三人の魔女 第2部第3章「量子テレポートの魔法」
ある日、天体観測を楽しんでいた魔女エレナは、重く硬い金属が鉄筋コンクリートに当たって跳ね返るような奇妙な音と悲鳴を聞く。
困っている人を放っておけなかったエレナは座り込む少女、魔女ジャンヌを助ける。彼女は閉じた瞳の様な意匠のフードを被り、メイスのようなゴツゴツした先端の二又に槍を持つ怪しい男たち「魔女狩り」に追いかけられていた。
エレナはジャンヌと共に逃走を始めるが、すぐに追い詰められてしまう。そんな二人の前に姿を晒したのは異端審問間のピエール。ピエールは言う。「この世界には魔女と呼ばれる生まれつき魔法と呼ばれる不思議な力を持つ存在がおり、その存在を許してはいけないのだ」、と。
しかし、実は自らもまた魔女であったエレナはこれに反発。フィルムケースを用いた「星」の魔法とジャンヌの「壁」の魔法を組み合わせ、「魔女狩り」から一時逃れることに成功する。
そして二人はお互いに名乗り合う。魔女エレナと魔女ジャンヌ。二人の魔女の出会いであった。
しかし魔女狩りは素早く大通りへの道を閉鎖、二人の逃走を阻む。ジャンヌの魔法を攻撃に使い、強引に大通りに突破したエレナは、魔女仲間のアリスからの連絡に気付く。それは魔女狩りの存在を警告するメールだったが、もはや手遅れ。エレナはその旨を謝罪しアリスにメールした。
メールを受けたアリスはすぐさま自らの安全な生活を捨てることを決意し、万端の準備をして家を飛び出した。
逃走に疲れたエレナとジャンヌは一時的に壁を作って三時間の休憩をとった。しかし、魔女狩り達に休憩場所を気取られ、再び追い詰められる。そこに助けに現れたのはアリス。アリスは自身の「夢」の魔法で魔女狩りを眠らせ、その場を後にするのだった。
逃れようと歩く三人。魔女について何も知らないジャンヌはエレナから魔女とは頭に特殊な魔法を使うための受容器を持つ存在で、魔法とは神秘レイヤーと呼ばれる現実世界に重なるもう一つのレイヤーを改変しその影響をこの現実世界に及ぼすものである、と説明する。
そして魔女には属性があり、その属性に基づいた魔法のみが使える。具体的な属性の魔女は決まった事しか出来ない代わりに使いやすく、抽象的な属性の魔女は様々な事が出来るが使用には工夫がいる、といった違いがある。
そんな中、アリスもまた、衝撃的な事実を告げる。この世界で誰もが身につけているオーグギア。このオーグギアの観測情報は全て一元に統一政府のもとで管理され、秘密裏に監視社会が実現しているのだ、と。
そして、エレナは統一政府と戦い、好きなことを好きなように出来る世界を目指すことを決意するのだった。
その決意表明を裏で聞いていた者がいた。「姿」の魔女、プラトだ。プラトはその場を逃れるため魔女狩りに扮して逃れようとするが、その場を「炎」の魔女ソーリアが襲撃してくる。
魔女狩り狩りの常習犯としてすっかり知られていたソーリアはバッチリ対策されており、窮地に陥る。目の前で魔女が狩られるのを見過ごせないプラトは咄嗟にソーリアを助ける。そして言うのだった。「世界をなんとかしようとしている三人の魔女がいる。魔女狩りを狩りたいなら、彼女達のために戦うのはどうか」、と。
プラトとソーリアがそんな話を進める中、三人は貨物列車に忍び込んでいた。アリスの父親の会社の貨物に紛れることを企んでいるのだ。
しかし、早速トラブルは発生した。暗闇に怯えたジャンヌが大きな光り輝く壁を作りその中に隠れてしまったのだ。壁は天井を通り抜けており、明らかに異常な見た目をしていた。
なんとか喧嘩も納め、ようやく睡眠に入ろうと言う時、列車が止まる。
コンテナの中という袋小路で絶体絶命かと思われたが、エレナの魔法とジャンヌの魔法を組み合わせ、密かに脱出することに成功した三人は、しかし、その後の道を失い悩むことになる。
そこでジャンヌが提案したのは、かつて仲の良かった兄のような警察官を頼れないか、ということだった。頼った相手、
しかし光輝にピエールの魔の手が迫る。プラトが彼に変身し大暴れしてしまったため、裏切りの嫌疑がかけられてしまったのだ。光輝はジャンヌの身を案じ、自らも埠頭に急ぐのだった。
またしても自身の臆病さが原因で迷惑をかけたジャンヌはエレナから魔法の制御について学ぶ。それはほんの少しの成功体験へと繋がり、彼女の自信へと繋がっていく。
ようやく埠頭にたどり着いた三人だったが、光輝の携帯から情報を仕入れていた魔女狩りは
絶体絶命の三人だったが、助けに現れた光輝とソーリアそしてプラトにより三人は無事タンカーに乗る事が出来たのだった。
タンカーに乗った三人。しばらく安全で平和な船の旅が続くが、突如トリアノン、エルドリッジ、バーソロミューと呼ばれる魔女達が操る海賊船の襲撃を受ける。彼らは「情報結晶」と呼ばれるものを求めてタンカーを攻撃してきたらしい。
砲弾の直撃を受け、海に落下する三人の魔女。その行先は……?
