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Episode.2 「砂の絨毯」

by:メリーさんのアモル   

キャラクター紹介

 

[ナガセ・タクミ]……ユグドラシルシティに存在する軌道エレベーター「世界樹」のメガサーバーに勤める   監視官カウンターハッカー 。電子の世界を移動できる妖精に懐かれている。常に優秀な魔術師マジシャン であるはずだが、今回は敵の侵入を許し、「世界樹」に混乱のタネが持ち込まれるのを許してしまう。

 

[電子の妖精]……タクミに懐いている「世界樹の妖精」。今回の騒乱には彼女は関与していない。

 

[スミス・マミヤ]……惑星サレリア出身の地球人類種。GUFの独立監査部隊「アドボラ」に所属。サーミル感染症に感染したことで"粒子"を操る力を身につけ、フェアリースーツを身にまとって戦う。

 


 

 背中に翼のようなものを装着した青年があたりを調べていた。
「この辺かなぁ……?」
「スミス君、見つかったかい?」
「いえ、今のところそれらしいものは……」
 スミスが所属する「アドボラ」は宇宙政府の警察権力である「GUF」からの要請を受けて、地球へと墜落した未確認機の確認を行っていた。アドボラがわざわざしないとならない仕事だろうか、という疑問はあったが、地球というAクラス惑星(というか地球が基準のクラス付けがなされているのだが)に未確認機が墜落したという緊急性から偶然近くを航行していたアドボラのチトセ級宙雷艇母艦チハヤに要請が下ったという経緯があったため、特に理由もなく断るわけにはいかなかった。まぁ、実際、アドボラとしても断る理由はなかったのだが。
「ん?」
 すると、スミスの視線に何か移るものがあった。彼はすぐに、手元のボタンを操作し、周囲を拡大表示し精査する。彼の装着しているフェアリースーツはサーミル症候群などの要因から”粒子”を操作することが可能な存在をサポートする戦闘用パワードスーツであるが、戦闘用の機能以外にも様々な機能がある。今、彼が使用している視界の拡大表示もその機能である。ヘルメットには複合センサを含む複数のカメラが装備されており、状況に応じてそのカメラで補正した光景を視界にオーバーレイ表示できるのだ。
「気の所為かな……」
 いい加減何もない砂漠を当てもなく彷徨うのは精神が疲れてくる。と心の中でぼやきつつ、ため息をつこうとした瞬間、視界に赤く「Warming」の文字がオーバーレイ表示される。
「飛翔物警告!」
 咄嗟に、背中の飛行パックを点火させ、飛び上がる。地上任務用にフェアリースーツに装備されてた飛行パックは短時間の噴射で高度を稼ぎ、背中の翼で滑空することをメインとした装備である。このため、今スミスが行ったのは飛行と言うより、ジャンプというべきだろう。
 先ほどまでスミスがいた場所をすごい速さで槍が通過していく。スミスの足を掠ったので本当にぎりぎりであった。
「え、槍?」
 スミスの疑問はもっともである。常識的に考えて、槍がミサイルもかくやというスピードで飛んでくることはあり得ない。厳密に言えば高速で飛翔する質量兵器は存在するが、その場合、わざわざ槍の形に加工する必要がない。そして何より。
「発射点は……え?」
 スミスが見た先にあったのは、巨大な蟻だったのである。
「地球ってあんな大きな蟻がいる……のか?」
 スミスは農業を学んでいた男である。そしてその学んだ知識の中には地球産の生物も含まれる。蟻は農業とも関連のある虫として取り上げられていたはずだ。
「あんな大きい蟻がいたら流石に覚えてるよなぁ……?」
 地球に来たのは今日が初めてであるスミスにとってその蟻が当たり前のモノなのか異常なモノなのかは判別がつかない。分かることはただ一つ。
「こっちを狙ってる」
 スミスは滑空翼と呼ばれる背中の翼を展開し、その巨大な蟻とは反対方向に飛ぶ。
 ギチギチギチギチギチギチギチギチ。
 蟻が牙を鳴らしながらスミスに向かって歩き出す。二足で立っていた蟻であるが、流石に前進するときは通常の蟻のようにすべての足を使って歩くようだ。まぁ、滑空時は地面と体が平行になる関係上、スミスはその様子を確認することはできないのだが。
 地面が近くなると、スミスは足を地面に向け、着陸のために空気抵抗を増やして減速する。ある程度減速したのを見計らい、足をつけて着陸する。スミスが振り返ると、蟻は目の前だった。
「全然引きはがせてない!」
 蟻は二足歩行に戻っていた。槍を回収して構えていたのだ。
「くっ」
 咄嗟に右側面のスラスタを噴出させながらステップを踏む。槍が空を突く。スミスは左側面のスラスタを噴出させバランスを取りながら、背中の飛行パックを点火させ、真上から少し右寄りに飛び上がる。
「正当防衛ってことで……お願いします」
 腰にマウントされていたフェアリーガン(フェアリースーツに装備されている”粒子”銃の通称)を蟻に向けて発砲する。緑の光線が蟻へと襲い掛かる。
「すり抜けた?」
 蟻がスミスに槍を向ける。スミスはさらにフェアリーガンを連射する。緑の奔流が蟻に襲い掛かるが、蟻に被害はない。
「なんで」
 明らかに命中している。明らかに緑の光線は胴体に当たったのに。実際の被弾痕は動体ではなくその延長線上にある地面についている。まるで、蟻をすり抜けたように
 まもなくスミスは地面に落下する。槍はその瞬間を待っている。
【int main(void) {】
【FILE *fp】
【char *Smith_Wepon “Fairy_Gun.txt”】
【fp = fopen(Smith_Wepon, “w”);】
【fputs("tag[AFFILIATION:Pacific_Tree_War], tag[GENRE:Hand_Gun],

