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聞き逃して資料課 即位礼正殿の儀編

2020/10/22

 

 さて、2019年10月22日。この日にあるのは、即位礼正殿の儀だ。
 天皇の即位を対外的にお披露目する儀式で各国首脳が集まる。
 神秘的な観点で言えば、おそらくこの儀式が終わり新たな天皇が即位するまでの間、一時的に天皇の座が空白になるのだろう

 


 

 日本の霊害に対する守りは天皇を神と見立てたことによる加護に大きく依存している。
 アンジェが代表となるまでは功績争いが当然だったという討魔組に、実戦経験のない霊害対応部隊、捜査のみの対霊害捜査班、少数の霊害対策課といった構成なのもその影響だろう
 その守りが今日、一時的に失われる。
 その上各国首脳まで揃う。魔術師ならこんな狙い目はない。テロ狙いの魔術師も、天皇の加護の抑圧に耐えかねている魔術師も、動くなら今日と決めていることだろう。
 そりゃ、大事になるはずだ。

 


 

 中島巡査部長が忙しいのも納得だな
 天皇陛下関係の大ごととなると、そりゃ皇宮警察は大忙しだろう
 
 と昨日の夜のうちに考え直し、まさに同じ内容を今回の現場指揮を担う中島碧さんから聞かされた
 そしてチャットアプリのグループに入るように指示された

 


 

「これは?」
「情報共有用のグループチャットです。何か問題があればこれでやりとりが出来ます。また、各侵入予測地点に設置した魔力針を監視しているセンサーからの通知もここに来ます」
「凄い、ハイテクだ」
「えぇ、本当に」
 思わず漏らすと、碧さんは不服げだ

 


 

「これ、英国の魔女が作ったんです。碧は彼女のことをまだ好ましく思ってないので」
 アンジェがご丁寧に耳打ちしてくれる。
 なるほど、そりゃ大変だ。ってかあの魔術師、エンジニアみたいなこともできるのか。

 

  to be continued……

 


 

2020/11/04

 

キャラクター紹介

 


 

 そして、天皇の加護が消失した。その次の瞬間、俺たちがいる霞ヶ関エリア一帯に、黒い玉虫色の粘膜にたくさんの目がついたスライム状の生物が多数出現した。
「テケリ・リ。テケリ・リ」
「ショ、ショゴスって奴か」
 確か『狂気の山脈にて』に出てきた奴だ。

 


 

「テロ目的か! 国会議事堂周辺を防衛するぞ」
 幸いにも、第三遊撃部隊の面々がここにいる。俺たちは最低限の防衛を果たせばいいだろう。
 チャットアプリによると、新宿都庁にも同じくショゴス(正確にはレプリ・ショゴスというらしい)が現れたらしい。

 


 

 と、武器を構えた直後、凄い数の矢がこの辺一帯に降り注ぎ、敵が殲滅された。
「お、恐るべし、ユキ」
 矢の雨とか、マジでアニメとかゲームとかの領域だな。
 指揮をとってるのは以前会ったスイフト卿と似た甲冑を見に纏った騎士だ。あれが噂のアーサーさんか。

 


 

 アーサーさん達、第三遊撃部隊は上野駅に現れたという魔力反応の調査のために移動していった。
「周囲の空を警戒してくれ。さっき、戦闘の途中、何か大きなものが光を遮ったような気がした」
 俺はふと気になったことを伝え、周辺を警戒することを選ぶ。

 

  to be continued……

 


 

2020/11/05

 

「ご主人、ご主人達が使う物とは形式の違う認識ジャマーだ」
「認識阻害のことか」
「あぁ、私とのリンクを意識せよ、ご主人。リンクを強めれば、私の見えているものが見えるはずだ」
 俺は自身の中に意識を向ける。
 すると白い糸が2本、浮かび上がる。

 


 

「そのうち上方向に伸びている白い糸を掴み、その糸に意識を集中する」
 見えた
 自分よりやや高い位置の視界。マーイウスの見てる景色だ
「あれだ、見えるか?」
 見える。認識阻害のせいでノイズのようなものが走って見えるが、あれは、ティルトローター機?

 


 

 所謂V-22オスプレイだった。
「こちら対霊害捜査班。認識阻害のかかったオスプレイが見えた。自衛隊かアメリカ軍か?」
「こちら、自衛隊霊害対応部隊。自衛隊がオスプレイを展開するという話は聞いていない。アメリカ軍からもそのような話を聞いていない」

 


 

「こちら、AGHFのソフィア。こちらも特に聞いていない」
「了解。碧さん、私はあれを追跡します」
「分かりました、お気をつけて」
「俺以外は待機だ。鈴木巡査、後を頼む」
 見えるのは俺だけだからな。
 右目だけにマーイウスの視界に切り替え、追いかける。

 

  to be continued……

 


 

2020/11/07

 

「くそ、見失った」
 流石に地形に左右される車では空飛ぶ目標を追い続けることは難しい。
「こちら、中国。目標を見失った。次のジャンクションは……芝浦ジャンクションか。そこで降りて……、いや、まてよ? このまま真っ直ぐ言えばレインボーブリッジか」

 


 

「折角だ。レインボーブリッジに現れたテンプル騎士団とやらの様子を見てくる」
 首都高11号台場線に入る。
 やがて大きく左にカーブして、レインボーブリッジに入る。
「なるほど、中程あたりで検問をやってるんだな」
 検問に差し掛かり、手帳を見せる。

 


 

 直後、体から何かが抜けるような感覚があって、視界にセピアがかかった灰色の世界に飛ばされた。
「お疲れ様です。中国巡査。こちらはレインボーブリッジ防衛線です。英国の魔女様とタツヤ様の協力により、レインボーブリッジに重なる形で別空間を展開しています」

 


 

「これはすごい。テンプル騎士団って奴に会いに来たんだが」
「でしたら、あちらですよ」
 見ると如何にも観光客と言った風体の集団がいた。
「あれがテンプル騎士団?」
「社会に溶け込むのに適した服装をしているだけですね。彼らの装備は……所謂変身型なので」

 


 

 なるほど。
「初めまして。警視庁刑事部総務課資料2係の中国と申します。偽物が現れてる件などについてお話を伺えますか?」
 日本語で通じるか不安に思いつつ声をかける。
聖騎士パラディンルドヴィーコ・アロイジオ・サヴィーノです。この集団の代表です」

 


 

 パラディン。ローマ帝国の親衛隊から派生して生まれた言葉だな。ローランの唄なんかで「聖騎士」と訳されるのが日本では一般的か。単に騎士団内の階級か
 洗礼名のアロイジオは聖アロイジオ修道士からか。聖人歴で6月21日。単に彼は6月21日生まれなのかもしれない

 


 

 だが、或いは魔術的意味があるのか、流石に聖アロイジオの功績までは知らない。もし特別な逸話があるなら、それが彼の魔術に関わる可能性もある。
「なるほど。なかなか抜け目のない方のようだ。出会ってすぐに私の全身を視線で確認し、危険度チェックとは」

 


 

「っと、ご不快に思われたら失礼しました」
 やべぇ、悪い詮索癖が出たのが気付かれたか。
「お気になさらず。排他的な組織が突然支援に来た。まして、偽物も現れた。疑わない理由がないでしょう。しっかりと警戒された方がこちらも安心できると言うものです」

 


 

 何せこれから共闘する相手のことですから。と続ける
 敬虔に信仰しているからなのか、その姿勢にも言葉にも迷いがない
 私はとても良い印象を抱いた
「それではいくらか質問させてもらっても?」
「もちろん。機密以外ならいくらでも」

 

  to be continued……

 


 

2020/11/11

 

「こちら布武姫。雷門の自称テンプル騎士団と接触。あいつらから魔性を感じ取った。だが、アタシらじゃ止めらんなかったです。申し訳ない……」
「そちらには魔性に対抗出来る十分な戦力がありませんし、やむを得ないでしょう。特別対応部隊を向かわせました」

 


 

 第三遊撃部隊が敗れた……。どんなに手強い敵なんだ。
「それから、都庁で発見されたのとよく似た極彩色のクネクネを見つけた」
 続いて、今度はよく分からない報告が聞こえてくる。
 都庁で発見された? そんな報告あったか? とチャットのログを確認する。

 


 

「あった」
 なるほど、こういう時確かにチャットは便利だ。写真も共有されている。と、第三遊撃部隊からも写真が送られてきた。
「なるほど、似てるな」
 っと、折角テンプル騎士団と一緒にいるんだ、何か知らないか聞いてみるべきだろう。
「ルドヴィーコ卿、こちらを見てもらえるかな? 我々が発見した正体不明の霊害なのだが」
「む。どれどれ……。失礼して」
 ルドヴィーコさんがスマホを覗き込む。
「すまない、力になれそうにない。ただ、どことなく安曇の用いる冒涜的な使い魔に近い気がするな」

 


 

