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虹の境界線を越えて 第11章「コード・メリー」

前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 地球から、地球とは似て非なる星「アカシア」に文明を築く世界に迷い込んだ少女、虹野にじの からは、世界の濃淡を感じる力とそれを応用した「空間転移」能力を手にする。
 空はこの能力で「カグラ・コントラクター」という民間軍事会社PMCの人間が同じような転移能力を使っている事に気づき、自らが元の世界に帰る手がかりを得るため、新技術の研究所があると言うIoLイオルに向かうことを決める。
 貧乏な家に生まれた空は自らが欲しいもののために「盗み」という手段に手を染めた。しかし、ある日、引退しようと決めた。
 だが、今ここに再び盗みの技能が役に立つ時が来た。自らの戦力拡大のため空は単分子ナイフを盗み出すことを決めたのだった。
 空は見事単分子ナイフを盗み出したが、アクシデントが発生、手に持ったナイフで一人の男を殺すことになる。
 男を殺すという罪を犯した意識に苛まれる空が見たのは、過去に殺したもう一人の記憶と、そして殺した男の妻の様子だった。
 復讐の感情までダイレクトに伝わってきたことに困惑する空だったが、その能力について追求するのは後回しにして、カグラ・コントラクターの基地に侵入し、資料を漁ることにする。
 資料によって分かったことは、カグラ・コントラクターもまた「別の世界」に行く方法を模索しており、その方法の一つとして「コード・アリス」や「コード・メリー」なる存在を探しているということだった。
 しかし、その様子を御神楽みかぐら 久遠くおんなる全身義体の女性に発見され、戦闘になるが、敗北。なんとか逃げ延び、再戦を誓うのだった。
 独力ではカグラ・コントラクターをどうすることもできないと悟った空はカグラ・コントラクターと戦う組織「レジスタンス」に加入することを選ぶ。
 そこでカラを待っていたのは、かつて自分がプレイヤーとして参加し経験したTRPGシナリオと全く同じ展開という不思議な出来事だった。
 無事「レジスタンス」に加入した空はある日、クラッキングの腕を買われ、臨時の要員として捉えられた味方を助けるという作戦に参加する。
 作戦は見事成功したばかりか、レジスタンスの危機まで救った空は海中の潜水艦である「本部」勤務を許されることとなる。
 本部勤務となった空だが、彼女を待っていたのは転移能力を活かした物資輸送任務ばかりだった。しかし、空はそれにめげず、情報収集に励み続けた。
 空は、ある日、自分という存在がカグラ・コントラクターに目をつけられていると知る。それどころか、本部の位置がバレている可能性がある、とも。
 空は情報を集積している特殊第四部隊直属第三研究所の襲撃を進言するが聞き入れられず。
 しかし、ウォルターやスターゲイズといった仲間に恵まれ、独断で襲撃作戦を開始する事ができた。
 だが全ては空を捕らえるための罠だった。
 ウォルターとスターゲイズは死に、その失敗に打ちのめされた空は、無意識で足元に転移の"裂け目"を開く。
 その先に待ち受けていたのは、水色の羽織を身に纏い、誠の一文字を記した旗をはためかせる男の姿であった。
 そう、空が辿り着いたのは日本。ただし幕末の、空が知るのとは別の日本だった。
 空は未来から来た神隠しの被害者として、新撰組の厄介になることになるが、そこで特殊第四部隊のウォーラス・ブラウンもこの世界に来ているはずと気付く。
 ウォーラスと再会した空は、ウォーラスと戦闘になりかけるが、ウォーラスは自身の不利を悟り離脱する。
 その時の言葉に危機感を覚えた空は急ぎ、局長と副長へとウォーラスの事を伝えに行くのだった。
 新撰組の一員となった空は、土方ひじかた 歳三としぞう沖田おきた 総司そうじによる厳しい鍛錬を受ける。
 池田屋事件を乗り越えた空は、総司から加州清光を譲り受けたのだった。

 巻き起こる蛤御門の変の中で、倒幕派の奥の手たる隙間女と交戦する空。
 隙間女の正体はアカシアでコード・アリス質を埋め込まれた第四号フィアテだった。
 ウォーラスの支援も受け、隙間女を乗り越えた空は、ウォーラスと第四号フィアテの死体と共に、アカシアに戻ることを選ぶ。
 アカシアに戻った先で待っていたのは、ラファエル・ウィンドなる組織を率いる地球人、宇都宮うつのみや すばるであった。

