未来を探して 第2章(前編)

by:tipa08   

 バチン、バチンと手に握った電動工具で衣装ケースぐらいの箱を大樹ほどある太いパイプの表面に固定する。
 固定した“OSAKA”と書かれた箱から伸びるケーブルを近くにあるポートへ接続する。
 ポートの真上にあるアクセスランプが緑色に光るのを確認したら、腰にある非常用の手動操作レバーを操作して、少し離れた所にいる、ランチと呼ばれる小型の作業艇の方を向くために宇宙作業服の数か所に備え付けられたスラスタから白い煙のようなものがシュッシュと噴射する。
 そして、レバーのトリガーを引く、するとスラスタが前方に加速するための噴射を行い、ランチに向けて体が前進する。
 手動操作レバーは十字の方向に倒すことができる、右に倒せば右方向に旋回。左に倒せば左に、前に倒せば上方向へ、後ろに倒せば下方向に旋回する。
 トリガーは引けば前進。トリガーに空けられた穴に指を入れて前に押せば後進する。
 トリガーとレバーは同時に操作可能であるため、右に旋回しながら前進という事も可能だ。
「あらー、ほんとにお上手」
 ミアがそんな事を言いながら先ほど固定した箱と同じ物をランチからポンとスミスの方へ押し出しながら言った。
「渡すときは言ってから渡してくださいね」
迫ってくる箱を慌てて受け止め、それで変化した重心と加速方向をレバーの操作で立て直しながらスミスが言う。
「不意打ちの訓練ってことでー」
 訓練というのは、先ほどから非常用のレバーを用いて作業をしている事である。
 考えた通りに姿勢、方位、速度調整をオートで行うトレースシステムが装備されていない宇宙作業服というのは販売もされていないし、旧式の物が現存していてもその多くは博物館の展示品であろう。
 よって、宇宙空間で単純に作業をする場合は緊急用のシステムは把握しておくだけで問題ないのだが、戦闘等の激しい使い方をする場合、コンピューターの破損や、激しい機動を行う事で安全装置が作動し、システムが停止する事を想定して手動システムで様々な事が出来るように求められる。
「これで最後でしたっけ?」
 スミスは追求しても仕方がないと思い仕事の話題へと移行する。
「そうだよー、今回は三つだからね。それはCNの18だってさ」
 最後の場所を示す言葉は先の二つと連番であったから、場所は誰にでも容易に想像できる。
「了解です」
 スミスは再びレバーを駆使して現場に向かい、同じ手順でトリチウムリアクターをCN18に取り付けた。
「これで良し」
 ランチに戻ろうとして、ケーブルを接続していない事に気づいて戻って接続し、ランプの点灯を確認する。
「これなら問題ないねー。帰ったら次の訓練かな?」
 無事作業を終え、ランチに戻ってきたスミスをミアが出迎える。それと同時に彼女は同時に事前に設定したルートを航行するようにランチの航法コンピューターに指示を出したため、ランチはその動力である小型エンジン四基を起動させ、航行を開始する。
「しかし、なんでそんなに上手なの?」
 宇宙作業服なんてなかなか着る機会の無い物であるし、非常時操作システムの把握というのはさらに珍しい技能であるから、ミアの疑問は当然の物であった。
「どんな状況でも農業ステーションを維持できるようにって学校で授業があったんですよ」
 農業ステーションは惑星によっては食料供給の要であり、トラブルが発生によって供給不能となれば餓死に繋がりかねない。
 平時であれば他星からの輸送や貯蔵で耐えられるが、居住惑星が孤立するという事態が無かったわけでは無く、その事態をきっかけに、居住惑星はある一定以上の食料供給能力を確保義務付けられている。
「なるほどなあ、食料供給は最優先事項なんだね」
 ミアは徐々に近づいてくる目的地を眺めながらそう呟く。
 視線の先には、破棄された世界樹の枝、つまり巨大な円柱があり、所々の亀裂や隙間からその内部に箱のようにも見える旧式艦艇の間に幾つもの管が渡されているのが見える。
 これが、スミスが所属する事となった組織、“アドボラ”の拠点であった。

 

