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三人の魔女 第8章

前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 ある日、天体観測を楽しんでいた魔女エレナは、重く硬い金属が鉄筋コンクリートに当たって跳ね返るような奇妙な音と悲鳴を聞く。
 困っている人を放っておけなかったエレナは座り込む少女、魔女ジャンヌを助ける。彼女は閉じた瞳の様な意匠のフードを被り、メイスのようなゴツゴツした先端の二又に槍を持つ怪しい男たち「魔女狩り」に追いかけられていた。
 エレナはジャンヌと共に逃走を始めるが、すぐに追い詰められてしまう。そんな二人の前に姿を晒したのは異端審問間のピエール。ピエールは言う。「この世界には魔女と呼ばれる生まれつき魔法と呼ばれる不思議な力を持つ存在がおり、その存在を許してはいけないのだ」、と。
 しかし、実は自らもまた魔女であったエレナはこれに反発。フィルムケースを用いた「星」の魔法とジャンヌの「壁」の魔法を組み合わせ、「魔女狩り」から一時逃れることに成功する。
 そして二人はお互いに名乗り合う。魔女エレナと魔女ジャンヌ。二人の魔女の出会いであった。  しかし魔女狩りは素早く大通りへの道を閉鎖、二人の逃走を阻む。ジャンヌの魔法を攻撃に使い、強引に大通りに突破したエレナは、魔女仲間のアリスからの連絡に気付く。それは魔女狩りの存在を警告するメールだったが、もはや手遅れ。エレナはその旨を謝罪しアリスにメールした。
 メールを受けたアリスはすぐさま自らの安全な生活を捨てることを決意し、万端の準備をして家を飛び出した。
 逃走に疲れたエレナとジャンヌは一時的に壁を作って三時間の休憩をとった。しかし、魔女狩り達に休憩場所を気取られ、再び追い詰められる。そこに助けに現れたのはアリス。アリスは自身の「夢」の魔法で魔女狩りを眠らせ、その場を後にするのだった。
 逃れようと歩く三人。魔女について何も知らないジャンヌはエレナから魔女とは頭に特殊な魔法を使うための受容器を持つ存在で、魔法とは神秘レイヤーと呼ばれる現実世界に重なるもう一つのレイヤーを改変しその影響をこの現実世界に及ぼすものである、と説明する。
 そして魔女には属性があり、その属性に基づいた魔法のみが使える。具体的な属性の魔女は決まった事しか出来ない代わりに使いやすく、抽象的な属性の魔女は様々な事が出来るが使用には工夫がいる、といった違いがある。
 そんな中、アリスもまた、衝撃的な事実を告げる。この世界で誰もが身につけているオーグギア。このオーグギアの観測情報は全て一元に統一政府のもとで管理され、秘密裏に監視社会が実現しているのだ、と。
 そして、エレナは統一政府と戦い、好きなことを好きなように出来る世界を目指すことを決意するのだった。  その決意表明を裏で聞いていた者がいた。「姿」の魔女、プラトだ。プラトはその場を逃れるため魔女狩りに扮して逃れようとするが、その場を「炎」の魔女ソーリアが襲撃してくる。
 魔女狩り狩りの常習犯としてすっかり知られていたソーリアはバッチリ対策されており、窮地に陥る。目の前で魔女が狩られるのを見過ごせないプラトは咄嗟にソーリアを助ける。そして言うのだった。「世界をなんとかしようとしている三人の魔女がいる。魔女狩りを狩りたいなら、彼女達のために戦うのはどうか」、と。
 プラトとソーリアがそんな話を進める中、三人は貨物列車に忍び込んでいた。アリスの父親の会社の貨物に紛れることを企んでいるのだ。
 しかし、早速トラブルは発生した。暗闇に怯えたジャンヌが大きな光り輝く壁を作りその中に隠れてしまったのだ。壁は天井を通り抜けており、明らかに異常な見た目をしていた。  なんとか喧嘩も納め、ようやく睡眠に入ろうと言う時、列車が止まる。  コンテナの中という袋小路で絶体絶命かと思われたが、エレナの魔法とジャンヌの魔法を組み合わせ、密かに脱出することに成功した三人は、しかし、その後の道を失い悩むことになる。
 そこでジャンヌが提案したのは、かつて仲の良かった兄のような警察官を頼れないか、ということだった。頼った相手、鈴木すずき光輝こうきはこれを快諾。脱出に使えそうな船を調べ、教えてくれた。
 しかし光輝にピエールの魔の手が迫る。プラトが彼に変身し大暴れしてしまったため、裏切りの嫌疑がかけられてしまったのだ。光輝はジャンヌの身を案じ、自らも埠頭に急ぐのだった。  またしても自身の臆病さが原因で迷惑をかけたジャンヌはエレナから魔法の制御について学ぶ。それはほんの少しの成功体験へと繋がり、彼女の自信へと繋がっていく。
 ようやく埠頭にたどり着いた三人だったが、光輝の携帯から情報を仕入れていた魔女狩りは軍用装甲パワードスーツコマンドギアと攻撃垂直離着陸機ティルトローター機を投入してきた。
 絶体絶命の三人だったが、助けに現れた光輝とソーリアそしてプラトにより三人は無事タンカーに乗る事が出来たのだった。  タンカーに乗った三人。しばらく安全で平和な船の旅が続くが、突如トリアノン、エルドリッジ、バーソロミューと呼ばれる魔女達が操る海賊船の襲撃を受ける。彼らは「情報結晶」と呼ばれるものを求めてタンカーを攻撃してきたらしい。
 砲弾の直撃を受け、海に落下する三人の魔女。その行先は……?