 

 
 

「ここが私のセーフハウスです。今はもう使っていないところですので、ご自由にどうぞ」
 昴はそう言って、空を川沿いのコンテナハウスへと案内した。
「ふーん、素敵なワンルームだね。もう使ってないってどうして? なにか問題でもあるなら、空ちゃんも使いたくないんだけど」
「ご心配なく。セーフハウスとしての機能は万全です」
「なら、どうしてもう使わないの?」
「あぁ、それは簡単な理由です。暗殺者連盟アライアンスに加盟したので、独自にセーフハウスを用意する理由がなくなったのですよ」
「アライアンス?」
 聞き覚えのない言葉に空が聞き返す。
「はい。暗殺者連盟という、暗殺者の寄り合い所帯の通称です。桜花各地にあって、基本的に都みち府県単位でまとまっていて、仕事の仲介やら各種設備の共有なんかをしています」
「じゃあ、今は君等はそこが用意してるセーフハウスにいるってわけ?」
「えぇ。今は私も私の部下も、この川の北側にある町にあるメゾン・ド・ヤマザキという高層マンションに住んでいますよ」
「へぇ、大阪の高層マンションか、大層なところに住んですね」
「大阪ではなくて上町うえまちですよ」
「いいじゃん、地球出身者同士なんだから、硬いこと言わないでよ」
 昴と空が笑い合う。
「それで? 昴さんはどうしてアカシアに? 私と同じコード・アリス?」
「いいえ、私はコード・メリー適合者にあたります」
 そう言うと、昴は「プレアデス」と声をかける。
 すると、青白い炎が地面から上方に向けて広がり、黒い人型の何かが姿を表す。
「へぇ……」
 確か、PDAにトクヨンの持つデータをコピーしておいたはずだ、と空はPDAを確認する。
「コード・メリー。特定の印をつけた対象に対し世界を超えた追跡を行える生命体の総称、か」
「ほう、興味深いデータベースを持っていますね。私がコード・メリーやコード・アリスという名前にたどり着くには随分かかったのに」
「まぁね。主に、人に取り憑くことで生きられる種族である有機亡霊オーガニックゴースト及び魔術亡霊マジックゴーストの二種がそう呼ばれる、とあるけど、そのプレアデスはどっち?」
魔術亡霊マジックゴーストですよ。だからこそ、魔力を充填してやることで地球からアカシアまでやってこれた。だから、私は私一人では転移は使えません」
「ふぅん。取り憑かれた場合、体を乗っ取られることが多いが、うまく適合あるいは共生出来た存在をコード・メリー適合者と呼ぶ、か。適合したんだ? 使役してるようにも見えるけど」
「そうですね。共感しあった、というのが正しいのでしょうけれど、彼は私であれば自分をうまく使える、と考えたようです」
「ふぅん」
 聞いておいてなんだが、あまり興味がなさそうな空。だが、昴もそれを咎める様子はない。
「ってか、自分から来たんだ、君」
「えぇ。私には目的があるのです。その目的を果たすために、この世界で戦っています」
「それで、セーフハウスを提供してくれたり食事の工面をしてくれるのは手伝ってほしいから? だとしたら、期待外れだよ。空ちゃん、今、御神楽から目立つことしたくないの」
 ウォーラスはトクヨンの、ひいては、御神楽のターゲットから空を外すように手配してくれると言ってくれた。であれば、もう一度目立つ真似をして、注意を惹きたくはない。
「ご安心を。暗殺仕事を手伝ってくれ、などという気はありません。もとより、素人も戦いの場に連れて行っても仕方ありませんしね」
 素人と言われると少しむっとする空だが、その思惑に乗るのも癪なので、黙り続ける。
「その代わり、一度だけ、そのラビットホール能力を使ってもらえませんか?」
 ラビットホール能力。PDAのデータに記録がある。コード・アリスの使える能力の総称のようだ。
 しかし、少し気になる。トクヨンはこれらのコード・○○のデータをどうやって得たのだろう。空と出会うまでは実在すら証明されていなかったはずだ。
「具体的には? 空ちゃん、出来ることしか出来ないよ」
 とはいえ、本題はここからだ。