「君はこの先どうするつもりだい?」
 スミスがミアの脱走に巻き込まれてアドボラに来た際に、“アドボラ”のリーダーであるシャイヌ・バイコスキーにそう尋ねられた。
「えっと。まだ困惑しています」
 スミスは正直に答えた。
「僕たちとしては君を勧誘したいと思っているけど、知っての通り我々はテロリストに分類されてしまう組織だ」
 “アドボラ”という組織は非合法の武装集団である、非合法の武装集団が行動を起こすというのはテロに分類されてしまう行為である。
「分類されてしまうと言っても、理想のために武力を行使するのはテロだからね。それは当然だ。我々の理想、行動理念は分かるかな?」
 少し不満そうにシャイヌは言う。
「はい、武力を用いた不当な弾圧、差別に対して武力を行使する。ですよね」
「その通りだ。よい評価をありがとう」
 ニュースでは大抵テロリスト、良くて不法武装集団という認識で報道されている場合が多い。実際“アドボラ”の前身である“アドボカシーボランティアーズ”はかなり凶暴な団体であった。
 もともとは“アドボラ”と同じ理由で設立され、情勢の混乱の中で少数種族差別を主とした差別と闘った組織であったが、情勢の混乱に乗じた弾圧というのは激しすぎた、“アドボカシーボランティアーズ”自体も激しく戦闘をしたし、その活躍に便乗した凶悪な武装組織もいた。銀河の大規模な混乱、地球圏動乱において“アドボカシーボランティアーズ”は差別を理由に武力を振りかざす悪の組織として認識されるようになった。
 その活動が制圧されたのち、人々は彼らの活動で守ろうした少数種族は恐れられる存在となり、差別は激化してしまった。
 よって、“アドボカシーボランティアーズ”という組織の評価は低く、それを引き継いだ“アドボラ”という組織の評価も低い物なのだ。
「父が悪い物では無かったとよく言っていましたので」
 この銀河の混乱期において、治安維持を担当するシステムは成立しきっていない。
 惑星連合の連合軍であるGUFですら、広大な支配地域を警備する能力を得るまで再建されておらず、不当な武力を持って少数種族を弾圧する組織を拘束する事も出来ず、星間通商の防護する能力すら不足しており、民間軍事会社に護衛を依頼する企業もあるほどであった。
 そんな状況であったから、不当な武力を差別に武力で対抗するというのも理解できるというのがスミスの父の言葉であった。
「ふむ、君はどうしたい? 我々に参加するか、それともGUFの権利の及ばない安全な惑星で生活するか」
 シャイヌはじっとスミスの目を見つめながら話した。
「覚悟はできていませんが、このまま離れるというのは釈然しません」
 その目に引き出されるようにスミスは正直に言葉を出す。覚悟というのは武器を使う覚悟である。
「スミス君、夢はあるかい?」
 シャイヌは何気なしに尋ねた。
「いえ、ありません。もうちょっとで進路を考えないといけないのですが…」
 不味いとは思っているのだが、やりたい事が分からないスミスであった。
「それなら、訓練だけ試しに受けてみてくれないか?」
「えっ、いえ、しかし」
 スミスは提案にしどろもどろな返事をする。
「心配しなくていい。我々の敵は無人機も多い。GUFと渡り合う事にならない限りはね」
 と、説得するが、スミスはGUFとの交戦を得てここにたどり着いたのだ。GUFとの交戦が低確率であると思うのは無理があった。
「分かりました、とりあえず訓練だけでも…」
 しかし、何をしたいのか分からないスミスは、ひとまずやってみる事でその適正を見てみる事にしたのだ。
「ありがとう、これは違うと思ったらすぐに辞めてもらっていい。辛い戦いだからね」
 シャイヌはそう言うと、スミスの肩に軽く手を乗せた。
「はい、よろしくお願いします」
 スミスは軽く頭を下げた。
 そして、“アドボラ”の活動資金源の一つである、世界樹での作業の中での訓練が始まったのであった。
 そして、ついに訓練が次の段階に移行する時となった訳である。

 