「ここは…………海岸?」
 エレナが目を覚ますと、そこは海岸、波打ち際であった。
「そうだ。貨物船が襲撃を受けて、大変な目にあったんだった……」
 体を起こす。
 ――自分のいる場所が分からないのは困ったわね。これからどこに向かえばいいかすら分からないし、けどこれはもう直ぐ日が暮れるし、なんとでもなるわ。
 そして、もう一つ困った事がある。それは、エレナの前に立ちふさがる黒い球体のことだ。紫色の線で瞳と思われるものが描かれている。これは、なんだろう。
 じっと見つめていると、瞳の前に魔法陣が出現する。
「!」
 なぜかと言うと直感としか言いようがない。とっさに左に飛ぶ。直後、魔法陣の先からビームのような光が放たれる。エレナの真右を通り過ぎていく。振り返ると、砂浜が黒く焦げて一部はガラスになっていた。
「ゆ、友好的な相手ではなさそうね……」
 エレナの顔が引きつる。敵である可能性は考えていたが、しかし、砂をガラスに変えるほどの高火力な攻撃を放つとは流石に想定を超えている。というより、対人間に放って良い攻撃では決してない。この威力であれば、人間など一瞬で気化してしまうだろう。
「相手の動きをよく見て、走って逃げるしかないわね」
 見れば、動きは単純だ。方向転換してこちらに軸を合わせ、そして魔法陣を出現させ放つ。ならば避けることは可能。
 ――ビームはどういう仕組みかしら、仕組み次第で魔法でなんとかできないかしら。
 例えばビームを水で拡散させるとか、粉塵で減衰させるとか。エレナの魔法は攻撃に向かないため、とにかく何らかの方法で防御するしかない。
 ――あるいは、あの浮遊している理論ね。飛べなく出来ればこちらの勝ちのはず。
 しかし、そのここで戦闘するという方向性は間違いだったかもしれない。移動速度が高いとは言えないのをいいことにさっさと逃げるべきだったのだ。
 黒い目玉の天頂から無数の紫の線が伸びる。それは空高く飛び上がったのち、放物線を描いてエレナに迫る。
「ちょ……」
 エレナのステップによる移動可能範囲全域を覆う面攻撃。その攻撃力の程はわからないが食らって無事に済むとは思えない。思わず目を瞑る。
「エレナさん!」
 しかし、どれだけ待っても痛みはやってこない。目を開くとそこにあったのは壁であった。声の主人は右手の方から走ってきていた。
「ジャンヌ! そんな遠くから壁を作れるなんて!」
「はい、エレナさんを守らなきゃってやってみたら……」
 これまでジャンヌは手が届くほど側に壁を作るのが精一杯だった。唯一の例外は敵を吹き飛ばした時だが、あの時はこれほど立派で大きな壁ではなかった。今ここにある壁は普段展開するのと変わらないくらい立派な壁。その証拠に敵の間接射撃を完全に防いだ。