 あぁ、クトゥルフ系だもんな、十字教からすると冒涜的に感じるものなのか。
「と、すると、これは安曇の使い魔?」
「かもしれない。直接見れればまた違うかもしれないが」
 なら、一応それも共有しておこう。

 

  to be continued……

 


 

2020/11/14

 

 こちらがルドヴィーコ卿と悩んでいる間に、第三遊撃部隊はいくらかの実験をしたらしい。
 意識を向けると語りかけてくるらしく、それによると、あれは根っこであるらしい。
 また、触れることで都庁と雷門の間を瞬間移動したとのことだ。

 


 

「瞬間移動ってのは魔術であれば簡単に可能なものなのか?」
「シンボル同士を瞬間的に移動する魔術は優れた魔術師なら使用できると聞く。この極彩色な根っこがシンボルに当たるのなら、不自然というほどではないかもしれない。ただ、多くの場合使い切りのはずだ」

 


 

「つまり報告にあるように往復転移が出来たり、まして根っこが増えたりする事は流石に不自然って事か?」
「そう言うことになると思う。まぁ私は魔術の詳しい理論は分からないから、なんとも言えないが」
 テンプル騎士は魔術には詳しいとは言えないようだ。

 


 

 ひとまず碧さんは転移に使う根っこ、テレポーションルート、と名付ける事にしたらしい。
 宮内庁らしい無難なネーミングだ。本質を歪めたとしてもテレポーションするだけのものになるならそこまでの話だしな。

 

  to be continued……

 


 

2020/11/17

 

「こちら対応班! 連中、尻尾を出しました。分霊になって逃げた。もう一度霊的な入り口に向かったと思います」
「分かりました。敵は何でしたか?」
「妖狐の一種かと。ただ、第三遊撃部隊が持て余したのも納得の膨大な魔性でした。おそらく美琴さんが警戒していた」

 


 

「殺生石の封印が解けて姿を表した、と言うことですね。こちらでも全ての侵入地点から魔性の反応が発生し始めたことを検知しました。魔性を分割してでも、神殺しにして退魔師であるアンジェを避けるつもりのようですね。各自対応を。中国巡査、テンプル騎士団にも」

 


 

 情報が多いな。殺生石の封印? なるほど、あの怪異か。ビッグネームじゃないか。
「魔性に分類される敵が現れたらしい。二つの敵がこちらに向かっている」
「なら私はここで港湾からの敵を待ち受けよう。品川駅の敵が霞ヶ関に行くようなら、そちらにも対応する」

 


 

 ルドヴィーコが素早く頷く。
「だが、念のため品川駅にも偵察隊を出しておこう、オッタビオ、五人ほどで固まれ、偵察任務だ」
 ルドヴィーコとオッタビオ、そして五人の騎士が俺と一緒に通常空間に戻る。
「ご主人、あれを」
 するとマーイウスが何かを指し示す

 


 

「さっきのティルトローダー機、お台場の方か。俺も行き先が決まったようだ」
「いや、中国殿、あの機体は兵員輸送のためのものだ、部隊単位の敵が予想される、差し支えなければうちのやつらを連れて行け」
「いいのか?」
「勿論だ。グラツィアーノ、精鋭を10人だ」

 


 

 こうして俺とグラツィアーノ卿(なんとルドヴィーコ卿の同期にして親友らしい。階級には差があるようだが)とその部下で、改めてお台場へ向かう。
 一台では乗れないから二台の車列だ。テンプル騎士団の車はフィアットの4WDか。悪くない車だ。

 

  to be continued……

 


 

2020/11/20

 

 お台場に到着する。遠目に見えたところ、この辺りのはずだが……。
「おい、あんた、えー、ミスター・チュウゴク?」
「あ、はい、グラツィアーノ卿。どうしました?」
「うちの部隊の従騎士エスクワイアが、周囲の魔力の流れを確認したんだが」

 


 

 エスクワイア。中世ヨーロッパの騎士志願者のことだったか。雑用とかを担う騎士見習いってところかな。
「極めて微弱ながら、あの建物に、か」
「あぁ。霊光装備は体を結界で包み込むようなものらしくてな。一般的な騎士は癖を見ることで僅かな動きすら捉えられる」

 


 

 それに気付いたのが自分ではなくエスクワイアだったということは、この男はその辺が苦手だということか。
 そう言えば、ルドヴィーコ卿も「剣の腕だけならパラディン級」と言っていた。彼がナイトの位のままなのはそれ以外がまだ不足、ということなのだろう。

 


 

 ま、それは良いとして。幸いにもこっちは警察だ。ちょっと話を伺わせてもらうとしよう。
 俺はグラツィアーノ卿が示した建物、丸い球体のパーツが特徴的なテレビ局を尋ねた。
「奇妙だな。一階はお土産物屋とかがある一般スペースのはずだが……」
 やけに静かだ

 


 

「すみません、警視庁のものですが」
 受付に声をかける。
「This is hydrogen 8. the police spoke to me although i have the amulet. What should I do?」
 ぶつぶつ言っている
「あー、もしもし?」
「待て、ご主人。来るぞ」
 突然マーイウスに引っ張られる

 


 

「Copy, that. i will shoot to death.」
 直後、俺が寄りかかることになった壁に複数の飛翔物が命中する音が鳴った。銃撃の音だ。
 しかも受付だけじゃない、周囲の何もないところから突然兵士が現れた。
 認識阻害で隠れてやがったのか。

 

  to be continued……

 


 

2020/11/24

 

「五人、前に出ろ、祈祷開始!」
 グラツィアーノの号令で、何を思ったか騎士のうち五人が銃弾の前に踊り出て、体のどこかに手を当てて目を瞑る。
 直後、その騎士を覆う巨大な半透明で赤い十字の描かれた大盾が出現する。
 これがテンプル騎士団の装備か。

 


 

「さらに五人! 各盾と守護天使の並び。敵勢力を無力化せよ!」
 もう五人の騎士がそれぞれの盾役を使う騎士の後ろにつき、肩に手を置く。
 後ろの騎士が肩を指で叩くと、盾役が前進する。
 盾役は目を瞑っているから、後ろの騎士が指の動きで誘導するって事か

 


 

 簡単に説明したが、これは簡単には出来ない事だ
 普段目に頼りきっている人間にとって、目が見えないと言うのはかなり不安な状況だ
 まして指示に従い動くとなると指示者をよほど信じられなければとてもいられない
 意図的に目を閉じているのならなおさらだ

 


 

 彼らはそれをこともなげにやってみせる。信仰心ゆえか、日頃の訓練の賜物か、日頃の作戦により醸成された互いの信頼のなせる技か
 各騎士は速やかに各射を昏倒させた
 それで気付いたが、各自、自身が防いでいる銃撃が他の騎士に流れないよう上手く動いている

 


 

 二人一組の五塊、ではない。あれらは十人で塊なのだ
 強力な装備に一つの生き物のような集団戦法。これがテンプル騎士団か。
 考えてみれば一神教と言えばだいたい秩序ロウ側の総本山だ。秩序だった動きも当然か
 しかしその実態は……、いやこれはまだ仮説だ

 


 

「さて、尋問といきますか」
「あぁ、警察の応援も呼んで逮捕させよう。だが、どこかと連絡してたのが気になる」
「確かに。よし、オレ達テンプル騎士団十二人はこの建物を一通り調べてくる」
「あぁ、ありがとう」
 さて、こちらは一人をまず起こしてみるか

 

  to be continued……

 


 

次回は明日の19時〜19時30分頃を予定しております
お楽しみに

 


 

今回活躍中のテンプル騎士団は去年のクリスマス小説『コンクラーベとベツレヘム消失』で主人公組織として活躍しました
よければそちらもチェックしてみてください

 

https://www.anotherworlds06.com/conclave/

 

 


 

2020/11/25

 

「まずは、銃を見せてもらおうか」
 地面に落ちているアサルトライフルを検める。
 俺は銃には詳しくないので、ネットで調べてみると。
「SCARって奴か? アメリカ軍特殊部隊向けに開発されたアサルトライフル……」
 って事はこいつらはアメリカ軍の特殊部隊?

