未来を探して 第4章(前編)

by:tipa08   

 惑星バリエドは、クラスC、居住困難とされた惑星である。
しかし、有用な鉱石が多く取れる惑星であったため、かつて大規模な掘削作業が行われ、地に巨大な空間を持ち、その内部の環境は光を除きある程度居住に適する環境であった。
 そのためその空間は、基本的には倉庫などで開発されていったが、GUFが対応しづらい地域であった事もあり、不法移民、隠れて暮らしたい者や違法、もしくはスレスレのジャク屋等様々な物で溢れかえる不思議な空間となっている。
「そういえば、治安はどうなんです?」
 スミスは疑問を口から発した。
「良いとは言えないが、大きなトラブルを起こすとGUF等に居住区が制圧される事を恐れて、そこまでのトラブルが起こらないように自警団があるからな、そこまで気にすることは無い」
 オラルドが解説しながら、ミアの救出にも使用されたシャトルに搭乗する。
 宇宙港も整備されているから、“チハヤ”“ワカミヤ”が下りる事も可能であったが損傷艦の入港というのは手間もかかるし、気も遣うし、で嫌われるため、物品のみを調達し、こちらに持って帰ってから修理すべく、サレリア脱出の際にもスミス達が搭乗した小型の宇宙船、コンスタレーションを使用する事になっていた。
「まあ、スリや窃盗は多いようだ。持ち物の管理はしっかりとしてくれ」
 最後に入ったミアがドアと閉じ、オラルドの各種点検が終わるとロックが外され、コンスタレーションは“チハヤ”艦底部のハッチから発進する。
「スミスくん、スミスくん。これ分かる?」
 ミアが食料等の一般的な消耗品の購入予定物品のリストを指さしながら訪ねる。スミスとミアはこちらの物品を調達する事になっている。
「えっと、すごく大きな豆です。人の顔ぐらいあるかな」
 その食料、ジャルビーンについてスミスは知っていた。居住可能ならどんな環境でも育つと言われる強靭さから、それなりの市場なら見かける物である。基本的にはペースト状にすり潰され、そのまま食べたり、合成の素材として用いたりする。
「ああ、デカ豆」
 ミアはジャルビーンの愛称を口にする。これ以上の豆は中々無いため、でかい豆だと言えばこれを示すため、誰も本来の名前を気にしないのである。
 そのようにミアとスミスが任された物品について確認している間に、コンスタレーションは大気圏に突入し、バリエドの宇宙港に入港した。
 入港口と出港用のマスドライバーこそ少ないが内部はかなり広く、大型の貨物船からシャトルのような小型機まで、様々な宇宙船が停泊していた。
「こんな広大な地下空間があるんですね」
 スミスは思わず感嘆の声を上げる。
「ああ、これだけの地下港は中々無い」
 管制の指示に従いながら滑走路を目指すオラルドが言う。この地下に広がるスペースは掘削地であった頃からの設備であり、いかに大量の資源が掘削されていたのかという事を伺う事が出来る。
 高度を落とし、滑走路に降り立ったコンスタレーションは、滑走路からその端にあるパッドの上に移動し、そのパッドが動き出し、駐機スペースまで移動を開始する。
 この駐機スペースまでの移動が中々長く暇を少し持て余したが、トラブルも無く無事に駐機スペースに到着した。
「よし、じゃあ予定通りに二手に分かれて物品の購入。何かトラブルが起きた際にはしっかりと連絡を取るように」
 オラルドはエンジン停止の操作をしながら、最後の確認を行う。
「了解です」
「りょーかい」
 スミスとミアが返事をして、ミアがドアのバーを操作しドアを開け、ボタンを押して収納式のタラップを展開する。
「んじゃ、先に行ってまーす」
 ミアはコックピットにそう声をかけてタラップを降り、スミスもそれに続く。
 二人は駐機スペースから一部地質むき出しの通路を歩き、市場の方に出た。
 広大な地下空間に多くの露店や店舗が並び、掘削の為に作られたのであろうキャットウォークや足場を利用して壁面にも多く存在していたから、この空間全体が活気にあふれていた。
「食品市場は……あっちみたいだね。」
 鉄板に雑に書き込まれた案内図を見てミアが呟くように言う。