 

「…………このあとどうしましょう?」
 壁はあらゆる攻撃を防いでくれる。ビームもホーミングレーザーも防ぐ。が、そこまでだ。いつかは壁も壊れるし、そうなればおしまいだ。
「うーん、この壁を鏡にしたら反射とかしてくれないかしら?」
「かがみ、ですか。鏡、鏡……」
 壁に触れて集中する。壁が鏡のようなよく磨かれた壁に変化する。
「ダメね。ジャンヌが鏡というものをしっかりと認識できてないから、鏡の状態を再現できてないんだわ」
「そんなこと言われても、ちゃんとした鏡なんてフィクションでしか見たことないですし……」
 2032年の現在、所謂ガラスの片面にアルミニウムや銀などの金属を蒸着したような鏡はもうほとんど存在しない。金属は有限の物質であるため、より安価かつリサイクル可能、捨てる時は埋めれば土にかえる有機モニターが使われることが主流である。
 厳密に言えば、オーグギアが普及しきった今では、有機モニターによる鏡すら古いものになりつつある。今は「ミラーカメラ」と呼ばれるカメラのみの鏡が多い。カメラとオーグギアを接続し、装着者の視界にカメラからの映像を鏡のように表示してしまうのだ。これはコンパクトなどの女性化粧品としても優秀で、外でも大きな鏡があるかのように化粧が出来る点で優れている。
「分かってないわねぇ。実体がある詫び錆びこそいいんじゃない……」
 と、エレナが危うく趣味を押し付ける嫌な女に成り下がりかけたその時、壁に亀裂が走り、二人に緊張が戻った。
「ど、どうしましょう?」
「そうか、壁を意図的に壊せばいいのよ!」
「どういうことですか?」
「つまりね、壁の地面に接してる部分のうち、敵のいる側半分を削ってやるの、すると、そっちに倒れるでしょ? そしたらあいつ、その下敷きになるんじゃない?」
「なるほど、やってみます」
 はたして、壁は倒れ、そして、黒い目玉はその下敷きとなった。
「な、なんとかなった」
 それがどちらの声だったかというと、両方の声だった。

 

「アリス、やっと見つけた」
「ぁ、エレナ」
 その後、二人で海岸を歩いてようやくアリスを見つけた。
「ないの、ヘッドホンが……」
 青い顔で海岸を探し回っていた。
「あー、そういえばアリスさん、落ちる直前に手提げから落ちるヘッドホンに手を伸ばしてましたね」
(ジャンヌ、あの状況で周りに気を配れたのね、案外度胸はあるのかしら、怖がりだから発揮されにくいみたいだけど)
 エレナの感心とは真逆に、アリスはどんどん顔が青くなっている。
「そ、そんな、あれがないなんて……」
「そんなことより、ここはどこなんでしょう?」
「あぁ、待ってね」
 エレナがスマートフォンを操作する。何かのアプリを起動して、今の年月日と時間と星の様子を入力していく。
「それはなんですか?」
「あぁ、年月日と時間から、その時間にその星が見えるならこの場所ってのを特定できるアプリよ。普段は逆にいつのどこならその星を観れるかを調べるのに使ってるんだけどね……っと。出たわ」
 スマホを差し出しエレナ。そこには「ボサソ」の文字。
「ボサソ?」
 どこ、と首を傾げるジャンヌ。
「ソマリアよ」
 アリスが答える。
「そうみたいね」
 エレナが地図アプリを見て答える。
「じゃあ次の方針は決まりね。北上してナイル川まで向かい、ナイル川を使って上エジプトまで移動。今度はそこから、カイロまで陸路で移動しましょう。ここいら一帯なら一番大きい街でしょ、何を始めるにもそれがいいわ」
「そうですね。なら、早く移動しましょう。あの目玉の敵がまた現れないとも限りません」
「目玉の敵?」
 ジャンヌの妙な言葉に首を傾げるアリス。
「その話は後よ。とりあえずこの場を離れて、街に紛れましょう」
 説明しようとするジャンヌを遮り、エレナが進める。この辺りではまだ自分たちを通報する状態になっていないとはいえ、魔法を見られてしまえばまたここも人目を避けて逃走せねばならないエリアになってしまう。あの目玉の敵がなんなのかは分からないが、もしこの地域に存在している何かだとしたら、この場に留まり再び目玉と交戦する事になるのは避けなければならない。魔法を使えば使うほど、見られるリスクは増えるのだから。
 エレナが口にするまでもなく二人も――アリスは「何か敵がいたらしい」としか分かっていないが――その考えに行き着き、頷きあって街へと入っていく。


