三人の魔女 第2部第4章「誘拐の魔法」
ある日、天体観測を楽しんでいた魔女エレナは、重く硬い金属が鉄筋コンクリートに当たって跳ね返るような奇妙な音と悲鳴を聞く。
困っている人を放っておけなかったエレナは座り込む少女、魔女ジャンヌを助ける。彼女は閉じた瞳の様な意匠のフードを被り、メイスのようなゴツゴツした先端の二又に槍を持つ怪しい男たち「魔女狩り」に追いかけられていた。
エレナはジャンヌと共に逃走を始めるが、すぐに追い詰められてしまう。そんな二人の前に姿を晒したのは異端審問間のピエール。ピエールは言う。「この世界には魔女と呼ばれる生まれつき魔法と呼ばれる不思議な力を持つ存在がおり、その存在を許してはいけないのだ」、と。
しかし、実は自らもまた魔女であったエレナはこれに反発。フィルムケースを用いた「星」の魔法とジャンヌの「壁」の魔法を組み合わせ、「魔女狩り」から一時逃れることに成功する。
そして二人はお互いに名乗り合う。魔女エレナと魔女ジャンヌ。二人の魔女の出会いであった。
しかし魔女狩りは素早く大通りへの道を閉鎖、二人の逃走を阻む。ジャンヌの魔法を攻撃に使い、強引に大通りに突破したエレナは、魔女仲間のアリスからの連絡に気付く。それは魔女狩りの存在を警告するメールだったが、もはや手遅れ。エレナはその旨を謝罪しアリスにメールした。
メールを受けたアリスはすぐさま自らの安全な生活を捨てることを決意し、万端の準備をして家を飛び出した。
逃走に疲れたエレナとジャンヌは一時的に壁を作って三時間の休憩をとった。しかし、魔女狩り達に休憩場所を気取られ、再び追い詰められる。そこに助けに現れたのはアリス。アリスは自身の「夢」の魔法で魔女狩りを眠らせ、その場を後にするのだった。
逃れようと歩く三人。魔女について何も知らないジャンヌはエレナから魔女とは頭に特殊な魔法を使うための受容器を持つ存在で、魔法とは神秘レイヤーと呼ばれる現実世界に重なるもう一つのレイヤーを改変しその影響をこの現実世界に及ぼすものである、と説明する。
そして魔女には属性があり、その属性に基づいた魔法のみが使える。具体的な属性の魔女は決まった事しか出来ない代わりに使いやすく、抽象的な属性の魔女は様々な事が出来るが使用には工夫がいる、といった違いがある。
そんな中、アリスもまた、衝撃的な事実を告げる。この世界で誰もが身につけているオーグギア。このオーグギアの観測情報は全て一元に統一政府のもとで管理され、秘密裏に監視社会が実現しているのだ、と。
そして、エレナは統一政府と戦い、好きなことを好きなように出来る世界を目指すことを決意するのだった。
その決意表明を裏で聞いていた者がいた。「姿」の魔女、プラトだ。プラトはその場を逃れるため魔女狩りに扮して逃れようとするが、その場を「炎」の魔女ソーリアが襲撃してくる。
魔女狩り狩りの常習犯としてすっかり知られていたソーリアはバッチリ対策されており、窮地に陥る。目の前で魔女が狩られるのを見過ごせないプラトは咄嗟にソーリアを助ける。そして言うのだった。「世界をなんとかしようとしている三人の魔女がいる。魔女狩りを狩りたいなら、彼女達のために戦うのはどうか」、と。
プラトとソーリアがそんな話を進める中、三人は貨物列車に忍び込んでいた。アリスの父親の会社の貨物に紛れることを企んでいるのだ。
しかし、早速トラブルは発生した。暗闇に怯えたジャンヌが大きな光り輝く壁を作りその中に隠れてしまったのだ。壁は天井を通り抜けており、明らかに異常な見た目をしていた。
なんとか喧嘩も納め、ようやく睡眠に入ろうと言う時、列車が止まる。
コンテナの中という袋小路で絶体絶命かと思われたが、エレナの魔法とジャンヌの魔法を組み合わせ、密かに脱出することに成功した三人は、しかし、その後の道を失い悩むことになる。
そこでジャンヌが提案したのは、かつて仲の良かった兄のような警察官を頼れないか、ということだった。頼った相手、
しかし光輝にピエールの魔の手が迫る。プラトが彼に変身し大暴れしてしまったため、裏切りの嫌疑がかけられてしまったのだ。光輝はジャンヌの身を案じ、自らも埠頭に急ぐのだった。
またしても自身の臆病さが原因で迷惑をかけたジャンヌはエレナから魔法の制御について学ぶ。それはほんの少しの成功体験へと繋がり、彼女の自信へと繋がっていく。
ようやく埠頭にたどり着いた三人だったが、光輝の携帯から情報を仕入れていた魔女狩りは
絶体絶命の三人だったが、助けに現れた光輝とソーリアそしてプラトにより三人は無事タンカーに乗る事が出来たのだった。
タンカーに乗った三人。しばらく安全で平和な船の旅が続くが、突如トリアノン、エルドリッジ、バーソロミューと呼ばれる魔女達が操る海賊船の襲撃を受ける。彼らは「情報結晶」と呼ばれるものを求めてタンカーを攻撃してきたらしい。
砲弾の直撃を受け、海に落下する三人の魔女。その行先は……?
