退魔師アンジェ 第2部 第9章
『〝北欧神話人間〟ノルン・ローゾフィア』
父を
そして最後の試練の日。アンジェは瘴気から実体化した怪異「
翌日、月夜家を訪ねてきた生徒会長、
アオイから明かされた事実、それはアンジェ達の学校が「
早速学校を襲撃してきた下級悪魔「
アオイから恐怖心の克服を課題として言い渡されるアンジェ。玉虫色の粘液生物と戦ったアンジェはヒナタの何気ない助言を受けて、恐怖心の一部を克服、再びアンジェを助けた白い光を使って、見事学校を覆う謎の儀式を止めることに成功したのだった。
しかし儀式を試みた魔術師は諦めていなかった。それから一週間後、再び学校が今度は完成した儀式場に覆われていた。アオイは母・ミコトの助けを借り、儀式場の中心に到達するが、そこに待ち受けていた
そこに現れたのは「英国の魔女」と呼ばれる仮面の女性。彼女は事前にルーンと呼ばれる文字を床一面に刻むことで儀式の完遂を妨げたのだ。そして、英国の魔女は「この龍脈の地は私が治める」と宣言した。逃げる安曇。追う英国の魔女。蚊帳の外の二人。アオイは安曇は勿論、英国の魔女にも対抗することをしっかりと心に誓った。
ある晩、アキラから行きつけの古本屋を紹介してもらった帰り、アンジェとアキラは瘴気に襲われる。やむなくアキラの前で刀を抜くアンジェ。しかし、一瞬の不意を撃たれ銃撃されてしまう。謎の白い光と英国の魔女に助けられたアンジェはアキラの部屋に運び込まれ、週末に休みの期間をもらう。
休みの時間をヒナタと街に出て遊ぶのに費やすアンジェ。そこで剛腕蜘蛛悪魔を使役する上級悪魔らしきフードの男と謎の魔術師と遭遇する。追撃することも出来たが、アンジェは怪我人の保護を優先した。
アンジェは父が亡くなった日の夢を見る。時折見るその夢、しかしその日見えた光景は違った。見覚えのない黒い悪魔の姿があったのだ。そしてその日の昼、その悪魔とその使役主である上級悪魔、
そして同時にアンジェはアオイから知らされる。父が死んだその日は「大怪異」と呼ばれる霊害の大量発生の日だったのだ、と言うことを。
イブリースが大攻勢をかけてきた。悪路王と英国の魔女は陽動に引っかかり、学校にいない。アオイとアンジェだけでは学校への侵攻を防ぎきれない。最大級のピンチの中、アンジェは自身の血の力と思われる白い光を暴走させる。それは確かにイブリースごと全ての悪魔を消滅させたが、同時に英国の魔女が封じていた安曇のトラップを起動させてしまい、学校を大きく損傷、死者まで出してしまう。
アンジェはその責任を取るため、討魔師の資格を剥奪されることになるところだったが、突如乱入してきた悪路王がアンジェの血の力と思われる白い光を強奪。最大の懸念点だった力の暴走の危険は無くなったとして、引き続き討魔師を続けて良いことになった。
アンジェの力の暴走、通称「ホワイトインパクト」の後、
ホワイトインパクトに対処する中、英国の魔女は事態収束後も同盟を続けようと取引を持ちかける。アンジェは取引は断りつつも、英国の魔女の座学から様々な知識を学ぶのだった。
英国の魔女に連れられ、ロアの実例と対峙するアンジェ。しかしそこに、ロア退治の任を受けた討魔師・
父の仇である悪路王は如月家の血の力を盗んだ。そして如月家について、明らかに何か知っている。アンジェはそれを問いただすため、そして可能ならば討ち倒すため、アンジェは悪路王のいるとされる
アンジェの右腕は英国の魔女の尽力により復活した。悪路王はアンジェの血の力について、ウキョウを倒せるレベルにならなければ返却できないと語り、あのアオイでさえそれに同意した。そしてアオイはアンジェについてしまった及び腰を治療するため、ある人物とアンジェを引き合わせることを決める。
アンジェは
討魔仕事の帰り、アンジェを迎えに大きなバイクに乗ったフブキが現れる。フブキは言う。「
ベルナデットは魔術師だった。
フブキと共にベルナデットと交戦するアンジェ。