海岸に流れ着いたエレナは突如としてビームを撃つ目玉のような模様の球体の攻撃を受ける。合流してきたジャンヌとの協力によりなんとか倒すことに成功する。
その後アリスとも合流することに成功。アリスは大事なヘッドホンを無くしたことに衝撃を受け、探し続けていたらしい。
天体の配置から現在位置をソマリアのボサソだと特定したエレナはナイル川を北上しカイロに向かうことを提案する。
その頃プラトとソーリアは中国でシベリア鉄道に乗ろうとしていた。プラトはそこにある動いていないはずの油田が何かに電力を消費していることを訝しむが、電車の到着を受けて調査を諦め、移動を優先する。
そしてそんな二人の様子をりんごを齧りながら眺める何者かが一人。
視点は三人の魔女に戻り、一週間後。不可解な事にアリスの消耗が異常に早い。
原因が睡眠不足にあるのは明らかだ。三人はリフレッシュのためビジネスホテルに宿泊することを決める。
しかし翌日の朝、海岸でエレナを襲撃してきた黒い目玉が襲撃してきた。黒い目玉は魔女を狙うわけではなくただ暴れ回っているだけの様子だ。三人は魔女狩りに目をつけられることを恐れ、混乱する町を背に歩き出すのだった。
しかしその後もアリスの様子は変わらなかった。アリスは頑なに眠ろうとしない。
不思議に思う一行に再び黒い目玉が襲撃してくる。寝落ちしたアリスを背負いながら逃げる一行だったが、目覚めたアリスが突然暴れ出す。そしてあろうことかエレナとジャンヌに魔法を使い、一人どこかに逃げ出したのだった。
そこに運悪く現れる魔女狩り達。追われる二人を魔女を息子に持つ父・オラルドが庇ってくれた。
一方その頃、ヨーロッパに到着したプラトとソーリアもまた、謎の理由で仲違い。それぞれ別の道を歩きだしたのだった。
アリスが一人飛び出した理由が分からないエレナにジャンヌは自らの推測を告げる。謎の黒い目玉、アリスが「砲台」と呼んだそれは、アリスが眠ってしまうことで魔法の制御を失ってしまい生じた産物ではないか、と。その理由は魔法の制御に使っていたヘッドホンを無くしたからではないか、と。
そしてジャンヌはアリスは中央アフリカ共和国のラウッウィーニ商会の施設に隠れているのではないか、と推測。二人はそちらへ向かう事にした。
一方、プラトは自らの好奇心に突き動かされ、フランスの原子力発電所を調査していた。ところがそこに現れたのはソーリアと見知らぬ似非侍のような魔女。プラトは二人の攻撃に対処しきれず、退散するのだった。
中央アフリカ共和国に向かう二人はそこで魔女の共同体と出会う。共同体の力を借りた二人は魔法を組みわせて車を作り、一気に中央アフリカ共和国に向かうのだった。
一方、ソーリアはプラトが変身した矢を放つ謎の魔女に追われていた。そこに助けに現れたのは魔女アイザック。彼は魔女同士の会合があると言い、ソーリアを誘う。
アリスがいると目される町、ビラウに辿り着いた二人だったが、そこは既に魔女狩りに包囲されていた。
アリスは魔女狩りに追い詰められ、死を覚悟していたが、そこに彼女と縁のある御使い・
そこに車に乗って助けに現れたのはエレナとジャンヌの二人。エレナはヘッドホンをアリスに手渡し謝罪。ここに三人の魔女は再集結したのだった。
一方、御使いの出現という緊急事態に、新たな異端審問官が動員されようとしていた。
元リチャード騎士団筆頭騎士・メドラウド二世が三人の魔女を追い詰める。サリエルは自身を囮とすることで、三人を逃がそうとするが、メドラウド二世はそれを許さない。
しかし、エレナとアリスの「魔女狩りは正義なのか」という問いかけにメドラウド二世の剣は揺らぐ。結局その場は見逃してもらうことが出来たのだった。
その頃、囮となっていたサリエルは凡百の魔女狩りを殲滅し、優秀な部下二人も殺そうとしていた。そこに現れたのは白い粒子を操る黒髪長髪の女性。彼女は人間離れした身体能力で化け物と化したサリエルを撃破した。