海岸に流れ着いたエレナは突如としてビームを撃つ目玉のような模様の球体の攻撃を受ける。合流してきたジャンヌとの協力によりなんとか倒すことに成功する。
その後アリスとも合流することに成功。アリスは大事なヘッドホンを無くしたことに衝撃を受け、探し続けていたらしい。
天体の配置から現在位置をソマリアのボサソだと特定したエレナはナイル川を北上しカイロに向かうことを提案する。
その頃プラトとソーリアは中国でシベリア鉄道に乗ろうとしていた。プラトはそこにある動いていないはずの油田が何かに電力を消費していることを訝しむが、電車の到着を受けて調査を諦め、移動を優先する。
そしてそんな二人の様子をりんごを齧りながら眺める何者かが一人。
視点は三人の魔女に戻り、一週間後。不可解な事にアリスの消耗が異常に早い。
原因が睡眠不足にあるのは明らかだ。三人はリフレッシュのためビジネスホテルに宿泊することを決める。
しかし翌日の朝、海岸でエレナを襲撃してきた黒い目玉が襲撃してきた。黒い目玉は魔女を狙うわけではなくただ暴れ回っているだけの様子だ。三人は魔女狩りに目をつけられることを恐れ、混乱する町を背に歩き出すのだった。
しかしその後もアリスの様子は変わらなかった。アリスは頑なに眠ろうとしない。
不思議に思う一行に再び黒い目玉が襲撃してくる。寝落ちしたアリスを背負いながら逃げる一行だったが、目覚めたアリスが突然暴れ出す。そしてあろうことかエレナとジャンヌに魔法を使い、一人どこかに逃げ出したのだった。
そこに運悪く現れる魔女狩り達。追われる二人を魔女を息子に持つ父・オラルドが庇ってくれた。
一方その頃、ヨーロッパに到着したプラトとソーリアもまた、謎の理由で仲違い。それぞれ別の道を歩きだしたのだった。
アリスが一人飛び出した理由が分からないエレナにジャンヌは自らの推測を告げる。謎の黒い目玉、アリスが「砲台」と呼んだそれは、アリスが眠ってしまうことで魔法の制御を失ってしまい生じた産物ではないか、と。その理由は魔法の制御に使っていたヘッドホンを無くしたからではないか、と。
そしてジャンヌはアリスは中央アフリカ共和国のラウッウィーニ商会の施設に隠れているのではないか、と推測。二人はそちらへ向かう事にした。
一方、プラトは自らの好奇心に突き動かされ、フランスの原子力発電所を調査していた。ところがそこに現れたのはソーリアと見知らぬ似非侍のような魔女。プラトは二人の攻撃に対処しきれず、退散するのだった。
中央アフリカ共和国に向かう二人はそこで魔女の共同体と出会う。共同体の力を借りた二人は魔法を組みわせて車を作り、一気に中央アフリカ共和国に向かうのだった。
一方、ソーリアはプラトが変身した矢を放つ謎の魔女に追われていた。そこに助けに現れたのは魔女アイザック。彼は魔女同士の会合があると言い、ソーリアを誘う。
アリスがいると目される町、ビラウに辿り着いた二人だったが、そこは既に魔女狩りに包囲されていた。
アリスは魔女狩りに追い詰められ、死を覚悟していたが、そこに彼女と縁のある御使い・
そこに車に乗って助けに現れたのはエレナとジャンヌの二人。エレナはヘッドホンをアリスに手渡し謝罪。ここに三人の魔女は再集結したのだった。
一方、御使いの出現という緊急事態に、新たな異端審問官が動員されようとしていた。
元リチャード騎士団筆頭騎士・メドラウド二世が三人の魔女を追い詰める。サリエルは自身を囮とすることで、三人を逃がそうとするが、メドラウド二世はそれを許さない。
しかし、エレナとアリスの「魔女狩りは正義なのか」という問いかけにメドラウド二世の剣は揺らぐ。結局その場は見逃してもらうことが出来たのだった。
