栄光は虚構と成り果て 第10章「アイオンに潜る」
現在、この作品は有料での先行公開中です
AWs premium - メリーさんのアモルなら月額500円で隔週更新されるメリーさんのアモルの作品を先行で読み放題!
地球に住んでいた少女、コトハはある日、目を覚ますと、太陽が二つある砂漠にいた。
小さな肉食の爬虫類に襲われたところを、二足歩行で歩くトカゲであるラケルタ族のルチャルトラに助けられたコトハは、そのまま町までルチャルトラに案内してもらうことにした。
まもなく町に到着するという時、二人の前に、巨大なワニが姿を現す。絶体絶命と思われたその時、コトハは自身の能力を思い出し、敵を円の中に誘導、消滅させる事に成功した。
町に辿り着いて治療を受けることが出来たコトハ。そのまま町に住む事を許可され、新しい生活が始まるかと思われたが、町に超獣と呼ばれる巨大な怪物が襲い掛かる。
ドラゴンさえもねじ伏せる圧倒的な力を持つ超獣を、しかしコトハはその能力で撃破する。
この世界には多くの超獣がおり、人々を脅かしている。それを知ったコトハは、この能力で超獣を倒して回ることこそが自らの使命だと感じ、ルチャルトラと共に旅に出る事を決意した。
魔術の学習を始めるも全く魔術を使えるようにならないコトハ。自分が教えるには限界だ、と感じたルチャルトラは、知り合いの学者をコトハに紹介するべく「街」へと向かう。
「街」とは何百年もかけて作られた超獣を倒すための場所。コトハはそこで、自分の力抜きで人々が超獣を討伐するところを目撃する。
ただしそれは400年もの時をかけた人間たちの執念がなし得た事。やはり超獣を倒すには自分がその能力を使うしかないのだ、とコトハは再認識した。
大きめの町で学者であるズンから魔術を学ぶコトハ。二人の協力のおかげでコトハはようやく魔術を取得することに成功する。
そしてこの町には神殿があった。神殿は御神体と呼ばれるものから神託を受け取れる場所だ。最新の神託は「霊山・デルタ山に近づくな」というもので、事実、デルタ山には超獣を超えるかもしれないというほどの強力な怪物が住んでいることが確認されたらしい。
新しい情報が得られないかと期待して神殿を訪れるコトハ達一行の前に、神託は下る。曰く「リディストリビューターが来るから逃げろ」。
御神体を持ち出す儀式が始まる中、超獣が襲撃してくる。コトハは超獣に町を滅ぼされ復讐を誓う狩人・ジオと協力し、超獣を撃破するが、御神体は破壊されてしまった。
コトハの力を知ったズンとジオはそれぞれの理由からコトハと同行する事を決意。四人は新しい情報を得るため、情報が集まる町へと出発した。
情報が集まる町「ターミナル町」に辿り着いたコトハ達一行、しかし、ターミナル町には「この町を訪れる旅人の一人がこの星を根源的に終わらせる災厄をもたらす。何も施すな」という神託を受けており、情報提供を拒否されてしまう。
同じく困っていた旅人のスーマが怪しい事を引き合いに出し、取引を要求するルチャルトラ。功を奏して狩場の肉を取ってくれば情報を教えると約束をしてもらう。
辿り着いた狩場にいたのは
肉を納品したコトハ一行は「自分の能力は文明が滅ぶ前の技術によるものに違いない」と信じ、情報を探して遺跡へと向かう事を決める。
遺跡へ向かう道中、新たな能力に目覚めつつも、遺跡に辿り着くコトハ一行。そこにいたのはターミナル町で待ちぼうけを食らっていたはずのスーマだった。
スーマによると、コトハ一行が肉を狩りに向かった翌日、隣町から新しい神託「災厄をもたらす者は町を出た。旅人をもてなすべし」が届き、スーマは無事情報を得ることが出来たのだという。
遺跡でパソコンを見つけ起動するコトハ。そこに綴られていたのは、超獣に蹂躙される文明の記録だった。とはいえ、コトハの欲しい情報は何もなく。その上、そこに一際巨大な超獣がこちらに向かってきたのだった。
一際巨大な超獣の強さは凄まじく、コトハは同行者を見捨て逃げようとする。しかし、うまく行かず、あわや自らも死ぬというところを、スーマに助けられる。
スーマは自らが囮を買って出て、コトハを逃がす。
コトハ一行は一際巨大な超獣が他の町に向かうのを見越して先回りして対策しようと動き出す。