サハラ砂漠に入った三人は、そこでプレッパーと呼ばれる反統一政府の人々と知り合う。
ところが、彼らの中にも意識の差があり、三人の居場所が魔女狩りに知られてしまう。急いで逃げようとする一行の前に現れるのはサリエルを下した黒髪長髪の女性だった。
そこに助けに現れたのは不可視の剣を操る魔女ムサシ。
戦闘力の高いムサシの攻撃に黒髪長髪の女性は少しの間苦戦するが、すぐに形勢は黒髪長髪の女性に有利な形に逆転する。
しかし、黒髪長髪の女性必殺の三段突きを前に、魔女達が黒髪長髪の女性の視界から消える。
もうひとりの助けに現れた魔女アビゲイルの力だった。
魔女アビゲイルは三人のことを知っており、定住地を持っているから来るようにと促す。
アビゲイルに案内された一行は「空間」の魔女エウクレイデスことユークリッドの作り出した「ユークリッド空間」を通り、彼らの定住地へと向かう。
その頃、三人の魔女からの言葉に疑念を抱き、神秘根絶委員会の資料室に忍び込んだメドラウド二世はついに、魔女狩りが神秘を例外なく刈り取る組織であると知る。
そこに現れたアンジェ・キサラギと交戦するメドラウド二世は事前に協力を取り付けておいた二人の協力者、妖精使い・フェアと超越者・英国の魔女の協力を得て、脱出に成功する。
その戦いが終わった頃、ついに一行はユークリッド空間抜け、アビゲイル達の定住地「キュレネ」へとたどり着いた。
そこはドーム上のユークリッド空間で隔絶された安全地帯、丘の上に築かれた見事な都市だった。
「キュレネ」に到着し、一晩を暖かいシャワーとフカフカのベッドでゆっくり休んだ三人は、充実した朝ごはんを食べ、久しぶりに素晴らしい一日の始まりを味わった。
しかし、少しずつ「キュレネ」への疑問を覚えるエレナ、アビゲイルを信用出来ないアリス、「キュレネ」に居住を望むジャンヌ、と三人の思想にはずれが生じ始めていた。
三人はそんな状態のまま、かつて自分たちを助けてくれた魔女の片割れ、ソーリアと再開する。
しかし、三人はそれぞれ自身の思惑に従って行動した結果、衝突を始めたように見え始め。三人の思惑はすれ違いを続けるように見える。
そして、その夜。
アリスが昼ごはんを食べた食事処に忍び込む。そこでアリスの視界に映ったのは、それを妨害せんと立ち塞がるジャンヌの姿であった。
だが、立ち塞がったジャンヌはアビゲイルの見せる偽物だった。
本物のジャンヌとソーリアと合流したアリスは、「キュレネ」からの脱走を目指す。
エレナは引き続き、アビゲイルの嘘に騙されており、惑わされていたが、アリス達を信じ合流した事で、疑念を晴らす。
エレナの機転で、アビゲイル達に勝利した三人の魔女とソーリアは、「キュレネ」を追放され、「キュレネ」に匹敵する魔女の避難地を作るための組織「魔女連合」の結成を宣言するのだった。
「魔女連合」一行は、「哲人同盟」のソクラテスと出会い、「魔女連合」に興味を示す魔女達と対話するため、「哲人同盟」の定住地へと向かう事になった。
一行は「哲人同盟」の定住地で魔女チャールズ姉妹を仲間に加え、マケドニアに向けて旅立っていった。
トラックが止まる。
「ビトラの町外れまでついた」
荷台に向けて、トラックの運転手、マックスが簡単な英語で声をかける。
「センキュー」
真っ先にアリスが降り、マックスに礼を言いながら、周囲を油断なく観察する。
「あ、ありがとうございます。じゃなくて、さ、サンキュー」
「ありがとっ!」
続いてすぐにジャンヌとソーリアが降り、アリスと反対方向を警戒する。
「大丈夫そうよ」
「心配し過ぎよ。サンキュー」
アリスがそう言った事でエレナが降りる。
「Thank you.」
最後にチャールズ姉妹が流暢な英語でお礼を言いながら降りてくる。
「気をつけてな」
そういって、マックスが車を走らせ去っていく。
「流暢な英語ね」