 


 

 ソフィアさんに連絡を取ろうとした直後、
「アオイさん。また状況がかわった。安曇を助ける謎の敵が現れた。古代メソポタミアの王のギルガメスだとか名乗ってる。それがほんとかどうかはわからねぇが、それだけのヤバい神性を感じる相手だ」
 フブキの声だ。

 


 

 第三遊撃部隊は安曇を発見し、交戦に至っていたらしい。
 しかし、メソポタミアの王、ギルガメス? 
「ギルガメス、といいましたか? それは金髪に赤い瞳で、黒いドレスの少女を連れた、あのギルガメスですか?」
「ああ。そんな感じの男だ。知ってるのか?」

 


 

「えぇ。なんとかその場で時間を稼いでください、すぐに向かいます! 以降、隊の指揮はタツヤに任せます」
「タツヤ、指揮を引き継ぎます」
「あ、ちょっと。……まぁアンジェと魔女なしでも、あ…タツヤさえいれば十分だとは私も思いますが……」

 


 

 アオイさんが抗議の声を上げるが、返事はない。
「アンジェはこちらの指揮を離れました、第三遊撃部隊はアンジェの言い分に従うも従わないも独自に判断してください」
 アオイさんが諦めたように通達し、第三遊撃部隊はギルガメスの要求に従い安曇を見逃す。

 


 

 安曇は灰色の男達の計画に何かしらの形で組み込まれているはず、ここで倒せるのがベストだったが、ギルガメスとやらそんなに脅威的な強さだったのか。
 古代メソポタミアの王、ギルガメス。本人だとしたら紀元前2600年頃の存在だ。神秘プライオリティは約四千。

 


 

 一般的な日本刀の神秘プライオリティが500年程度だから、まるで太刀打ちできないのは道理ではある。
 バビロニアをはじめとするメソポタミアは「アース」という言葉の語源ですらある程度には地球最古の文明だ。神秘的に言えば最強の敵かもしれない。

 

  to be continued……

 


 

2020/11/26

 

 改めてソフィアさんに連絡しようとするが、ふと思う。
 そもそもソフィアさんを全面的に信頼していいのか?
 もし本当にアメリカの特殊部隊だった場合、ソフィアさんもグル、という可能性の方が高い。いや、国も一枚岩ではないにしても、だ。

 


 

 悩んだ末、鈴木巡査に個人的にコールする。
「どうしました中国巡査」
「アメリカ軍の特殊部隊らしき敵から攻撃を受けた。ソフィアさんに問い合わせようと思ったが、本当にアメリカの特殊部隊だとしたら……」
「なるほど。とりあえず一同そちらに」
「あぁ、頼む」

 


 

 鈴木巡査との電話を終えた、直後、通信が入る。
 まずい、密談がバレたか?
「石上神社に侵入者アリ! 天羽々斬を盗まれた!」
 石上神社? 奈良県の神社だな。天羽々斬と言えば、スサノオの持つ十握剣に八岐大蛇退治にあたって名付けられたと言われている剣だ

 


 

「くっ、あの刀泥棒、戦力をこちらに割いているのを良いことに」
 アオイさんがうめく。どうやら、盗んだ人間に心当たりがあるようだ。
「泥棒なら警察の出番か?」
 明らかな刑事事件なら俺たち対霊害捜査班の出番だ。
「えぇ、ですが、今はこちらが優先です」

 


 

 確かに。それはそうだ。
「天羽々斬の件なら手口から犯人の察しはついてますから、対処は後で考えましょう。あるいは、どうにもならないかもしれませんし」
 何やら意味深な発言だが。
 確かに、今は目の前のことに集中すべきだろう。

 

  to be continued……

 


 

2020/11/27

 

「敵の掃討が終わった。敵はこのテレビ局のほぼ全ての機能を掌握していた。今、部下が連れてくる」
 グラツィアーノ達がエレベーターから降りてくる。部下の騎士達が何人かの拘束した兵士を引っ張ってきて、床に置いて、またエレベーターに戻っていく。

 


 

「それとリーダー格の男がこんなものを」
 とグラツィアーノが何かを差し出す。紙の束だ。
「指示書か何かか?」
 開く。英語だ。
「一部で暗号が使われてて、確かじゃないが、彼らは何かを撮影し、それを全国ネットで流す気だったらしい」

 


 

「何か?」
「あぁ。神秘構造物アルファと呼称されてる。おそらく暗号だと思われるが、対応表がなければ何のことかはわからん」
「神秘構造物アルファ……。神秘に属する何かをテレビで放送して白日の元に晒そうとしている……? まさか!」
 こいつらは!

 


 

「はい、中国巡査」
「鈴木巡査、敵組織の正体がわかった。奴ら、『灰色の男達』の手先だ!」
「なんですって! 分かりました。我々の出番ですね。より急いで合流します」
 鈴木巡査にも気合いがはいったようだ。
 よし、奴らの目的を阻もう

 

  to be continued……

 


 

2020/11/28

 

「もう大丈夫そうだな。我々は本隊に合流する」
 鈴木巡査らと合流したのを見て周囲を警戒していたグラツィアーノ卿が声をかけてくる。
「あぁ、ありがとう」
「よし、グラツィアーノ臨時騎士分隊、これより本隊に合流する」

 


 

「彼らがテンプル騎士団ですか」
「あぁ。鈴木巡査は中島巡査部長のおかげで結構いろんな神秘関係とか関わってきたて聞くけど、テンプル騎士団は初めて?」
「はい。基本ヨーロッパから出てきませんしね。ヨーロッパ内でもかなり秘密裏に活動してますし」

 


 

「そりゃそうだよな。表向きテンプル騎士団は全滅してるんだし。日本も宮内庁がGHQによって解体されてたりしたら、秘密組織になってたのかね?」
「その場合、天皇もいないでしょうから、日本の対霊害対応は討魔組に完全に任せる形になっていたかも知れません」

 


 

「なるほどな。そいや、安曇が逃げたい世界とやらって、多世界解釈的なパラレルワールドだったんだよな。って事は、そんなパラレルワールドもあるのかもな」
「ですね。ちなみに日本の討魔組の家柄はほぼ武士の家系なんですけど」
 そうだよな。

 


 

「源頼朝に討たれた源氏の末裔とか、明智光秀の末裔とかは、一部の武士達は名字を変えてたりするんですよ」
「へぇ。そう考えると、実は死んだって事にして生き残ってる、みたいな例って実は神秘関係だと多いのかね」
 ギルガメスも生きてるのかもだし

 

  to be continued……

 


 

2020/11/30

 

「おい、起きろ。警視庁刑事部総務課資料2係だ。最低でも銃砲刀剣類所持等取締法違反の現行犯で逮捕する」
 リーダーらしき男を起こす。
「今回は現行犯だから良いですが、資料2係、まで名乗ると、逆に不審がられるので、刑事部、で止めると良いですよ」
 なるほど

 


 

「"Keishicho"……? Damn, the Japanese police……」
「あぁ、さっさと取り調べと行きたいところだが、桜田門も大変なんでな、ここで話を聞かせてもらうぜ」
「Call a lawyer. I won't say anything until then.」

 


 

「lawyerってのは弁護士だったか。ってことは弁護士を呼べ、それまで何も話さんぞ、ってところか? くそっ、黙秘権を行使する気か。どうする、鈴木巡査」
「相手が霊害なら討滅に移行することになりますが、困ったことにただの兵士ですからね」

 


 

「井石警部補の提案です。彼はそれなりの部隊を従える隊長ですから、彼らの扱いを盾に交渉が出来るのではないか、という事です」
「なるほどな。とはいえそうなると、必要なのは翻訳だな。単語単語から意味を類推しての会話では交渉は出来ない」
「英語ネイティブで日本語も分かるのは、AGHFのソフィアさん、リチャード騎士団のマクラウド卿、スイフト卿、討魔組の英国の魔女……」
「そしてテンプル騎士団の面々、か。しまった、一人くらい残って貰えばよかったな」
 さて、誰を頼るか

 

  to be continued……

 


 

2020/12/01

 

 マクラウド卿に依頼する場合、現在最も活動的に敵と接敵し交戦している第三遊撃部隊の勢いを削いでしまうことになる。
 ソフィアさんに依頼する場合、もしこの秘密部隊がソフィアさんらアメリカと関係していた場合、裏切られるかもしれない。

 


 

 スイフト卿に依頼する場合、第二遊撃部隊の残りメンバーはAGHF二名と日本の討魔師一名となり、アメリカが敵だった場合、第二遊撃部隊が乗っ取られる恐れがある。
 英国の魔女に依頼する場合、何らかの特殊行動を行なっているアンジェ達に迷惑をかけるかもしれない

 


 

 あとはテンプル騎士団だが、彼らの言葉に嘘はなさそうだが、本来排他的な連中が、たまたま過去に世話になったから助けに来た、なんて事情だ。手を借りすぎると、逆にこちらが何かを差し出す羽目になるかもしれない。
 なにより、玉藻前との戦闘に彼らは必須だ。

 


 

 踏まえて、さて、誰の力を借りるのが正解か。
 あるいは、他に頼れる人がいたかもしれない。

 


 

 早く決めなければならないが、決め手がない。
 前に同行する討魔師を決めた時みたいに、天啓のようにアイデアが降りてきたりはしないだろうか。

 


 

AWsコネクタ通常5号機、起動。
イマジナリ粒子の充填、良し。

 


 

利用者のうち最も意見の多かったものが、結果として採用され、干渉対象「中国 箕霞無」の精神に影響を与えます

 


 

選択肢以外の意見はリプライにどうぞ
その意見の方が多ければそちらが採用されます

 


 

【結果発表】

 


 

2人がマーガレット・スイフト
2人がソフィア・コリンズ

 


 

と同率と相成りましたので、
サイコロで決めさせていただきます

 


 