囮を務めたスーマは、意味深な言葉とともに熱線に飲み込まれる。その表情は今から死ぬ人間のものとは思えなかった。
数年後、コトハは神官王を名乗る王が統治する大きな町に辿り着いた。
コトハ一行は謎の殺気を浴びつつも、神官王支援の元で、超獣を迎撃する準備を整えるのだった。
そして、超獣迎撃戦が始まる。街に多大な被害を及ぼし、ズンの片翼など多くのものを失いつつも、戦いは無事終結を迎える。
しかし、そうして超獣の迎撃を終えたコトハとその同行者達は「この世界に根源的な破滅をもたらすもの」として排除の対象として槍を向けられることになる。
一行は逃走先として廃都を目指す。
廃都へ行くと決めたものの、その道程はなかなか簡単ではなかった。
まず、廃都の場所は分かっている。何せズンが生まれるより前からずっとその場所に存在し、全く移動していないからだ。
だが、その道中にある町の配置までは分からない。
今のコトハ達一行はお尋ね者である。全ての町が神託に従い、コトハの命を狙ってくるかは分からないが、命を狙われる可能性がある以上は避けるに越したことはない。
なので、一行は慎重に進み、町があったらそこを大きく迂回して進む、というスタイルを取っていた。
これは結果的に多くの時間を移動にかけたことになるので、より多くの町に「コトハ一行こそが世界に根源的な破滅をもたらす存在である」と知られたことになる。
しかし、どの町にも接触しなかった結果として、どの方向へどのような経路で進んだのかも知られずに済んだ、という一面もあり、どちらが良い、というものでもないだろう。
痛し痒し、といったところだ。
やがて一年という時を経て、一行はついに辿り着く。
大きな船のようなものが着地し、原子炉の冷却塔のような巨大な煙突が存在するその麓に存在する大きな町、それが廃都だ。
「HCSSアイオン?」
コトハが真っ先に注目したのは、地面に着地している大きな船の先端に書かれた文字だった。
「ほう、コトハにはあの先端の文字が読めるのか」
感心したようにズンが頷く。
ズンの羽は焼けてしまい、もう飛べなくなってしまったが応急処置の甲斐あって、死は免れた。
「え? あ、う、うん。読めるよ。意味までは分からないけど」
「HCSSアイオン、と言ったか。そういえば、アイオンという名前は以前に遺跡で見た日記に記述があったな、偉大な博士だった、と」
「じゃあ建物にその偉大な博士な名前の名前をつけたってこと?」
ズンの言葉にジオが問いかける。
「そうなるな」
「建物……か。確かに建物か」
そこにあるHCSSアイオンは極めて横長の建物だった。コトハにはSF作品に出てくる宇宙船のように見えた。
HCSSアイオンの中央にあるシリンダー状の構造はSF作品に出てくる「スペースコロニー」――所謂「オニール・シリンダー」というモノだがコトハは知らない――にそっくりだと、コトハは思った。
「で、その隣にあるおっきな煙突みたいな建物は?」
「ふぅむ、あれに関しては皆目分からん」
コトハは漠然と、原子力発電所の煙突に似ている、と思った。実際には原子炉の煙突のような構造体は冷却塔と呼ばれるモノなのだが、コトハはそれを知らない。だが、原子炉っぽい、という情報から、あれこそが日記に記述されていた龍穴炉なるモノではないか、と漠然と考えた。
「まぁ、いいじゃねぇか。とりあえず入ろうぜ」
コトハが自分の考えを告げるより早く、ルチャルトラがそう言って歩き出す。すると自然と、一行はそれに続く。
歩きながらコトハは想像していた。ここで今度こそ自分の出自が確実に明らかになることを。
ともすれば、ここにいる人達は自分達のことを知っていて、歓迎してくれるかもしれない。そんなふうに考えていた。
「いてっ」
先頭を歩いていたルチャルトラが何かにぶつかったかの様子で口元を抑える。
「どしたのさ……いたっ」
その様子に首を傾げながら、ジオがルチャルトラを抜いて前進し、同じく何かにぶつかったかのように跳ね返る。
「なんじゃこれは……」
ズンが残ったもう片方の翼で恐る恐るルチャルトラとジオがぶつかった場所に手を伸ばすと、そこに整列した六角形のタイルが出現し、ズンの手の進行を防ぐ。
「バリア?」
思わず、コトハが呟く。
それはそれこそSFでよく見る技術だった。存在しない場所に見えない壁を出現させる技術だ。
「ばりあ?」