だが、フブキが作ったベルナデットの隙をアンジェは殺害を躊躇したため逃してしまう。
ベルナデットが盗んだのは『
アンジェが回収したカードから、ベルナデットは錬金術師と判明するが、目的は見えない。
そして、自身の覚悟不足によりベルナデットを逃したことを後悔し、こんなことでは復讐も成せないと感じたアンジェはアオイと真剣での鍛錬を行う事を決める。
アオイと真剣での鍛錬の中、アオイの持つ刀、
それはそれとして、1/25はアンジェの誕生日。アキラとヒナタ、そして当主から祝われる中、当主は宮内庁に「現在日本にいる英国の魔女を本物の英国の魔女だと承認する」事をアンジェに伝える。
誕生日は同時に父の命日でもある。墓参りを終えた英国の魔女は頭の中に響く声について意見を求める。
英国の魔女は「神秘使いの中には得意分野ごとに人格を作り、それを使い分ける者がいる」と伝え、アンジェもそれではないかと考察する。
そんな中、「賢者の石」作成を目的にしていると思われるベルナデットの今後の行動指針を探るため、英国の魔女の知り合いである錬金術師に会うことが決まる。
足尾銅山跡に工房を構え、盗掘しながら生活している錬金術師「ウンベグレンツ・ツヴァイツジュラ」、通常「アンリ」は言う。
「将棋とは錬金術の一種であり、詰将棋とはそのレシピである。その最高峰たる『象棋百番奇巧図式』には、錬金術の最奥の一つ、賢者の石に類する何かのレシピが含まれている可能性が高い」
そして、将棋とは盤上で行うもの。「龍脈結集地で行われる儀式魔術の可能性が高い」と。
かくして、二人は慌てて学校に戻るのだった。
準備万端で迎えたベルナデットとの戦い。
しかし、ベルナデットは賢者の石の失敗作、愚者の石を用いて、こちらのルーンによる陣地を完全に無効化した。
苦戦するアンジェとアオイ。アンジェは自分の内にいる何者かを解き放つことを決める。
内にいるもう一人のアンジェにより、ベルナデットは敗北するが諦め悪く逃走を試み、アンジェはやむなくベルナデットを殺害してしまう。
それをトリガーに
彼はアンジェの起こしたホワイトインパクトにより、恋人を失っていた。しかし、記憶操作を受けていたはずだが。
クロウとの問答の末、アンジェはついに英国の魔女がヒナタだと知ってしまう。
初の直接的な人殺しに、クロウからの非難。英国の魔女の正体。ただでさえいっぱいいっぱいなアンジェだが、ハヤノジョウは、月夜家が何かしらの企てを行なっている可能性を示唆する。
ヒナタという信用出来る戦友を得つつ、謎だらけのままにアンジェ最初の一年は終わった。
アンジェのもう一人の人格、仮に『エス』と名付けられた彼女は、2015年度に入って、訓練メニューに組み込まれるようになった。
それから七月の頭、平和だった学校に再び下級悪魔が現れる。現れた下級悪魔は剛腕蜘蛛悪魔に見えたが、剛腕蜘蛛悪魔を従えるイブリースは撃退され、まだ復活には遠いはずだ。
事実攻撃手段も違ったことから、アオイ達はこれをよく似た別の悪魔と判断。従来のモノを剛腕蜘蛛悪魔甲、今回新たに現れたものを剛腕蜘蛛悪魔乙と呼び分けることとした。
再び学校が狙われ始めたという事実に決意を高めるアンジェだったが、次なる脅威は学校の外で起きようとしていた。
アンジェの担当地域である
アンジェはアオイの要請を受け、出発する。
しかし、盗んだ刀、
アオイ、ヒナタ、カリンが次々に合流し、戦闘に加わるが、逃げられてしまう。
カラはレインボー・エンプティと似ている。
その情報からアンジェとフブキはレインボー・エンプティに事情聴取に向かう中島 マモルと同行することになる。
その道中で、アンジェはフブキから自身の運命の日について聞かされるのであった。
レインボー・エンプティこと虹ヶ崎 ソラに聞き込みを行ったマモルとアンジェは、虹野 カラがソラからメイド服を盗んで行ったと言う情報を得る。
その後、念の為ソラの家を監視していたアンジェはソラを誘拐しようとする謎の男・五月女 スバルとプレアデスのコンビと交戦する。
