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太平洋の世界樹 第4章(前編)

by:メリーさんのアモル 

 特異空間戦闘機が胴体からミサイルを切り離し発射する。目標は人間の襲撃に最も早く反応し立ち上がった巨人、中でも一つ目のサイクロプスと呼ばれる種族だった。
 ミサイルはレーダー誘導で確実にサイクロプスの大きな目を狙っていた。
「危ない!」
 サイクロプスをかばうように目の前に現れ、ミサイルの軌道を捻じ曲げたのはゴーストと呼ばれる亡霊の一種だ。
「助かった」
「当たり前でしょ」
 しかし、特異空間戦闘機はまだ複数飛んでいる。最も目立っていたからか、サイクロプスに向かってさらにミサイルが飛ぶ。
「やれやれ、仕方ないなぁ」
 イフリートと呼ばれている精霊の一種が、炎をふぅっとあちこちに飛ばす。赤外線誘導(熱に反応して追尾する仕組み)であったいくつかミサイルはそれに騙されてあらぬ方向へ飛んでいった。
 残りのミサイルへは、レプラカーンが巨人の肩を借りてミサイルに飛び乗り、なんとミサイルを解体した。
 ミサイルのなくなった特異空間戦闘機を収容しようとする特異空間爆撃機をヨトゥンがぶん殴る。圧倒的な質量を前に、特異空間爆撃機はなすすべもなくバラバラになった。
 ところが特異空間戦闘機は帰るべきところを失ったことを理解し、むしろ躍起になって攻撃を行う。本来はミサイルが切れたら一度離脱するのだが、彼らは戦闘継続を選んだ。先端付近に装備されている25mmガトリング砲が特異空間爆撃機を破壊した巨人に降り注ぐ。
「ぐっ、いてぇじゃねぇか!」
 やや動きが緩慢なヨトゥンは急いで振り返るが、既に戦闘機は自分の側面を通過している。
「空を飛ぶ敵は俺たちしか攻撃が届かねぇのに、これじゃ攻撃できねぇ」
「あとは任せなさい」
 翼の生えたエンジェルと呼ばれる精霊が大きな剣を持って、戦闘機に追従する。何も持っていない方の手を戦闘機に向かって突き出し、真っ白な光弾を発射して戦闘機を打ち落とす。
「なんだ、あんたらが手を貸すなんて珍しいな」
「今では私達もこの連合の一員ですから」
 最後の一機となった特異空間戦闘機は慌てて光の壁を抜けて離脱していった。
「なんとか凌いだか……」
「追撃しますか?」
「俺たちの目的は世界樹の機能復活であって敵対勢力の排除ではない。撃退さえできれば、それでいい」
「元から叩くべきだ!!」
「そんなことをしていたら、ドヴェルグどもと同じになってしまう!!」
 何人もの異種族たちが意見をぶつけ合う。
「私たちにはリーダーがいないからな。こんな風に意見がぶつかり合うと、収拾がつかなくなることも多い」
 デックアールヴの女が少年に話しかける。
「……あの」
「ん? どうした?」
 少年が言いにくそうに切り出す。
「彼らに、特異空間騎兵部隊に、協力をお願いできないんでしょうか?」
「馬鹿な。連中は人間以外を敵として見ている、どうやって」
「それは、世界樹のことを知らないからです。知ったら、そちらの方がいいってわかってくれるはずです」
「……」
 少年に言葉に黙り込むデックアールヴの女。
「残念だけど、それは一度試したのよ」
 そう声をかけてきたのはヴァルキリーという精霊の女性だ。
「……そうだ。そして彼らは基地に近づいた私達に容赦なく攻撃を加えてきた」
「それは、人間以外を敵だと思ってるからですよ。僕が説得に行けば!」
「そんな、危険だよ」
 少年の主張を止めに入ったのはドライアドの少女だった。
「せっかくここまで逃げてきくることができたのに、また危険な場所に行くの?」
「それは……そうだけど……。でも、この事態を解決できる可能性があるなら、僕はそれを試したい」
「そんな……」
「いいんじゃないか?」
 デックアールヴの女が口をはさむ。
「確かに、あの騒がしい人間たちがこちらと敵対しなくなれば助かる。それは事実だ」
「仲間にできれば、あの空飛ぶ鋼鉄の鎧も役に立つでしょうしね」
 ヴァルキリーの女性が同調する。
「ありがとうございます。僕、行きたいです。基地の場所を教えてください」
「あぁ、奴らに捕捉されない範囲までは私も案内しよう」
 デックアールヴの女が少年を導くように、光の膜から外へと出ようとする。
「待ってください」
「どうした、ドライアドの少女よ。人間の少年はもう決断した。それを再び止めようとするのは無粋というものだ」
「違います。私も、私もついていかせてください」
「…………ふむ。あぁ、いいだろう」
 デックアールヴの女は思いがけない提案に思わず固まるも、すぐにそれを許可する。
「さあ、人間たちの基地は遠いぞ。あの大きな空飛ぶ鋼鉄の鎧でも半日はかかるはずだ」
「仲間たちには私から伝えておきます」
 デックアールヴの女が光の膜を抜ける。ヴァルキリーの女性がその背中に声をかけ、飛び去って行く。