その頃、囮となっていたサリエルは凡百の魔女狩りを殲滅し、優秀な部下二人も殺そうとしていた。そこに現れたのは白い粒子を操る黒髪長髪の女性。彼女は人間離れした身体能力で化け物と化したサリエルを撃破した。
サハラ砂漠に入った三人は、そこでプレッパーと呼ばれる反統一政府の人々と知り合う。
ところが、彼らの中にも意識の差があり、三人の居場所が魔女狩りに知られてしまう。急いで逃げようとする一行の前に現れるのはサリエルを下した黒髪長髪の女性だった。
そこに助けに現れたのは不可視の剣を操る魔女ムサシ。
戦闘力の高いムサシの攻撃に黒髪長髪の女性は少しの間苦戦するが、すぐに形勢は黒髪長髪の女性に有利な形に逆転する。
しかし、黒髪長髪の女性必殺の三段突きを前に、魔女達が黒髪長髪の女性の視界から消える。
もうひとりの助けに現れた魔女アビゲイルの力だった。
魔女アビゲイルは三人のことを知っており、定住地を持っているから来るようにと促す。
アビゲイルに案内された一行は「空間」の魔女エウクレイデスことユークリッドの作り出した「ユークリッド空間」を通り、彼らの定住地へと向かう。
その頃、三人の魔女からの言葉に疑念を抱き、神秘根絶委員会の資料室に忍び込んだメドラウド二世はついに、魔女狩りが神秘を例外なく刈り取る組織であると知る。
そこに現れたアンジェ・キサラギと交戦するメドラウド二世は事前に協力を取り付けておいた二人の協力者、妖精使い・フェアと超越者・英国の魔女の協力を得て、脱出に成功する。
その戦いが終わった頃、ついに一行はユークリッド空間抜け、アビゲイル達の定住地「キュレネ」へとたどり着いた。
そこはドーム上のユークリッド空間で隔絶された安全地帯、丘の上に築かれた見事な都市だった。
「キュレネ」に到着し、一晩を暖かいシャワーとフカフカのベッドでゆっくり休んだ三人は、充実した朝ごはんを食べ、久しぶりに素晴らしい一日の始まりを味わった。
しかし、少しずつ「キュレネ」への疑問を覚えるエレナ、アビゲイルを信用出来ないアリス、「キュレネ」に居住を望むジャンヌ、と三人の思想にはずれが生じ始めていた。
三人はそんな状態のまま、かつて自分たちを助けてくれた魔女の片割れ、ソーリアと再開する。
しかし、三人はそれぞれ自身の思惑に従って行動した結果、衝突を始めたように見え始め。三人の思惑はすれ違いを続けるように見える。
そして、その夜。
アリスが昼ごはんを食べた食事処に忍び込む。そこでアリスの視界に映ったのは、それを妨害せんと立ち塞がるジャンヌの姿であった。
だが、立ち塞がったジャンヌはアビゲイルの見せる偽物だった。
本物のジャンヌとソーリアと合流したアリスは、「キュレネ」からの脱走を目指す。
エレナは引き続き、アビゲイルの嘘に騙されており、惑わされていたが、アリス達を信じ合流した事で、疑念を晴らす。
エレナの機転で、アビゲイル達に勝利した三人の魔女とソーリアは、「キュレネ」を追放され、「キュレネ」に匹敵する魔女の避難地を作るための組織「魔女連合」の結成を宣言するのだった。
「魔女連合」一行は、「哲人同盟」のソクラテスと出会い、「魔女連合」に興味を示す魔女達と対話するため、「哲人同盟」の定住地へと向かう事になった。
一行は「哲人同盟」の定住地で魔女チャールズ姉妹を仲間に加え、マケドニアに向けて旅立っていった。
マケドニアにて久しぶりにゆったりとした時間を過ごした「魔女連合」一行だったが、ソーリアの行動により、それはフイになる。
エレナ、アリス、チャールズの三人がシロク・ソカクのカフェでお茶を始めようとしていた頃、ジャンヌ、ソーリア、チャールズの三人はオールド・バザールを引き続き巡っていた。
ジャンヌがアクセサリ系の販売を見たがったからだ。
「あ、このチャームかわいい。こっちのこれはアリスに似合いそう」