偶数ならマーガレット・スイフト
奇数ならソフィア・コリンズ
とします

 

結果は3となりましたので

ソフィア・コリンズが皆さんの意見として採択されました

 

  to be continued……

 


 

2020/12/03

 

「よし、ソフィアさんにしよう」
「え、あんなに警戒してたのにですか?」
「あぁ。考えてみると、他の奴に頼む方がリスクが高いんだ。最も戦果をあげてる第三遊撃部隊の足が鈍れば防衛力が落ちる。秘密裏に戦うアンジェ達の戦力が落ちれば何が起きるか分からない」

 


 

「で、第二遊撃部隊からソフィアさん以外の戦力を抜くとAGHFの動きが不安、と?」
「そうだ。だが、ソフィアさんが抜けただけなら、第二遊撃部隊の損失は少ない。もう一人のAGHF隊員も優秀だそうだからな。そして、万一俺らのところでソフィアが裏切ったとして……」

 


 

「裏切ったとして?」
「最悪俺達がやられるだけだ。そして俺達は対霊害の戦力としては下の下……は言い過ぎにしても、平均より下のレベルだ。倒された時の損害は最も少ないと言っていい。そして、俺達が連絡不能になればソフィアの裏切りはアオイに伝わる」

 


 

「なるほど。最悪僕たちがやられる事で本命部隊はAGHF、あるいはアメリカの裏切りを知ることができる」
「だな。ソフィアか、裏で糸を引いてるやつがそこまで読んでて不自然さはないような会話の末、それが実は暗号で、まんまと騙されるってパターンは最悪だが」

 


 

「その時はどうするんです?」
「敵が一枚上手だったな。と無念さを噛み締めるしかないな。まぁ、とはいえ、アメリカはともかく、ソフィアは大丈夫だろう。神秘を愛する魔術師らしさを感じた。彼女が神秘根絶なんて目的に感化されるとは思えない」

 


 

「勘ですか。中島さんに似てきましたね」
「そりゃ、直々に教えを受けてるわけだからな。鈴木君だってそうだろ」
 二人でひとしきり笑ってから、いよいよ決行する覚悟を決める
 アオイさんに連絡した後、ソフィアさんを呼ぶ。第二遊撃部隊は快く応じてくれた

 

  to be continued……

 


 

2020/12/04

 

「なるほど。事情は分かったわ。兵士を説得して情報を引き出せってことね。使ってる武器はscarか
軍事関係ならすぐに相談してくれればよかったのに、すぐに相談しなかったのは、アメリカの特殊部隊である可能性を考えたからね?」
 ソフィーさんはすぐに事情を察した

 


 

「使ってる手榴弾はRGD-5なのね。ソ連製の手榴弾で、最近の防弾チョッキも貫通できない代物だけど、安価で大量生産されてるから、一部で今も使われてるわ」
「じゃあアメリカの部隊じゃない?」
「scarも確保出来るのに手榴弾をケチる理由が分からないけどね」

 


 

「じゃあ所属を偽るのに持ち込んだとか?」
「まぁ聞いてみればわかるでしょう。Hi, May I know your affiliation?」
「Call a lawyer. We have nothing to talk about.」
whip
 ソフィーさんが魔道具から白いエネルギー体の鞭を出現させて地面を強く打つ。

 


 

「Don't get me wrong! The law does not protect you! So if you do not answer, you will die here!」
 ソフィーさんが語気を強める。スマホの機械翻訳を参考に意訳すると「法律が守ってくれると思うな、答えないなら殺すぞ」ってところか。強気だ

 


 

「Then kill me……」
「OK. That's too bad.」
 「殺せよ」「そう、残念だわ」ってとこか。
shoot放て
 ソフィーさんの魔道具が銃状に変形し、銃口にピンク色のエネルギーが収束する。
「ちょ」
 ソフィーさんは容赦なく、隣にいた兵士の頭を吹き飛ばした

 


 

「Did you think you could die? You're the last. I'll have you die in the order of your subordinates.」
 「死ねると思った? あなたは最後よ、まずは部下から」って感じか。
「ちょっと、流石に殺害は見過ごせ……」
 鈴木巡査が声を上げるが、俺が抑える。

 


 

「これがアメリカ式よ、やり方は任せてくれるんでしょ」
「あぁ、構わない」
 と、反論するソフィーさんに俺が頷く。
 そして、鈴木巡査に耳打ちする。
「銃口の魔術発光がマゼンタだった。あれは殺してない。おそらく幻覚系の魔術だ。認識改変かな」

 


 

「そんな……」
 鈴木巡査が驚愕する
 俺だってあの飛び散った血の飛沫とその生暖かさを偽物とは思えない
 だが、俺が英国の魔女から習った魔術の基礎知識に基けば、あれが幻覚系の魔術なのは明らかだ
 流石魔術師の組織、多彩な"交渉術"を使えるんだな

 

  to be continued……

 


 

2020/12/05

 

「Seriously…. I thought you were a cop?」
「They're right. But I'm not. I'm an American soldier.」
「Say stupid. Even American soldiers can't kill people that easily. I'm an ex-Marine myself, but I don't think I could kill a man in an interrogation.」

 


 

「へぇ。こいつ、元海兵隊員らしいわ」
 ソフィーさんがこちらに向いて報告してくれる。
 ちなみにいちいち機械翻訳するのは諦めた
「元? 今は違うってことか?」
「特殊作戦のために正規軍人から抜けたのか、金のために傭兵に入ったのか。細かく聞いてみるわ」

 


 

「You are an ex-Marine? So what are you doing now?」
「You seem like a good soldier, so you know what I mean? My affiliation is a private military company. They pay more for my talents than the military.」
「金目当ての民間軍事会社に転属した口か」
「いわゆる傭兵か」
「次は雇い主を聞いてみるわ。So who is your employer?」
「……Unable to say.」
「Who will die next?」
 ソフィーさんが銃を構える
「Wait! I really don't know.」
「Bullshit, how could you not know who you put your life in trust with?」

 


 

「雇い主のことは知らないと言ってるわ」
「なら指示を聞こう。いよいよそれが本題だ」
「この暗号化されてるターゲットについて聞き出せばいいわけね」
 さぁ、いよいよ本命だ

 

  to be continued……

 


 

2020/12/07

 

「Now, the real question. What is your mission? What is the mystical structure Alpha?」
「I……I don't know. I'm just told to film it for instructions if it shows up... I really don't know what the term "mystical structure alpha" means.」

 


 

「Then at least tell us the full extent of your knowledge of the mission.」
「That's all in the instructions. I don't know anything else.」
「Don't lie. You'll have been briefed on the significance of the operation and at least the top priorities.」

 


 

「we didn't have that briefing. The briefing was held by each unit commander alone. I just replaced it because my captain was injured.」
「What's that? Then where is the original captain?」

 


 

「I don't know. I was attacked by some weird iridescent slime, and I was attacked and killed, so I threw it out of the helicopter.」
「A secret unit dumps the body in the non-right place? Impossible!」
「B…… Because apparently you can't find it」

 


 

「How can you say that?」
「I'm not lying! This is a good luck charm. It was given to all of us to wear it so no one would find it!」
「なるほど。認識阻害のお守りか……。手がかりは掴めたかもしれないわ」
「おぉ、本当か!」

 

  to be continued……

 


 

2020/12/08

 

「この男は知らないらしいわ。詳細は部隊長にのみ伝えられてたみたい。とんだ秘密主義組織ね。で、この部隊の隊長はアクシデントで亡くなって、この男が指揮を引き継いでたみたい」
 なるほど。秘密主義ってのは灰色の男達らしい。より可能性が高まったように思う。

 


 

「では他の部隊を探しましょう。それか、全ての部隊を見つけ出して排除しましょう」
「まず後者はダメだろうな。そもそも占拠してるテレビ局の東京のものだけとは限らない。読切テレビとか大阪だからな。被写体にしたいものを特定してそれを阻止する方が確実だ」

 


 

「では他の部隊を探しますか? 東京にある他のテレビ局は……」
「いや……、ソフィーさん、その死んだ隊長ってのを頼ると言うのはどうだろう?」
「えぇ、出来ると思う。もちろん、隊長を見つけられればの話だけどね」
 流石。こう言う時魔術師は便利だ。

 


 

「隊長は玉虫色のスライムに襲われたらしいわ。おそらく、安曇の使役するレプリショゴスでしょうね」
「あぁ、となると。新宿都庁か桜田門。桜田門の上を通り過ぎるのは目撃してるからそれより前だろうな」
「決まりね。いきましょう」

 


 

「鈴木巡査以下はそいつらの逮捕を頼む!」
 俺は自分の車に乗り込み、ソフィーさんを助手席に乗せ、アクセルを踏み込む。
 目指すは新宿都庁!