 

 数日間歩き、森の木々が薄くなってきた。
「この辺、木々が少ない……?」
「あぁ、あの人間たちが時おり手を入れているのだろう。あの空飛ぶ鋼鉄の鎧はある程度スペースがないと飛べないようだしな」
 ドライアドの少女が不安そうにつぶやくと、デックアールヴの女が答える。
「そういえば、人間は死んだ木でできた家に住んでた」
「死んだ木?」
 ドライアドの少女の発言に驚く少年。
 確かに、根を張って光合成と呼吸をしている木を生きている、と定義するのであれば、根から切り離され、光合成も呼吸もしなくなった資材としても木材は死んでいる、ということになるのかもしれない。と思い至る少年。
「そうか……そんな考え方したこともなかったな」
「あまり気にするな少年。例えば私達等も鉱石でできた剣と鎧で戦うが、これもゴーレムどもに言わせれば石を殺して使ってることになるわけだ。お前たちは確かに木を殺して生きているのかもしれない。だが、それはあの羽虫どものように無為に殺しているわけではあるまい? 私達は元より、様々な生物を殺して食べているのだしな」
「無為に殺しているわけではない……」
 消費時代と言われていた昔のことを考えると果たしてそうだったのだろうか、と少し考えてしまう。自然と調和する白妖精らと交流を深めるには、本当に様々なことを考えなければならないらしい。
「そ、そんなに気を使わなくていいよ……。ごめん。でも、世界樹が世界を9つに分けたのは、そういうことなんだろうね……」
「さて、話中のところ申し訳ないが、見えるか、あそこの盛り上がった土のあたり、あそこから地下に入ったところに基地があるらしい」
「いや……残念ながら僕はそこまで視力が良くないから……」
「私にも見えない……」
 少年と少女が二人で目を凝らしてよーく見てみようとするが、全くわからない。言われてみれば何か盛り上がっている部分があるような、と言う感じだ。
「ドライアドも人間も視力が良い方ではないものな。まぁ、あの辺だとさえわかれば大丈夫だろう。私は、戻る。幸運を祈るぞ、少年」
 デックアールヴの女は来た道を戻っていった。
「行こう」
 ドライアドの少女が立ち上がり、少年の方を振り返る。
「あぁ」
 少年も立ち上がる。そして二人は、基地がある方へと向かっていく。
 
「とまれ!」
 歩いていると、突然声をかけられた。見ると、近くの草むらに伏せていたらしい。
「何者だ」
「え、えーっと……。せ、世界樹連合の者です。えーっと、世界樹の機能を」
「見れば、片方は人間ではないな」
 手元のアサルトライフルを構える特異空間騎兵部隊の兵士。
「待ってください。戦うためにここに来たわけじゃありません」
「黙れ、こいつは人間じゃない。化け物の仲間だろう」
「違うんです。あの蟻のあいつらは確かに敵ですけど、彼女たちは別に人間と戦う理由は……」
「先日も私たちの仲間の多くがやられた。そんな言葉を信じるわけにはいかないな」
「そんな、それはあなたたちが」
 説得を試みるが全く聞く耳を持ってくれない。というか最後まで話をさせてもらえない。
「敵の肩を持つのか、貴様も裏切り者だな」
「え」
「拘束させてもらう」
「そんな、ちょっと待ってください。僕はただ」
「パトロール部隊、ブラボー3よりCP、怪しい人物を発見。拘束します」
 特異空間騎兵部隊の兵士がトランシーバに言葉を投げかけ、
「了解。拘束を許可する。受け入れ準備を進める」
 と、返事がトランシーバから届いた。
「とりあえず、今は抵抗しないでいよう」
 と少年が少女に声をかけ、少女はうなづいた。

 

後半に続く

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