「ヨーロッパ人なので!」
えっへん、とチャールズ姉妹が二人で胸を張る。
「逆によく日本語を話せるわね」
「両親が日本マニアだったんです。まさか日本語が役に立つ時が来るなんて!」
感動してます、とチャールズ。
「へぇ、日本マニアってことはあれ? ジャパニメーションオタク?」
「いえ、両親は量子力学の専門家で、
「いや、なんでよ。量子力学ならコクセー博士でしょ」
アリスの問いにチャールズが答えると、アリスは軽くツッコミを入れる。
「人見知りするアリスが早速仲良くなってるのは嬉しいけど、どういう話?」
エレナが、歩きながら話しましょ、と歩き出しながら、問いかける。
「いや、人見知りしてるわけじゃ……」
エレナの言葉にアリスが不満を口にしかけて止める。
その様子にジャンヌがふふっ、と笑う。アリスが他人を警戒するのはエレナのためであって、とは素直に言えないのが分かるからだ。
「で、アリスさん、どういう話なんですか?」
ジャンヌも問いかけると、アリスはえっーっと、と一瞬思案し。
「まず、コクセー博士ね。フルネームはアイオン・コクセー、アメリカ人よ。量子力学の権威といっても過言ではない博士で、超小型の量子コンピュータを発明した人。言ってしまえば、オーグギアの開発者ね」
「へぇ、すごい人がいるんですね……」
感心したようにジャンヌが頷く。
「ま、そのすごい技術は私達にとっては敵の技術なわけだけどね」
ジャンヌの素直な感心に対して、アリスはため息をつく。
「そうね。私達はオーグギアによる監視ネットワークのせいで苦しめられているわけだし」
「そうですね。コクセー博士がオーグギアを発明してなければ、統一政府は今ほどの勢力圏を獲得出来ていなかった可能性さえありますよ!」
コクセー博士がすごい人なのは確かです、とチャールズ二人。
「で、水無月博士っていうのは?」
「はいはーい、チャールズが説明します!」
二人が同時に両手を挙げて宣言する。
「水無月博士は博士と言いますが、どちらかというとビジネスマンなんです」
「コクセー博士とは御学友だったそうで、折角完成させた量子コンピュータの売却先に迷った博士は、学友である水無月博士に連絡し」
「コクセー博士が発明した超小型量子コンピュータによる量子ネットワーク技術を」
「『リーベン・ザメルン』という名前でパッケージングして販売したんです」
チャールズが交互に絶え間なく話を続ける。
「リーベン・ザルメン社ってlemon社を凌ぐオーグギアの最大手よね。元は量子ネットワークの企業だったのね」
「そうなんです。量子ネットワーク部門は科学統一政府の子会社として分離独立してますけどね」
「逆に言えば、その会社……、長いからRZ社と呼ぶけど……」
「アリスさん、リーベン・ザルメンはドイツ語で、イニシャルはRSです」
「じゃあ、RS社って呼ぶけど! RS社さえ科学統一政府に技術を売らなければ、オーグギアを取り巻く量子ネットワーク技術が科学統一政府に独占されることはなかったのよ」
エレナが感心すると同時に、アリスが少々刺々しく言う。
「なるほど。もし量子ネットワークの自由化が進んでいれば、今みたいに、科学統一政府が世界中を監視できるような事態にはなってなかった、ってことか」
そう考えると、結果的に、魔女にとってはRS社は自分達の自由を売った最悪の敵とも言えるわけだ。
「ま、細かい事情は知らないけど、RS社にはRS社の事情があるんでしょ。アリスだってラウッウィーニ商会が科学統一政府に製品を卸してるのを責められたくはないでしょ?」
「いや、正直言うとそこはずっと複雑ではあるわ」
エレナは全体的にRS社に対し批判的な風潮が強まりそうだったので、少々肯定的な意見も述べてみるが、あまりアリスには刺さらなかったようだ。
「そんなことよりさー、これからどうするー?」
ソーリアが問いかける。
「そうねぇ、街に入っても平気か、ちょっと心配よね」
