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聞き逃して資料課 闇夜の盗人魔術師編

2020/06/26

 

 2019年5月26日。書類仕事という極めて資料係らしい、つまり表向きの仕事に従事する日々が続き、束の間の平和を甘受していた。
「あー、俺こういう単純作業の方が向いてるかも。警察クビになったら事務員さんになろうかな」
  などと馬鹿げた話をしつつ。

 


 

「うんうん。それは結構なんだけどね、中国君。悪いんだけど、今日この後残れる?」
「え、もう俺上がり時間ですよね? この後、映画を見る予定が」
  4月24日に公開されたアメコミ映画シリーズの集大成を、大忙しだったおかげでまだ見ることが出来ていないのだ。

 


 

「だとしたら残念だけど、今日は見れないね。これから飯塚市に行くよ」
「飯塚市、ですか?」
  いや、アメコミ映画シリーズの集大成を見たいんだが……
「うん。心不全で一人亡くなった人がいてね。まぁ自然死だとは思うんだけど、一応確認に行かなきゃならなくて」

 


 

 話を聞きながらスマホで調べる。福岡県!?
「九州じゃないですか!?」
「そ。だから、一人で車だと危ないから、運転を交代しながらね」
「いやいやいや。福岡県の資料2係がやってくれますよ」
  警視庁はあくまで東京の警察だ。地方には地方の警察がいる。

 


 

「残念だけど、対霊害捜査班は警視庁にしかないのさ。地方まで出向くのも僕らの仕事。さ、観念して」
  確かに、各地にこんな組織があるとは思えないか。
  まぁ色々抵抗したが中島班に所属してる俺が直接の上司である中島巡査部長に逆らえるわけはないのだ。

 


 

「片道……13時間……」
「まぁ、向こうに着いたら少しは観光する時間もあるよ」
  観光する時間もあるよ? ってことは泊まりなし?
「さ、僕が運転を担当してる間に寝ときなよー」
  マジかよ……

 

  to be continued……


 

2020/05/27

「結局、神秘的な側面は全くなかったですね」
「まぁ、ほとんどがそうだよ」
「ほとんどがそうなのに、わざわざ片道13時間かけて弾丸ツアーするんですか?」
「うん。もし万一呪詛とかだったら、大変だからね」
「呪詛……ですか、それって」

 


 

 どういうものなんですか? と続けようと視線を左に向けると、中島巡査部長はとっくに睡眠モードに入っていた。
「ちぇ、俺も事前に知ってたらアイマスクも耳栓も用意してきたのに」
 次からは絶対に常備しようと心に決める。

 


 

「下関インターチェンジを越えたな。ここからは中国自動車道か」
 26日の18時に飯塚に向かい、27日の7時に飯塚市に到着。
 そのまま、12時まで調査。そして気を利かせてくれたのか本人が楽しみたかっただけなのか、何らかの法律的な問題があったのか7時間の休憩。

 


 

「俺も馬鹿なことをしたよな。素直に適当な施設を見つけて寝るべきだった。いや、車でもよかった」
 しかし、せっかく来たんだからと、ついつい観光を楽しんじゃったんだよなぁ。
 正直聞いたことない場所だったが意外と楽しかった。次は秋に来たいものだ。

 


 

 そんな気が緩んだ直後、ドクンと心拍数が跳ね上がった。
 何かに入った。先程までと異常なほどに空気が違う。
「ぐっ」
 直後、強い重圧が襲い掛か掛かる。そう、例えるなら、強制的に跪かされてるような。
  まずい、前を見れない。

 


 

「ままよっ!」
 左にハンドルを切り、車を壁にぶつけながら、ブレーキを踏む。
「なんだ! これは、神性の重圧か……!」
 車が停止する。依然、重圧は続いている。
 対処するしかないようだ。

 

  to be continued……


 

2020/05/28

「僕は外の様子を見てくる。君は井石警部補に電話して。ここに事情を知らない交通課が来たら面倒だ」
 中島巡査部長が外に出る。まるで重圧をものともしない軽やかな動きだ。
「井石だ」
 眠そうだ。そりゃそうか。なんなら起こしたかも。

 


 

「中国です。今、魔術か何か、ともかく攻撃を受けて、車で事故りました。それで」
「交通課に先に手を回しておけということだな。場所は?」
「えーっと、下関ICをぬけて……」
「位置情報を確認した。……住吉神社のすぐそばだな。少し気になる、中島に伝えておけ」

 


 

 位置情報? と思ったが、そういえば、業務用のlPhoneの位置情報共有がONになってるんだった。
「ともかく、手は回しておく。気をつけてな」
 井石警部補との電話が切れる。夜中なのによくやるな。有事さえあれば夜中でも叩き起こされるわけか。

 


 

 対霊害捜査班の人材不足に思いを馳せていると、中島巡査部長が戻ってくる。
「井石警部補はなんか言ってた?」
「はい、住吉神社のすぐそば、だと」
「ふむ、どれどれ……。たしかに。地図だと今このすぐ真下に文字があるね。降りてみよう」

 


 

 俺を誘って、中島巡査部長が出る。
「あれ、もしかして重圧に苦しんでる? そうか、加護が少ないのか」
 普通この程度の重圧はそうたいしたダメージじゃないからつい、と、笑いながらお札を押し付けてくる。
「楽になった」

 


 

「よし、それじゃあ行くよ!」
 中島巡査部長がかぎつめのようなものを着いた縄梯子をトランクから取り出して降りていく。
 え、これに続けと。
 ってか色々あるな、巡査部長の車の中って。

