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栄光は虚構と成り果て 第3章

前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 地球に住んでいた少女、コトハはある日、目を覚ますと、太陽が二つある砂漠にいた。
 小さな肉食の爬虫類に襲われたところを、二足歩行で歩くトカゲであるラケルタ族のルチャルトラに助けられたコトハは、そのまま町までルチャルトラに案内してもらうことにした。
 まもなく町に到着するという時、二人の前に、巨大なワニが姿を現す。絶体絶命と思われたその時、コトハは自身の能力を思い出し、敵を円の中に誘導、消滅させる事に成功した。
 町に辿り着いて治療を受けることが出来たコトハ。そのまま町に住む事を許可され、新しい生活が始まるかと思われたが、町に超獣と呼ばれる巨大な怪物が襲い掛かる。
 ドラゴンさえもねじ伏せる圧倒的な力を持つ超獣を、しかしコトハはその能力で撃破する。
 この世界には多くの超獣がおり、人々を脅かしている。それを知ったコトハは、この能力で超獣を倒して回ることこそが自らの使命だと感じ、ルチャルトラと共に旅に出る事を決意した。

 

「ふんっ」
 ――体の中の力をイメージして、外に、出す。
「出来てねぇな」
 コトハが手を前に突き出して息を吐きだすが、ルチャルトラはそれを見て肩をすくめる。
「体の中の魔力を感じられないのか? そんな鈍感あるもんか……」
 ルチャルトラが頭をかく。
「教え方が悪いんじゃないの?」
「うーむ。とはいっても、呼吸の仕方を教えることは難しいだろ?」
 ――そんなレベルの話か。異世界転生ならともかく、私は異世界転移だからなぁ。ちょっと経緯と世界観設定がマッチしてないんじゃないの?
 悩むコトハ。コトハのよく読むフィクションでは、異世界に行くという物語には二つのパターンがあった。一つはコトハのような異世界転移型、もう一つが異世界転生型だ。そして、それぞれに一長一短があった。異世界転生であれば「その世界で当然できること」や「その世界の常識」が身についた状態で物語が始まる。今回の場合、この魔術というのも、異世界転生の形であれば、問題なく使えていた可能性が高い。コトハはそこが少し残念だった。そもそもコトハにしてみると転移はあまりメリットが多くないのだ。そこにきて、魔術が使えない、と来ている。コトハが「どうせ異世界に来るなら、転移より転生の方がよかった」と思うのも無理はない。
「別に元の世界になんて戻りたくもないのにな」
「なんかいったか?」
「ううん、なんでも。でも体の中の魔力なんて全然イメージできないよ」
「そうか、どうしたもんかなぁ。よし、学者様に見てもらおう」
「学者様?」
「おうよ。魔術を研究してる学者様だ。滅んでなければ、近くの街にあるはずだ」
 ――魔術の研究なんてものもあるのか
「それじゃあそっちに行こう」
「おう。……って、そういえば、あの超獣を倒したあれはなんなんだ? 魔術じゃないのか?」
「あー、どうなんだろ……」
 コトハは首をかしげる。
「分かんねぇか。もしあれも魔術なんだったら、それで感覚分かるんじゃねぇかと思ってな」
「んー。本当に決まってる言葉を言うだけって感じで……」
「そうか……」
 ルチャルトラが唸る。
 黙々と歩く時間になる。砂漠を歩くというのは体力を使うのもあって、そもそもあまり話ばかりするのも得策とは言えない。
 ――本当の砂漠はこんな砂ばっかりじゃないと聞くけど、この世界の砂漠は砂ばっかりだね。まさにファンタジーな砂漠って感じ
「おあ……」
 砂の斜面を登っているとき、コトハが足を砂に取られて転倒しかける。
「大丈夫か?」
 お互いを繋いでいたロープを、ルチャルトラが引っ張って、コトハの姿勢を支える。
「うん、ありがとう。ルチャルトラはどうやって踏ん張ってるの?」
 ルチャルトラの足元も砂地だ。コトハを助けようと踏ん張ろうものなら、自分も滑りそうなものだが。
「あぁ。魔術で地面を固めてるのさ、いつものことだよ」
「いつもそうやってるの?」
「いや、魔力がとても足りないからな。踏ん張りたいとき、足を持っていかれそうなときだけだ」
 ――なるほど。以前、風を防ぐ魔術も見たけど、本当に生きるための技術なんだ、魔術は。だから、ルチャルトラも私の力を知るより前に魔術を教えると約束してくれたし、今もここまで親身になってくれているんだ。
 コトハはこの世界の魔術についてまた一つ理解を深める。つまりそれはこの世界の確かな事実の一つ。この砂漠を生き残るのに、魔術は必要不可欠なものなのだ、ということだ。