「ソマリアって昔、紛争地帯だったんですよね」
「えぇ。1988年から2016年までずっと内戦をしていたわ」
 ジャンヌの問いにアリスが答える。
「2016年、科学統一政府成立の年ね」
「ってことは、例の「科学による平和」が統一政府が成立したその年に実現したってことなんですか?」
「そういうこと、なんでしょうね」
 三人の視界に広がるのは綺麗で平和な街並み。幸せそうな人々の笑顔。
 ――ソマリアの内戦については教科書の表面をなぞるくらいしか知らないけれど、なんの後ろ盾もない弱小組織が何かしたところで解決できるものなの?
 科学統一政府は国際連合のような既存の連合体とは全く別の起源を持つ。統一政府とはいっても、2016年当時、その加盟国は非常に少なく、文字通り「統一」と言えるほどの加盟国を持つ現在から見るとまるで嘘のようだ。だが、それから16年かけて世界中の諸問題を解決し、今や「統一」の域に至っている。ソマリアの内戦が2016年、成立したまさにその年に解決したとするなら、まさにソマリア内戦の解決こそが、統一政府の統一開始の狼煙だったのだろう。だが、そもそも何故彼らはそれを為し得たのか。国際連合やPKOの介入でも解決せず、複数の一神教と言った宗教の問題すら内在する複雑極まるソマリア内戦を、彼らはどうやって。エレナはまた一つ統一政府への疑念を抱く。
「あら、ハンバーガーショップだわ。ちょうどいいし、ここで食事にしましょう。そして最悪の場合、ここで夜を明かしましょう」
「ハンバーガー……? 正直気が進まないんだけど」
「そう、美味しいし、手軽に食べられるし、旅先でもどこでも同じ味だし、最高の食べ物だと思うけど」
「雑雑しい味で美味しさのかけらも感じないけど……」
 エレナとアリスのハンバーガーに対する意見は平行線のようだった。ジャンヌは迂闊にどちらに着くわけにもいかず、苦笑いを浮かべている。ちなみにジャンヌの本心としては別に食べられないわけではないから、全く食べたくないというアリスに対して考えるとややエレナ寄りである。
「それにこんなことあんまり言いたくないんだけどね、アリス。目立つことは避けたいのよ。ジャンヌがバックパックを買ってくれたおかげで、周りからは低予算旅行者バックパッカーと思われてるみたいだから助かってるけど、それにしたってこんな美少女三人のバックパッカーなんて否応なしに注目を集めてしまうし、それ以上に目立てばどんな面倒に絡まれるか分からない。だから……」
「はぁ、分かったわよ。エレナにそこまで言われちゃ、断れないわ」
 エレナの発言を遮ってアリスが観念する。

 