国家転覆を企む五月女 スバルを止めるため、アンジェ達はかつて五月女 スバルを通報したハッカー、『
そのために、永瀬クロウへアプローチをかけることを決めるのだった。
クロウを挑発し、短絡的な行動へと誘導したアオイだったが、クロウの待ち受ける廃工場へ突入したアンジェと英国の魔女は、クロウの持つ
ところがそこに乱入してきたユークリッドなる魔法使いにより戦場は混乱状態へ。
ユークリッドがクロウを殺そうとしたのをアンジェが庇い、ユークリッドと一騎打ちとなる。追い詰められたユークリッドは戦線を離脱。
アンジェは現代火器を使う『
しかし、この目論見は失敗に終わる。ユークリッドはアンジェの育て親同然の存在〝守宮〟の命を狙ったのだ。
その上、カラがまた新たな盗みを行ったとの情報も入る。
後手後手にならざるを得ない状況に、アンジェはなんとか先手を取らねば、と拳を握る。
ヒナタから
リビア上空でアンジェたちを待ち受けていたのは、
空中で迎撃するアンジェ達だったが、戦闘機は自爆。落下してしまう。
目が覚めたアンジェを待っていたのは、テンプル騎士団の
グラツィアーノとアンジェは一度は対立するが、グラツィアーノの従騎士のとりなしもあって、和解に成功する。
旧キュレネ遺跡に辿り着いた二人は、そこで辰狐寺 サテンと出会い、交戦する。
サテンはアンジェを縁にその場を逃げ出す。追いかけようとする二人の前に、銀髪の少女が立ち塞がった。
銀髪の少女が地面を蹴る。
「いくよ、レーヴァテイン」
赤い剣が持ち上げられ、私へ向けて振り下ろされる。
「!」
私は抜刀したままだった如月一ツ太刀を構え、その剣を防御しようとするが。
(ダメよ、お父様から頂いた大切な刀ごと折られるわ。神性が高すぎる)
「っ!」
聞こえてきた『エス』の警告に、私は咄嗟に刀を下げ、大きく後方に跳躍する。
「最初から回避するのではなく、直前で受け止められないと察して回避した? 何か秘密がありそうだね」
興味深そうに銀髪の少女がこちらを見つめる。
「というか、いきなり攻撃しておいてなんだけど、あなたは私のターゲットでもなんでもないから、別に見逃してあげてもいいんだけど、私と戦う?」
赤い剣を構え直すと同時、銀髪の少女が不意にそんなことを言い出す。ふざけるな、いきなり攻撃しておいて、何が戦う? だ。
私は姿勢を戻し、刀を構え直す。
とは言ったものの、どうする? 刀で攻撃を受け止められないとなると、回避し続けつつ、攻撃の機会を伺うしかない。それはかなり困難に思えた。
「うおおおおお!」
直後、裂帛の声が聞こえ、何度も続けることでようやく白い槍を完全に切り払ったグラツィアーノが間に割り込んでくる。
「ルイージから聞いたことあるぞ。お前、神秘蒐集協会のノルン・ローゾフィアだな?」
「だとしたら?」
ノルンと呼ばれた少女が赤い剣を構え直す。
「こうするまでさ!」
グラツィアーノが一気に飛び掛かる。
対するはノルン。赤い剣を構え、グラツィアーノの霊光剣を受け止める。
かと思ったら、グラツィアーノの左手から何か黒いものが飛び出し、グラツィアーノとノルンの顔の間に飛んでいく。
直後、炸裂。
その黒い何かは激しい音と光を発して、私の視覚と聴覚を奪った。
カラから逃げられた時にも使われた
「こっちだ」
グラツィアーノの声が辛うじて聞きとれた。引かれる手に従い、走り出す。
「逃すな、グングニル!」
「嘘だろ!? 目視してなくても標的に取れるのか」
グラツィアーノが私を投げ出す。私は立っていられず、思わず転倒する。
刹那、先ほども聞いた霊光剣と白い光の槍がぶつかる音がする。
どうやら、グラツィアーノが守ってくれたようだが、相変わらず視覚と聴覚がやられていて、何も出来ない。
(仕方ないわね、体、貸してもらうわよ)
止むを得ないか。
直後、私は再び意識の表側に上がってくる。
「強烈な神性使い、厄介な相手だけど、身を守るのは仕方ないわよね」
