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Episode.5 「チーター」

by:メリーさんのアモル 

キャラクター紹介

 

[ナガセ・タクミ]……軌道エレベータ「世界樹」に存在するメガサーバー「世界樹」の監視官カウンターハッカー 。戦闘能力がないのでコマンドは現状「逃げる」のみ。

 

[電子の妖精]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。タクミの相棒。世界樹のメガサーバー上にしか存在できないAR上の存在。自らを囮としてタクミの逃亡を助けた。

 

[スミス・マミヤ]……アドボラの戦闘員。謎の巨大蟻の脅威と立ち向かうため電波犯罪対策課と同盟を結んだ。

 

[フレイ・ローゾフィア]……連邦フィディラーツィア 出身のアジアゲームチャンプ。イベントと勘違いし、アサルトライフルでドヴェルグと交戦中。

 

[如月アンジェ]……電波犯罪対策課の一人。「ニホントウエグゼ」を武器として使用する。

 

[速水ミサ]……電波犯罪対策課の課長。「デリンジャーカスタムエグゼ」、「ARナイフエグゼ」を武器として使用する。

 

 

用語紹介

 

[オーグギア]……AR技術を利用した小型のウェアラブル端末。

 

[アドボラ]……GUFの独立監査部隊。少数種族等への権利擁護アドボカシー を目的としている。

 

[メガサーバー「世界樹」]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。ユグドラシルシティの軌道エレベータの内部に存在する地球全土と接続されている巨大なメガサーバー。

 

[フェアリースーツ]……3つ存在する〝妖精”の一つ。”粒子〟操作能力を持つ人間が着込んで戦闘するために作られた戦闘スーツ。

 

[電波犯罪対策課]……警視庁刑事部捜査五課のこと。電波感応者という特異体質者が引き起こす電波犯罪に対し、電波感応者を解決に当たらせるという発想から発足した。この性質から、一つの部隊のようになっておりこの五課の課長は隊長と呼ばれる慣例がある。

 


 

 一人の青年が逃げていた。天をも突かんという高さの建物から逃げ出した彼は、何から逃げているのか、言うまでもなく、ドヴェルグらである。
「くそ、アイツもおいてきちまったし、これからどうしたら……」
 青年の名はタクミ。地球全土をつなぐメガサーバー「世界樹」の監視官カウンターハッカー である。
 ギチギチギチギチギチ。牙の音に追い立てられ、いよいよもって彼は追い詰められた。
「なんて大群だ。追い詰められたのか……」
 いつもならここで妖精が何か茶々でも入れてくれて彼の心を落ち着かせるのだが、ここに彼女はいない。
「ここまで、か」
 諦めてため息をついた、その時、彼に迫っていたドヴェルグに弾丸が命中し、ドヴェルグが怒り心頭でそちらに向きなおる。
「ヘッドショットしたのに怯みすらしない? この……ゲームバランスが……きつすぎる!!」
 架空のアサルトライフルを構えた戦士ゲーマー 、フレイ・ローゾフィアである。
「お前、その化け物と戦えるのか?」
「何を当たり前のことを。ゲームの敵をゲームで倒せなかったらどうやって倒すの」
 驚きを口にするタクミに当然のように答えるフレイ。
「ゲーム?」
「そう、イベントか何かでしょ? 太平洋樹大戦の」
「ありえん。それに体を貫かれたら、意識を失うんだぞ」
「え?」
 タクミの声に一瞬体が固まるフレイ。そこをドヴェルグの槍が迫る。
「危ない!」
 タクミが咄嗟に障壁プログラムを起動する。タクミとフレイはサッカーボールのような球体に包まれ、ドヴェルグの攻撃はそれに防がれた。それはARハックの過程において直接魔術師マジシャン にダメージを与えるようなハッキング攻撃を防ぐためのプログラムだったが、どういうわけか、ドヴェルグからの槍攻撃を無力化することができた。
「思い出した、お前、緋色の悪魔ヴァーミリオン だろ」
 そこでふと、タクミはフレイの見た目を見てふとひらめいた。
「そうだけど……」
「だったら、Shoot_the_Moonのデータをコンバートできれば、こいつらを倒せるんじゃないのか?」
「なにそれ、そんなことできるの?」
「あぁ、俺は魔術師マジシャン だからな」
【CAUTION!】
【CONNECT By AD_HOC】
 フレイの側に赤い枠の警告ダイアログが出現する。
「でも、これLemon社のlGearよ。セキュリティは全オーグギア中最強と言われてるって」
「貫けない壁なんてないよ」
【>connect chip 1】
 タクミはインプラントチップとオーグギアを連動モードに移行させる。
【>contact Tree】
 そして世界樹へアクセスする。世界樹はあらゆるサーバとつながっている。使用許可を得ることができれば、ある程度であれば強固なセキュリティをパスしてアクセスできる。
 まぁ、lemon社はアクセス権をかなり強固に制限しているので、それだけでなんとかなったりはしない。
「世界樹から対象のlGearへアクセス」
【Tree>connect Frey’s lGear】
 タクミの視界に無数の赤いダイアログが出現する。
 手元のアプリケーション一覧から適当なアプリを選びダイアログを一つづつ消していく。
「よし、最大の問題は突破した。ここからは領域視覚化ヴィジュアライズ を実行する」
【Frey’s lGear>visualizer】
 魔術儀式構築ソフトヴィジュアライザー は多くの魔術師マジシャン が使う、視覚化ソフトだ。世界樹の監視官カウンターハッカー もこれを使っている。
「よし侵入成功」
 ほんのわずかな間にタクミはフレイのオーグギアに侵入した。
「うそぉ」
「まずは、太平洋樹大戦のデータフォーマットを見るかな」
 タクミは手元の仮想キーボードをタイプする。
【Frey’ lGear>cd home】
【/home >ls】
【/home >cd Game】
【/home/Game >ls】
【/home/Game >cd Pacific_Tree_War】
【/home/Game/Pacific_Tree_War >ls】
【/home/Game/Pacific_Tree_War >cat FA-MOUS.txt】
【/home/Game/Pacific_Tree_War >FA-MOUS.txt
 tag[AFFILIATION:Pacific_Tree_War], tag[GENRE:Assault Rifle],
 tag[ATTRIBUTE:Military], tag[ELEMENT:Bullet], tag[ELEMENT:Piercing]】
 そして表示されたのは、そんな「tag」だけの文字列だった。
「なんだこりゃ。……アフィリケーションってのが作品の名前、ジャンルってのが武器種別、アトリビュートってのが……なんだ? エレメントは属性だな」
「そろそろ障壁が砕けそうだよ?」
「武器を一つずつコンバートするしかないみたいだ。時間がないから一つだけ何か選んでくれ」
 砕けそうな障壁を見て慌てる二人。
災厄の杖レーヴァテイン
「分かった」
【/home/Game/Pacific_Tree_War >cd ..】
【/home/Game >cd Shoot_the_Moon】
【/home/Game/Shoot_the_Moon >ls】
【/home/Game/Shoot_the_Moon >cat Lævateinn.txt】
「よし、これにさっきのフォーマットと同じ内容のタグを加えて……。ジャンルは、sword かな? Edge か? 属性は……Cutting切断 と、fire だな」
 確認のため、フレイの腰にぶら下がっているナイフのデータを確認し、ジャンルがEdgeであることを確認した。
【/home/Game/Shoot_the_Moon >reboot】
「わぁ」
 フレイが悲鳴を挙げる。
「どうした?」
「いきなり、オーグギアが再起動して……」
「あ、すまん、それは俺がやった。そうしないと変更が反映されないから」
「びっくりした」
「すまん、でもこれでいけるはずだ。太平洋樹大戦を起動してみてくれ」
「うん」
 フレイが太平洋樹大戦のアイコンをタップする。そして……。
 ガッシャンという音を立てて障壁プログラムが崩壊する。
「装備、Lævateinn
 フレイの手元に赤い剣、レーヴァテインが出現する。
「レーヴァテイン、励起して」
 フレイがレーヴァテインを一振りすると、剣から赤い炎があふれ出し、二人に迫るドヴェルグを焼き尽くした。