「というわけでー 私はちょっと警戒に出ないと駄目なので代わりにシアちゃんが教官をやってくれます。いえーい」
 ミアは、箱のように見える旧式艦艇の一隻、チトセ型宙雷艇母艦“チハヤ”艦内の航空機整備甲板に到着したランチから降りるなりそう言った。
「えっと、会った事ありましたかね?」
 スミスは人の顔と名前を覚える事に自信はある方であったが、知っているよねと言わんばかりのノリであったので、一応確認する。
「ないよー、あの子はワカミヤに部屋があるし。あ、バラバラに配置するならスミス君は終わったらアキツシマ所属になるのかな?」
 “ワカミヤ”、“アキツシマ”共にチトセ型である。後期型、前期型の違いはあるが、引退時に輸送船として払い下げられたものを購入し、大規模な改装を施しているためあまり違いは無い。
「それは分かりませんけど……。それで、私がワカミヤに?」
 スミスが尋ねる。ミアはそれに答えるため口を開きながら宇宙作業服とは違う戦闘用の、しかもさらに特殊な宇宙服を身に着け始める。
「んー、いやもうすぐ来てくれるよー。交代をここですることになってるから」
 その声と同時くらいに先ほどランチが侵入したのと同じハッチのガイドビーコンが作動し、着艦する機体を向かい入れる用意をする。
 青い光を放ちながら高速で移動する人型の何かがガイドビーコンに従って、侵入する。
 “チハヤ”の甲板に接触する直前で青い光を放つスラスタで急減速してゆらりと甲板に着地する。
「シアちゃん流石ー。 こっちがスミス君ね。あとはよろしく!」
 着艦への賞賛とスミスの紹介を手早く済ますと、カタパルトにT字型のハンドルをつなぎ、甲板管制に合図をして、カタパルトの急加速によって発進していく。
「あの子はいつもそうね。あの勢いは何処からくるんだか…」
 シアと紹介された女性はため息のように呟きながら、宇宙服のヘルメットを外す。
「シア・シニアムよ。あなたとは同年齢位よ。よろしくお願いするわ」
 ヘルメットによって抑えられていた髪の毛が立ち上がる。その髪は狐の耳のように見えた、
「はい、よろしくお願いします。スミス・マミヤです」
 しかし、驚いたりはしない。サレリアでは獣人種族と言われる人種は珍しくないためだった。
 耳を見せると大抵驚かれるシアは驚かれない事に少々困惑したが、伸ばされた手を掴んで握手をする。
「まず、フェアリースーツを着てもらわないとね。ついて来て」
 そう言うと、甲板の端にあるロッカーように箱が並ぶ空間へ向かって歩いていく。
「結局、フェアリースーツとはどういう物なのですか?」
 スミスは訓練の最終目標はフェアリースーツを着て自在に操る事だとは聞いていたが、それがどういう物であるのかは聞いていなかった。
「フェアリースーツは、次世代宇宙戦闘服計画に提出された小型“粒子”イオンスラスタシステムを採用した高機動宇宙服システム。メインスラスタの光が妖精の羽に見えたことからそう名付けられた」
 シアは百科事典をそのまま読んだような口調で説明する。
「小型の“粒子”イオンスラスタから得られる出力で高速かつ高い機動性を持つ予定であったが、小型“粒子”イオンスラスタは高出力時に制御が難しく、安定性に欠けたため、予定していた高機動性、高速性は発揮できず採用を逃し、宇宙戦闘服は既存のモノペラント推進方式の発展形が採用された」
 シア自体が百科事典であるかのように感じるくらいスラスラと固い口調で説明した後、また口を開く。
「まあ、単純に言うと“粒子”を活用した新型宇宙服を採用したけど、安定しなかったから採用されなかったって事」
 “粒子”を用いたイオンエンジンというのはそれまでのイオンエンジンとは比べ物にならない出力を誇り、化学ロケットを駆逐してしまうほどのものであった。
 宇宙空間での機体制御手段であるスラスタも“粒子”を用いた物に置き換えられ、大型艦でもかなりの機動性を発揮できる上に、従来のモノペラント式よりも燃費が優秀であった。
 しかし、その大きさは大型であり宇宙服や小型宇宙船に組み込むシステムとしてはモノペラントが主流であった。
 フェアリースーツに搭載される小型イオンスラスタは小型高出力を実現するために設計されたが、高い出力を出すと安定せず、安定する出力で使用した場合には従来宇宙戦闘服との目立った差違を感じられないという欠陥を抱え、採用されなかった。
「でも、私たちは違う。この粒子を扱える力を使えば、スラスタの出力を引き出すことができる」
 サーミル感染症の粒子操作能力は、熟練すれば念じた通りに粒子を扱えるようになる。そのコントロール力を使って、放出される粒子を加速させればいいのだ、そうすれば他の宇宙服より燃費も、出力も良い宇宙服として使用できる。