「あ、えーっと……」
ズンが聞き返すので、コトハは説明に窮してしまう。
「まぁ、良いか。要するにこの廃都が未だに無事なのはこの透明な壁に守られておるから、というわけじゃな」
特に、ズンとしてはコトハから理論立った説明が聞けるとも期待していなかったのもあり、あっさりと待つのをやめて、話を先に進める。
「じゃあ、この廃都の人達はみんなこの中で引きこもって住んでるってこと?」
「参ったな。どうにかして入れねぇかな」
ジオもルチャルトラもすぐに話を切り替えたので、コトハは内心ホッとしつつ、コトハもまた、町に入る方法を考える。
「流石にどこかに出入り口くらいあるんじゃない?」
「そうか。どうせ、見えない壁なんじゃから、部分的になくても外からは気付かんというわけか」
「いや、そこまで考えたわけじゃないけど」
ジオの言葉に、ズンが納得する。
一行はズンが納得したなら、と見えない壁を右手で触れながら、街を丸一日かけて一周したが、どこにも綻びはなかった。
「ダメじゃん!」
「元はお前が言い出したんだろうが」
ジオの言葉にルチャルトラが突っ込む。
「と、なると、無理矢理入るしかないのう」
一晩経ち、ズンが言う。
「何か考えがあるのか?」
「うむ。コトハ、お主の力であの壁を一時的に消せないか?」
「その手があったか!」
ルチャルトラの問いにズンが頷くと、ルチャルトラが嬉しそうに手を打った。
「やってみようぜ、コトハ」
「うん」
コトハもなんとなく出来る気がした。
風除けの魔法で人が通れるくらいの大きさの円を描き、いつもの呪文を唱える。
「
強烈な光と風が巻き起こる。
「今じゃ!」
その中に一行は突撃した。
果たして、一行は見えない壁の向こうに入ることに成功した。
「やったね! これで奴らはもう追って来れないよ!」
「逆に、もし廃都の連中がワシらに敵対的だった場合、逃げられないことになるがな」
飛んで喜ぶジオに対し、ズンは不安を漏らす。
「考えすぎだよー、コトハはそもそも英雄なんだし、廃都の人達は神託は信じないって聞くよ」
その言葉をジオが笑い飛ばす。
コトハも考えすぎだと思った。コトハの考えが正しいなら、むしろ、彼らはコトハを明るく出迎えてくれるはずだ。
最初は仮説だったはずの言葉だが、コトハの中ではそれが真実になっていた。
「市民IDに登録なし、侵入者だ!」
「それどころじゃない、うち二人は亜人だぞ!」
「どうやって入ったんだ!」
残念ながら、その真実は驚くほどあっけなく打ち砕かれた。
食料補給のために、商店らしきところに入ったところ、バーコードリーダーのようなもの――というのはコトハしか分からないが――を向けられた挙句、上記のような言葉を浴びせられ、周囲の赤い回転灯が輝き始めた次第である。
「な、なんじゃ!?」
赤い回転灯の意味が分からず混乱する三人に対して、コトハは素早く反応した。
「分かんないけど、敵だと思われた! 逃げよう!」
コトハが駆け出すと、一行もそれに続く。
すると、人間大で人型の機械がその進路を塞ぐ。
人型機械の頭部に搭載された緑色のラインアイの中央が赤く光り、警戒色を示す。
「市民IDがない人間を発見」
「ロボット!?」
コトハは思わず止まる。
対するロボットは先端に穴ではなくレンズの搭載されたアサルトライフルらしき銃を両手で構える。
「なんじゃあれは。ロボットとはなんじゃ」
ズンが首を傾げるが、自分達に向けられたレンズが友好的なものでないことくらいは想像がついた。
「排除開始」
「こっち!」
剣呑な言葉で、ジオとルチャルトラも事態を把握したところでコトハが路地裏への道へ駆け出し、一行が続く。
直後、ロボットの銃から〝何か〟が放たれ、最後尾のジオの背中を焼く。
「あっつ!? 何今の? 突然、飛んできたよ」
「多分、レーザーだよ!」
「レーザーとはなんじゃ」
「ズンが知らないなら、私も名前以上のことは分からないよ!」
次々と行く手を阻むようにロボットが立ち塞がる。
「空を飛んでいる奴がおるぞ」
見上げれば空中を飛ぶロボットがいるようで、それがこちらの観測結果を共有している様子だ、とズンは分析する。
(なんなの、バリアにロボットにレーザー、それに飛行兵器? この世界はファンタジー異世界じゃなかったの? なんで、突然SFが始まったの!?)