 

△ △ △

 

「きりがないですね……」
 思わずぼやく長髪の女性、如月。手元には緑の線で構成された日本刀。
「まったくね。どこから現れているのかが分かればせめて対策もとれるのに……」
 ポニーテールの女性、速水が鉄砲の形にしている手から緑の弾丸を発射している。
 二人の使っている武器は何らかのゲームに起因するものではない。電波感応者の能力、それは電子データを束ねて武器とすることができる、ということだ。電子データで構成された武器、電子武装は基本的に電波感応者同士以外にほぼ効果はないが、電子武装で殺害された電波感応者を既存の方法で捜査することは困難を極めたため、電波犯罪対策課が発足したのである。
 そして、今ではそれはオーグギアを利用した犯罪に対応できる万能の武器となっている。逆に、オーグギアさえあれば彼女たちはいらないという裏返しの意味も持っており、五課の構成員がたった二名であることの理由ともなっている。
「妙です、速水。羽根付きが特定の方向へ群れて飛行中です。警らにも確認しましたところ、羽根つきは特定の場所を飛行している可能性があります」
 如月が空を見上げながら速水に報告する。
「ふーむ……。えーっと、スミスさん、ユグドラシルシティ全域低空飛行許可証の発行を今から申請します。受理され次第、あなたはフライトパックを使ってあの羽根付きを追ってください」
「あ、了解」
 速水がスミスに指示を出す。スミスは別に速水の部下というわけではないので、速水の命令に従う必要性はないが、スミスは速水の命令を妥当だと判断した。
「こちら、警視庁刑事部捜査五課長の速水ミサ。協力者、GUFのスミス・マミヤにユグドラシルシティ全域低空飛行許可証の発行を申請します」
「了解しました、ただちに司法局へ通達します。緊急事態を踏まえ、発行され次第、現時刻までさかのぼって適用します。今すぐに行動を開始してください」
 速水が合衆国ステイツ 軍警察に連絡を取ると、すぐにオペレーターから頼もしいレスポンス。
「だ、そうよ。スミス君、頼んだわ」
「了解」
 スミスがフライトパックの翼を展開し、一気にエンジンを吹かせて空へ飛びあがる。
「さて、私達は引き続き、この辺のお掃除と行きますか」
「えぇ。考えてみれば最近事務仕事ばかりでしたからね、なまっていないか、見せてもらいますよ、隊長?」
「アンジェこそ、最近ちょーっとお腹のお肉が増えていることを気にしてること、私知ってるわよ」

 

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