 主武装として使用されている粒子ブラスターはフェアリースーツ用の物を粒子操作によって加速されやすいように再設計されたものであるから、使いこなせるようになれば、兵器レベルの火力を発揮できる。
 つまり、人間サイズの戦闘機が完成するのだ。元のフェアリースーツのコンセプトもそれに近い物であった。
「でも、スラスタを用いた姿勢制御は複雑な噴射だから、どこがどう噴射するのか、と言うのを覚えていないとコマみたいに回ってしまうから注意して」
 宇宙服各所のスラスタポートからの噴射が、コンピューター制御によって出力、向きをコントロールされているから姿勢が思った通りに動くのである。
 粒子操作で引き上げられた出力と言うのは、コンピューターで制御された物を加速させたものであるから、すべての噴射箇所を正確に強化しないと、望む姿勢へとは変化しない。
「正直私もうまく行かないから、手動操作レバーの操作で加速できるようにしたらいいと思う。ミアはコンピューターに合わせて操作できるけど」
 手動操作レバーは先述の通り、単純な動作だけであるから、スラスタの噴射も覚えやすい。
「ミアさん、すごいんですね」
 非常にマイペースでふわっとしている人間であるから、スミスは本当に彼女が戦闘できるとは思っていなかった。
「ええ、あの子。訓練で出せるだけ出してみたら駆逐艦の主砲並みの威力を発揮したと聞くし……」
 “アドボラ”はサーミル感染症の非発症者、凶暴化していない者達の隔離政策について反対する立場であるのだが、自ら危険性を証明している状態であり非常に悩んでいる。
 サイボーグも体が凶器であるという点では変わらないため、そこを攻めて危険性によって隔離が激化しないようにしていく方針であるそうだが、スミス達には関係の無い動きである。
「習うより慣れよ、というでしょ。さあとりあえず装着してみて」
 長い説明が終わり、ロッカーからフェアリースーツが出される。
「普通の宇宙服と同じように着られるから、あとこれは貴方の武器庫の鍵ね」
 そう言うと、紐に繋がれたカーボン製の鍵を手渡してくる。
 旧時代の鍵と同じ構造であるが、分子構造分析によって同一素材の鍵でしか開けられないというシステムが付与されている。そのため、同じ会社が製造する鍵でしか開ける事ができず、防犯性はバッチリであった。
 スミスは、フェアリースーツを着るとその受け取った鍵で、そのフェアリースーツを引き出したロッカーの中にある武器庫を開け、粒子ブラスターを持ち出す。サレリアは狩りの為なら銃を所持可能で、農地防衛のためと、大学のカリキュラムにも狩りが含まれていたため、銃を触れる事に驚きは無かった。
 この粒子ブラスターは通常の歩兵用の物と違い、単発の威力を重視し、高威力で連射は効かないが射程が長いという特徴を持つ銃であった。
 フェアリースーツで使用される事が前提の銃であり、フェアリースーツと同時採用を狙ったものであったが、スーツが採用を逃したため正式採用されていない。
 社内呼称はあったのだろうが、独自の改修を行ったこともあり“アドボラ”ではただ単にフェアリーガンと呼んでいる。
「さあ、訓練に行きましょう。 カタパルトは使わずにそのままスーツの動力のみで加速します。訓練場所に到着するまでは粒子操作は使わないでね」
 その指示にスミスが頷くと、シアは背部から青い光を放ち飛び立つ。先ほどの着艦の光と比べると薄く、出力が加減されている事が分かる。
 スミスもそれに続いて、飛び立った。宇宙服と同じ要領で飛ぶことが可能であり、訓練場所までは何の問題も発生せずに到着した。
「それじゃあ、訓練を開始します」
 無線越しなのもあるが、声色がかなり変化しているのをスミスは感じた。ミアはのほほんとしていたため、忘れてしまいそうになるが宇宙での訓練というのは死と隣合わせである。
 それに加えて今回は武器も持っている。危険度は大分違う。
「まず、手動操作で動いて。あの二番の的に向かって移動して」
 大きく根元に二番と書かれた隕石に固定された的を指さしながら言う。
 スミスは難なくそれをこなして見せた。
「ここまで出来るんだったら……、子制御を使って右に一回転してみて」
 指示の通り、スミスは噴射するスラスタの粒子を加速するイメージを持ちながら、回る事をイメージする。
 圧倒的な出力であった。派手に右に三回転くらいしてから思い描いていた停止のための逆噴射を行う。しかし、これも激しすぎたため、もう左に二回転する。それを止めるための逆噴射でさらに右に一回転し、その次の逆噴射で停止するかとおもったら左に三回転した。