 

  to be continued……


 

2020/05/29

 岩肌の地面を降りて道路に着地する。
 目の前に鳥居が見える。
「ここが住吉神社?」
「いや、ここは打下社。合祀されていて天神社や貴船社も含んでる。……けど、重圧の出所はここじゃないな、もっと西だ」

 


 

「さっきまでの重圧、もうすっかりなくなりましたけど、なんなんです?」
「神性の重圧。あ、なくなってはないよ、ほい」
 中島巡査部長が札を剥がすと、また重圧が襲ってきた
 札にはこう書かれている
「次生火神軻遇突智、時伊弉冉尊、爲軻遇突智、所焦而終矣」

 


 

「日本書紀でヒノカグツチが生まれたシーンですか」
 自分に貼り付けながら、巡査部長に尋ねる。
「お、よく知ってるね。そう、日本で初めて神が死んだ時の記述さ」
「か、神殺しのお札、って事ですか?」
「まさか。そこまでのものじゃないさ」

 


 

 中島巡査部長が笑う。
「せいぜい、この程度の神性の波動なら防げるって程度かな」
「波動」
「そ。この重圧は神性の力の一端。攻撃とすら言えない、当然のように発生する力の余波に過ぎない。まして、魔性に近い力さ。無理矢理相手の首をたれさせてるんだからね」

 


 

「魔性。人を魅入ったりするような?」
「あぁ。神性と正反対の力。まぁ、端的に言えば、自主的に首を垂れたくなる力が神性、強制的に首を垂れさせる力が魔性、だと思えば良い」
「神と反対の神と同じ力……禍つ神のような?」
「日本ならそれが象徴的だね」

 


 

「なるほど、すると、八岐大蛇やその息子と言われる酒呑……」
「おっと、いよいよ、住吉神社の鳥居が見えてきた。オカルトマニアの好奇心発散はこの後にね」
「はい」
 中島巡査部長が小刀を抜いたのを見て、自分も夜霧を抜く。

 

  to be continued……


 

2020/06/01

「……何者だ」
 神社の鐘の側に立つ男がこちらに振り向いて問いかける。
「我々は警視庁対霊害対策課だ。随分大掛かりな結界を使っているようだが、貴様こそ何者だ」
「答える義理はない。オン バサラダトバン 」
 何か板がこちらへ向く。いや、鏡か?」

 


 

「まさか、まずい、避けろ!」
 中島巡査部長が左に飛ぶ。慌ててこちらも右に飛んだ。
 直後、鏡から白い光線が飛ぶ。掠った肌がジュッと焼ける。
「なっ!」
「鏡は天照大神の象徴だ。そこから太陽そのものを放つ。天照大神の神性をその身に宿しているのか?」

 


 

「オン インドラヤ ソワカ」
 黄色い槍が3つ空中に浮かぶ。
「中国、君は避けろ!」
 電撃を放ちながら、黄色い槍が飛ぶ。
 バラバラに放たれた3つのそれを中島巡査部長は辛うじて打ち落とす。
「その力、天皇の加護か」
中島家うちは天皇家の分家でね」

 


 

 天皇と言えば、神話の通りなら神武天皇から続く神の系譜だ。その分家なら確かに……、あれ、前に聞いた話だと中島巡査部長は婿養子だったような。中島家という家系全体に加護が及んでいる、というようなイメージだろうか。
「そんなことより今のは金剛杵だな?」

 


 

 金剛杵。元はインドの神、インドラの持つ雷、ヴァジュラだ。
「最初のそれは天照、次はインドラ。人一人の身にそこまでの神性を下ろせるわけがない。何をした?」
「答える義理はない。私は我らが所有物を返してもらいにきただけだ」

 


 

 男が鐘に触れる。
「待て!」
「オン バヤベイ ソワカ」
 突風が正面から襲いかかる。くそ、目を開けていられない。
 風が止み、目を開けたときには男はいなくなっていた

 

  to be continued……


 

2020/06/02

「くそ、逃げられた。この住吉神社は三大住吉の一つだ。もしかしたら後二つを襲うつもりかもしれない。急いで福岡に戻ろう!」
「待ってください中島巡査部長、あいつは「私の所有物を返してもらう」と言ってました。あの鐘の状態を調べるのが先決かと」

 


 

「君、相手の話をちゃんと聞いてたのか!?」
 中島巡査部長が目を丸くして驚いた。失礼な。長話だと集中力が続かないだけで、話自体はちゃんと聞ける。
「とはいえ、確かに君の言う通りだ。井石警部補にいい感じにしてもらえるまで調べよう」

 


 

「あ、井石君? 東京に戻る手段を頼むよ。うん、僕らは神社を調べる事にする。あぁ、強そうな魔術師だっだが、底は知れた。無能な上司作戦は続行で行く」
 電話している間に、調べると、すぐに見つかった。
 ここの鐘は新羅鐘だ。重要文化財に指定されている。

 


 

「新羅鐘……。短絡的に考えると」
「魔術師は自国の品を好む。日本人魔術師が国外の日本の品を盗んだ例も多い。ほぼ一人のマギウスだけど……」
 マギウス。メイガスと同じく東方の三博士に由来する。アンジェはメイガスと言ってた気もするが統一されてないのだろうか

 


 

「あの、魔術師、メイガス、マギウスと呼称がややこしいですが、せめて霊害対策課の中だけでも統一しませんか?」
「ん? あぁ。メイガスやマギウスはそれぞれ魔術師のうち一種類を示す言葉として使われてるんだ。例えばさっきのはメイガスだね。おいおい教えるよ」