エレナが応じる。
現在、一同はストリート「Kravarski pat」を北上しているところだ。
左右には草原が広がり、視界を妨げる山は低く、視界中に青空が広がっており、遠くに街が見える。恐らくあれがビトラだろう。
「そうね。恐らく手配はまだここまで来てないと思うけど、十六歳の女性だけの六人集団ってのはちょっと目立つわ」
アリスがエレナの言葉に頷き、懸念を示す。
「そこで私達の出番ですよ!」
そこで声を上げるのはチャールズ二人だ。
「私達、量子テレポートで互いにやり取りできるんです!」
チャールズ姉妹が両手を上げて堂々と宣言する。
「つまり、私と」
「私が」
「二組に分けた皆さんと行動すれば」
「三人と三人で行動できるっていう寸法です!」
二人揃ってのドヤ顔に、あはは、とエレナが笑う。
「なら、それでいきましょうか」
「ちょっとまって。その場合、私達三人のうち誰かはソーリアと行動しないといけないってこと?」
エレナがそう言うと、アリスが懸念を表明する。
「ちょっと、どういう意味さ、それ」
アリスの言葉にソーリアがジト目でアリスを見る。
「すみません、ソーリアさん、アリスさんは私達三人が一塊であることを大事にしてるので……、ソーリアさんのことを悪く言いたいわけではないと思いますよ」
と、ジャンヌがフォローを入れる。
「いいえ。そのままの意味よ、私達三人組が引き裂かれる上に、あんたの面倒まで見なきゃいけないなんて冗談じゃないわ」
だが、そのフォローを無にして、アリスはそのジト目を真正面から受け止めて、応じる。
「面倒だってー? ボクだって君らと同い年だよ? 君らに面倒かけたりしないやい」
「どうだか」
ソーリアが反論するが、アリスは肩をすくめる。
「ちょっと、アリス。せっかく私がフォローしたのに」
小声でジャンヌがアリスに抗議する。
「そんな事言われても……。実際ヤなんだもの」
「もう……」
アリスが首を横に振ると、ジャンヌは仕方ない、と呟く。
「じゃあ、私がソーリアさんと一緒に行きます」
「ジャンヌ!?」
思わぬ提言にアリスが驚く。
「そんなに驚くことはないじゃないですか。アリスさんはソーリアさんとは一緒にいたくない。そして、当然、その理由から考えてエレナさんにも任せたくない。なら、私が一緒になるしか選択肢がないです」
「う……」
ジャンヌは驚くほど理路整然とアリスに宣言する。アリスはその言葉に一切反論出来なかった。
「決まりね。私、アリス、チャールズの組とジャンヌ、ソーリア、チャールズの組で行きましょ」
アリスが黙ったのを見て、すかさずエレナが宣言する。誰も否とは言わなかった。
「まぁ、アリスさんもエレナさんと二人なんて久しぶりなんですから、デートを楽しんできてくださいよ」
まだちょっと不服そうなアリスにジャンヌがそう呼びかける。
「ちょっと、私もいますからねー!」
かくして六人は三人と三人のチームに分かれ、ビトラの街へと入っていった。
ビトラは北マケドニア南部、ギリシャの国境に近い都市であり、北マケドニアの中で二番目に大きい都市である。
マケドニアで最も美しい街とも言われており、街の南部にはアレクサンダー大王の父時代の都市の跡であるヘラクレア・リンケスティス遺跡がある、と観光資源がないわけではないが、他のより有名な観光地と比べると観光客の数は少ない。
とはいえ、いないわけではないので、エレナ達も「珍しい観光客」の枠をはみ出ることなく、悪目立つせずに済んでいる。
三人ずつの二組はそれぞれ買い出すものを分担して決め、買い出しをする。
実体通貨が使える店舗はあまり多くなかったが、ジャンヌ班側のチャールズが聞き込みをした結果、実体通貨でだけ買い物ができる商店街のような場所があることを聞きつける。
それがかつてはマケドニアにはどの街にもあったと言われる「オールド・バザール」。かつて市場だったそのエリアはいまやしなびた商店街のような状態だ。