 通常の宇宙服であったらブラックアウトしかねない回転であったが、フェアリースーツは戦闘用の宇宙服であるから、対策が施されており、スミスの視界が奪われる事は無かった。
 しばらくそんな激しい回転を繰り返すと中途半端な角度となったが姿勢を固定する事に成功した。
 ヘルメットに内蔵されているHMDの表示が無ければ自分の向きの把握すら叶わないほどの大回転であった。
「アハハ、派手に回った回った」
 シアの軽い笑い声が無線越しに聞こえる。スミスは少しムッとした。
「まあ、私はもっと多かったから。貴方は上手な方よ」
 そう言いながら華麗に高速一回転をして見せた。
「とりあえず、これを習得しましょう。基礎的な動き方だから」
 そう言うと、コツを伝えたり、実演して見せたりの訓練が始まった。三十分ほどの訓練が終わった頃にはスミスは二回転から制止する事が可能となっていた。
「慣れない事をして疲れたでしょ。この訓練は終わりにして、スカッとする事をする」
 シアはそう言うと、フェアリーガンを構えて、粒子操作を用いて高威力の粒子弾を放った。
 それは的、分厚い板に直撃するとそれを貫いた。通常のブラスターなら貫けない強度はあるはずの板に簡単に穴を穿ったのだ
「さあ、貴方もやってみて」
 スミスは言われた通り、フェアリーガンを構えて意識を集中させて引き金を引いた。
 粒子弾はスラスタとは比べ物にならないくらい早い初速を持つから、スラスタと同じ感覚で加速させたためか、威力はシアよりも低かったが同じ板に穴は穿つことが出来た。
「すごい威力ですね」
 この銃から戦闘機並の粒子砲が放たれた事が信じられず、銃を見つめる。
「そうね」
 シアは短い言葉で同意した。
「さあ、戻りましょう」
 そう言うと、拠点に向けて加速する準備をした。
「ところで、撃ったら問題になったりしないんですか?」
 粒子砲は商戦の護身用等で有り触れた兵器であるが、それでも艦砲レベルの兵器でもある。
 発砲した場合は理由、目的等を示さなければならないというルールが制定されている。
「ここは“ウェスタンアドミラリィ”の訓練地に指定されているから、あらゆる装備の使用が許可されているよ」
「ああ、世界樹での訓練中によく見かけた」
 “ウェスタンアドミラリティ”は世界樹の警備を担当しているPMCで、規模としては世界二位を誇る企業である。
 “アドボラ”の活動にある程度の理解を示し、金銭、武装面での支援こそない物の、見逃したり訓練地の提供を行ったりと協力的な行いをしている企業である。
「帰りは全力でやってみましょう」
 そう言うと、シアの背中の青い光がひときわ輝き、爆発的に加速する。
 スミスも負けじと加速するが直進と言うのもただ加速するだけに見えて、バランスの調整が必要であるから少々ふらふら気味になっていた。
 『おーい、シア! 後ろは新人か!』
 ふと並走してきたアドボラで使用している宇宙戦闘機、H57サルフィンのパイロットが声を掛けてくる。
「ええ、そうよ」
 スミスは直進するので精一杯であるのに、シアは会話をする余裕があった。
 『お前と比べたら大分上手じゃないか? 宇宙に出てる経験があると違うな』
 シアは減速してそのサルフィンの後方に着く。
 『勘弁してくれよ、昔の事は話さんから』
 サルフィンのパイロットは、軽く機動を取って真後ろには着かれないようにしながらスミスに声を掛ける。
 『よろしくな新人! 俺はファースト・パイだ! わかりやすい偽名だろ』
 一番目のファーストとパイロットの略語であるパイを合わせた偽名であった。“アドボラ”一番目のパイロットであるからそういう偽名を使っているらしい、
「ええ、お願いします。スミスです」
 もう少し丁寧にしたかったが進路の維持で手一杯でほとんど言葉を出せないスミスはそれだけ何とか絞り出した。
 『直ぐに慣れるさ。んじゃ、お先に!』
 そう言うと加速していった。軽量で高い出力を持つフェアリースーツでも、それよりも大型のエンジンを持つ戦闘機を相手にすると加速度では負けてしまうのであった。
 その姿を追っていると、拠点に停泊する箱たちが見えてきた。
「一旦“チハヤ”に戻って次の打ち合わせをする。着艦は今度教えるから今回は相対速度を合わせて戻って」
 そう言うと、そのまま“チハヤ”の後方側面にある艦載機整備甲板に繋がるハッチに滑り込むように着艦する。
 スミスは“チハヤ”に近づきつつ減速し、ハッチをくぐった所で相対速度を合わせて甲板に接地する。