 


 

 ちゃんと統一されてたのか。まぁ流石にそうだよな。
「しかし、朝鮮鐘が目当てだとしたら参ったな。朝鮮鐘は日本中で47口存在すると言われている。張り込むのは難しいぞ……」

 

  to be continued……


 

2020/06/04

 6月4日。
 結局、朝鮮鐘盗難事件は対霊害捜査班の手に負える事件ではないとして、討魔組に引き継ぐことになった。
 討魔組所属の討魔師は日本中にいるし、候補が日本中にある以上、止むを得ないのは分かるが……。
「手が止まってるよ、中国君」

 


 

「あぁ、いえ、自分が目の当たりにした事件を最後まで全うすることすら叶わないなんて、と思って」
「うん。その気持ちは分かるよ。けど、これまでがまぁまぁ例外的だっただけで、本来対霊害捜査班の仕事ってのはそう言うものだ」

 


 

 それはもう分かっている。対霊害捜査班は、警察という立場を利用し、霊害の疑いのある事件を捜査し、霊害であれば宮内庁に伝え、霊害でなければ元の担当に捜査を返す。
 そもそも最後まで捜査する事の方が本来の職務に反していたのだ。

 


 

「けど、気にかかって仕方ない」
「……はい」
 資料にもあった、君は捜査が公安や組対に移っても独自に捜査を続けてたそうだね。
「え」
 そんなことまで調べられてんの。
「とはいえ、それじゃ困る。という訳で、君には今から一時的に井石班に移ってもらう」

 


 

「え」
「はい。もう僕は君の上司じゃないからね。井石警部補に指示を仰いで。それじゃ」
 中島巡査部長が去っていく。
 正直、話の流れが見えない。
 実働担当の中島班にいたら今後もずっと後ろ髪惹かれてしまうから、調整担当の井石班に……ってことなのか?

 


 

「井石警部補。本日より、井石班に転属されました、中国巡査であります!」
「うむ。中島から話は聞いている。では今より如月事務所に向かい、夕島巡査の職務を引き継げ。詳細は夕島巡査から。以上」

 

  to be continued……


 

2020/06/05

 如月事務所の場所を教わり、早速向かう。
 東京メトロ東西線に乗り、千葉県へ。
 都心から30分程度ってところか。東京に主に仕事があって、かつ賃金を安く抑えたいなら悪くない線だ。
 しかし、如月事務所とは、なんの事務所なんだろう。

 


 

 普通、○○法律事務所、××探偵事務所とか、色々ついてると思うが、単に如月事務所?
 と思いながら、現地に到着する。
 如月探偵事務所。
 なんだ、やっぱり何かついてるんじゃないか。
「えーっと、裏口から入れ、こっちか」

 


 

「中国巡査、お疲れ様です」
 夕島巡査が入り口近くで待っていた。
 それにしても、
「探偵事務所って雰囲気じゃないな、物がめっちゃ適当に置かれてるし」
 ってか外から見た大きさと随分違う。事務スペースと応接スペースくらいしかなさそうだったのに、広い。

 


 

「私も仕組みは詳しくないんですけど、裏口は霊害と縁のある人にだけ見えるんです。そして裏口から入ると、探偵事務所ではなく、如月討魔事務所に入れるんです」
 裏口から入ると全く別の空間に飛ばしているようなものってことか。そりゃ広いはずだ。

 


 

「英国の魔女さんっていう凄いメイガスがルーンを刻みまくって作られてるんだとか。ですからここは一種の魔術的要塞としても機能するそうです」
「招かれざる客対策はバッチリだ、と」
「えっと、それで、俺は何をすればいいのかな?」
「その前に所長に挨拶ですね」

 


 

 確かに。
「お話は終わったようですね。ようこそ、如月討魔事務所へ。私が所長です」
 そう声をかけてきたのは、まぁなんとなくそんな気はしていたが、
 以前にもあった、討魔組の代表を務めるという如月アンジェだった。

 

  to be continued……


 

2020/06/06

「やっぱりアンジェさんか。ってことは、ここは討魔組の本部?」
 呼び捨てで良い、と言われたが、夕島巡査の前なので敬称をつける。警察が民間人にフランクなのは賛否が分かれるので、人目は気にした方が無難だ。
「あ、私は気にしませんので」
 杞憂だったか。

 


 

「まぁ、そうです。ここは私個人が討魔の依頼を受けたり、情報を管理する場所であり、同時に討魔組の本拠地でもあります」
「で、表向きは探偵事務所、と」
「はい。オカルトな事件の調査などを得意としている、と売り出していますので、時折〝本物〟の話が聞けます」

 


 

 なるほど。ある意味、対霊害捜査班と同じって訳だ。
「で、結局夕島巡査はこちらで何を?」
「あれ、中島さんから聞いてないんですか? 朝鮮鐘泥棒の件が気にかかってるみたいだから連絡役を代わってくれ、と頼まれたんですが」
 そう言うことだったのか。

 


 

「中島巡査部長、ただの鬼かと思ってたけど、部下思いだったんだな……」
「いや、まぁ、10月までに出来るだけの知識とコネと戦闘経験を積ませておきたいんだと思いますけどね……」
「でしょうね。討魔組も10月に向けて急ピッチの新人教育を行っているところです」

 


 