 

 そして、長い移動時間、コトハはその時間をたっぷり使い、以下のように、思考を重ねた。
 今のうちに魔術について簡単に分かったことをまとめようと思う。この世界では紙も貴重品なので、しっかりと頭の中で整理して記憶しておく必要があるから。
 魔術とは、体のうちにある魔力を使い、周囲に影響を及ぼす技術である。ぶっちゃけて言えば、MPのようなリソースを使うタイプ、と言うことだろう。魔術の発動にはいくつかのステップがあるらしい。簡単にまとめると、以下のような工程だ。
1.体内の魔力に意識を向け、体外に放出する。
2.放出し自分の周囲に漂っている魔力を使いたい部位に集中させる。これを即座に行えないと周囲の魔力は霧散していき、体内の魔力を無駄にすることになる。
3.魔力に命令を伝え、魔術を実行する。
 私、コトハは、そもそも1の工程がうまくいかない。厳密にはその前半部分、体内の魔力を感じると言う大前提に失敗している。2が下手なら、無駄にはなるが、1で多めに魔力を放出するようにしつつ慣れればいいし、1が下手なら体内の魔力操作の練習をすればいいが、そもそも体内の魔力を感じられない、などと言うケースは極めて稀……と言う言葉すら自己弁護になってしまうレベルで「あり得ない事」のようだ。
 それにしても、なんだか変な工程だ。一度体外に放出してから使いたい部位に集中させる、と言うのはなんのための工程なのだろうか。最初から集中させたい部位に放出すればいいのに、なんだか不思議だ。
 まぁ、その疑問点は置いておいて、次に魔術の種類について考えていこうと思う。今のところ、直接的に攻撃に使える魔術、と言うのは無いようだ。ファンタジーなら風の刃とか炎の矢とか水の龍とか、出せそうなものだが、そういったものはないようだ。この世界における魔術の基本的な性質は、魔力を集中させている場所に触れたものを変質させる、と言う類のものらしい。この性質上、一番便利なのが指や足に集中させる事だから、そうすると言うのが一般化しているのだろう。しかし、この性質に基づけば、魔力をうまく制御して相手の足元を泥濘ませるといったような事も可能なはずだ。魔力を空高く打ち上げて、風を屈折させることで文字などを空中に浮かび上がらせる、と言う魔術が存在するようだから、魔力に触れていなければ制御できない、と言う事もないはず。単に魔術自体を攻撃的な使い方をすると言う発想がないのだろうか。だとしたら、異世界転移ものっぽい、新技術をもたらす存在になれるかもしれない……。

 

「起きろ、見えてきたぞ」
 コトハがぼーっとしていると、ルチャルトラに声をかけられる。
「固い地面になったからって、ぼーっと歩きやがって。なんかいい夢でも見てたのか? 随分とニヤニヤしていたみたいだが……」
 と、ルチャルトラが話す言葉を適当に聞き逃しつつ、コトハは目の前に広がる景色に驚いていた。
「城塞……?」
 そこに広がっていたのは城壁だった。
「おう。X字の黒岩から白が一番多い方にまっすぐ進んだ先、情報通りだな。ここがヒャルンの街だ」
「ヒャルンの街……って、こんなおっきな街もあるの? てっきりこれまで行ったみたいな集落ばっかりかと」
「いや、この街が特別だ。ま、単に運がいいのもあるだろうけどな。その辺はこれからあう学者様が詳しい。気になるなら、聞いてみると良い」
 そう言いながら、いつも通りルチャルトラが先導して、街に入ろうとする。
「止まれ」
 いつものように番に止められる。
「商人のルチャルトラだ。こっちは手伝いのコトハ。ズンの奴に会いにきた。入れてもらえないか?」
「このリストの中にうちのどれかを持っているか?」
 いつもならそれで入れてもらえるのだが、番は貴重なはずの紙に書かれたリストを見せてくる。コトハにはひらがな、カタカナ、漢字で見えているが、実際にはこの世界の言語で書かれているのだろう。コトハはこの世界の紙をはじめて見たが、感想は、「エジプトとかの古い紙とかみたい。あと、ボロそう」といった感じであった。
「なんだ、こりゃ、こんなリスト、前の街に来た時はなかったぞ?」
「学者連合の新しい施策だ。本街にとって有用な物資を所持していない行商人を入れることはできない」
「なんだと、なんでだそりゃ」
「こちらも理由までは知らない。早く持っているかいないかを答えろ」
「チッ、ちょっと待てよ……」
 ルチャルトラがリストに目を通す。
「くっ、どれも持ってねぇ。今から引き返してこれらを持って来いってか」
「それが可能なのであれば、そう言うことになる。無論、その時もこのリストがそのままとも限らないが」
「そりゃそうだろうなぁ。明らかに二つ以上あっても持て余すだけ、みたいなものが含まれてやがる」
「あぁ。申し訳ないが、ルールなんでな」
「この街となると、そりゃそうだろうな。分かった。出直してくるよ」

