下すれば、破壊力を利用することはできるはずです』
 それは以前からずっと考えていたことだった。ここなら広域を吹き飛ばしても問題ない。好都合だ。
『分かったわ、フレイ。提案を許可します』
「よっし、偉大なる翼、《メギンギョルズ》」
 結晶の翼を出現させ、飛び上がる。
 そしてぇ……。
「消滅の槌《ミョルニム》!」
 巨大なハンマーが出現する。
 投下しようと手で握った直後、ハンマーの重り部分から膨大な電撃を発し、コックピットごと私の体を灼いた。
「がああああああああああああ」
 メギンギョルズが砕け、落下する。
『フレイ! フレイ! ……くそ、安曇、今度こそ撤退よ』
『待ってください』 
 メイヴさんがこの情けない状況を見てすぐに撤退を命じるが、それに美琴さんが待ったをかける。 
『今度は何? もう一刻の猶予もないのよ?』
『分かっています。ですが、ここで撤退し、アレを使わせれば、この辺一帯は侵入不可能な範囲になります。そうなれば、あの鉄道網は再び無意味になり、ピッツバーグとの連携が不可能になります。それは避けねばなりません』 
 美琴さんが毅然と反論する。 
『確かにね。でもこのままだと、アレに全員やられる。DEMやルシフェルがあれでどうなるかは知らないけど、確実に私達は生きては帰れない』 
『えぇ。ですから。投下させなければいいのです。投下されるより先に、あれら全てを撃破します』 
『出来たらとっくにやってる、違う?』 
『出来ます。私の血の力と、このマラカイトであれば』 
 メイヴさんの反論に美琴さんは一歩も動じず、反論を続ける。 
『どういうこと?』 
『マラカイトの天叢雲剣にはありませんが、私が血の力で呼び出せる草薙剣には「一定範囲のもの全てを薙ぎ払う」という能力があります。もちろん、これは人間を基準にした範囲です。しかし、この草薙剣とマラカイトの天叢雲剣を同化させるとどうでしょう。マラカイトのサイズを基準に、この辺一帯全てを薙ぎ払えるはずです』 
『なるほど、道理ね』 
『? どうして草薙剣と天叢雲剣が結び付く?』 
『分かった。そのプランを認めるわ』 
 私は疑問を口にするが、メイヴさんはそれには答えず、美琴さんのプランを認める。
『ありがとうございます。ついては霊力を使いたいのですが、機械がエンジェルオーラを消費すると勘違いしてセーフティがかかりそうです。解除しても?』 
『許可するわ』 
『ありがとうございます。では……』 
 美琴が、八握剣を天叢雲剣に変化させる。 
『安曇、頼みましたよ』 
『任されました』 
 最後に何か、美琴さんと安曇が会話をしたようだが、日本語の為、聞き取れなかった。 
『あ、そうそうフレイ。天叢雲剣と草薙剣が結び付く理由ですが。神話の世界でその二つは同一視されているからですよ。フレイ、論理的思考は十分身に付いたようですね。地理情報なんかも当たり前のように使えているようですね。それらはもちろん重要な教養です。でもたまには、そう、神話なんかも勉強するといいと思いますよ。あなたはそういった創作に詳しくなさすぎる』 
 と通信モニター越しに美琴さんが言う。手元にも剣が出現しているのが分かる。あれが草薙剣か。 
 いつもは青白く輝く天叢雲剣が赤く輝いて、そして、周囲一帯のルシフェルが消滅していく。 
『ダメ、盾持ちの上級ルシフェルが一人残ってる!』 
『えぇ。そうですね。でも、もうおしまいです』 
 マラカイトが腰に下げた軍刀を抜き、生き残った上級ルシフェルに突き刺し、そのまま組み付く。 
『まさか!!』 
『さぁ、今行きます、お父様、飛鳥』 
 何かを日本語で呟いて、何かに気付いたメイヴのスカーレットが前進をはじめ、そして、マラカイトが突然大爆発を引き起こした。 
『フォールダウン……』 
 誰かが呟く。スカーレットはヨグソトス回廊で強制的に一番遠くにいたパパラチアの傍まで飛ばされる。 
 その上空をジェットの轟音を響かせて、全幅56.39m、全長47.55mという巨体が通り過ぎていく。何かが投下された様子は無い。 
 ジェットの轟音が止み、それでもなお、目の前の現実にどう相対していいか分からず沈黙していると。 
『見事な働きだ。対ルシフェル統合軍、メイヴ・ミノーグ』 
 突如、通信が入る。 
『大統領……』 
 メイヴさんが一瞬力なく反応する。大統領……。まさか、この人が? 
『いえ、大統領。我々は統合軍ではありません、どこの国にも属さない組織、クラン・カラティンです』 
『どこの国にも属さない? 
『はい。私達がどこかに属すれば、それは戦後、その国に利する事になりますので。我々はアメリカの味方でも、どこかほかの国の味方でもありません。我々は人類の味方ですから』 
 毅然と、メイヴさんが回答する。しかし、 
『なるほど。それは我々が、あのルシフェルと戦う術を身に付けつつあり、そして、ルシフェルが現れるその巣へと至る手段を、確保しつつある、と言ってもかね?』 
『な……』 
 その一言が、メイヴさんの心を大きく揺さぶる事になるのだった。そして、もちろん、ルシフェルと戦う事を目的とした、この場にいるほぼ全員の心が。 
To be continue...
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