 10月に何かあるのだろうか。
 特に思い当たる節はない。十五夜とか?
 神無し月、とは言うが、あの「無」というのは、水無月の「無」と同じで「の」程度の意味であり、本当に神がいない訳じゃない。出雲に1月間ずっと話し続けるわけないもんな。

 


 

 あとはハロウィンか。日本にそこまで根付いた文化とは言えない。ただのコスプレの日かの如き、だ。
 それともジャック・オー・ランタンが暴れたりするのか?
「それでは私はこれで」
 夕島巡査が去る。やべ、二人の話何も聞いてなかった。

 

  to be continued……


 

2020/06/08

「そんなわけでその日までに可能な限り戦力をつけておきたいのでしょう。幸いにも今回はそれがいつになるのか分かっていますし、たった1日で済むのですから、プラスに考えましょう」
 だから、その10月に何があるのか聞いてなかったんだよな。言えないけど

 


 

 今回はいつになるか分かってる、たった1日で済む。
 ってことはハロウィンや神無月の話ではなさそうだ。
「ええっと、まぁ10月の話は置いといて、ですね。私は何をすれば?」
「簡単に言えば緊急時の警察との窓口役ですね。普段はここに詰めてるだけです」

 


 

 それから数日。本当に待っているだけの日々だった。
「中国巡査、岡山県の西大寺で犯人らしき怪しい人間が度々目撃されてるとのことです。直ちに岡山県に向かい、偶然を装って職務質問してください」
 怪しい人間に職務質問。確かにそれは警察向けの仕事だ。

 


 

「分かった」
「中島さんにも連絡お願いします」
「そちらも了解です」
 ダッシュで階段を駆け下りる。
「あなたもついて行きなさい。ただし、気付かれずに。手出しは緊急時のみですよ」
 背後から何か話し声。あれ、アンジェさんしかいなかったような

 


 

 京葉市川インターチェンジから京葉道路を経由して首都高速道路に入る。
 車で8時間か。運転を交代してくれる人がいないから少しキツイかもな。
 もっと素早く移動する手段はないものか。縮地とかあってもいいだろ。そういえば仙人に会ったことはないな。

 


 

 でも、仙人の元ネタって中国の道教か。日本だと陰陽師とかか? 夕島巡査や中島巡査部長の奥さんとかが使う札は少しそれに近い気はするけど。夕島巡査とか「きゅうきゅうにょりつりょう」って言ってたしな……。

 

  to be continued……


 

2020/06/10

 岡山県。また中国地方か。小さい時によく名前で弄られたので、中国地方とか中華人民共和国の略称とか、正直あまり好きではない。
 俺は「ちゅうこく」であって「ちゅうごく」ではないのだ
 そんなくだらないことを思い出しながら、備前ICで山陽自動車道を降りる

 


 

「えーっと、合流する相手は……」
 目印として聞いていた通り、御手洗のそばで立っている赤い帽子の男性に声をかける。
「山」
「崖」
 どうやら、あってたようだ。こんな暗号で大丈夫か?

 


 

「お疲れ様です。ちょうど来ていますよ」
 見ると、参道のど真ん中を歩いて神社を出ようというところだった
 時々不信心ゆえ歩く人間がいるが、参道の真ん中は神様の通り道、人間は端を歩くのが参拝マナーだ
 あいつの場合不信心ではなく神様気取りってところか

 


 

 気取られないように後を追い、神社から離れたところで声をかける。
「あの、もしもし、ちょっといいですか?」
 警察手帳を手に近づく。
「……なんでしょう?」
「こちらで何をされているんでしょうか?」
「何って……西大寺の観光ってとこ?」

 


 

 観光、ね。しかし近づいて気付いたが、アジア系だが日本人とは少し雰囲気が違う。古モンゴロイドの血が強いと言う、中国や韓国のあたりか
「そうでしたか。神社荒らしの多発などから、防犯で巡回しておりまして。気になりましたので声をかけさせていただきました」

 


 

「日本人じゃないから疑われてるんですか?」
「いえ、そう言うわけではなく、その、今週初めから毎日来られてますよね?」
「それくらい好きなんです。悪いですか?」
「いえいえそんな。ただ、一応身分証明書を確認させていただけませんか?」

 


 

「……どうぞ」
「ありがとうございます」
 無線を手にとり、通信する。無線は見せかけでBluetoothでスマホにつながっていて、所轄ではなく資料2係につながっている。
「照会願います。在留カード番号……な、これ、在留資格……外交?」

 

  to be continued……


 

2020/06/11

 翌日。資料2係はピリピリしていた
「韓国大使館にも念のため照会をかけた。彼女は間違いなく本物の、外交官だ」
 奴が犯人なのはほぼ間違いない、もはや身分も分かっている。あとは新羅鐘泥棒として立件するだけだ。にも関わらずこの空気
「外交特権、ですね?」

 


 

「あぁ。僕らでは、奴に手出しできない」
 外交特権。「外交関係に関するウィーン条約」に基づく外交官の持つ権利で、租税の免除などいくつかの条項があるが、その際たるものが刑事裁判権の免除だ。
 つまり、外交官を警察が裁くことは事実上不可能なのである。

 


 

 日本でも何度となく外交特権を取り巻く事件は起こっており、1973年の金大中事件などは最終的に外交官を国外退去処分とした事で有名だ
「よし、奴にペルソナ・ノン・グラータを発動してもらおう」
 俗に国外退去処分と呼ばれるものの正式名称、だ、多分。しかし、

 


 