「この辺りでも扱ってるみたいですね」
 案内図によると入り口直ぐは雑貨市場で様々な物が取り扱われており、食品も扱われているようだった。
「雑貨市場だと余計な小物買っちゃうからねー。食品市場にゴーゴー!」
 そう言うとミアは駆けるようにして食品市場に向けて歩み始め、スミスもそれに続き食品市場へ向かった。
 食品市場では豊富な食材、合成食材用の素材が多く取り扱われており、リストに書かれた物品もあっという間に調達する事が出来た。
「本当に色々あるねえ。これはおいしいの?」
 ミアがお祭りの出店のように商品を作りながら販売している店舗の商品を買いながらスミスに尋ねる。
「えっと何だろう……」
 カステラのような生地で何かが包まれているお菓子のように見えるが、ありふれた外見的な特徴であるため、スミスはそれが何であるか判断できなかった。
「ゲソ系かなー。中々の歯ごたえ」
 内容物から考えるとお菓子よりも食事に近かったらしいそれを口に含みながらミアが感想を言う。
「スミス君も食べる?」
 ミアは自分の使っていない樹脂製のフォークをスミスに見せる。
「じゃあ少しいただきます」
 スミスはフォークを受け取り、その丸い食べ物を口に運ぶ。なかなか食べ応えもあり、ゲソ系の中身の味も良好であった。
 そのように、市場を楽しんでいたスミスとミアであったが、ミアがふと携帯端末を起動して入港からの経過時間を確認して声を出す
「あー、結構時間使っちゃったね。そろそろ戻ろうか」
 リストの食材類が入ったカバンをしっかりと肩にかけ直しながら、ミアが市場を後にしようと歩き始める。スミスもそれに続いて歩き始めようとした時だった。
「スミス!」
 いきなり背中から声をかけられる。その声はスミスにとってはよく見知った声であった。
「いやっほー、スミス君」
 スミスが振り返ったタイミングでさらに追加で声がかかる。そこには、スミスの幼馴染であるサリュア・カリグラスとその母、マリン・カリグラスが少し驚いた表情を浮かべて立っていた。
「ありゃ、知り合い?」
 ミアもスミスの様子を見て、振り返る。
「ここでアドボラと合流できるなんね。オラルド君はいるかな?」
 マリンがそう言いながらスミスとミアにゆっくりと近づく。サリュアもその側面を守るようにしながら共に近寄ってくる。
「えっと、今から合流するところです」
 スミスは少し混乱しながら正直に回答する。その回答を聞いてマリンは手をパンと合わせながらこう言った。
「よし、じゃあ合流した後ゆっくり話そうか。スミス君にもいろいろ話さなきゃだしね」

 

 合流地点の駐機スペースにスミス達が到着する頃には、オラルドは出発の為の準備を行っていた。近づいてきた事に気づき、コンスタレーションから目を離し、スミス達を見たオラルドは、マリンを見てはぁとため息をつきながら頭を抱えた。
「博士、今回はどんな無茶振りですか?」
 それに対してマリンが笑いながら答える。
「無茶振りなんてしたことあったかな?」
「あれが無茶振りじゃないなら何なんですか……」
 オラルドはさらに頭を抱える。
「二人は知り合いだったんですか?」
 スミスが尋ねる。
「そうだよ、真面目に博士していた時に直属の護衛官だったのが彼だったんだ」
 懐かしむように視線を上にあげながらマリンが答える。
「は、博士?」
 スミスはマリンが不思議な物を作るのは知っていたが、博士だとは知らなかったため、驚きの声を上げる。
「リーフェリット博士、と言えば知ってるかもしれないな」
 頭を上げたオラルドが言う。
 その名前ならスミスは知っていた。現在使用されている輸送用標準コンテナや、フェアリースーツの非常備品に含まれる小型のレーザー拳銃等、様々な物を開発した博士で、技術に関わる者なら知らぬ者がいないというほど有名な人間だった。
「それは旧姓でね、あんまり有名になりすぎて伸び伸びできなくなったから、結婚を機に苗字を変えたの」
 手を組み上にあげて伸びをしながら、マリンがそう言う。
「それで博士、一体何の御用です? “アドボラ”に指示を出すだけなら通信でいいでしょうに」