そんなわけで半ばジャンヌに付き合う形で、三人はオールド・バザールの雑貨やアクセサリの店を巡っていた。
ジャンヌとしても、自分一人が楽しんでいる状況はよくなさそう、と感じて、ほか二人にも話を振る努力はしてみたのだ。
例えば。
「これなんかソーリアさんにも似合うんじゃないですか?」
と言って、アクセサリの一つをソーリアに指し示すが。
「いや、興味ないかなー」
と、残念ながらソーリアは興味を示さない。
あるいは、例えば。
「こっちのこれ、チャールズさんに似合うと思いますけど」
「いやー、それ一つしか無いんですよねぇ? だったら、私とお揃いじゃなくなっちゃうんで……」
と、残念ながら断られる。
とはいえ、ソーリアの拒絶に比べれば、チャールズの拒絶にはまだ理由がある。
「なら、お揃いのアクセサリならいいんですよね……」
とジャンヌはチャールズ姉妹に似合い、かつ二つあるアクセサリを探し始める。
「ふたりとも!」
だが、そこにソーリアが大きめの声を上げて、物陰に潜む。
二人は首を傾げながらそれに続くと、ソーリアの視線の先に見覚えのあるフードが目に入った。
目を閉じた瞳の印が入ったフードの人間、魔女狩りの徒だ。
「追われてます!」
チャールズが指摘する。その先で金髪をポニーテールにまとめた少女が魔女狩りの徒から逃げようと駆けていた。
「エレナさんに報告し……」
とチャールズが言い終わるより早く、ソーリアが飛び出す。
「あっ、ソーリアさん!」
「ソーリア・エクスプロージョン!」
先頭を走る魔女狩りの徒に向けてソーリアの火炎が飛び出し、激しく爆発する。
「なっ、魔女め! 仲間がいたのか!」
「へ?」
思わぬ言葉に追われていた魔女が振り返る。
魔女と魔女狩りの間に、素早くソーリアが割り込み、手元に炎の剣を出現させる。
「大丈夫かい? 魔女狩り狩りの魔女であるこのボクが来たからには、もう安心だ!」
「魔女め、よくも我が同胞を!」
爆発を免れた後方の魔女狩りの徒達が一斉に伸縮性のトゥクルの槍を展開し、構える。
「な、なんかよく分からないけど、助けられちゃったみたいだね。じゃ、後は任せて私は逃げるよ。チャオ〜」
そう言って、追われていた魔女はさらに路地裏へと逃げていく。
なお、ソーリアとこの魔女は互いに使っている言語が違うため、お互いに何を言われたか理解していない。
「ど、どうするんですか、あれ」
「とりあえず、エレナさんに報告しました。緊急時用の合流地点へ向かえ、とのことです」
「私が、ソーリアさんと魔女狩りの間に壁を作ります。そしたら」
「二人でソーリアさんを引きずっていきますか? 分かりました」
頷きあうと同時、その言葉は現実となった。
魔女狩りの徒とソーリアの間に巨大な煉瓦の壁が出現し、互いの視線を妨げる。
「うわ、離せ」
そこへジャンヌとチャールズが駆け寄り、左右からソーリアをひっつかんで、引きずり始める。
「駄目です。逃げますよ」
「ボクは魔女狩りを狩らなきゃいけないんだー」
「その使命感はどこから来るんですか……」
ジャンヌはソーリアの持つ謎の熱意に呆れるばかりだ。
だが、呆れてばかりもいられない。急いで、この場を離脱しなければ。
「魔女め、どこへ消えた!」
壁を破壊することに成功した魔女狩りの徒だが、その頃には既にソーリア達は消えていた。
「幹線道路を封鎖しろ。一歩もこのビトラから出すな!」
異端審問官の指示が飛ぶ。
魔女狩りの徒が散っていく。
「無事、エレナさん達は郊外の合流地点に到着したようです」
「私達も街の東側に急ぎましょう」
魔女狩りが見えなくなって、ソーリアがやっと落ち着いた様子なのも手伝い、ジャンヌら一行は街の東側に向かう。
「駄目ですね、幹線道路は完全に封鎖されています」