「それじゃ、奴は母国に帰るだけです。新羅鐘も持ち去られたまま! これ以上盗まれないのは良いかもしれませんが、それじゃ」
「そこは問題ない。韓国の対霊害組織に奴が霊害だと通達する。帰国した奴は、そこで捕まる」
 俺の反論は中島巡査部長に否定される。

 


 

「それで、本当に返ってくるんですか? 韓国に渡りそのまま戻ってこなかった——」
「中国巡査、それ以上は失言だぞ。韓国の対霊害組織も我らと志を同じくする同志だ。過去に何度も合同作戦をとったこともある」
「ぐっ……」
 それは、そうなのかもしれないが。

 


 

「方針は以上だ。そのためにも奴が犯人だという証拠をこれでもかと集めろ。井石班、夕島君は如月事務所に詰めて連絡係を。井石警部補も、動くときに備えて他部署との連携を強めてください。他は捜査だ」
 捜査。捜査だ。まだやりようはある。

 


 

「中国、このところ、長距離移動が多いな」
「はっ。ですから——」
「休みも消化できていない。数日休みたまえ」
「この状況でですか? なぜ?」
「ハッキリと言わなければ分からないか? このタイミングで暴走されては困る。国際問題にまで発展しかねない」

 

  to be continued……

 

※この物語はこことは違う世界の物語です。この作中に登場するあらゆる組織、人物はこの世界の組織や人物などとは一切関係がございませんことを改めて宣言させて頂きます

 


 

2020/06/12

 深夜。俺は車を走らせていた。
「やっと岡山県か。オービスや監視カメラを避けるためとはいえ、随分時間がかかったな」
 向かう先は岡山県西大寺。あの外交官、闇夜に乗じて現れる盗人魔術師が次に狙っているだろう場所だ。

 


 

 経験上、尻尾を掴まれたと感じた犯人の行う行動はいくつかの種類に分けられる。一昨日のピンポイント職質は彼女にその確信を与えているはず。
 そして彼女のようなタイプは、疑いが確信に変わる前にさっさと計画を前倒しにするタイプだ。

 


 

「来た!」
 覚えのある頭痛。中島巡査部長から貰ったままの札を自身に貼り付ける。
「そこまでだ。朝鮮鐘泥棒の現行犯で、逮捕する」
「ふっ、誰かと思えば一昨日の職質警官じゃないか。待ち構えていただろうに投光器も無いどころか、お前一人?」

 


 

 え、顔が割れてる? そうか、認識阻害の札を持ってきてないんだ。
「大方、お前一人の暴走だろう。韓国大使館から正式に抗議を入れさせてもらうとしよう」
「うるせぇ、ここでお前を倒して、そんな事させねぇよ」
 夜霧を抜刀する。頼むぜ、相棒。

 


 

「オン マケイ シバラヤ ソワカ」
 駆け出すと同時に
 相手の額に光が刺す。なんだあれは、額に……第3の目?
「下らない正義感の発露などつまらん、一瞬で疾く焼け落ちろ」
 第三の目がこちらを真っ直ぐ見据える
 近くにつれ瞳がよく見える。瞳孔がカッと見開く

 


 

 危機感を感じて体を左に投げ出す。
 直後、自身のいた場所を鋭い熱線が通過する。
 脅かされたが、連射は効かないはず!
 受け身を取って速やかに体を起こし、斬りかかる。
 しかし、伸縮する棒のような武器で防がれる。先端が三叉に分かれた槍か。

 

  to be continued……


 

2020/06/13

「情欲と宇宙すら尽く灼き尽くす第三の目、そして三叉の槍。インド神話のシヴァか」
 あるいはヴェーダのルドラ。
 第三の目がこちらに向く。
「くっ」
 目とは反対の方向に横へ横へと逃れるが、そんな甘い移動では避けられない。
 いや、だが撃てないはずだ。

 


 

 確証はない。だが、相手の動きを見る限り、あのレーザーを撃つには、動きを止める必要があるはずだ。本物のシヴァのように、見るだけで灼けるわけではない。
「つまり、動き続けてクロスレンジで戦闘をしてれば、それは撃てない、所詮ただの牽制、そうだろ?」

 


 

 もちろん、ただ、視線を向けるだけで牽制になるというのは純粋に脅威ではあるが。
「ノウマク サマンダ ボダナン ラタンラタト バラン タン」
 背中に背負ったパックパックからアームが飛び出す。数は4。都合6本の腕だ。
「あまりに小癪。終わらせる」

 


 

「オン アラキシャ サジハタヤ ソワカ」
 アームの一つが剣を装備する
「オン イダテイタ モコテイタ ソワカ」
 アームの一つが投槍を装備する
「ノウマク サンマンダバザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン」
 左手が見た事ない機械を取り出す

 


 

 スイッチを押すと炎が吹き出す。炎の剣ってか。魔術師ってそんな科学兵器も使うのか。
「オン アミリタ テイセイ カラ ウン」
 アームの一つが輝く槍を装備する
「オン・牛頭・デイバ・誓願・随喜・延命・ソワカ」
 アームの一つが十束剣を装備する

 


 

「6つの武器。これはやばいな」
 それより明らかに最後の異質な真言は牛頭天王のものだ。本来は魔除の神だが、スサノオノミコトとの習合から、縁結びなどの利益もあるとされる。む、スサノオ……、まさかあの十束剣は……
「流石に魔力が持たん。疾く消えろ!」

 

  to be continued……


 

2020/06/15

 魔力、というものを感じたことのない俺だが、流石にまずいということは理解できた。
 熱でも無い、当然なんらかの物体でも無い、何かを強く強く感じた。肌をチリチリと焦がすように、俺に恐怖を植え付ける。
 左手が大きく持ち上げられる。

 


 

「頼む、夜霧!」
 叫ぶ。同時に夜霧がその名前の由来だった闇色のオーラを纏い、第一撃目、炎の剣を受け止めた。
「なっ、えっ?」
 炎の剣は、超短射程の火炎放射器だ。つまり実体がない。
 にも関わらず、夜霧はそれと唾ぜりあっていた。

 


 

「隠し球を持っていたか。しかし」
 アームが稼働しこちらに狙いを定める。
 4つの槍と剣。炎の剣と切り結んだ状態では、とてもじゃないが、勝てるわけがない。
 ——こうなったら一か八か!