そう言いながら立ち上がると同時、視界を光源による視界から、魔力による視界へと切り替える。
やや青みがかかった視界の向こうに、強烈に白く輝く人型が二人。
「その強烈な魔性、まさか、上級悪魔!?」
「あら、流石に隠せないか」
まだ
「でも、確かに人間の気配も感じる。人間と悪魔のハーフ、と言ったところかな? 珍しいね、興味深い、うちに蒐集される気ない?」
「それはお断りね」
周囲にナイトゴーントを展開しつつ、私はノルンの出方を見る。
隣で、グラツィアーノは白い槍を切り払っては次に備えて、を繰り返している。
状況は先ほど
「そ、じゃあ、強引にでも、蒐集されてもらおうかな」
ノルンが地面を蹴る。赤い剣が振りかざされる。
太刀を構え、赤い剣を受け止める。
やはり、私の魔性であれば、辛うじて、赤い剣を受け止められる。
「今度は受け止めた。……なるほど、人間と悪魔の人格を切り替えられるのか」
面白そうにノルンが笑う。
「あなたは何者なの? なんの縁があってあのサテンという女性を助けるの?」
「別に。私自身はあの子とはなんの縁もないんだけどね」
私の問いに、ノインが苦笑する。
「ならなぜ」
「質問が多いね、上級悪魔。そんなに人間の都合が気になるの?」
「あなたの推察通り、私はハーフだからね。ただの上級悪魔とは違うのよ」
「ふぅん」
ぐっ、とノルンが力を強める。足元が滑る。私が押されている。
「ナイトゴーント!」
私は溜め込んだ魔力を放出し、私の使役する下級悪魔・ナイトゴーントを召喚する。
「グラム」
ノルンはもう片手に武器を出現させ、接近するナイトゴーントを切り払う。
「驚いた。さっきの白い槍もそうだけど、本当になにもないところから物体を出現させられるのね」
魔力の反応も神秘基盤が動いた形跡も一切ない。これは、魔術ではない。
「それはそうだよ、これは君達流に言うなら、魔法の一種だからね」
魔法。ヒナタが説明していた直接的に神秘レイヤーを改竄するというあの技術か。
なら、このノルンなる女性も限定魔法使いなのか。
相手が二刀流になったことで、こちらは攻撃を捌ききれないパターンが増えてきた。肩や足に少しずつ切り傷が刻まれている。
「逃げろ、アンジェ。そいつは北欧神話そのものの神話体系を自身に取り込んだやべぇやつ、言うなれば北欧神話人間だ。普通に打ち合って勝てる相手じゃない!」
グラツィアーノが叫ぶが、逃げろと言われてもどう逃げろと。
「言われたとおりにする方が無難かもよ?」
「まだよ。悪いけど、
「残念だけど、その前に死ぬよ?」
「私は死なないわ。だって……」
「姉さん!」
「弟が守ってくれるもの」
ノルンの後方から飛び出した我が弟がノルンに襲いかかる。白い光を収束させ、剣のように成形し、武器とする。
ノルンは咄嗟にグラムと呼ばれた左手の剣でそれを受け止めようとするが、我が弟の白い剣はそれを通り抜けて、ノルンそのものに襲いかかる。
「……! これは!」
「やはり、
退魔の力は魔力を分解する。魔力で体を編み上げた存在であるノルンには、抜群に効く。
「くっ、体を構成する外殻が分解されていく!? なんなの、この力は……!?」
流石のノルンも日本で独自に発展したこの力の事までは知らなかったらしい。
「どうやら、あなたの勝ちみたいだね」
体が消えていくのを止められないと見るや、ノルンは諦めたようにそう呟いた。
「勝者は戦利品を得る資格がある。何が知りたい?」
何を訪ねようかしら。私より、
私はそう考えて、体の制御権を返した。
体の制御権が戻ってくる。視界の隅で、悪
(私が、人間と悪魔のハーフ……?)
そういえば、母親については聞いたことがない。考えたこともなかった。私の母親、お父様の妻は、悪魔だった……?
そしてそれは、悪
この件について詳しく聞きたい、そんな思いが去来する。
だが、そんな場合ではない。日本で起きている数々の事件、そのいずれかの情報を得なくては。
誰の情報を得るべきだ?