「そんなのボクが突破してあげるよ!」
「全然落ち着いてませんでしたね……」
「駄目ですよ、ソーリアさん。そんなことをしたら、私やエレナさんやアリスさん達が危険に晒されてしまいます」
「最悪バラバラに逃げるべきでしょうか?」
「エレナさんがそれは最後の手段にしたい、と」
「なら、少し強引な手を使ってでも逃げましょう」
そう言うと、ジャンヌが真東の方向にある建物の壁に手をつける。
直後、その壁が消え失せた。
「おぉ、ジャンヌさん、壁を作るだけでなく、消すことも出来るんですね」
「そういうことです。この方法で最短距離を突破しましょう」
人目を避けつつ、壁を消して建物の中を突っ切り、最短距離を突破する。
言葉にすると簡単であるが、これほど大変なこともない。
まず、壁の向こうに人がいる可能性もある。これは壁を最初は覗き穴程度にだけ開けて様子を見ることで回避できた。
次に、人が多すぎて最短距離を素直に突っ切れない場合もある。これは素直に迂回した。
最後に、最短距離の間に幹線道路が存在している場合もある。
最後の問題が難関で、幹線道路は人の往来が激しいため、人の目――厳密にはその人が持つオーグギアの目――をかいくぐることが難しい。
頑張って迂回を試みたのだが、限界があった。
「見つけたぞ、魔女め!」
するとどうなるか、言うまでもないだろう。瞬く間に三人は魔女狩りの徒に追い詰められていた。
「ど、どうしましょう……」
ジャンヌが怯える。
「任せて、全員、ボクが倒してやるよ!」
ソーリアが吠える。
「こうなったら、最終手段を使うしかなさそうですね……」
そして、チャールズが覚悟を決めた。
「二人とも、私の手を強く握ってください!」
チャールズがソーリアとジャンヌの手を強く握る。二人は訳も分からず、その手を握り返す。
「せーので、ジャンプです! せーの!」
訳もわからないままチャールズにあわせて二人が一斉にジャンプする。
直後、ジャンヌとソーリアは立ちくらみのような症状に襲われる。
足をもつれさせて、着地に失敗。その場で転んでしまう。
気がつくと、ジャンヌとソーリアの目の前にはエレナとアリスが立って、こちらを心配そうに見ていた。
「こ……ここは?」
ジャンヌとソーリアの言葉がシンクロする。
「緊急合流地点に定めていた山の麓よ。あなた達、チャールズの魔法で、ここまでテレポートしてきたのよ」
エレナが答える。
「チャールズは?」
「そっちで寝てるわ。これを使うと、半日は気絶しちゃうみたい」
「気絶……。それで最後の手段だったんですね」
立ち上がりながらジャンヌが納得の頷きを示す。
「それもあったけど、人と一緒に移動するのは初めてだったから、本当に出来るか分からない、というのもあったみたい」
「そうだったんですね。助けられちゃいました」
「えぇ、後でお礼を言ってあげなさい」
ジャンヌの言葉にエレナが頷く。
「ふ、ふん。べ、別にあんな奴ら僕が全滅させられたし」
「誰のせいで追われることになったと思ってんのよ!」
「ボクは魔女狩り狩りの魔女としてやるべきことをやっただけだい!」
「そんな称号返上しなさい!」
その裏で、ソーリアとアリスの喧嘩が始まろうとしていた。
「はい、そこまで。折角ビトラを抜けられたんだから、このまま逃げるわよ」
エレナとジャンヌがそれぞれチャールズ姉妹を背負いながら立ち上がる。
「どっちに逃げるの?」
「このまま北上するのは危険そうだわ。一度東へ、アルバニアの方に逃れてから迂回しましょう」
「えー、このまま魔女狩りをぶっ飛ばそうよ」
「ソーリア。気持ちは分かるけど、ここで末端を一人二人倒しても、問題は解決しないわ。私達は根源を絶つのよ」
「むぅ」
ソーリアはエレナの言葉に不承不承という様子で頷き、一行は東へ、アルバニアに向けて歩き出す。
