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Episode.9 「世界樹の電子迷宮」

by:メリーさんのアモル 

キャラクター紹介

 

[ナガセ・タクミ]……軌道エレベータ「世界樹」に存在するメガサーバー「世界樹」の監視官カウンターハッカー
[電子の妖精]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。タクミの相棒。タクミだけが本名を知っている。

 

[スミス・マミヤ]……アドボラの戦闘員。

 

[フレイ・ローゾフィア]……連邦フィディラーツィア 出身のアジアゲームチャンプ。e-sportsチーム「クラン・カラティン」所属

 

[如月アンジェ]……電波犯罪対策課の一人。
[速水ミサ]……電波犯罪対策課の課長。

 

[ドライアドの少女]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。突然現れた緑の髪の女性。もう少女という年齢じゃないかもしれないけれど、彼女はこう呼ばれるべきだろう。
[混血のアーシス]……あらゆる種族を惑わし、世界を混乱に陥れる者。

 

[空見鏡也]……管狐という使い魔ファミリア を連れている謎の青年。彼の主、アマテラスは信心を失い、なお列島に住み続ける人々に怒っており、混血のアーシスに協力し、粛清を行うように彼に命じた。
[天使深雪]……剣を持つ美しい少女。内心では鏡也の隣で共に戦えるのを嬉しく思っている。

 

[中島美琴]……e-sportsチーム「クラン・カラティン」のメンバーの一人にして討魔師。
[中島碧]……アンジェの高校時代の生徒会長。美琴の娘で討魔師。

 

 

 

用語紹介

 

[オーグギア]……AR技術を利用した小型のウェアラブル端末。
[メガサーバー「世界樹」]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。ユグドラシルシティの軌道エレベータの内部に存在する地球全土と接続されている巨大なメガサーバー。
[“彼女〝の戦争]……3つ存在する”戦争〟の一つ。血の流れない、電子の世界で毎日起きている争い。その言葉の意味はタクミと電子の妖精だけが知っている。

 

[アドボラ]……GUFの独立監査部隊。少数種族等への権利擁護アドボカシー を目的としている。
[フェアリースーツ]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。メインスラスタの光が妖精の羽に見えたことからそう名付けられた。
[研究コロニー「世界樹」]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。アドボラが隠れ蓑にしていた研究用コロニー。多くの発電用プラントが側面へ枝を広げるように伸びているその見た目から名付けられた。
[サーミル動乱]……3つ存在する〝戦争〟の一つ。宇宙生物「サーミル」とそれによってもたらされるサーミル症候群に関わる、GUFやアドボラが関わった事件。

 

[電波犯罪対策課]……警視庁刑事部捜査五課のこと。電波感応者という特異体質者が引き起こす電波犯罪に対し、電波感応者を解決に当たらせるという発想から発足した。
[デジタライズ]……魂を電子的に解析し、電子空間に送り込む技術

 

[パシフィックツリー]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。太平洋の世界樹。この世界の安寧を願って建造された。
[文明大崩壊]……3つ存在する〝戦争〟の一つ。突如現れたパシフィックツリーと怪物たち(ドヴェルグ)によって引き起こされた。

 

 


 

「イデアの解析、完了。電子化デジタライズ 、開始します」
 ドライアドの少女の声と同時に、彼らは意識を失うように倒れた。
「とりあえず、成功したようですね……」
 モニターの中から不安そうな声が聞こえる。如月の声だ。
「よし、じゃあ接続元の逆解析を試みる。完了次第転送するから、少し待ってくれ」
 電子化、デジタライズとは、人間の魂を電子的解釈により、電子空間に送り込む技術のことを言う。非常に危険な技術で、まだ安定して送受信ができているとは言い難い。また、量子テレポートを利用した量子通信では電子化した魂を操作できないことも分かっており、量子通信が一般化するにしたがって、研究も停止。要するに危険なまま全く解消されていないことになる。現在は非合法な取引にひっそりと使われていたりするらしく、電波犯罪対策課の二人が色々と複雑そうな表情をしているのはそういうことだろう。
「よし、完了だ。今、そっちとつなぐぞ」
「案内は私がする」
 解析と接続が終わり、ふぅと息を吐く俺の横を、妖精が通り過ぎてモニターの中に入っていく。
 そしてモニターの中に通路が出現し、妖精の先導に従い、みんながその向こうへと向かっていく。
 妖精のメインストレージはこのメガサーバ「世界樹」と俺のオーグギアにそれぞれ存在している。今、妖精は確かに彼らとともに研究用コロニー「世界樹」の中へと入っていったが、その一方で俺のオーグギアの中にも存在しているのだ。仮に外の世界に出ている妖精を「端末」、メインストレージに入っている妖精を「本体」と呼ぶとすると、端末は一つしか存在できず、本体に姿を現すこともできない。これは彼女の自我同一性を保つために必要な措置であったらしい。一方でこの状態でも本体に与えた影響は端末にも即座に影響される。本体に伝えたい情報を伝達することで、端末にもその情報を伝えることができる。逆もまた同じ。みんなが向こうで戦っている間の俺の仕事は端末と本体の間の通信内容を解析し、必要に応じて支援を行うことだ。
「さぁて、やりますか」