「手で掴むってのもマイナスよね……」
 ファーストフード特有の味付けに渋い顔をした後、今度は食べ方にも言及するアリス。
「カロリーフレンドは手で掴んで食べてたじゃない」
「あれは緊急時だから仕方ないと思って我慢してたの」
 カロリーフレンドは固形ブロックタイプや液体ゼリータイプ、飲用ドリンクタイプなどのバリエーションを持つ栄養食だ。ブロックタイプなら1本100kcalで、近年のものはかなり栄養面も充実している。日持ちもするし嵩張りにくいので、三人はブロックタイプを持ち歩き普段の食事としていた。
「ところで、このボサソには港も空港もあるようですけど、なぜ陸路で?」
「そう言えばそうね」
 ジャンヌの疑問に同調するアリス。
「あ、それは簡単。そんなお金ない」
「そんなはずないでしょ。飛行機で世界中のどこにでも行って帰ってくるほどのお金を持ち出してきたはずよ」
 ジャンヌが納得するのに対し、食い下がるアリス。今三人が使ってるお金はほぼ全てアリスが持ってきたものである。
「そうね、アリス。あなたには二つ現実を教えてあげたほうが良さそうね。まず1つ、今後お金の補給が出来ないのに、持ってるお金の何割かをごっそり使うような使い方ができるわけないでしょ。そして二つ目、こっちが致命的なんだけど、飛行機や船みたいなテロリストを警戒してる大きな公共交通機関はね、基本的に実体通貨を取り扱わないの」
「そうなのね……」
「アリスはお金を使う計画性とかをちゃんも学ぶべきね」
「仕方ないじゃない。いつもお買い物はお父様がしてきてくれたんだもの……」
「本当、これだから箱入り娘は」
 やれやれ、と肩を竦めるエレナ。
「じゃ、寝ましょう。タンカーのベッドじゃなくなったのは痛いけれどね」

 

 ◆ ◆ ◆

 

「なるほど、奇妙ね」
 資料を見ながらソーリアが唸る。
たの?」
 いや、もう一人のソーリアが美味しそうに食べ物を頬張っているのを見れば、こちらの唸っているソーリアがプラトだと分かる。
「この大慶油田たいけいゆでんの状態についてよ。まだ原油も天然ガスも地中にあるのは明らか。事実、データ上では明らかに原油や天然ガスが生産されていて、この地域の収益になっている。なのに、明らかに生産設備が動いてない。けれど、電力は確かに大きく消費している。この油田では、一体何が動いているというの?」
 大慶油田は中国の原油生産を一手に担う油田で、近年は天然ガスの存在が確認されている。原油の方は一時期減衰したが、科学統一政府が世界に広めた採掘技術がそれを回復させた。したがってこの油田はいまだに中国の原油生産を一手に担い、中国中を潤わせている、のだが、プラトにはその設備が稼働していないように見えたのだった。
「調べるの? ボクらの乗る電車、もうすぐだけど」
「分かってる。この件は覚えておきましょう。今はヨーロッパにあの三人より早く到達して、あの三人が活動しやすい土壌を作る方を優先するわ」

 

「二人はシベリア鉄道に乗った。まだ狙える」
 建物の屋上から、シャリシャリとりんごをかじりながらその様子を眺めていた女性がオーグギアを介して連絡する。
「構わないわ。別に怪しまれる程度は普通。踏み込んだ時に消せればいい。……それにしてもあの三人、ね。一体誰のことかしら」
「情報はない。どうする?」
「あなたはこのままそこの警備を続けて。ヨーロッパに向かう、確かにそう言ったのよね?」
「間違いない」
「なら、ヨーロッパに到着したのをこちらで捉え次第、私が引き継ぐわ。それじゃ、全ては安全のために」
「全ては安全のために」

 

 ◆ ◆ ◆

 

 翌日。三人はハンバーガーショップで朝食を摂った後、コンビニエンスストアで食料などを買い足し、出発する。
「アリス、寝てないでしょう。すごいクマよ」
「そ、そうかしら? ハンバーガーショップ寝るなんて初めての経験だったから、ちょっとね」
「実は私も遅くまで眠れませんでした。夜も賑やかでしたね」
「そういうもの? さて、次の目標だけど、エチオピアのゴンダールに向かいましょう。ゴンダール近くにあるタナ湖はナイル川の支流の一つ、青ナイルの源流なの。そこからナイル川を降っていきましょう」
「ゴンダール、ボサソから二千キロくらいの距離ですね」
 ジャンヌがスマホを操作し確認する。
「歩いて19日くらいね。ヒッチハイクでもできればいいけど」
「それは流石にざっくりした計算すぎるからその二倍くらいはかかると思うけど、まぁ、それは歩きながら考えましょう。私たちには止まってる暇なんてないんだから」
 そして再び三人は歩いていく。

 

to be continue...

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