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アフロディーネロマンス 第6章

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『その推力は驚異的な物であった。それを使って加速すれば、途方も無い速度を出せるだろうが、その機体には途方も無い力がかかることを示している』(『未来を探して』(著・tipa08)より)

 

 ハイパーループ用のチューブの中、バイクに乗った太一と千晶がひたすら進む。千晶の胸元でペンダントの鍵の形をした飾りが揺れている。
「やっぱり奇妙よ」
「何がだよ」
「ガラテアは自身の推すピグマリオンの力を使う。さっきの彼なら布武姫、この前の襲撃者なら魔女ユング、この前の銀行強盗ならフレイと英国の魔女。最初に襲撃してきたのは安曇。そしてあなたは魔女ムサシ、そうよね?」
「だな。それがどうしたんだ?」
「そしてあなたは過去に魔女エレナと魔女ソーリア、魔女トリアノンと戦った、そうね?」
「あぁ。何が言いたいんだ?」
「えぇ。あの布武姫のガラテアの交戦履歴を聞いたわ。結論から言うわね。明らかに『三人の魔女』に偏りすぎてるのよ」
 千晶は言う。目撃されているピグマリオンのほとんどが魔女である、と。
「『Angel Dust』から目撃されてるのはフレイ、『退魔師アンジェ』からは布武姫と英国の魔女。安曇は判断が難しいけど、それだけしか目撃されてない。おかしいでしょう。主人公であるアンジェはなぜいないの? 他のエンジェルたちはなぜいないの?」
 アンジェは『退魔師アンジェ』の主人公。エンジェルは『Angel Dust』に登場するスーパーロボット・デウスエクスマキナのパイロットの事だ。
「別に目撃されてないだけだろ。俺とあの布武姫のガラテアが出会ったガラテアが全てじゃない」
「それは……確かにそうなんだけど」
 けれど千晶は思っていた。きっとこのピグマリオンオーブになっているかいないか、その差こそがアフロディーネデバイスの秘密に関わっているのだ、と。
「待って、メールが。マーシーからだわ。っていうか、ここって電波届くのね」
「そりゃ、8G回線はほぼ地球全土に届くからな。線路上だと電波が届かないなんてこと、今時は……」
「情報実体空間ってことよ、まったく。ええっとなになに、マーシー、私達がこっそり途中下車したと思ってるみたいね。迎えに行くからどの駅で降りたのか答えろってさ」
「なら丁度いい。もうすぐ仙台駅らしいから。そこで降りたことにしよう」
「確かに。仙台なら観光目的でも悪くないわ。そう返信しておくわね」

 