一方その頃。
「マシュー様、こちらです」
魔女狩りの徒はジャンヌ達が消えたところに、異端審問官を案内していた。
異端審問官にしては遥かに若い。まだ十六歳ほどだろうか。
「これは……なるほど、量子の乱れが見て取れる。人間サイズの情報を強引に量子テレポートさせましたね」
異端審問官が空中に指を走らせ、通話アプリを立ち上げる。
「ギルガメス様、マシューです。頭越しの連絡になること、失礼致します」
その場で跪く異端審問官。
「はっ、恐縮です。この場には是非お耳に入れたい儀があり、連絡致しました」
空中に再び指を走らせ、データをスワイプして送信する。
「はい。ご覧の通り、極めて重要な〝資源〟についての情報です」
一週間後。
エレナ達「魔女連合」一行は、アルバニアに到着していた。
地質が石灰岩で白いことから「白い土地」と呼ばれたことに起因し、「アルバニア」と呼ばれることになったこの国は、オスマン帝国に支配されていた経緯から、イスラム世界との仲が強く、科学統一政府に反発する存在が多い地である。
「なんだか、ちょっと治安が悪そうな場所ですね」
「『キュレネ』で聞いたところだと、ほぼ国家ぐるみで旧宗教連合との繋がりも有るっていう噂もある程度には、科学統一政府への反発が強い国よ」
ジャンヌの言葉にアリスが答える。
「旧宗教連合?」
「中東に存在している不穏分子の総称らしいわ。エルサレムが総本山なんだとか」
「へぇ、科学統一政府に属する国の中にも色々あるんですねぇ」
アリスの解説にジャンヌが関心したように頷く。
「科学統一政府がそんなこと許してるの?」
「許しているわけではない。ただ、大した脅威でもない故、見逃しているだけです」
エレナの問いかけに、誰か男性の言葉が返ってくる。
「っ! 誰!」
「っ! ですか!」
その言葉にチャールズ姉妹が応じる。英語だったので、会話が成立していることに気付けたのが彼女たちだけだったのだ。
「と、失礼。英語では伝わらないのですね」
男の言葉が日本語に変化する。
背後。一行が振り返ると、そこにはまるで中世ファンタジーから抜け出してきたような服装の金髪をオールバックにした男と、ゴシックファッションに身を包んだ人形のように無感情な表情の静かな女の子が立っていた。
「あなたは?」
「さっきのやりとりからすると」
「科学統一政府のスタンスに」
「詳しいようですけど?」
チャールズ姉妹が日本語で応じる。
「失礼、名前を名乗るのが先でしたね。我が名はギルガメス。神秘根絶委員会の長をさせて頂いております」
「神秘根絶委員会の長!?」
三人の魔女の声が重なる。つまりあの、アンジェ・キサラギの上司ということか。
「どうしてここが?」
「近未来予測を使えば、直近で逃げた魔女の居場所を突き止めるくらいは容易ですよ。ただ、面倒なので、そうしない場合が多いだけで」
エレナの問いかけに、慇懃にギルガメスが返答する。
「それじゃあ、今回はその面倒なことをするに足る理由があったということ?」
「まぁ、端的に言えばそういうことですが……。魔女であるあなた方が知る必要はありません」
アリスの問いかけには、答えきらず、ギルガメスが少女に手を伸ばす。
「エンキドゥ、武器化」
「はい、ギルガメス様」
エンキドゥと呼ばれた少女の見た目が瞬く間に変化し、一本の剣と化す。
「魔法!?」
間違いない、今のは魔法だ。このギルガメスなる男は、神秘根絶委員会の長でありながら、エンキドゥという名の魔女を手下にし、武器としている。
「ふん」
ギルガメスが地面を蹴る。狙いは、チャールズ姉妹の片割れだ。
「させないよ! ソーリアー! ソード!」
その剣をソーリアが炎の剣で受け止める。