「問題ありません。頼みたいのは短距離跳躍です」
 昴が頷く。確かに、短距離跳躍であれば空にも問題なく出来る。
 トクヨンのデータベースにも殆どのコード・アリスが最初期から使えるラビットホール能力であるとの記述がある。
 いや、そのデータはどうやって集めたんだ? 空の疑問は尽きないが、聞きに行ける義理もない。
「何をどこに飛ばしたいの?」
「一ヶ月後、私は狙撃されて海に落ちます。海に落ちた私を安全な場所に転移させて欲しいのです」
「死を偽装するってわけ? 空ちゃんを頼るってことは、真っ当な理由じゃないね。まさか、あのGeneって子にも内緒なの?」
「えぇ。ラファエル・ウィンドは一ヶ月後、私の死を以て解散とします。まぁ、あとのことはBBに任せているので、ともすれば、何らかの形で続くのかもしれませんが……」
 という昴の答えに、空は再びふぅん、と頷いた。
「引き受けていただけるなら、このセーフハウスの鍵と、一ヶ月分の食料を買えるだけの資金を提供しましょう。いえ、二ヶ月分にしましょうか。多少余裕があった方がいいでしょう」
 どうしますか? と昴が鍵を手に視線で問いかけてくる。
 空は逡巡する。どうせ生きていく当てはない。目の前の昴の提案は渡りに船だ。
 しかし、結局また悪事に加担するのか、という想いは残る。
 人を殺さない、盗みをするわけでもない、ただ人を移動させるだけの仕事。
 けれど、きっと、この昴を死んだと考えたラファエル・ウィンドのメンバーは悲しむだろう。
 自分のすることは結局人を傷つけることではないのか。
「……分かった。引き受けるよ」
 決断し、鍵を受け取る。結局、自分はこうして生きるしかないのだ、と空は思った。
 逡巡は時間にして一秒にも満たない一瞬のものだったが、空には永遠のようにも感じられた。
「送金手段ですが、既存のCCTではこちらの身分がバレる可能性があるので、新たに偽装用のCCTを用意しておきました。お使い下さい」
「随分用意がいいね」
 取り出されたのは、ポケットに入れるタイプのシンプルなCCTだった。ポケットに入れて電源を入れるだけで自動的に網膜投影される便利な通信機器である。空もレジスタンス時代に使ったことがあった。
「偽装用のCCTは念の為にいくつか持ち歩いていますからね。それを今、Rainに遠隔で再設定してもらいました」
「ふぅん、随分頼れる仲間が多いみたいだけど。今の状態の何が不満なの?」
 話を聞けば聞くほど、空には昴の目的が分からなかった。随分この世界で恵まれた信用できる仲間に囲まれているように思える。何のために死を偽装してまで、今の環境を手放したいのか。
「たかだか一都みち府県の暗殺者連盟アライアンスの使いっぱしりをしているだけでは、私の目的は果たせないからですよ」
「じゃあ、どこにいくの?」
「カタストロフ」
 と昴は小さく答えた。
 空はその組織を知っていた。簡単に言えば裏の世界の一大組織だ。専属の暗殺者や情報屋を多数抱え、その規模は巨大複合企業メガコープにも匹敵するとされ、空の所属していたレジスタンスと連携している組織の一つでもある。
「そんな簡単に懐に入れるの? また使いっぱしりからスタート?」
「いいえ。私には手土産があるのです。この情報を喉から手が出るほど、カタストロフは欲しがっている。これを手に、私は偽装死し、カタストロフの幹部になる」
「じゃあ、何を求めるの?」
「決まっています。を排斥したあの国、日本への、復讐ですよ」
 聞かなきゃよかった、と空は思った。
 やはり自分のすることは悪事への加担に過ぎないのか、と改めてがっかりした。
 復讐、と聞くと被害者のように聞こえるが、ここまでのやりとりで昴がまともな神経の人間でないことはよく分かっている。恐らく、逆恨みに近い何かに違いない。
「少しおしゃべりが過ぎました。私は失礼します」
 昴が空に背を向ける。
「また一ヶ月後、ここに来ます。逃げても、CCTで居場所はすぐに分かりますからね。やっぱりなし、は無理ですよ」
 そう言って、昴は去っていった。