 そして仙台駅に到着する。
「やっと見つけたわよ、千晶。まったく付き人をつけたのをいいことにいきなりデートなんて……」
「ちょ、そんなんじゃないから」
 アニメなんかでこういう弄りをされる時は少なからずそういう要素があるものだが、今回に関していうと本当に違うのでかなり気まずい思いをする二人。
「さ、車を用意してあるから、乗って」
 マーシーが駐車場の車を指す、「わ」ナンバーの車、レンタカーだ。
「本当は向こうで紹介するつもりだったけど、こちら、ドライバーのさかい 恵比寿えびす君よ。太一君も今後お世話になると思うから」
「成瀬太一です、よろしくお願いします」
「やっ、どうと、堺 恵比寿です。どうもよろしゅう」
 強い関西鈍りだった。
「近畿首都圏の方の方なんですか?」
「せや。よかったら来てや。あ、千晶のファンなら来たことくらいあるか」
 ははは、と笑う。関西人のステレオタイプを体現したような人だ、と太一は感じた。
「ねぇ、太一、おかしくない? 私達が仙台にいるって連絡したのって、いいとこ30分くらい前の話よね?」
 後部座席でひそひそと声をかける千晶。
「確かに早いよな。向こうもこっちの不在に気づいて仙台駅で降りてたのか?」
「いえ、メールが来た時間ならもうハイパーループは新青森駅についてたはずよ。そうじゃないとするなら、なんでそんな長時間連絡せず探してたわけ?」
 確かに。いくらハイパーループでも新青森から仙台まで30分とはいかない。かつてハイパーループを発案した富豪実業家は、東京から青森までも30分で可能であると言っていたが、実際に作られたものはそこまで高速性を発揮することはできなかったのだ。
「なら、盛岡駅で降りて仙台駅だと当たりをつけて車で走ってきたとか?」
「いや、盛岡駅から仙台駅まで車で1時間以上かかるし、何より、あのモニターを見て」
 レンタカー用のモニターについた総走行距離はこの車が仙台でレンタルされたものであることを示している。
「……なぁ、冷静に考えたらさっきのパターンを複合させたら解決じゃないか? つまりさ、仙台駅を出た時点で俺たちの不在に気づき、盛岡駅で途中下車。騒ぎを大きくしたくないから、俺達が仙台駅から乗ってくるのを何回か待っていた。が、あまりに遅いのでメールした。で、メールの返信を見て、仙台駅までハイパーループで向かってきたんじゃないか? ハイパーループなら、盛岡駅から仙台駅までならまだ間に合いそうだろ」
 それは正しいように思えた。
「それは、確かに」
「何度も襲われてるから疑心暗鬼になるのも分かるけど、あんまり身内を疑うのはやめとけよ。エレナ先生も言ってただろ?」
「仲間を何度も疑ってたから、心が弱くなっちゃうわ」
「それそれ」
 セリフを諳んじる事ができるのは余程のオタクだと思うが、口に出すと怒られそうなのでやめておく事にした。

 

 仙台駅から青森駅まで、車で3時間程度かかる。が、それでも車の移動と相成ったのは、マーシーの二人への不信によるものだと、二人は分かっていた。
 太一は推しが隣にいるというドキドキに未だ耐えられず窓の外を眺めていたが、千晶の方は、全く異なることを考えていた。
 ――太一の少年時代には既にデバイスが存在していた。つまり、デバイスに使われている技術はその頃には存在していたと言うことになる。
 スマートフォンで検索する。検索条件は2030年代から41年までの技術系ニュースだ。

 

・マスク氏、日本のハイパーループの開発開始を宣言
・東京都知事、首都圏拡大に伴い、ボーリング・カンパニー社に自動地下道網の実装を依頼。東京の地下鉄網との競合が不安視される
・アイオン・コクセー博士、フォルト粒子を制御することによる転移技術を発明
合衆国ステイツ政府、フォルト式転移技術は到底コストに見合わないとして研究中止を発表
・NASA未踏技術研究所、アンチアメリカの襲撃を受ける。主任研究員・成瀬なるせ由紀ゆき博士とその親族行方不明に

 

 スワイプの手が止まる。成瀬由紀?
 それは確か、齢16歳でNASAの研究員として採用された若き天才ギフテッドだ。そして、太一と同じ苗字でもある。もちろんそれは彼女がデビューした2032年の事。2036年となれば20歳。晩婚化が進む現在を思えばちょっと早いが、結婚して息子がいてもおかしく無い歳ではある。
 しかもこの行方不明はちょうど今から13年前の2041年だ。太一が児童養護施設に入った年と一致する。
「まさか、ね」
 成瀬由紀について検索。行方不明になったと言う親族に息子が含まれるのかどうか。
 しかし、親族についての情報は不思議なほど残されていない。
 ――何者かが情報を消してる? 怪しくなってきた
 とはいえ、ただのアイドルにすぎない千晶にはこれ以上調べるのは不可能だ。
 ――家に戻ったら、ママのパソコンを借りるしかないわね
 そして千晶は、自分にはとても手の届かないような情報の宝庫がどこにあるかを知っていた。
 ――ん? メール?
 画面上部のメール通知をタップしてメールの内容を確認する。ちょっと笑えるその内容に思わず声が出そうになり、それに耐えてから。
 ――……太一には悪いけど、手札が多くて困ることはないわね
 ふと思い立って思いつきを返信する。

 


 

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