tag[ATTRIBUTE:SF], tag[ELEMENT:light], tag[ELEMENT:heat]", fp);】
【fclose(fp);  }   】
突如、スミスの前の前にそんな意味不明の文字列が出現した。
【今ならできる。撃って!】
スミスはもう一度、フェアリーガンの引き金を引いた。放たれた緑色の光線は蟻に命中し、蟻は倒れた。
「危なかった」
なんとか生き残ることができた。でもそれはARHMDに表示された謎の文字列のおかげに過ぎない。
【あなたの探してるモノはここ】
周囲の環境マップにゲームで目標地点を示すようなポインタが表示される。
【砂の中に潜ってる】
怪しすぎるメッセージ。とはいえ、命を助けられたことは事実だし、こちらの目的も知ってるみたいだし、スミスはとりあえず、向かってみることにした。
まず先に降下ポッドに戻る。これはチハヤに搭載されている大気圏降下ポッドの一つで、この任務に当たってスミスを投下したものだ。いくつかの道具が一緒に入っている。
その中からスコップを取り出し、改めてマップ上のポインタへ向かう。

 

 そして、数時間後、スコップの先に硬いものが当たる。
「やっと見つけた!」
 見つかったのは硬い素材でできた円柱状の何かだった。
「大気圏を降下してきたのか……?」
 降下時の断熱圧縮で熱せられたと思われる跡がある。
 と、突如その円柱が縦に伸びた。真ん中あたりが開いたのである。
「なんだこれ、ジェネレータ? スミスよりチハヤへ。地球への墜落機と通報のあったものは何らかのカプセルのようです。円柱状のポッド。真ん中が開いて黄色の回転部が見えます」
「こちらチハヤ。了解。GUFが回収機を派遣するそうですのでマーカーの設置をお願いします。スミスさんの回収はユグドラシルシティの軌道エレベータの宇宙港にて行いますので、ユグドラシルシティまで移動してください」
 返答は指揮官のオラルドではなくオペレータだった。
「あれ、オラルドさんは?」
「オラルドさんはサードムーンでの作戦のためにアキツシマに移動しました」
「あ、それまでに間に合わせろって言われてたっけ……」
 とりあえず、スミスは命令通り、装置にマーカーをつけた。その後端末で地図を確認し、近くの街へ移動を始めた。