 

  to be continued……

 


 

2020/12/05

 

 各遊撃部隊から分霊となった妖狐を撃破しつつあると言う報告が上がる
 そして
「将門塚です。テレポーションルートを発見しました」
 新しいテレポーションルートが見つかったらしい
「あぁ、そうそう」
 助手席のソフィーさんが思い出した、と魔道具を取り出す

 


 

「テレポーションルートの持つ魔性力を探知する術式を編んでみたのよ」
 そういって魔道具を棒状に組み立てるソフィーさん。
search探れ
 ビビッ! っと魔道具が強く反応する。
「なんだ!」
「近いわ! この近くにテレポーションルートがある!」

 


 

「なんだって? 今、霞ヶ関の辺りだぞ」
 既に何度か交戦してるはずだ。
「本当に強いわ。方向はあっちね」
 信号が青になり、前進を再開する。
「あ、弱くなった。方向が動いてる」
「ってことはまんまあのビルか!」
 なら見つけておくに押したことはない

 


 

 次の交差点でUターンし、ビルに横付けして駐車する。
「警視庁刑事部のものです。こちらは……」
 どう説明しよう。
サンフランシスコ警察SFPDのソフィア・コリンズです。我々の追っている参考人が日本に逃走したため、警視庁の協力のもと捜査しています」

 


 

 流れるように偽造証(おそらく)を取り出したな。まぁ言い訳が立つならありがたい。
「よろしければ、少しビルの中を見させていただきたいのですが」
「え、えぇ。それは構いませんが」
 よし。俺たちはお礼を言ってビルに入る。

 

  to be continued……

 


 

2020/12/10

 

「……こいつってさ、触れると転移ができるんだったよな?」
「えぇ。根っこ同士を行き来できるとか。だから、転移できる根っこ、なのでしょうし」
「だよな。で、こいつは確か、都庁にもあったんだよな?」
「そう報告されてるわね」
「なら、これで一気に行くか!」

 


 

「ま、待って。危険な判断すぎるわ。あの安曇が設置してるものなのよ? 一般の人間が触れれば発狂しないとも限らないわ」
「……確かに。なら、安全確認しとくか」
 安曇はクトゥルフ神話をベースとした使い魔や魔術を使うらしいからな。聞くべき相手は勿論。

 


 

「安曇? それってクトゥルフベースの魔術師だよね。私の専門とは違うんだけどな」
 ところが、ノルンの反応は思ったより冷たかった。
 "外なる神"ってそういうことじゃないのか?
「まぁ、危険がないかってことだよね? 魔術的防御は貼っといた方がいいかもね」

 


 

「魔術的防御?」
「うん、結界とか。"見た"ところソフィーさんと一緒みたいだから、貼って貰えばいいよ。あと、目は閉じたままの方が安全だと思うよ」
「それさえ守れば使っても平気?」
「多分ね。ジュニアと直接戦うわけじゃないだろうし」

 


 

 直接……やはりどこかに本体がいるのか。そして、ジュニア……。安曇もそう呼んでたと聞いている。こいつは何かの子供なのか?
「せっかく電話してくれたから、一個だけアドバイス。目標であるレプリダゴンを君達だけで見つからずに倒すのは不可能だよ」

 


 

「レプリダゴン!? 待ってくれ、目標とその場所を知ってるなら、教えてくれても」
「肩入れしすぎになるからダメ。私、その件には中立を保ってることを条件に見逃してもらってるからね」
 見逃してもらってる? ノルンとしても灰色の男たちは脅威ってことか。

 


 

「そうか……」
「でも、大丈夫。安曇が逃げてた異世界があるでしょ、そこから安曇を追う追っ手が現れるから。そいつが現れたタイミングで、レプリダゴンの隠蔽している神性を暴かせればいい。それで、追っ手にレプリダゴンの位置が分かるよ」

 


 

 電話が切れる。
 ……相手が神性を持つ存在であるレプリダゴンなら、わざわざこいつに触れる危険を冒してまで尋問に行かなくても、神性に敏感に反応するユキなら見つけられるんじゃないか?
 と思ったが、あの子を反神性の少女とは扱わないと約束したんだったな
 俺は意を決して、ソフィーさんに結界を張ってもらい、そして、テレポーションルートに触れた。

 


 

 そして、触れた直後に見えた風景を見て、思った。
 ……險?繧上l縺滄?壹j逶ョ繧帝哩縺倥※縺翫¥繧薙□縺」縺

 

  to be continued……

 


 

2020/12/11

 

 気がつくと、都庁の一角だった。
「大丈夫?」
 ソフィーさんが心配そうに見ている
「あ、あぁ。大丈夫。なんか全身がズキズキするな……」
「そりゃそうよ。転移が終わったと思ったら、突然気が触れたみたいに暴れて壁にタックルし続けてたんだもの」

 

  to be continued……

 


 

2020/12/10

 

 参ったな。全く記憶にない。
 俺の認識だと、ルートに触れて、直後、今に至る。
「あぁ、部分的に記憶は削らせてもらったわ。軽い記憶封印じゃ手に負えなくて、不可逆的な記憶破壊までしたから、頭痛とかしたら無理しないでね」
 何か物騒な事を言われている

 


 

 しかしなるほど。普段やってる記憶封印と呼ばれる魔術は、何かの時に思い出してしまう危険性はあるから、可能な限り目撃者は少なくすべしとのことだったが。
 思い出させないためには記憶そのものを破壊しないとならないのか。それは確かにリスキーだ。

 


 

「加えて言うと、記憶を破壊したとしても記憶の断片はやはり頭に残るから、何かのきっかけで断片に触れたりしたら、頭痛とともに思い出してしまうこともあるわ」
 どのみち完全には記憶を消せないのか。
「まぁ普通なら思い出しても夢の内容かな、くらいに思うから」

 


 

 なるほど。常識が理解を阻害するわけだ。
「あなたの場合はそうもいかないからね。残念だけど、今日のことは丸ごと思い出さないようにした方がいいわ」
「了解。気をつける」
「じゃ、ターゲットを探しましょう」

 

  to be continued……

 


 

2020/12/12

 

「前から気になってたんだが、魔道具ってのはみんなそんな形なのか? 組み合わせて形を作る、まるで機械みたいだ」
「確かにね。ただこれは機械文明に馴染んだ人でも使いやすいようにこの形をしているだけで、杖だったり、指輪だったりする魔道具もあるわよ」

 


 

「へぇ」
「例えば、この左手の中指の指輪、これも魔道具よ。まぁこの"マルチツール"の方が圧倒的に便利だからお守りみたいなものだけど」
「マルチツールっていうのか、まんまだな。ちなみにその指輪型の魔道具にも名前があるのか?」

 


 

「えぇ、"スチューデントアイディー"ってね」
「って、学生証?」
「そ。これは私が通ってた魔法学校の学生証を兼ねてるのよね」
「へぇ、だからお守りか……」
 魔法学校って響きには強く心揺さぶられるが、流石にそこまで掘り下げてる暇は……

 


 

「反応あり。あの兵士たちと同じ形式の認識阻害ね。解除するわ」
 何もないところに突如灰色の迷彩服を着た男の死体が現れる。
「さて、じゃ、降霊術の応用で死者と語り合ってみましょう」
 "マルチツール"を人型に組み替えて、死体の上に置く

 

  to be continued……

 


 

2020/12/14

 

「う、ここは……」
 まるで人間のように体を起こした"マルチツール"が言葉を発する。
「日本語!?」
「あなたに分かりやすいように自動翻訳の魔術もかけておいたの。はじめまして、ここは東京。最期の記憶は覚えてる?」
「あぁ、クソ、俺は死んだんだったか……」

 


 

「覚えてるみたいね。私はあなた達の雇い主と敵対するアメリカの軍人と日本の警察官よ」
 と自分と俺をそれぞれ指差すソフィーさん
「つまり敵か。なら話す事はないな」
「死んだ人間には報酬は払えないでしょう。報酬もない雇い主に忠を尽くす事は無いんじゃない」

 


 

「それはそうかもな。……だが、悪いな。確かに俺の部下は雇われだが、俺は雇われではないんでね」
「なんだと!?」
「いえ、考えられる話よ。リーダーだけにブリーフィングを行った。つまりリーダーは秘密を握らせるだけの信頼を受けていたとも考えられる」

 


 

「全員雇われじゃ、いつ裏切られるか分かったもんじゃないからな。しかし、そうか。もしかして部下に謀殺されたんじゃないかとすら思ってたが、そうではないらしいな」
「なら、死後に思い残すことはないの? 家族への伝言とか、情報をくれるなら引き受けてもいい」

 


 

「ふっ、家族? いないよ。あんたらが霊害と呼ぶものに、奪われちまったからな」
「なっ」
「それで神秘を否定しようってか!」
「そうさ。どうせ止める手段なんてないから教えてやろう。俺たちは東京湾に潜むレプリダゴンが東京国際空港に上陸する様を撮影する」

 


 

「東京国際空港か!」
 また一気に引き返すことになるが、仕方ない。
「鈴木巡査、準備を頼みたい。井石警部補と相談していい感じに頼む」
 なんとしても、止めてみせる。