 

「って、わけだ。リストの中にある品物のどれかを、見つけてこないとならねぇ。ったく、なんなんだ、このルールは」
「早く入って、そのズンさんって人に聞かないとね」
「だな。よし、そうするとどうしたもんかね。どの品も今から手に入れようと思うと、随分骨が折れるぞ。まして、あの街で補給も出来なかったしな」
 と言うことは、今残っているもので移動出来る範囲で調達することが出来るもの、と言うことになりそうだ。と、コトハも考え始める。どちらかと言うとゲーム感覚だ。
「パッと手に入れるルートを想像しやすいのは鉄製の何かだが、誰にとっても貴重品だからな、譲ってくれるかどうか……」
「とりあえず、手近な町に行ってみようよ。何かあるかもしれないし」
「だな。ここで止まってても、貴重な水と食料を失うだけだ」
 そうして歩き出す。
「鉄製の何か、以外にどんなのがあった? あぁ、えーっと、水と食料、あと、燃える粉末とかだな」
「水と食料を街が必要としてるってこと? じゃあどのみちあの街では水と食料は……」
「あぁ。補給できなかったかもな」
 コトハは考える。あの街に辿り着くまで、いくつかの町を通った。どの町も数少ない水の存在する場所を中心に形成されていて、その水を使って農業をして食料も得ていた。ところがあの街は水と食料を求めている、と言う。これまで見てきた町の傾向から言って、町の大きさはその水場の大きさ、その水場によって形成される畑の規模と関係している。その町で得られる水と食料の規模を超えて人をその町に住まわせることはできないのだ。厳密にはルチャルトラのように町の外からの商人とやり取りするため、ある程度余るように管理されていると見える。それなのにあの街では水も食料も足りない? それこそ自分のいた世界の都会のようなものだろうか。農業のような第一次産業は田舎の町に任せ、都会の街は第二次、第三次産業に勤しむのだろうか?
「まぁ、中に入って、学者さんに聞くのが早そうだけど」
「なんか言ったか?」
「いや、ちょっと考え事をしてただけ。そんなことより、燃える粉末って?」
「あぁ、なんか燃える粉らしい。色々混ぜると作れるんだと。昔、武器に使おうとしたらしいが使ったら消えてしまうものを武器に使うなんて現実的じゃないよな」
 と、ルチャルトラ。そういえば、この世界には使い捨てのものがとても少ない。これまでに見た二つの飛び道具も、それぞれ弾丸は吐息とその辺にある砂だ。一面砂漠で資源が限られているから、必然的にそうなるのだろう。と、納得するコトハ。
「たくさん鉄を集めてどうするんだろうね?」
「さぁな、学者様に聞けば手っ取り早いだろうよ。ま、あの街、でっかい煙突がある建物ができてたからな。あれで加工するんじゃないか?」
 そう言えばあったな、と思い出すコトハ。城壁の向こうに見えていた高い煙突。あれが、溶鉱炉の煙突なのか、と納得する。

 

 その後二人は鉄の回収に成功した。コトハやルチャルトラからすると意外なことだったが、町には不要な金属が多かった。ほとんどの町には溶鉱炉がないため、破損して使えなくなった鉄器は置いておくしか出来ないのだ。
「要らなくなった鉄、案外あるもんなんだな」
「こうやって集めたものをまた溶鉱炉で作り直して売ったら商売にできそうだね」
「確かにな」
 コトハは元の世界の廃品回収を思い出しながら言い、ルチャルトラが頷く。
 それともそれがあの街の役回り? 中は工場だらけだったり? などと考えるコトハ。

 