 

 ▲ ▲ ▲

 

「なんだこいつ」
『おっきな蟻よ』
 そんなことは分かってる! と自分のつぶやきに返事をしてくれた「妖精」に心の中で言い返す。問題なのはその巨大な蟻がなんで槍を持って自分に襲い掛かってくるか、だ。
「くっそ、始末書モノだな!」
 緊急時用として支給されていた拳銃をデスクの引き出しから取り出し、発砲する。
「なに?」
 ところが次に聞こえたのは弾丸が壁に命中して跳弾する音だった。
『ちょっとタクミ、拳銃をまともに撃つことさえできないの? このもやし』
 失礼な。魔法使いウィザードたちのオールドクラックと違って、俺たち魔術師マジシャンのARクラックはかなり体を動かす必要に迫られる。俺たちは体力をつけることも必須課題と言っても過言ではない。いや、それよりも。
「オートエイムが起動してない」
 今時、民間の拳銃がまともに狙って撃つような仕様であるわけがない。時代はいつでも「便利に手軽に」を求められているのだ。今時の拳銃は目標に向ければその先に本当に脅威となる存在がいるかを認識スキャンし、存在していた場合には確実にその対象を無力化できるポイントへ自動的に照準を補正してくれるのだ。自慢ではないが、そんな拳銃を使っていて外すわけがない。ところが、自分の視界にウィンドウで表示されているログには、オートエイムが実行された形跡がない。それどころか、俺の拳銃のコンピュータの最終ログは。
【サーチ、脅威を検索中です】
 の一行。そしてそれが最初の行でもある。つまり、目の前のあの槍をこいつは脅威と認識していないのだ。
『仕方ないなぁ、タクミは。私が補正してあげるわ』
「妖精」が拳銃の中にするりと入っていく。
【外部プラグインを確認。処理を外部プラグインに譲渡します】
 蟻から突き出される槍を横に飛んで避ける。壁際だ。「妖精」を信じて引き金を引く。
 今度こそ見えた。拳銃の銃口から発射された弾丸は、確かに蟻の頭部に到達し、すり抜けて壁に命中した
「んな」
『うそ!』
 もう一度槍が突き出される。もう一度右に避ける。そこにあるのは俺の個人ブースを出るための扉だ。扉を開け一気に蟻から距離を取る。
「おい、タクミ、なんだ今の発砲音は!」
 同僚が発砲音に気付いて様子を見に来ていたらしい。
「あれ」
 言葉短く同僚に伝える。
「な! ……ってなんだ、ありゃAR画像じゃねえか。なんだ? 誰か、セキュリティを抜かれて変なプラグインでも導入されたか?」
 言われて気付く。蟻は本来なら影の位置にいる。しかし、蟻は全身が光を反射しているように影の影響を受けていない。……なんだ、ただのAR画像か。そりゃすり抜けるはずだ。
 ギチギチギチ。
 蟻が牙を鳴らしながら、同僚の方を見る。
「へー、よくできてるなぁ」
 同僚はAR画像の出来に感心するように蟻に近づいている。蟻が槍を構える。
 そして、蟻が現実には全く影響を与えることのできないその槍を同僚に突き刺した。
「え」
 同僚の目が大きく見開かれる。
 そして、
 そして、
 そして、そのまま、
 そのまま、後ろに倒れた。
 ゴンと、よくない音を立てて地面に倒れる。
 どういうことだ。AR画像のはずだろ? 刺されて死ぬわけがない。なんでこいつは倒れたんだ?
 そして、蟻がこちらを向く。

 

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