 


 

「此度王政復古神武創業ノ始ニ被為基、諸事御一新、祭政一致之御制度ニ御回復被遊候ニ付テ」
 うろ覚えだが、やれるだけやるしかない。
 しかし、この世界やアニメやゲームとは違う。剣と槍を突きつけられた状態で、長々と呪文を唱えるなど許されるはずもなかった

 


 

 剣が突き刺さると思って、恐怖からつい目を閉じる。
「速やかに!」
 しかし、聞き覚えのない言葉が響いた直後、轟音が響く。
 死んで、ない?
 目蓋を開く。
 見たことない人型のナニカが、6体、それぞれの武器を押さえ込んでいた。
「馬鹿な、悪魔だと!?」

 


 

「我が手勢でも、そう長くは持ちません、こちらへ」
 後ろから声がする。
「逃すか!」
 直後、俺の視界は暗闇の中へと消え、そのまま意識も途絶えた。

 

  to be continued……


 

2020/06/16

「随分無茶をしてくれたね、中国巡査」
 気がつくといつものベッドだった。
「あぁ韓国大使館から抗議が来ている」
「刑事部長がお冠でね。この件にはこれ以上触れるな、と」
「そんな! このままじゃ、新羅鐘が」
「それを君がいうのか、中国巡査」

 


 

 井石警部補がこちらをまっすぐと見据える。
「君があのようなスタンドプレイに走らなければ、調整し切る余地はあったんだがな」
 そうだ。全てを台無しにしたのは、俺か……。
「改めて伝える、中国巡査。君には謹慎を命じる。一週間、自宅で休め」

 


 

「……はい」
 従う他、無かった。
 一週間。今日が10日だから、17日までか。
 長いな。いや、事態に対して一週間ってのは……。
「君が戻ってくるまでの間にこの件に何かしら手を打てないかこちらでも考えておく。今度こそ、本当に休んでいてくれよ」

 


 

「はい。もちろんです」
 一週間後。その時こそ、リベンジだ。
 自宅謹慎? 上等だ。その間に、あの女のカラクリを完全に暴く仕組みを考える。

「ふぅん。諦めてないのか。じゃ、一度報告に戻ろう」

 

  to be continued……


 

2020/06/17

 6月17日月曜日。謹慎が解けて、出勤する。
「来たね。それじゃ、作戦を説明しよう」
 皆が集まっていた。
「問題の外交官だが、貸し倉庫を借りてることがわかった。さらに、大使館内でこっそりと聞き込みをしてもらった結果だが、誰もその中身を知らないらしい」

 


 

 秘密の貸し倉庫、それはいかにも怪しい。
「もちろん、単なる趣味の逸品という可能性だってある。これは最後のチャンスだ。これが大当たりで見事証拠品ゲットとなるか、大はずれで資料2係解散となるか」
 か、解散……。

 


 

「解散どころか、懲戒免職もあり得るだろうな」
「だね。もうみんなの意見は聞き終えた。中国巡査、君はどうする?」
「決まってます。俺が招いたピンチですから、おれが俺の進退をBETしないわけにはいきません」
「よく言った」
 中島巡査部長は少し嬉しそうだ。

 


 

「どうやら、昨日、奴は犯行に及んだらしい。そして奴は盗みの翌晩にいつも倉庫を訪れている。つまり」
「今晩が狙い目ってことですね」
「その通り。先週の中国君と奴の会話の記録のおかげで人違いや成りすましの可能性は消えた。初手から攻撃を仕掛ける」

 


 

 対処できず昏倒すればよし、抵抗するならそのまま戦闘、か。日本の警察とは思えない戦術だ。
「残念ながら奴の力の出所は分からず、対処も困難だが……」
「いや、それはもう、多分出来ました」
 中島巡査部長の言葉を遮る。

 


 

 俺の説明に皆が頷き、後はいよいよ今晩を待つのみとなった。

 

  to be continued……


 

2020/06/18

 深夜。貸し倉庫。犯人が見える。
「夕島巡査」
「はい」
 初撃の不意打ちを担当するのは、札術を使う夕島巡査だ。
 本来なら、英国の魔女や、あるいは遠隔攻撃系血の力を持った討魔師の方が強いが、今回は警察としての活動なので、そう言った力は頼れない。

 


 

 札が飛ぶ
「!」
「避けた? 神性で受け止めれば良いのに」
 夕島巡査が呟く。言外に俺の仮説の正しさを改めて感じたようだ
「警察か。突然攻撃するとは何事か」
「なんのことでしょう。こちらはお話を伺おうと歩いてきただけですが」
 中島巡査部長が応じる

 


 