虹野カラ、早乙女スバル、永瀬クロウ、ユークリッド、そして、辰狐寺サテン。
全員が一本の線で繋がっているように見えて、その実、全くどの実態も掴めていない。
それでも、あえて誰か一人を選ぶとするなら。
「早乙女スバル。彼の情報をお持ちなら、下さい」
それを聞いたノルンはそっと右手を右目に添えて、呟く。
「早乙女スバル。日本の無政府主義者。間違いないかな?」
「はい」
先程名前を上げたメンバーのうち、スバルのみ、明確に犠牲者を出していることが判明している。今も生贄を確実に集め続けているはずだ、放置はできない。
「成程ね。彼は多くの生贄を集め、世界の壁を越えようとしているみたいだ」
「世界の壁?」
「並行世界だよ。聞いたことないかな」
「確かに、スバルのプレアデスは並行世界から現れたという仮説が立っていましたが……」
「それだよ。スバルはプレアデスを縁に異なる世界に行こうとしているんだ。そのためにプレアデスに生贄を捧げ、強化しようとしている」
異なる世界に行こうとしている、それが事実ならとんでもないことだ。
「それで、スバルはどこにいるんですか!」
「スバルは君達の町の外れにある倉庫に居を構えている」
「それだけの条件では絞り込めません、もう少し情報を……」
「そうしたいけど、もう消えちゃう。魔術儀式の準備を進めているわけだから、君の相棒なら……」
ふぅ、と白い光に包まれて、ノルンは消えていった。
「やれやれ、あの白い槍、やっと消えたぜ」
そこで、グラツィアーノが息を吐く。
それで気が抜けたのか、私は全身の痛みに思わず、膝をつく。
「アンジェ、大丈夫か」
慌ててグラツィアーノが駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫です」
私はそれに応じ、グラツィアーノに支えられながら立ち上がる。
「それにしても、そっちは収穫があったらしいな。こっちは標的に逃げられた上に、痕跡までかき消さえれて困ったもんだ……」
「標的って」
「あぁ、お前が、ミラカル・ファジタルとか呼んでた奴だよ。神託によればかなりの凶悪犯のはずなんだが。お前を縁に転移したとしたら、日本に逃げたはずだな、流石に管轄外だ」
やはり、サテンのことか。
「具体的にどのような凶悪犯なんですか?」
「大量殺人犯だ。その目的までは、知らないけどな」
「大量……殺人……」
フブキさんはそんな神秘使いを……否、霊害を庇い立てているというのか。フブキさんは知っているのだろうか。
「さっき戦った感じ、かなりヤバそうな相手だった。しかも、神秘蒐集協会が庇いたてするとは碌な事にはならないはずだ。連絡先を交換しないか、互いに分かったことがあったら共有しよう」
「分かりました。私も情報通が増えると助かります」
「話が分かるじゃないか」
スマホを取り出して、連絡先を交換する。
「じゃあ、俺は拠点に戻るが、お前はどうする?」
「あ、私も……」
途中まで一緒に、と言いかけたところで、その声は聞こえてきた。
「アンジェ!」
認識阻害をかけたヒナタの声だ。
「英国の魔女!」
私が声の方に向き直ると、六本足の馬に乗って彼女は現れた。
「なっ、スレイプニルだと!? ノルンの仲間か!?」
グラツィアーノが霊光剣を抜刀する。
「! テンプル騎士!」
対する英国の魔女も刀を抜刀する。
「そこまでです。二人とも、その相手は私の友人です、安心して下さい」
私が間に入って、英国の魔女に事情を説明する。
英国の魔女が刃を収めるのを見て、グラツィアーノも剣を消滅させる。
「もしかして、ルイージの知り合いですか? 念の為、根回ししておいてよかった、のでしょうか」
「なんだ、もしかして、ルイージにアンジェの事を説明したのは、お前だったのか」
「えぇ、ルイージには貸しが一つあったので、この辺りで活動している可能性に備えてアンジェの事を伝えてみたのですが、功を奏してよかったです」
グラツィアーノと和解出来たのはヒナタのおかげだったのか。流石、顔が広いというかなんというか。
「で、その英国の魔女当人は何をしていたんですか?」
「それが、この辺り一帯ではなぜかルーンがうまく機能せず、徒歩でアテもなく探す羽目になっていまして」
「それはノルンの仕業だな。あいつはオーディンの神格を継承してるから、周囲のルーンを無効化出来るんだ」
「オーディンの神格を得ている神秘使いですか、道理で。であれば、あなたに助けられたようですね。グングニルを使われれば、アンジェには対処出来なかったでしょう」
グングニル、あのグラツィアーノを封じるのに使っていた白い槍か。確かにあれが私に向けられていたら、私はどうしようもなかったかもしれない。
「それで、アンジェ、なにか収穫はありましたか?」
「多少は。でも、このキュレネ遺跡にいる最大候補だったユークリッドは影も形もありませんでした」
「逆に、そこを外したのに収穫があったほうが奇跡かもしれません。今はそれに感謝して、一度戻りましょう」
「そうですね」
「じゃあ、一旦俺とはここまでだな。また連絡してくれよ」
そう言って、グラツィアーノはラクダにまたがって走り去っていった。
そして、私達は日本に戻ると同時に、アオイさんに声をかけ、フブキさん達を集めてもらった。
早乙女スバルの目的について語るため、そしてなにより、辰狐寺サテンについて聞き取り、語るために。
to be continued...
第10章へ!a>
「退魔師アンジェ 第2部第8章」の大したことのないあとがきを
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