「確かに、持っているようだな。入っていいぞ。鉄は高い煙突の立っているところで引き取って貰える」
「あぁ。ありがとよ」
 やっぱり溶鉱炉だったろ? とコトハに微笑むルチャルトラ。ただし、コトハにはラケルタ族の表情の機微など分からないので、なんか見られているな、としか分からない。
 入った壁の向こうは、時折高い石造りの建物がある以外はほとんど、町と大差ない風景であった。城壁の中に街がある、中国の昔のお城のようなイメージだろうか。そしてコトハはそんな中、ある一つの大きな違いを目にする。
「水場と畑が、ない?」
 先ほどコトハが考察していたが、基本的に町は水場を中心に形成される。世界が違えど、水が生命の生存に必要なのはこの世界も同じ。そんな水が安定して供給される場所に住みたがるのは、生命として自然な成り行きと言える。ところが、この街は違う。水場が無い。その代わり、あちこちに水を入れるための容器が点在している。
「水と食料をあの街で買って来たのは正解だったな」
 ルチャルトラが頷く。
「ま、細かいことは学者様に聞いてみようぜ」
「そう言えば、ルチャルトラもこの街にくるのは初めてなの? 学者様、ズンさん? とは知り合いみたいだけど」
 ふと、違和感を覚えたコトハは即尋ねることにする。まだまだ未知のことばかりの世界だ。自分の思わぬ何かがある可能性もある。例えば、知り合いじゃなくても名前を知ることができるような、なんらかのネットワークがある、とか。
「あぁ。この街が出来る前、別の街でちょっとな」
「別の街?」
「おう。ヒャルンの街って言ったろ? ニャロメの街もあったんだよ」
 コトハは混乱した。意味が分からなかったのだ。
「お、いたいた。おい、ズン、ちょっといいか?」
 さらに尋ねようとしたところ、二人は目的地に到着してしまった。
「おぉ、ルチャルトラじゃ無いか、久しぶりだな」
 そこにいたのはアシオー族と呼ばれるフクロウに似た種族の男性だった。コトハには人間――余談ながら人間はホモー族と呼ばれる――以外の年齢の見た目は分からないが、不思議とかなりお年を召されたおじいさんという印象を抱いた。
「なぁ、ズン。お前、今も魔術の研究してるよな?」
「もちろん。だからこそ、この街におるんだからな」
「じゃあ悪いんだけど、コトハ……あそこの嬢ちゃんに魔術を教えてやってくれないか?」
 と言いながら、ルチャルトラはコトハを前に突き出す。
「おぉ、おぉ、そりゃもちろん。初めまして、コトハ。ワシはズン。魔術の研究をしている。それで、君は何が苦手なのかな?」
「最初からです。体内の魔力を感じられないんです」
「なんと、そりゃ珍しい。いいや、むしろ初めて聞いたケースじゃな。ちょっと待て、何か良い案が無いか調べる」
 ズンが手近な机に向かって資料を探し始める。
「すごい、貴重な紙があんなにたくさん」
「紙と言えばよ、あのリストはなんだ? 学者連合の新しい施策だって聞いたが」
「その通り。この街の性質上、アレが準備中に来るようでは困るからな。準備が終わるまでは、アレが来ないようにするしかない。不要なものしか持ち込まない商人を入れないのもその一環と言うわけだ」
「なんだそりゃ、よく分からんな」
「要するに仮説よ。ムリュンの街も、ニャロメの街も、ワシの知らぬそれ以前の街も、準備が終わる前にアレに襲われて失敗した。アレが襲って来る条件について仮説を立て、それに該当しそうなものを封じている、と言うわけだ。このヒャルンの街には10を超える禁止条例があるぞ」
「あの、それだったら、一つずつ試すべきじゃ無いですか? じゃ無いと次に活かせないような……」
 コトハは思う。一つ一つ試していかないと、失敗が次に生きない。まぁ、失敗から反省してもそれを全く無意味なものとして、怒鳴り散らす者もいるけれど、ともコトハは思い至り、そっと目を逸らす。
「それが出来ればいいんだがな。ニャロメの街の崩壊は50年も前、ムリュンの街の崩壊はもっともっと前。この規模の街を作るのには十分な時間が必要が必要なんだ。その間に多くの情報が失われていく。経験の蓄積をすることは困難なのだよ」
 ズンは言う。
 コトハは考える。そうか、この世界の紙は貴重。しかも、そのほとんどが劣化の早いボロい紙に過ぎない。まして、超獣によって住処を転々をしなければならないとあっては、経験の引き継ぎなど、なかなか望めないのだろう。
「サーキュレータリィリソースと言う言葉を知っているかな?」
「いえ……」
「では、説明しよう。我々は超獣の行動原理……」
「大変です。斥候から超獣接近の方有り! 学者連合は直ちに集合せよ、とのことです」
「分かった。すぐに向かおう。すまないな、ルチャルトラ、それにコトハ。魔術のレッスンはまた後で」