 

▼ △ ▼ △

 

「私達の武装は問題なく使えるようですね」
 如月と速水の武器はいずれも自分自身のものだ。当然、電子化されようと問題なく使用できる。
「私の武器も使えるみたい。……驚くべきことにすべて」
 フレイはゲームのデータで戦っていた。電子世界でもそれは問題なく使えるようだ。実際のところドライアドの少女が翻訳時に操作したのだが。
「こっちもフェアリーガンも使えるようです。……それから」
 一番大きな変化はスミスのそれだった。背中に美しい蒼い妖精の羽根が生えていた。
「それ……私を助けてくれた時の?」
「うん……フェアリースーツの推進装置なんだけど、飛行ユニット扱いになってるみたいです」
 実際、その蒼い翼は微振動し、スミスの足は地面から少し浮いていた。
「私も空なら飛べる。装備、メギンギョルズ」
 フレイの背中から結晶の翼が出現する。こちらは大きく羽ばたいて、少し空中に浮かぶ。
「ねぇ、それって普段はどう使うものなの?」
 それを見て興味が沸いた速水から質問。
「もっぱら盾かな。AR戦闘では空は飛べないし」
「あぁ、シュートザムーンはフルダイブにも対応してるんだっけ?」
「ちょっと、無駄話はそこまで、前に進もう!!」
 ゲーム談義が始まりそうになったところに妖精が割り込む。
「タクミが周辺の座標を解析してくれたよ。あと、スミスが渡してくれた構造図と合わせれば、目的地はだいたいあっちね」
 妖精が先導して角を左に曲がる。
「もっとゲームの迷路みたいな感じかと思ったけど、思ったよりシンプルね」
「そりゃそうよ。現実世界の通路に即して形成されてるんだもの」
「メガサーバの方の世界樹だと、流石にとんでもない複雑さだけどねー」
「そっちは迷路と言うより、もはや方眼紙みたいな感じのような気がするけど」
「おっ、だいせいかーい」
「武器もありますけど、特に敵もいませんね」
「ドヴェルグがこっちにもいたりするんじゃないかと思ったんだけどね……」
「えぇ。さすがに静かすぎます」
 なんだかのんびりした雰囲気。道はタクミによって完全に解析されているし、障害となる敵もいない。少しずつ、みんなの気が緩んでいる。
「待って、何かおかしい」
 そこで妖精が声を上げる。
「どうしたの?」
「図面が正しければそろそろ中心につくはずなのに、まだ直進してる……」
「そういえば、さっきからずっと一本道だった」
 みんなが立ち止まり、振り返る。そこには横道一つない一本の道が続いていた。
「あーあ。気づかれちゃったか。もう少しくらいごまかせるかと思ったんだけどね」
 目の前の通路がいきなり広場へと変化した。そこに現れるのは帽子をかぶった長身の男。
「やぁ、君たち。ようこそ、世界樹へ」
 男は帽子を右手で押さえながら笑う。
「来い、電子妖精」
 男の声に呼ばれ、緑のショートヘアの女が出現する。
「なんてぴっちりとしたスーツ……体型に自信がないと着れませんね……」
 ボソッとつぶやいたのは如月だ。
「お前が混血のアーシスか!」
 スミスが声を張って訪ねる。
「いかにも。私こそが君たちから見れば騒乱である今回の事態の元凶。混血のアーシスだ」
「あいにく戦闘は得意じゃなくてね。彼女に任せることにするよ」
 混血のアーシスは帽子を右手で押さえなおすと、ふぅっと消えた。
 電子妖精と呼ばれた彼女は右手を前に突き出すと、そこに赤い光線で構成された刀身が出現する。
 と周りが認識した瞬間、彼女の姿が消える。
「くっ」
 如月が一歩前に出たと思った時には電子妖精のブレードが如月の緑の光線で構成された刀で阻まれている。
「なんて速さ……」
 速水が唖然とする。
「掩護します!」
 スミスは羽を微振動させ姿勢を維持しながらフェアリーガンを発射する。しかし、その銃から飛び出した光の筋が電子妖精に命中するより前に、電子妖精はまた消える。
「こんのぉ!」
 速水が銃の形にした手の銃口人差し指から弾丸を発射する。それは扇状に弾丸を展開させたが、高く飛び上がっていた電子妖精には命中しなかった。
「空中戦なら!」
 メギンギョルズを展開したフレイが二本の剣で空中の電子妖精に襲い掛かる。空中で自由落下するしかない電子妖精は流石に空中戦では不利なのか、何回か軽く切り傷を刻まれる。
 しかし、それで学習した電子妖精は高い跳躍を止め、極めて低い跳躍による高速移動攻撃に攻め方を変えた。
 前衛を務める如月とフレイがなんとか速水とスミスへの攻撃を防いでいるが、特にフレイは十分に妖精の動きを追えていないため、押され気味になっていく。
「まだあきらめていないのか?」
 どこからか声が聞こえる。混血のアーシスの声だ。それに合わせて電子妖精も後ろに跳躍し、一度刀身を消す。
「とっととここから切断してくれないかね。ここに君たちがいるとそれだけで世界樹の侵食作業が遅れるんだけどな」
 勝手なことを言う混血のアーシス。
「まぁいい。投降する気になるよう、もう一つ趣向を凝らそう」
 電子妖精の上の方に大きなモニターのようなものが出現する。
「あれは……」
「世界樹?」
 モニターに映っていたのは宇宙空間、そして大きな軌道エレベータの宇宙港であった。
 そして……。