 

  to be continued……

 


 

2020/12/16

 

「大聖護国寺付近でテレポーションルートを発見!」
 そんな報告を聞きながら、俺は港湾に戻るために車を走らせる
 しかしテレポーションルートってのはなんなんだ? 安曇の企みに関わってる事だけは確かみたいだが
「あの根っことダゴンは関係があると思うか?」

 


 

「先にあなたの見解を聞かせてもらっても?」
「あぁ、あの根っこは囮だな。そもそも最初に発見された場所を見てみろ、たまたま霞ヶ関は発見が遅れたが、新宿都庁と霞ヶ関はどちらもレプリショゴスが現れた場所だ。むしろ見つけてくれと言わんばかりだろ」

 


 

「確かにね」
「で、一方、着実にエネルギーを溜めてるレプリダゴンの方は現状誰も手付かずと来てる。レプリダゴンという本命があって、あのテレポーションルートはそちらではなく地上に目を向けさせるための囮。そんなところじゃないか?」

 


 

「悪くない線ね。けど安曇って男は理知的な男ではあるけれど、その一方でとても欲深い男はでもある。囮のつもりのものでさえ、可能なら実現したいと思ってる。で、結果的に」
「二兎追うものは一歩も得ず。……いや、二つの椅子の間に座ろうとして落ちる、か」

 


 

「わざわざ英語的な表現にしなくてもいいわよ。正直由来もよくわからないし、ウサギの方が分かりやすいわ」
「そうか。まぁ要するに、どちらも止めないと、って事だな」

 

  to be continued……

 


 

2020/12/18

 

「しかし、そうすると、あの根っこはなんなんだろうな」
「少なくとも転移中に見える光景は人間が正気を失うのに十分なものみたいだけど」
「あぁ……。ん、そいや、マーイウスは何か見てないのか?」
 気付く。俺についているマーイウスなら何か気付いていないか。

 


 

「あれは世界が分たれてなお、世界中に張り巡らされし世界の裏側の根。……厳密にはそのものではなく、それを模したもの、と言ったところか。どこからか本物の一部を持ってきて挿木して育てたような……」
「すまんイマイチ理解が遠い。似た存在を知っているのか?」

 


 

「月が生まれるより以前に"発生"し、今に至るまでの間に、世界の裏側、その全てに根を下ろし、今なお拡大を続ける名前も忘れられた古い神の一柱。だが実体は何もない。限りのない空虚とでも呼ぶか、要は存在、大きさ、範囲といった概念のことごとくを超越するものだ」

 


 

「それって、その、最近は人類に新しい名前がつけられたりしてないか?」
「人類の世界に来てからは短い。だが、確かに忘れ去られた思えぬ神性力だ。類似した何かを信仰する者があるのかもな」
 なるほど。となると、あの根っこの正体は……。
 いや、そういえば下手に名前をつけると良くないんだったか。なら名前はつけない方がよさそうだ。
 にしても
「安曇ってやつは世界を滅ぼしたいのかね」
「というより、召喚に成功した先のことは考えてないのよ。力を持ったから試したい。奴の思考はそれだけなの」

 


 

「迷惑な話だ」
「全くね」
 そして港に到着する。
 そこに待つのはいざという時のために手配しておいた海洋研究開発機構が所有する有人潜水調査船である。

 

  to be continued……

 


 

2020/12/19

 

 調査船が深度を下げていく
 操船しているのは月夜家の分家の一つ十六夜いざよい家の人間らしい
 討魔師である月夜家の者たちに一般技能で奉仕するために様々な資格を持つ変わった家系なのだとか
 井石警部補によると十六夜の弁護士にはよく力を借りてるらしい

 


 

 月夜家、討魔師のトップでこそなくなってもその影響力はいまだに健在って感じがするな
 今の当主には野心がないようだが、その次の代に野心があれば、いつかまた月夜家が復権することもあるのかもしれないな
 なんでトップから落ちたのか詳しくは知らないが

 


 

「潜水調査船を用意するなんてすごいわね。このことを予測してたの?」
 一方何も知らないソフィーさんはこれを先見の明も感心している。
「いや、まぁ、そこまで確度高くは予測してませんでしたが、念のため」
 嘘偽りない事実で返す。

 


 

 実際には、「クトゥルフといえばルルイエとかいう海底都市ですし、海底を探査できる装備が必要になるはずです」などと熱弁した人間により宮内庁に稟議が行き、本当に予算が降りてしまった、という真相が待っている。

 


 

「前方、構造物!」
「こちらも感じた。前方に神性反応あり!」
 投光器の光をオンにしてモニターから見ることができたのは
「巨大な……イカ?」

 

  to be continued……

 


 

2021/01/18

 

 巨大なイカは、潜水調査艇の光を浴びてもみじろぎひとつしない。
「作り物か?」
「表皮を回収して分析してみますか?」
「してみよう」
 頷くと、潜水調査艇が巨大イカに接近する。
 巨大イカにぶつかってしまわないよう適度に逆進を交えつつゆっくりと前に進む

 


 

 巨大イカの目前で停止し、潜水調査艇の前面左右についた三本爪のマニュピレーターのうち片方が爪を開いて巨大イカに伸びる。
 マニュピレーターが巨大イカにくっつき、マニュピレーター中央につけられているサンプル回収用の杭上の何かが巨大イカに打ち込まれる。

 


 

 直後、巨大イカが暴れ出した。
 船体が大きく揺れる。
「なんだ!」
「触手の一つと衝突しました。攻撃です。逆進します」
 潜水調査艇が慌てて逆進を始める。
「乗り込む前に構造強化の魔術を使ってもらってて助かった。じゃなきゃ今頃海の藻屑だ」

 


 

「危機は去ってないわよ」
「そうだった。地上の通信機と接続してくれ、情報を本部に伝える」
「出来ません、地上と繋いでいた光ファイバーが切断されました」
「くそっ。浮上は出来るのか?」
「なんとか」
「なら、浮上しよう、生還して報告しなければ」

 


 

「ダメです。あの巨大イカが動き出すと同時にあいつを中心とした半径500mの範囲にドーム状の壁のようなものが展開されています、おそらく何かしらの結界と思われます」
「俺たちを逃がさないつもりか!」
「あるいは、神性を外に逃さないためかもね」

 


 

「そうか、神性を纏ってるからいつかは気付いてもらえるかと思ったが、それすら許されないのか」
 なんとか、俺たちで凌ぐしかない、ってのか。この化け物イカ相手に……。
 ん、そもそもなんでダゴンがイカなんだ? これじゃクラーケンだ

 

  to be continued……

 

 

次回更新は明日の19時〜19時30分頃を予定しております

お楽しみに

 

 

AWsでは現在2021年の正月を祝う書き下ろしイラスト&エピソード付カード「思い出カード」を販売中です

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  to be continued……

 


 

2021/01/19

 

 ダゴンと言えば、古代メソポタミアで信仰されていた神でエンキとも同一視される存在だが、聖書において悪神として取り入れられ、以降欧州では悪神として知られている
 魚の神とされるのは19世紀以降の事で、意外と新しいが、それにしてもイカだとは聞いたことがない

 


 

 クトゥルフ神話にはまだまだ明るくないが、半漁人の末裔が信仰する存在というくらいだから、半魚人か魚だろう
 むしろ頭足類に似た頭部に触手を持つと言われているのは、神話の名前にもなっているクトゥルフの方のはずだ
 ならあれはダゴンではなくクトゥルフ?

 


 

「いや、それにしては今度はイカすぎる」
 クトゥルフは顎髭のような触手で、歩行は二足歩行、背中に翼を持つはずだ。
 何か見落としがあるのか?
「埒があかない、私が出る」
 ソフィーが立ち上がる。
「潜水服も無しでか? 危険すぎる」

 


 

「だがこのままでは死を待つだけだ」
 ソフィーさんが魔道具を拳銃型にして、二つのパーツを取り外す
 一つを腰のベルトにつけると、バリアのような壁が出現する。外の水圧に耐えるためだろう
 そして、もう一つを口に咥えた。まさか、それで呼吸が出来るのか?