「わざわざ中衛にいたチャールズを狙った? よく分からないけど、狙いはチャールズ姉妹みたいね」
「えぇっ!?」
「私達」
「狙われてるんですかー!?」
最後の言葉がハモる
「遊んでいる場合じゃないわよ、急いで逃げないと」
ソーリア以外の全員でチャールズを庇うように位置取りながら、駆け出す。
残されたソーリアは他のメンバーが逃げる時間を稼ぐため、必死で炎の剣を振っている。
「邪魔だ」
「ぐえっ」
だが、ギルガメスは隙だらけのソーリアの胴体を容赦なく蹴りつけ、ソーリアを吹き飛ばす。
逃げるために駆けていた一行を突き抜けて、ソーリアが壁に激突する。
「ソーリア!」
慌てて一同がソーリアに迫るが、それより早くギルガメスがチャールズに迫る。
「させませんっ!」
対して、ジャンヌが煉瓦の壁を作り出し、道を阻むが、ギルガメスはその壁を容赦なく破壊し、さらに一行に、チャールズに迫る。
「やるしかないか、
エレナがフィルムケースの一つを開け、叫ぶ。
無数のキラキラしたマキビシのような光の粒子がギルガメスに迫る。
「エレナが攻撃的な魔法を!?」
アリスにとってそれは極めて驚くべきことであったが、しかし。
「それがどうした?」
ギルガメスにその一撃は通用しなかった。
何の装甲も身にまとっていないのに、まるで装甲を身にまとっているかのように攻撃が防がれたのだ。
「今の……まさか……」
アリスが何かを言おうとした直後、アリスは鋭い掌底をぶつけられ、息をつまらせる。
「量子の魔女以外は私には不要」
直後、鋭い回し蹴りが放たれ、アリスが跳ね飛ばされる。
その先には、崖があり、その下には海があった。
「アリス!?」
慌てて一行がそちらに駆け出す。
「ご心配なく、皆さん一緒ですよ。エンキドゥ」
「はい、ギルガメス様」
ギルガメスの持つ剣が姿を変え、今度は弓となる。
矢を番えずに弦を引き、手放し弦を解放すると、鋭い衝撃波が一同を吹き飛ばす。
海へ向け、吹き飛ばされる一行。
そこへギルガメスが再び地面を蹴り、追いかけてくる。
チャールズ姉妹のうち片割れの首根っこを掴む。
「ついでです、炎の魔女も頂いていきましょう」
弓を手放し、ソーリアをもう片手で掴む。
手放された弓は地面に落下する直前に、再び人の姿に戻った。
チャールズの片割れとソーリア以外の一行が海へ落下する。
「これで、我らの世界はより安泰になる」
空中に光学迷彩を解除したティルトジェット機が出現し、二人の魔女を両手に掴んだギルガメスがそのままティルトジェット機に飛び移り、エンキドゥがそれに続く。
「チャールズ! ソーリア!!」
「いやぁ! 私! 行かないで、私!!」
一行が海の上で必死に叫ぶが、それで崖から登れるわけでもない。
やがて一行は泳ぎ続ける体力も失い、そのまま暗転していった。
To be continued…
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劇場版風アフロディーネロマンス feat.神秘世界観 クリスマス・コンクエスト
なんと言う事でしょう。本作『三人の魔女』がフィクションとして楽しまれている世界です。
フィクションの登場人物とシンクロしその力を使えるようになる謎の不思議なアイテム「アフロディーネデバイス」と「ピグマリオンオーブ」を巡る物語です。
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少なくとも何かしらの関係性があるのは疑いようがありませんね。
そして、これ以外にもこの作品と繋がりを持つ作品はあります。
是非あなたの手で、AWsの世界を旅してみてください。
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