「また後で、って、超獣をどうするんだろう?」
「もしかしたら、もう準備が整ってるのかもしれないな」
「準備? おう、って知らないんだったか? 街はな、超獣を倒すために作られたんだよ」
 そう。コトハが最初に見たときに感じた「城塞」と言う感想は大正解。ここは超獣を倒すために人々が力を結集した場所。
「臼砲の発射用意。それから、各種砲台を侵入予想方向に再展開、すでに配置済みの砲は装填を急げ!」
 遠距離の敵に向かって曲射する砲である臼砲が次々に発射される。
「なんだ、ありゃあ、新型のトレビュシェットか?」
 驚くルチャルトラの横で、燃える粉と金属を彼らが欲していた理由を理解するコトハ。
 各臼砲の砲手の横に立っている男が二本の筒のくっついたようなものを覗きながら、射砲手に指示を出す。コトハはそれが双眼鏡で有り、おそらく観測結果から射撃の角度を調整しているのだろうと、分かる。
 やがて、コトハ達にも超獣が見えてくる。コトハはその姿を怪獣映画の怪獣のようだと思った。
 それに呼応し、砲も射撃を開始する。
「危険ですから、非戦闘員の方は反対側の奥まで退避してください」
 通りかかった男が、二人に声をかける。
「だな、行こうぜ、コトハ」
「いや、でも倒せなかった時に……」
 自分の力が必要となるはずだ……、そう言い終わる前にルチャルトラは言葉を遮る。
「最低でも400年はかけて集めた戦力だ。勝てるさ」
「400年?」
 コトハからするとなんだかとんでもない数字が飛び出した。
「さ、急いで」
 通りかかった男が案内してくれるらしい、となると、コトハとしても断りにくく、しぶしぶ続く。
 間も無く、超獣がさらに接近してくる絶え間ない砲撃に流石にダメージを受けているのか、あちこちから青い炎のような煙が上がっている。
「砲を下げろ!!」
 移動可能な砲の一部が射撃をやめ、移動を始める。そして、そららの砲は街の中で一番超獣から遠い位置にいるコトハ達から見ても後ろ、つまり、もっとも超獣から距離のある壁の上から砲撃を再開する。それをローテーションで繰り返し、間に合わなかった砲と砲手が、超獣によって破られた城壁ごと吹き飛ばされていく。
 コトハ達は街から避難するように言われ、街の外に離脱する。避難を見越してなのか、そこには食料なども置かれた石の建物が存在していて、街で働いていた人々は皆ここで、全てが終わるのを待っているらしい。一部の人間はここで食料を回収し、旅立っていく。もう街に見切りをつけた、と言うことなのか。
 超獣はさらに前進を続ける。砲は左右に別れ、左右から砲撃するが、尻尾によってどんどんと城壁は崩れていく。
「やっぱダメなんじゃ……」
 コトハが思わず呟く。
 やがて、最後に残った一基の砲からの砲撃が命中し、超獣はその場に倒れた。
 倒れた超獣に巻き込まれ、最後の砲と砲手が潰される。こうして、戦いは終わった。
「なんだ、超獣も倒せるんじゃん」
 コトハは少し落胆したように呟く。
「あぁ。何百年もかければ、な」
 ズンが後ろから声をかけてくる。
「見ろ、街は滅んだ。またどこか良い場所に、新しい街を作らねばならん。新たな街、そう、ユニュンの街、をな」
「分かったか、コトハ。1だよ。さっきまでの街は8だったのに」
 ん? とコトハは首をかしげる。ズンの言葉とルチャルトラの言葉が噛み合っていない。
「まさか……。8の街だったのが、1の街、ってこと?」
「ん? あぁ、そうだぞ、ヒャルンの街だったのが、次はユニュンの街になるんだ」
 さっきズンもそう言っただろ、と首をかしげるルチャルトラ。コトハはそれでようやく察した。ヒャルンとは、おそらくこの世界の言葉で8と言う意味で、ユニュンと言うのは1と言う意味なのだろう。コトハに備わった翻訳装置は「の街」と言う言葉から、固有名詞だと判断し、そのまま聞こえていたのだ。
「厄介な翻訳装置め」
 コトハが恨めしげに右手を睨む。それはそうと、コトハはそれで、ルチャルトラとズンの言葉の意味を理解した。
「つまり、一つの街をちゃんと作るのにだいたい50年はかかるのに、実際に倒せるのは、8つ目の街ができる頃……ってこと?」
 であるなら、50×8=400で、計算も一致する。
「その通り。今生きている人々が、次に彼らを殺すところを目撃することは、出来ない。それくらいに、超獣は強い」
 コトハは理解する。やはり、そんな超獣を一撃で倒すことのできる自分こそが、この世界を救えるのだ、と。

 

To Be Continued…

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