 神秘を表沙汰にはできない以上(というか出来ても信じてもらえない以上)、こちらが先手を打った、とは証明できない。
「戯言を」
「まぁまぁ、それより、身分証を拝見できますか? あと、その倉庫の中身と」
「白々しいぞ、私は外交官だ!」

 


 

「それは失礼しました。まぁそれは、倉庫の中を確認させた後に身分証を見せていただければいい話ですので」
「いい加減にしろ! オン インドラヤ ソワカ」
 背中のパックパックから、黄色い槍、金剛杵が浮かび上がる。
「夕島巡査」
「はい。結界Ⅲ急急如律令」

 


 

「結界か。認識阻害に人払い。こちらから結界を貼らなくて助かる」
 随分余裕なようだ。
「よっと」
 夜霧を手に姿を晒す。
「なんだ、まだ警察にいたのか。懲戒免職ものだと思ったがな」
 こいつ……、いや、まだだ。致命的なタイミングまで粘らないと。

 


 

「ノウマク サマンダ ボダナン ラタンラタト バラン タン」
 パックパックから機械のアームが4本飛び出す
「オン アミリタ テイセイ カラ ウン」
 輝く槍を取り出す
「いやぁ、それが一番苦労したよ。阿弥陀仏如来と槍になんの関係があるのか」
 始めよう。

 

  to be continued……


 

2020/06/20

 輝く槍を夜霧で受け止める。
「貴様に何がわかる?」
「分かるさ。それの輝き、鏡を仕込んでるんだよな? つまり、月の光、もしくは太陽の光を模してるんだ。魔術の基本、照応って奴だな。あんたは言うなれば照応魔術師って訳だ」

 


 

 照応とは、例えば、俺が最初に出会ったイペタム事件のイペタムようなものだ。
 あれはアイヌのイペタムを模していたが、そのものじゃない、刀そのものは蝦夷地で作られた無銘の刀だった。
 しかしそこにイペタムの象徴を盛り込むことで、イペタムの力を再現した

 


 

 俺が2つ目に経験した事件、エイプリルフールの妖怪アパートのロアと同じだ。そういう認識が集まればそれは本当になる。
 イペタムを再現したあの無銘の刀は本当にイペタムとなった。
 理由は知らんが、この世界の神秘ってのはそういう仕組みらしい。

 


 

「で、調べさせてもらったけど、あんた、涅槃宗らしいな。統一新羅の時代に新羅に伝来した仏教の流派だ。仏教の教えの一つである一切衆生悉有仏性、つまり、誰もが仏としての性質を持ってるっていう教えを根本的な教理としている。そしてあんたが唱えてるのは真言」

 


 

「それは密教系で使われるその仏の教えに触れ得て、仏の真理に触れる言葉だ。それで自身の仏性を変質させてる、違うか?」
「オン マケイ シバラヤ ソワカ」
 三叉の槍をアームが手に取る。
 しかし、それを中島巡査部長が受け止める。

 


 

「で、それだけじゃ足りないから、そのトリシューラを模した槍のように、さらに要素を足す。あんたが必ず小道具を使うのはそういうことだ」
 視界の端で夕島巡査が指を基本立てている。あと二分、違うな、あと2枚、か? 時間稼ぎもそう長くは保たないぞ。

 

  to be continued……


 

2020/06/22

「神は移りゆく。その中で変化していく。十字教が民間信仰の神を悪魔にしたり、仏教が周囲の神様を守神にしたり。そのトリシューラはヒンドゥー教の神、シヴァの使う武器だ。ヒンドゥー教に取り入れられる前はバラモン教の経典ヴェーダで語られるルドラ、仏教では…

 


 

「大自在天。同一視される仏は何人かいるが、これがシヴァ本人とされる。その真言はオン マケイ シバラヤ ソワカ。あんたがさっき唱えた真言と同じだ、そうだな?
 あんたは自分の中の仏性を真言と小道具で他の仏と重ね合わせ、それと同一視される神の力を呼び出した」

 


 

「それが分かったから何か! ノウマク サンマンダバザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン」
 機械式の火炎放射ブレードが展開される。
「それが一番わかりやすいな。なにせ不動明王、そのものだ。それは倶利伽羅剣の模倣、そうだろ?」

 


 

「然り。されど、貴様らの武器はトリシューラとこの槍で制圧済み。後はヴァジュラ倶利伽羅で仕留めるのみ!」
 金剛杵と火炎放射ブレードを持った二つのアームが俺と中島巡査部長を狙う。
「イペタム!」
 夜霧を手離し叫ぶ。これは一か八かの賭けだ。

 


 

 手放された小刀は、浮遊し、金剛杵と火炎放射ブレードを保持する二つのアームを破壊し、再び手の中に戻ってくる
 俺はかつてイペタムの柄を握った。それにより所有者が移り変わったと仮定し、その名を呼ぶことで一時的にこの刀をイペタムとした
「なんとかなった」

 


 

「君、その切り札は聞いてないぞ。それはもはや、魔術……、いや、さすが中国君、か」
 中島巡査部長が関心したように声を上げる。
「ちなみに輝く槍はヴァサヴィ・シャクティ、そうだよな?」
 施しの英雄カルナの槍だ。鏡細工で太陽の光を集めてそれを模している

 


 

「強引が過ぎるな。比較神話学でカルナと応神天皇と比較されてる点から、応神天皇。そして同一視される八幡神を、本地である阿弥陀如来の真言から呼び出した」
「そこまで」
「最後に、その機械の腕は分かりやすいな、阿修羅だ。さ、あんたのルーツは全部暴いたぞ」