 

 昴と別れた後、空は一日――アカシアに戻ったので八時間のことだ――睡眠をとって、翌日、自分の服を買いに行った。
 何せ元の服は隙間女こと操り人形にされていた第四号フィアテとの戦闘であちこち焦げていたし、如何にアカシアの治安が悪いと言っても、比較的平和な桜花の表通りで防弾チョッキを身に纏っているのは違和感があり過ぎた。
 ショートパンツに黄色いロングのシャツ、そして青いベスト。
「うん、悪くないんじゃないかな」
 これまでは戦闘を想定して実用的な服を選んでいたが、これからは可能な限り普通に生きたい。多少おしゃれしても許されるだろう。
 つい癖でCCTを使って御神楽の動きなどを収集してみる。
 特に空的に興味のそそられるニュースはないが、強いて言えば、絵が盗まれたと言うニュースは興味深い、と感じた。
 御神楽ホテル爆破事件慰霊塔という場所に展示されていたらしい。
 絵のタイトルは『塔と少女』。その絵自体に空は興味はそそられなかったが、他にも絵が展示されているのだとしたら、ちょっと見てみたい。価値のある絵は良いものだ。
 眺めてよし、盗んでよし、最悪売ったって良い。
「いや、後者二つはもうしないんだった。なしなし」
 せっかくだから、到着まで御神楽ホテル爆破事件慰霊塔について調べてみようか、と空は考える。今のところ、慰霊塔であるらしいことしか分からない。
 などと空中に指を走らせようとした直後。
 ぱしゅっ、と音がした。
 聞き間違えるわけがない制音機サプレッサーで抑制されたライフルの射撃音。
 素早く空の焦点が喪失し、じんわりと視界が広がる。
 視界の端、ビルの向こうで発砲炎マズルフラッシュが見えた。
 銃弾の先は……、一般人のように見える少年。自分のすぐ目の前だ。
 このままでは彼は死ぬ。そう考えた時、空の体は勝手に動いた。地面を強く蹴る。
 蹴ってから思考する。
 思考が加速し、接近してくるライフル弾としては標準的な5.56x45mm弾がスローモーションで見える。
 ――突き飛ばす?
 否、間に合わない。少年の胴体が撃ち抜かれる可能性が高い。
 ――なら、刀を呼び出して弾く?
 否、間に合わない。刀を呼び出すために〝裂け目〟を呼び出すより早く、ライフル弾は少年を貫くだろう。
 ――なら、仕方ないか。
 右手で少年を突き飛ばすと同時に空中を切り、〝裂け目〟を開く。
 接近してくる5.56x45mm弾が〝裂け目〟の中に消える。
「何? 一般人が狙撃されるなんて、物騒ね。それとも一般人に見える系統のヤバい人?」
 何とかなった事を確認すると同時、ふぅと息を吐いて、思考を落ち着けつつ、空に突き飛ばされて尻餅をついた少年に声をかける。
「い、一般人です……」
 少年の瞳孔が不安で揺れるのをみて、空はしまった、と思った。まずは、大丈夫? と尋ねるのが普通の人間の感性ではなかったか。
「君は、誰?」
 幸い、少年はそこには動じなかったらしい。立ち上がりながらそんな事を尋ねてくる。見た目のイメージから離れていない、穏やかな声色だ。
「私は虹野 空。あなたは?」
彼苑かれその度流わたる」 
「そう。じゃあ、度流。気をつけなさい。狙われているのか、たまたまなのかは知らないけど、厄介事の雰囲気しかしない」
 まだピンときていない様子の度流に、空は続ける。
「ただの一般人ってだけなら、ご丁寧に狙撃手の暗殺者で殺そうとしないでしょう。あなたも自覚しないうちに、何かに巻き込まれているんじゃないの?」
 如何に地球と比較すると治安は悪めとは言っても、一般人が戯れに狙撃されるほど桜花の治安は終わっていない。狙撃手はまず間違いなく何かしらの目的を持って度流を狙ったはずだった。
 ちら、とマズルフラッシュの見えた方向に視線を向けるが、もう人影はない。私に攻撃を阻止されたのを見て、撤退したか。あるいは、狙撃ポイントを変えたか。
 油断は出来ない。周囲を警戒する。
「僕は絵を盗まれただけだよ」
「絵?」
 警戒していたところに突然、予期せぬ言葉が飛んできたので、空は思わず聞き返した。