 


 

 ソフィーさんが天井の水密扉を開けてエアロックに入り、水密扉を閉める。
 俺も何かを考えないと。あいつが神性を持っている以上、あれはなんらかの照応が成立してるはずだ。それを見抜ければ、勝てる。
 考えるんだ、ダゴンがイカである理由を。

 

  to be continued……

 


 

2021/01/20

 

 敵の巨大イカの触手をソフィーさんがビームソードのような武器で切り払う。
 切断、は出来てないようだ。神性の力で拮抗しているのだろう。
「ってことは、あれが神性を持ってるのは間違いない」
 クラーケンなどは俺の知る限り神であるなんて話はないから違うか

 


 

「いや、待てよ……」
 スマホを取り出す。画面右上に圏外の表示。
「あ、光ファイバーケーブルが切断されたんだった」
 クラーケンは北欧の怪物だが、ヨーロッパに伝わる中で、ギリシャ神話の神様と同一視されていたような気がする。

 


 

 いや、同一視ってほど大きな説じゃなかった気がする。
 ただ、それなりに有名なギリシャ神話モチーフの作品で代わりにクラーケンが割り当てられてた存在がいたような。
 くそ、思い出せない。関係あるかは分からないが、いちかばちかで、聞くしかないか。

 


 

 無線機を取り出し、ソフィーさんに合わせる。ソフィーさんはあの魔道具で通信すると言っていた、繋がるはずだ。
「中国巡査、くっ……、戦闘中に……どうしました?」
「すまない。ギリシャ神話モチーフなんだが、クラーケンが出てくる映画覚えてないか?」

 


 

「えぇ? ちょっとこんな時に何を」
「こいつの正体と関係があるかもしれない、それで弱点を暴けるかも」
 半ば嘘だが、仕方ない。
「なるほど。ギリシャ神話モチーフでクラーケン、って、あれじゃない?」
「心当たりがあるのか!」

 

  to be continued……

 


 

2021/01/21

 

「ケートスじゃない? 鯨の語源になった怪物」
「それだ! ゼウスかポセイドンに作られた説とテューポーンとエキドナの間に生まれた説があるが、どのみち神性を持つ可能性は高い」
「けど、安曇がレプリ・ケートスを用意することになんの意味があるのよ」
「そうか。確か、ケートスは東洋の竜やマカラの源流となっているという解釈があるはずだ。一方でマカラはメソポタミア文明のスクル・マーシュが元となったという説の方がずっと有説だ。そして、マクル・マーシュはメソポタミアにおけるエンキの象徴とされている」

 


 

 そして、そう、さっきダゴンについて振り返った時にエンキの名前を出したよな。
「そして、シュメール文明において、ダゴンとエンキは同一視されている。繋がった! こいつは、クラーケンとの照応を基幹として同一視に同一視を重ねたダゴンのイミテーションだ」

 


 

「名付けるなら、クラーケン=ケートス=マカラ=エンキ=ダゴンってとこか」
 その瞬間、何かがカチリと噛み合った感覚を覚えた。ずっとズレていた何かがカチリと合わさる感覚。そうか、俺の名付けでこいつの存在が"承認"されたのか。
「同一視を重ねれば重ねるほど…」

 


 

「皆まで必要ないわ、中国!」
 つまり、同一視すればするほど、その弱点が増える。
 ダガンやエンキには弱点と言えるほどのエピソードはないが、ケートスにはある。
 ソフィーさんの銃型魔道具の銃口に当たる部分から目のようなデザインの魔法陣が出現する。

 


 

 即ち、ケートスの死因。
 単にペルセウスに剣で倒された、という説もあるが、別の説では。
 ーー曰く、ペルセウスはその時持っていたメドゥーサの首を突きつけ、ケートスを石にしたという。
 ソフィーさんの魔術が発動し、目のような魔法陣から光の線が伸びる。

 


 

 光の線が神性の防御を無視して巨大イカに突き刺さり、巨大イカが即座に石と化す。
 俺たちの脱出を阻んでいた周囲の結界が消滅する。
「やった! 後は、より強い戦力を呼んでくれば勝ちだ!」
 喜びの直後、俺たちは強い衝撃に襲われた。

 

  to be continued……

 


 

2021/01/22

 

 突如、海が割れた。
 一瞬の出来事だったが、俺は確かに見た。
 天頂方向から一筋の赤い光線が降った。その光線がとんでもない熱量を持っているのだろう、まるで光線を水が避けるかのように、光線が触れるより先に周囲の水が蒸発して白い湯気へと変わっていく。

 


 

 赤い光の筋は違うことなく巨大イカの中心部を貫いた。
 そして、赤い光線が通過し、空白地帯となったその場所に周囲から水が流れ込み、一帯は水流が乱れる
「ソフィーさん!」
 水流に揉まれる潜水艇。ただ立っていたソフィーさんは潜水艇からどんどん離れていく

 


 

 モニター越しにソフィーさんを追おうとして、水が流れ込んで見えなくなりつつある空に、それを見た。
 ――白銀の、ロボット?
 さながらSFアニメのような、白銀のロボが黒い銃のような武器をこちらに向けていた。
 ――まさか、ビームライフルってやつか

 


 

 そんなに荒唐無稽な発想でもないだろう。神秘の世界なら、以前の盗人魔術師がシヴァの神性を借りて第三の目から光線を放ったりしていた。
 あれが落日弓なのか、アイジェク・ドージなのか、ブラフマーアストラなのか、それは知らないが、あり得ない話ではない。

 


 

 しかし、まぁ。あの白銀の見た目はちょっとアレだな。あれじゃオカルトってよりSFだ。どこの国の対霊害兵装なんだか。
「構いませんね?」
「え、あ、はい」
 で、なんの話だったんだろうか。

 

  to be continued……

 


 

2021/01/23

 

 何を提案されたのか分からないが、とりあえず頷いた俺に、十六夜家の操縦士が頷き返し正面に向き直る
「緊急浮上符、起動」
 何か明らかに後付けされたボタンを押下する
 直後、潜水調査艇が不自然に安定した、と思ったさらに直後、押しつけるような力に襲われる

 


 

 神性による圧力、ではない
 単に急速に上昇を始めたことによる反作用だ
 今この潜水調査艇は急速に浮上している。バラストを捨てたとか、めっちゃアップトリムとかそういうレベルではない。神秘恐るべし
 光と押し付ける力のせいで外の様子が見えないのが無念だ

 


 

 バシャーンと、おそらくすごい水飛沫を上げたのだと思うとんでもない音がした。
 浮上したのだと理解し、外の様子を見るために、エアロックの水密扉を開けると、先程ソフィーさんが外に出た時に溜まった水が降り注ぎ、全身がびしょ濡れになる。

 


 

 避けて開ければよかった。失敗。
 と、考える暇もなく、すぐに梯子を登り、外とエアロックを繋ぐ水密扉を開ける。
 空はおそらく先ほど持ち上がった水飛沫の影響だろう、虹が出ていた。
 曇りだった空も、雲が何かに引き裂かれたように晴れ空を覗かせていた。

 


 

 先程の白銀のロボットはどこにも見当たらない。どこかに飛び去ったのか……。
「! そうだ、灰色の男達の目的はこれで阻止できたのか?」
 通信機を立ち上げ、連絡を取る。
「ほう、一体誰が我らがダガンの写し身を倒したのかと思ったが……」
 背後から声!

 

  to be continued……

 


 

2021/01/25

 

「お、お前は!?」
 振り返った結果、なんだ、という言葉が出てこなかった
 それはこの前受けたものとは非にならない神性圧力だった。さりとて、地面に押し付けるわけでもない
 言うなればそう、ただそこに神がいるという事実を突きつける圧倒的な力を感じた

 


 

「おいおい、お前は我らの野望を一つ打ち砕いた賢者だろう? 私が誰かも分からんか?」
 こいつが、誰か、だと。
 神性を持つことから、なんらかの神、あるいはそれに属するものなのは間違いない。ましてこの圧倒的な力、おそらくは主神クラス。

 


 

 そしてあいつはなんと言った? 「我らがダガン」、だと?
 ダガンとはダゴンのシュメール神話での呼び方だ。ダゴンは聖書に載せられるにあたってヘブライ読みされた事で生まれた呼び名なのだ。
 つまり、こいつはダガンを下に見れるだけのメソポタミアの神?

 


 

 エリドゥの町の単一宗教の主神でもあったエンキと同一視されるダガンより上の神性なんて、数えるほどしかいない。
 神々の中の神と言われた主神・エンリルか……。
 いや、他にいるじゃないか。神を下に見る、そして自身の神であった神話の英雄が。

 


 

 そいつが今東京にいるというのは既に知っていた情報だ。
「そうか、ギル……」
 いや、待て、誘導されて呼びそうになったが、本当にいいのか? こいつをそう名付けてしまえば、それが本当になりはしないか?
「なるほど、名付けを警戒して沈黙を守ったか」

 


 

「噂通り利口なようだ。気に入った。そう警戒するな、少し話があって来たまでよ」
 話だって、冗談じゃない。はやくソフィーさんが浮上してこないかな、海面の様子を眺める。
 あるいは、他の誰かが助けに来るのでもいい、なぜかどこかに言ったアンジェとかな。

 


 

 そういえば向こうのほうでまたティルトローター機が飛んでるな。灰色の男たちの撤収か?
「というわけだ、悪い話ではあるまい? 呑むのなら私の手を取れ。それで契約成立だ。
「あ、はい」
 反射的に手を取る。やべ、話、聞いてなかった。

 

  to be continued……

 


 

2021/01/26

 

「なら、契約成立だ。行こう、我らが、あるべき場所へ」
 何かがカチリとハマったのを感じる。強制ギアスの類か。やべぇな。
「させないよ!!!」
「ぬっ!」
 空から声がして、ギルガメスが俺の手を離して、エネルギー体の剣らしきものを出現させる。