冷静に考えれば、以前に立ち寄った遺跡の防衛装置であったエネルギー砲も充分にSFであったのだが、今それを思い返す余裕はコトハにはない。
「コトハ、このまま当てもなく逃げても逃げきれないよ!」
「そうじゃ、行き先を決めよう。逃げるのか、中枢に進むのか」
ジオとズンに問いかけられて、コトハは考える。
どうせ、外に出ても良いことは何もない。
ならば。
「中枢へ。あのHCSSアイオンへ行こう! そこで得られる情報があるはず!」
「よし、そうと決まれば突破じゃな」
見れば、HCSSアイオンへ繋がる道は既にロボットに塞がれていた。
ジオが弓から矢を放ち、ズンがルチャルトラに装填してもらったショットガンを放つ。
ルチャルトラも魔法の
三体のロボットを沈黙させ、先へ進む。
敵のレーザーは――コトハは詳しく知らないし、一行も知らないことだが――、光そのものだ。それ故、光の速度で進むため、一般的な視認距離では、撃てば即命中する。
それ故、一同は蛇行しながら進んではいたものの、命中率は極めて高く、HCSSアイオンに接近した頃にはもうボロボロだった。
一人として死んでいないのは、恐らくロボットが殺傷を目的とせず、無力化して捕獲することを命じられているからだと推測出来るのだが、聡明なズンでさえ、まだその真実には至っていない。
「このままではアイオン艦内に入られます。緊急妨害を実行」
空中で一行を監視していた機械が一気に急降下してきて、人間大の人型ロボットへと変形する。
「邪魔だよ!」
だが、そのロボットがアサルトライフルを構えるより早く、ジオが弓のリムでそのアサルトライフルを弾く。
咄嗟に、弾き飛んだアサルトライフルをキャッチするコトハ。
ロボットに向けて引き金を引こうとするが。
「引き金がないよ?」
普通、一般的な銃なら引き金があるはずだったが、この銃にはなかった。
「
視界にそんな表示が出て、残弾と書かれたゲージと
(撃って)
試しに頭の中で、念じると、レティクルを向けた位置にレーザーが弾着し、ロボットが沈黙する。
「ナイス、コトハ!」
そのまま、HCSSアイオンに突入する一行。
「所属不明人間、アイオン艦内に突入。艦内保護規定のため、追撃出来ません」
それをロボット達が追ってくるが、どうやら建物の中には入って来られないらしい。
「やった、撃たれないうちに奥へ!」
奥へ進むと、看板が見えてくる。
「アイオン・コーポレーション こちら→」
「※艦内は複雑のため、経路案内以外の通路に侵入するのは推奨出来ません。数十年単位で使用されていないため、管理が十分に行き届いておらず、こちらも救助できない可能性が高いです」
それは二叉路の行先を示す表示のようだ。
さらにその下に。
「上の矢印に従ってはいけません。農場はこちら←」
と言う記述がある。
「このアイオン・コーポレーションってところに行ってみよう。何か事情を知っている人がいるかも」
「ふむ、上に書かれた文字はワシには読めんから、危険と思うが、まぁ、読めているコトハがそう言うならそうするとしよう」
AWs Premium -メリーさんのアモル の登録はこちらから!
(Pixiv FANBOXにジャンプします)