「慰霊塔の展覧会で飾られた……今朝ニュースになったんだけど」
 それを聞いて、さっきまさにニュースで聞いた絵のことだと分かった。
「ああ、御神楽関係の話は嫌でも耳に入るからね。関係者だったの」
「うん。……でも僕は、絵を描いたってだけで」
「そうね、絵を売って儲けたいなら画家を殺すのはおかしいし。盗むのはわかるけど」
「わかるの!?」
 ナチュラルに言葉のキャッチボールを交わしていると、突然、度流が大きな声で突っ込みを入れてくる。
 空は、しまった、また一般の感性とズレた事を言ってしまった、と気付く。
「あとは御神楽への嫌がらせくらいにしかならなくない? 慰霊塔って御神楽の建物でしょ? ……あるいは、御神楽の自作自演?」
 咳払いしてから、話を変える。
「それはないよ」
 とりあえず、話を変えよう、という程度のつもりの言葉だったが、穏やかな様子の度流の声色が変化する。
 空は周囲の警戒をやめ、度流に視線を向ける。
「御神楽陰謀論とか、アンチ御神楽が消えないのはわかるけど、御神楽はそんなことしない。だって、御神楽が目指しているのは世界平和だよ? どうして平和のために人を殺さなきゃいけないの?」
「……綺麗事ね」
 世界で争いが止まない以上、御神楽とてやめるをやめることはないだろう。彼らの方法論では、それを繰り返して最後の一人になるしかないのだから。
 どこかのロボットアニメに出てくるような天使の輪っかの名を冠するような戦略級精神兵器とかでもあれば、話は別かもしれないが。それこそ悪役のすることだ。
「御神楽はテロで親を失った多くの子どもを救ったよ。僕も救われた一人だ。生活費の補助はもちろん、学費、医療費の補助。怪我などで体の欠損があった人への義体化支援。心療内科受診のための補助やケアのためのカウンセラーの手配。十二年経っても、御神楽は孤児への支援をやめていない。本当に、平和を目指しているからだよ。御神楽は素晴らしい組織なんだよ」
「……ふぅん」
 空は興味がなさそうに応じた。度流はむっとした様子だが、空は気にするつもりはない。
「なんで御神楽を信じないの?」
「どれだけ思想が立派でも、その末端全てにまでその思想で染められるわけじゃない。規模が大きければ大きいほど、その末端は腐りやすいものだよ」
 そうでなければ、第四号フィアテのような犠牲者は出なかった筈だ。御神楽は結局、気高くあるには体が大きくなりすぎたのだ。しかし、大きくなければ世界を平和に出来ない。御神楽はそのジレンマに常に悩まされ続ける。
「通報していい?」
「へぇ、してみれば?」
 度流が真顔でそんな事を言うので、空は挑発する。
「私仮にも命の恩人なんだけど」
 そもそも、御神楽とて反御神楽思想だけで逮捕するような行動は取らないだろう。
「冗談だよ」
「真顔で冗談言うの、わかりづらいし、あんまり面白くないよ」
 と話を切ろうとして、この子、本当に警戒心があるのか? と心配になったので、さらに言葉を続ける。
「――ま、君が御神楽を盲信してるのはわかったけどさ、御神楽じゃないにしても、狙われてるんなら、今後も何かあるかもしれないから、気をつけるに越したことない」
「それは……うん」
 度流は頷く。
「もしかしたら、あなただけじゃなく、あなたの大切な人も、巻き込まれるかもしれないから」
 卑劣な人間とはいつだってそうだ。本人よりも大切なものを狙う。空はそれをよく知っていた。
 度流はゾッとした顔をした後、空にお礼を言って、トボトボと帰路についた。
 空はちょっとだけ心配になり、その後をつけた。
 幸い、無事に帰宅出来たようだ。
 ――私、人を助けたんだ
 今日、自分は一人の人間を救ったのだ、と空は思った。
 ――この力で、人を助けられるんだ。殺して、盗んで、奪って、逃げるだけじゃないんだ。
 知らずのうちに、空は笑顔になっていた。
 それは、どこか、空にとって嬉しい事実だったのだ。

 

To Be Continued…

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