 

  to be continued……


 

2020/06/23

 次の瞬間、トリシューラとヴァサヴィシャクティを保持していたアームがダウンする。
 イペタムと化した夜霧によってアームを二本切られた事で、阿修羅との同一化が解けたのだろう。
「ってことはそれ、神性の力で動いてたのか!?」
 中島巡査部長が驚愕する。

 


 

 そんなに珍しい技術なのか。
「大した暴きだ。だが、武器も盗まない事には他の神性は奪えないぞ?」
 ニヤリと笑う敵の後ろで夕島巡査が手でOKのサインを送ってくる。
「あぁ。そうだな。ところで、なんでこんな話をしたと思う?」
「まさか、時間稼ぎか!」

 


 

「此度王政復古神武創業ノ始ニ被為基、諸事御一新、祭政一致之御制度ニ御回復被遊候ニ付テ」
 これまでと今回は一つ、大きく違う状況がある。
 それは結界がこちら持ちだという事だ。結界とは内と外を隔てるもの。そして内側は張った人間が所有者メイヤーとなる

 


 

「先ハ第一、神祇官御再興御造立ノ上、追追諸祭奠モ可被為興儀、被仰出候 、依テ此旨 五畿七道諸国ニ布告シ、」
 つまり今回の主導権イニシアチブはこちらにある。
「往古ニ立帰リ、諸家執奏配下之儀ハ被止、普ク天下之諸神社、神主、禰宜、祝、神部ニ至迄、」

 


 

 そしてその呪文を唱える。それはつまり、この結界を変異させるための呪文。
「但尚追追諸社御取調、并諸祭奠ノ儀モ可被仰出候得共、差向急務ノ儀有之候者ハ、可訴出候事」
 唱え終わり、結界が変異する。
「ばか、な」
 敵が武器を取り落とす。

 


 

 そして、4つの光が何処かへ飛び去っていった。
「お前の弱点はこれだ。即ち、神仏分離。神と仏を同一視できない場所では、力を発揮できない」
 さっきのは太政官布告、所謂神仏分離令の文言だった。
 そして、その直後、中島巡査部長に電話がかかってくる。

 


 

「やっぱりか。お前の外交官としての身分は魔術で得たものだな? これで遠慮なく逮捕できる。さぁ、そのアームと火炎放射剣の出所、教えてもらうぞ。そんな科学力、明らかに——」
 ピシュン。そんな音が聞こえた。縄跳びがしなって地面に当たるような音。

 


 

 気がつけば、犯人の頭が撃ち抜かれていた。
「やられた!」
 慌てて射点を探す。
「諦めよう、中国君、探して見つかる相手じゃない」
 中島巡査部長は何かを知っているのか。
「とりあえず事件は解決だ。散った神性の対処は討魔師に任せて、撤収しよう」

 

  to be continued……

 


 

 関東中に散らばった神性はどうなったのでしょう?

 その続きを皆さんの手で描いてみませんか?

 依頼を受けた四人の討魔師が4体の神性の影を倒すところを
 AWsのTRPGシステム『A-AWs』で遊べるシナリオを公開します

https://www.anotherworlds06.com/A-AWs/scenario_001/

 


 

2020/06/25

「おはようございます。朝からお二人でどうしたんです? 散らばった神性の件なら、ぴったりの討魔師を選んで任せてありますよ」
 中島巡査部長に連れられて如月討魔事務所にやってきた。
 アンジェが出迎えてくれる。
「いや、もっと重要な件さ」

 


 

「電話では伝えられないこと、だと?」
「あぁ。奴らの事だから、電話くらい確認してても不思議じゃないからね」
 いや、そんなエシュロンみたいな事、アメリカくらいじゃないと出来ないのでは? と思うが、中島巡査部長の顔は本気だ。
「それほどの相手、まさか」

 


 

「あぁ、奴らだ。神性を動力に動く機械のアーム。謎の機械式の炎の剣。どちらも奴らなら用意できる」
「確か術式も仏教系でしたか。彼女を思い出しますね」
「あぁ。結果的に彼女は奴らの手先のさらに手先だった。奴らに情報が行ってても不思議じゃない」

 


 

「えーっと、話が見えないんだけど?」
「あぁ、つまり、あの偽外交官を裏で支援してた奴らの話だよ。中国巡査が聞くと呪われる可能性があるから名前は言えないけどね。ずっとずっと前から密かに暗躍してる。そしておそらく、10月にも現れる」
 また10月、か。

 


 

「そうだ。中国巡査なら知ってるんじゃないか? 2016年末、イギリスの本土で武力衝突が起きた、って話を」
「それ! 最初にチラッと報道されてめっきり見なくなってオカルト板とかで話題になってたやつ!」
「流石。あれも奴らの仕業だ。あの戦いで負けてたら…」

 


 

「つまり国外でいろいろやってた霊害テロリストが日本にもついにやってきたって事ですか?」
「いや、日本でも何度となく事件を起こしてるよ」
「はい。私も討魔師なりたての頃に」
「僕らだけで手に負える問題じゃない。きっと僕らこの物語だけで解決は無理だろう

 


 

「でも諦めるわけにはいきません、そうですよね?」
「あぁ。とりあえず今日のところは、僕らが彼らを呼ぶのに使うコードネームだけ覚えておいてくれ」
 なるほど、呼ぶと呪われるからコードネームか。
「灰色の男達。奴らは、いつも灰色の装備を纏っている」

 

  to be continued……

 


 

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