 


 

 エネルギー体の剣で受け止められた空からの一撃を放ったのは、虹野さんだった。
「『聞き逃してバビロニア』だか『聞き逃して灰色の男』だか知らないけど、そんなの私が阻止しちゃうよ」
 そして、よく分からないことをよく分からない方向を向いて言った。
「ぐっ、古き神を淘汰する伝承を持つ武器か」
 ギルガメスが表情を歪める。
 言われてみれば、使ってる武器がいつもの加州清光じゃないな。
「エンキドゥ!」
 ギルガメスが左手で鮮やかな小さな結晶を取り出し、叫びながら岸の方に投げる。

 


 

「はい、ギルガメス様」
 岸に視線を向けるとゴシック風の黒い服を纏った少女が立っていて、ギルガメスが投げた結晶をキャッチし、自身の口に含んで、飲み込んだ。
「武器化」
「はい、ギルガメス様」
 少女が光へと変じ、そしてその姿を黄金の剣へと変える。

 


 

 そしてその剣は速やかにギルガメスの左手に収まる。
 同時、ギルガメスはその剣を虹野さんに向けて振るい、虹野さんは大きく後ろに飛び下がる。
「ヒナタちゃん、足場!」
 虹野さんの足に刻まれたルーン文字が煌めき、虹野さんが着地する海を凍らせる。

 


 

 よかった、この狭い潜水調査艇の上で戦うつもりなのかと思った。
 まぁ一帯の海が凍ってるから、潜水艇は移動不能だけど。十六夜の人たちも可哀想に。
「またその造魔頼り? 女の子に守ってもらえないと戦い一つ出来ないの?」
「ふん、弱点を補って何が悪い」

 


 

「そのおもちゃには驚かされたが手がそれだけなら、もう終わりだな。私がこいつを連れて離脱する方が早い」
 あ、俺、依然としてピンチか
「まさか、カラちゃんも足止めのために先に来ただけだよ」
 カラが肩をすくめると同時、頭上にティルトローター機が飛来する

 


 

「カラ、ご苦労でした」
 そこから降り立ったのはアンジェさんと英国の魔女
「これでもそのお荷物を連れて逃げられるかな?」
「なら、お荷物ではなく役立った貰うことにしよう。契約に基づき、私を助けろ」
 ぐっ、逆らおうとすると体の奥が痛い

 

  to be continued……

 


 

2021/01/27

 

 痛い、ではなくて、苦しい。これが強制の呪いか
 やむなく虹野さんとアンジェの方に向き直り、夜霧を抜刀すると、一気に苦しみが緩和された
 なるほど、ギルガメスに逆らおうとすると苦しみが発生するのか
 まだ苦しさが残っているのは、これが本気ではないからか

 


 

「イペタム! マーイウス!」
 呼ぶ事により、空飛ぶ刀と吸血鬼然とした悪魔が俺のそばに現れる。
「え、なんでこっちに刀向けるの、私、確かにヴィランだけど今回はどっちかというとヒーローサイドだよ!」
 虹野さんが何か良く分からない不満をぶつけてくる。

 


 

「恐らく、なんらかの呪いをかけられているのでしょう、ヒナタに解呪させましょう」
「って事は、峰打ちだね!」
「ですが、厄介なのはロア化した二体の使い魔ですね。どの程度思考するのかによりますが、解呪を邪魔するようであれば、排除するしかありません」

 


 

「じゃ、アンジェが使い魔、私がギルガメス、ヒナタちゃんが中国巡査?」
「いけますか、ヒナタ?」
「アンジェちゃんさえ、使い魔を抑えていられるならね」
「なら問題ありませんね。作戦開始」
 アンジェと虹野さん、そして英国の魔女が前進してくる。

 


 

 ゾワゾワと苦しさが這い上がってくる。迎撃せよ、とそう言うことか。
「イペタム、マーイウス、(ほどほどに)やれ!」
 苦しみが消えない。
「あー、もう、じゃあ全力でやれ」
 消える。くそ、なにか逃れる方法を探さないと、このままじゃ、最悪死ぬぞ

 

  to be continued……

 


 

2021/01/28

 

 さて、さっきの話し合いの感じだとこっちの相手はヒナタとか呼ばれてたが、英国の魔女か
 英国の魔女がケンのルーンとそれに重ねてウルズのルーンを描く、もはや見慣れた火の玉を放つ魔術か
 と思ったら、そしてそのすぐ右に半分重ねるようにしてイングズのルーン

 


 

 そして、イングズのルーンに指を添え、スマホのスワイプのように横に引っ張る
 すると、火の玉のルーンがエクセルのオートフィル機能の如く複製されていく
 長々と解説しているが、この間、実に1秒に満たない
 十を優に超える火の玉の弾幕がこちらに飛んでくる

 


 

「マーイウス、アンジェを止めろ。そして、イペタム、来い!」
 直前にイペタムを足場に飛び上がる。その間、マーイウスが突撃してアンジェの攻撃を受け止める。
 火の玉は垂直に曲がってこちらに追尾してくる。
「マジかよ、イペタム、迎撃頼む」

 


 

 見ると、英国の魔女は先ほどと同じ手順で火の玉を量産している。
 毎秒10発以上の追尾火の玉とかバカか。普通の人間に使う魔術じゃないぞ。
「ってかそれ、焼け焦げて死ぬだろ!」
「全身火傷でのたうち回るくらいで済むよ!」
「それは済むって言わない!」

 


 

「どうせルーンで回復して終わりなのにー」
「どうせ死なないから、死ぬほど痛くてもいい、みたいな理論だろそれ」
「死ぬよりはマシでしょ!」
「マーイウスは俺を庇え!」
「その判断は少し遅かったね」
 火の玉が見えない方向が、ない?

 

  to be continued……

 


 

2021/01/29

 

「うわぁっ!?」
 覚悟を決めて目を瞑った直後、体を大きく引っ張られる浮遊感を覚える
 目を開けると、ギルガメスの持つチェーン状の何かに引き上げられていた
「カラ、ちゃんとギルガメスを惹きつけて!」
「やってるけど、この造魔には神性がないんだもんな」

 


 

 バンっという大きな破裂音が鳴り、金属と金属がぶつかる音がして、俺は地面に落下を始めた
「ディー、バレットを持ってきていたんですか?」
「念のため、な」
 アンジェが声をかけた方向を見ると、先程のオスプレイが後部ハッチに伏せてライフルを構える男が一人

 


 

「ほう、ちょうど良い。やつを倒せ。バフも2倍だろう」
 ギルガメスの声に従い、視線をディーと呼ばれた男に向ける。
 不思議と、力が湧き出てくる。これは……ノルンに付与された強制の呪い?
 あの男はノルン達が外来種と呼ぶ存在に連なるものなのか?

 


 

 しかし、ダゴンやレプリショゴスと戦った時はこの感覚はなかった。やはり、ノルンが言う外来種ってのはクトゥルフ系の事ではない、のか?
 なんにせよ、逆らえない以上はやるしかない。なんとか止めてくれよ、みんな。

 


 

 敵の武器はスナイパーライフル。詳しくはないが、スナイパーライフルってのは一発撃つごとにボルトを操作する隙が出来るはずだ。フィクションの創作ではない事を祈りたい。
 とにかく前進して撃たせる。一発目を凌げば、そこに勝機があるはずだ。

 


 

「ぐっ、こっちに来るのか」
 ディーと呼ばれた男が一瞬怯む。
「中国巡査の回収を優先します。ディー、動きを止めて下さい。カラが回収を。私とヒナタでギルガメスを足止めします」
「はーい」
「分かった。
「こちらも、了解だ」

 


 

「迸れ、ライトニングボルト」
 ディーのライフルの銃口に魔法陣が出現する。
 げ、魔術まで使うのかよ。
 現代の魔術師たる英国の魔女も現代武器そのものと魔術の相性は良くないって言ってたのに!
 引き金が引かれる。
「イペタム!」

 

  to be continued……

 


 

2021/02/01

 

 イペタムが雷を帯びた銃弾を弾く。よし、今がチャンスのはず!
「吹き飛ばせ、ウィンドインパクト」
 直後、ディーの銃口に再び魔法陣が現れる。
「え、普通に連射可能?」
「残念ながら、M82A1はセミオートだ」
 そうだったのかぁ……。

 


 

 俺の体は風を帯びた銃弾をにより吹き飛ばされ、そして、意識を失った。

 


 

 目を覚ます。
「目覚めたか」
 窓の外を眺めていたギルガメスがこちらに視線を向ける。
 え、もしかして、みんな負けちゃったのか?
「ここは?」
「𒂍𒋼𒉎𒅍」
「え?」
「む……。そうだったな。日本では、そう、エ・テメン・ニグル、とか呼ばれていたか」

 

  to be continued……

 


 

エ・テメン・ニグル編へ

 


 

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