けれど、店は未だ健在でそこでは実体通貨を使った古い取引が盛んに行われている。
「ここなら、色々買い出し出来そうね。よくやったわ、チャールズ」
エレナも満足気にチャールズを称える。
するとチャールズも嬉しそうに微笑んだ。
「褒められたのはあんたじゃない方のチャールズなんじゃないの」
「どっちも私だからいいんですー」
「大丈夫かしらこの姉妹。自他境界線が曖昧なんじゃ……」
不安そうにアリスが呟く。
その後、エレナ班はマケドニアで最も美しいメインストリートと言われるシロク・ソカクのカフェでお茶をすることにする。
南北に一キロメートルほどあるシロク・ソカクには喫茶店やレストランが連なっており、休むところには困らない。
ただ、実体通貨が使えるところが少ないのは困る。
「今後、もっとメンバーが増えても食いつないで行けるように、と考えると、電子通貨も使える手段を考えたほうが良さそうね……」
エレナのスマートフォンでも電子通貨は使えるのだが、
「まぁ、今はお茶を楽しみましょうよ。なかなかいいお茶よ、これ」
思案するエレナにアリスが声をかける。実体通貨しか使えない偏屈者の喫茶店にしては、あるいはそういう喫茶店だからこそ、だろうか、意外にもその喫茶店の出すお茶はアリスも満足の良い出来だった。
「そうね」
まずは香りを楽しみつつ、ゆっくりと口につける。
なお、その横でチャールズは用意されたミルクを全部と、砂糖とたくさん入れてグビグビとあっさりと飲み干していた。
「あんた情緒とか無いの?」
「紅茶とか良く分からないです!」
アリスがそんなチャールズを白眼視するが、チャールズは全く気にしていない。
「はぁ。エレナを見習いなさいよ。実際にはエレナも紅茶とか詳しくないはずだけど、エレナなりに楽しもうとしてるのよ」
「あら、詳しくないってバレた?」
「最初にオフ会した時からずっとね」
「オフ会ね! 懐かしいわねぇ」
などと、昔話に花が咲きそうになった直後のことである。
ドカン、と爆発の音が鳴る。
「大変です! ソーリアさんが!」
チャールズが慌てだす。
「あいつ、何したの?」
アリスもエレナも緊急事態を察知し、素早く立ち上がりながら,尋ねる。
「バザールの裏路地で魔女狩りに追われている魔女を見つけたらしく、突然、魔法を使って魔女狩りに襲いかかったそうです」
「あの馬鹿……」
「まずいわね」
「どうしますか?」
「とりあえず私達は合流地点に向かうわ。緊急時用の合流地点よ」
エレナは事前に二つの合流地点を決めていた。
一つは中央公園。オールド・バザールから川を渡った先にあるその名の通り、ビトラの中央にある公園だ。こちらは緊急と言うほどではないが、顔を合わせる必要がある場合に集まる場所として決めてあった。
もう一つは都市の東側にある山の麓。こちらは本当に緊急時。今回のように魔女狩りに発見された場合などに合流するために決めてあった。
「幹線道路が封鎖される前に行きましょう」
あくまで魔女と認定されたのは、ジャンヌ、ソーリア、チャールズの三人のはずだが、エレナ達も持ち物を見られれば不自然に思われる可能性が高かったし、そもそもチャールズは見た目の区別がつかないので、エレナと同行しているチャールズが手配されている魔女だと判断される可能性は百パーセントに近い。
そうして、エレナ班ののんびりとした休憩時間は一時間も保たなかったのであった。
To be continued…
第4章へ!a>
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そして、これ以外にもこの作品と繋がりを持つ作品はあります。
是非あなたの手で、AWsの世界を旅してみてください。
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