「おっかえりー、少し見てたよ。筋がいいねえ」
 ミアが手を振ってスミスを迎える。
「あ、そうそう。冷静になってみれば“アキツシマ”は航空機運用能力を持たないんだった。ロッカーもここにあるし、“チハヤ”の所属かなー」
 いきなり何の話かと思ったスミスだったが、交代の前後にそんな事を話していたことを思い出せた。
「哨戒、訓練お疲れ様。シア、スミスくんの腕はどうだ?」
 脱走したミアとスミスをここまで運んできたコンスタレーションのパイロットである、三人に声を掛ける。彼は“アドボラ”の戦闘部門の責任者でもあるのだが、部下との距離は近い。これは“アドボラ”という組織が軍事組織でもなければ企業というわけでもないから、上下関係がはっきりしていないためであった。
「しっかりできていると思う。データは必要?」
 シアはフェアリースーツにあるソケットを手で示しながら言う。それはデータ交信用のソケットで、そこにつなげばフェアリースーツに記録されたデータを読み込むことができるし、フェアリースーツのコントロールシステムをアップデートする事も出来る。
「そうだな、あとで抜いておこう。分析はこっちでやるから、君たちは休んでてくれ」
 その言葉を受けてシアが反応する。
「訓練の打ち合わせも分析の後の方が良い。休みましょう」
 その発言を受けてオラルドも発言する。
「ああ、そんなに慌てる事でもないしな」
 そう告げた後、スミスの方を向いて口を開く。
「疲れなかったか? 休憩を挟んでなかったみたいだが」
 本来は世界樹での作業兼訓練の終了後、休憩を挟む予定だったのだがミアが問題ないとスミスに確認すら取らずに判断して連続して訓練をさせてしまったのだ。
「ええ、体力はあるほうですから」
 実際にはスミスは、普段しない不思議な集中をしたせいで頭は少々痛く、変な動き方をしたせいで体の所々が少し痛みを発していたが、気になるレベルでは無かったため報告はしなかった。
「そうか、自室でゆっくりと休んでくれ。慣れない事をすると後から来るからな」
 そういうと、オラルドはミアを連れて、来た通路を戻り始め、スミスとシアはフェアリースーツを外し始めた。
 その時であった、通路と整備甲板をつなぐドアの横に取り付けられた艦内通信用の受話器が着信を示す光と音を放つ。
「こちら航空機整備甲板。ああ、私だ、どうした?」
 すぐ真横にいたオラルドが受話器を取った。その通信は彼宛であったらしく、そのまま受け答えを続ける。
「ミア、シア、スミスくん。すまないが二十分後にブリーフィングルームに集合してくれ」
 それだけ言うと通路を全力で駆け出した。
「えっと、スーツは脱いでいいんですかね?」
「ええ、基本艦内で着ていいのはここだけ」
 いきなり言われて混乱したスミスにシアが答える。
「それにそれだと座るのも地味にしんどいしねー」
 そうミアが付け加える。
「まあ、たぶん戦いよ。すぐに着るわ」
「だねえ、ブリーフィングルームに集合する時はいつもそうだもん」
 “アドボラ”は軍とは違って余力の少ない組織であるから、訓練は小規模でしか行えず、訓練の打ち合わせ等は格納庫でやっても支障が無いし、反省会をするにはブリーフィングルームの大きさは大きすぎるのだった。
 しかし出撃となると規模が大きくなるのでブリーフィングルームを使わざるを得ない。つまりブリーフィングルームを使う時は戦いがあるとき、構成員の大半はそういう認識であった。
「十分くらいでも仮眠を取ってきたらいいよー。迎えに行くし」
 そう言うと、ミアはスミスが外したばかりのスーツを取るとスミスのロッカーに収納する。
「さあ、休んだ休んだー。時間は有限!」
「ミア、言っていることは正しいけど、彼のペースも考えて」
 ぐいぐいとスミスを次の行動に移させようとするミアとそれを諫めるシア。当のスミスは銃を武器庫に入れていないのでそれが気になっていた。
「あ、あの武器を」
「あー、そうだね。急かすのは良くないね」
 ミアはそう言うと急かすのをやめる。スミスはようやく自分のロッカーの武器庫に自分の武器を格納できたのだった。
「それじゃ、迎えにはいくからー」
 そう言うとミアは居住区の自室に向けて歩いて行った。
「私は先にブリーフィングルームにいるから」
 シアの自室が“ワカミヤ”にあるため、休めないのだ。
「了解です。少し休んできます」
 スミスはそう言ってシアに会釈すると、自室に向けて歩きだした。
 戦いに不安を感じながら。

 

後半に続く

 


 

「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。