 

▽ ▲ ▽ ▲

 

「ワープ反応感知、距離至近。方位……多すぎる。囲まれています」
 チハヤの艦内でレーダー手が報告する。
「世界樹より無差別重力波通信」
「こちらは地球の軌道エレベータ世界樹である。当施設周辺への無許可ワープは禁止されている。ただちにワープ処理を中断せよ、繰り返す……」
 しかし、ワープは止まらず、それは姿を現した。
「光学カメラによる調査結果によれば、いずれも同種の機体。戦闘機と思われます」
「単身で戦闘機がワープ?」
 その言葉は信じがたいことであった。ワープ装置はかなり小型化が進んでいるとはいえ、せいぜい小型輸送艦や揚陸艇でもワープできるようになった程度で、もちろんそれも十分すごいことなのだが、いずれにせよ戦闘機が単独でワープすることは不可能に近い。
 厳密にはそのようなことをすれば他の武装を搭載するスペースなど確保できるとは思えない。
「赤外線センサに反応。ミサイルです」
 突如ワープしてきた無数の戦闘機はミサイルを放ち、世界樹へ攻撃を仕掛けてきた。
「発進しろ。世界樹に伝えろ」
「はい。世界樹へ、こちら3番ポート、アドボラのチハヤ。攻撃を仕掛けてきた敵性勢力に対し、反撃のため発進許可を求む」
「こちら世界樹。緊急事態のため発進を認める。ご武運を」
「チハヤ、出港する。Weigh anchor !」
 チハヤの動きを止めていた、アーム――慣例から錨と呼ばれている――がチハヤから離れる。チハヤのエンジンに火が入り、チハヤが全身を始める。
「各戦闘員へ。第一種戦闘配置。すでにこちらは攻撃を受けている。急げ」
「こちら、ミア。フェアリースーツの着たよー」
「ミア、本艦の戦闘員は現状君だけだ。とにかく、本艦の武装が使用可能になるまで、露払いを頼む」
「りょーかい!」
 ミアは青い羽のように見えるメインスラスタを吹かしながら、先に宇宙港飛び出す。戦闘機隊がそちらに向いて機銃掃射を仕掛ける。
「おっとっと、危ない危ない」
 フェアリーガンが確実に戦闘機隊を撃墜する。しかし、数が多すぎる。焼け石に水とはこのことだ。フェアリースーツがもたらす推力は戦闘機に勝るとも劣らない。とはいえ、流石に多すぎる。ミアの野性的な回避能力を持ってしても、回避し続けるのは難しいだろう。
 港から完全に出ていないため、艦の武装を使用できないチハヤは現状、いい的である。
「敵戦闘機の機種の特定、完了しました。……これは、セントラルアースが使ってる地球時代の兵器より古い。通称・特異空間戦闘機、IF-4 イレギュラーキャットです」
「なんだと? そんなに古い機体が……」
「まもなく、チハヤの武装のロックが解除可能になります。各砲手は準備を」

 

△ ▼ △ ▼

 

「チハヤが!」
 叫んだのはスミスだ。
 彼らに見えていたのは、宇宙港を覆うように白い斑点が無数に表れ、そこから特異空間戦闘機が現れたところ。そして、出港したチハヤが攻撃を受けるところだった。
「さぁ、早く切断して助けに行った方がいいんじゃないのかい?」
 そういい終わると、モニターが消え、再び電子妖精が赤い刀身を出現させる。

 

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