 オラルドの質問に対して、マリンは質問で返す。
「世界樹の下で何をどんな研究をしているか知っているかな?」
 発電の為のソーラパネルや発電機の為の放熱板、それを設置するための増設シャフトなどで木に見える事からそう呼ばれる世界樹は、その下にある研究所に電力を供給するために建設されたものである。
「公式で発表されている事以外は知りません。それで研究所がどうしました?」
 オラルドが短く答える。
「なんか不審な研究をしているらしくて、それで調査しようって話が出てきたの。でも、直接乗り込む前に周辺で調査をしようと思ってね」
 そのマリンの言葉に対し、オラルドがこめかみの辺りを指で押さえながら返事をする。
「それでうちの拠点を使えないかって事ですか」
「それと、君たちについて行ったらわざわざ貨物船に便乗させてもらわなくても済むからね」
 発電機能の多くがジャンク品をかき集めて作成される世界樹にとって、このジャンク品も多く集まる市場は供給源となっており、不定期ではあるが貨物船の航路が存在している。
 しかし、ジャンク品の需要はあれど人が行きかう必要は無い為、客船やシャトルの航路は存在しないため、此処から世界樹に行こうと思うと、その貨物船に乗せてもらうしか方法は無い。そもそも、世界樹に大人数が移動することは少なく人の為の航路は、一、二本しか存在しない。
「分かりました、相談してきます」
 そう言うとオラルドはタラップを上がって、コックピットに入る。ミアはいったん地面に置いた食料品類の入ったカバンを持ち、コンスタレーションの近くにあるコンテナに向かう。スミスはそれを手伝おうと付いていこうとしたがミアに止められる。
「せっかくだし、ゆっくり話した方がいいと思うよー。通信、しばらく時間かかると思うし」
 後はお願いねと言うように、ミアはマリンに向けて手を軽く振る。マリンはその手の動きを見て、一歩前に出て、スミスに話しかける。
「オラルドくんと私が知り合いだったとか、スミス君が“アドボラ”にいる事に驚いてないとか、色々とあって混乱しているでしょ?」
 そう言われてスミスはようやく指摘された不自然さに気付いた。
「その様子だと、いつも通りいきなりの事態に混乱して特に考えてなかったみたいね」
 サリュアが少しため息をつくようにしながら声を出す。
「スミス君はそういう所があるよね」
 うんうんと頷き同意しながらマリンがそう言う。
「まずは何処から話そうかな。政治的な争いについてかな、生まれについてかな」
 マリンが首を傾げながらブツブツと様々な事を呟く。
「よし、まずは謝罪かな。スミス君がサーミル感染症を有している事は知っていた。まずはその事」
 会話に支障のない程度のお辞儀よりは深い礼をし、マリンは話を続ける。
「さらに、サーミル感染症の非発症者が監視で十分というテストケースとして使わせてもらった事についても謝るよ」
 さらに言葉を続けようとしたマリンを遮るようにしてスミスが発言する。
「えっと、テストケースって?」
「ああ、そうだよね。それも説明しなきゃか」
 スミスの質問に対して軽くおでこを叩いてから質問に答える。
「えっと、議会にもいろいろな派閥があって、サーミル感染症の隔離に全面賛成って訳じゃなくてね。うちの旦那も反対の派閥なんだけど、大丈夫だって根拠が無いからその根拠作りって事だよ」
 モニターか何かを探しているのかキョロキョロとしながらマリンが話す。それを見たサリュアがタブレットを手渡すが、マリンは少し操作して止めた。
「でもそろそろデータが揃うかなって時に敵対派閥に感づかれてスミス君が拘束されちゃった」
 説明しながらもう一度タブレットを操作するが、またすぐに操作を止める。
「資料用意してないから難しいね。あ、“アドボラ”がスミス君を助けたのは偶然だけどね」
 やはり良い資料が無かったらしく、マリアはタブレットをサリュアに返す。
「さて、説明はこんなとこかな。質問は?」
 マリンはスミスに向き直る。
「えっと、“アドボラ”との関係は?」
「うちの旦那の派閥、マックス派って言うんだけど。その派閥のメインは反差別だから、“アドボラ”とはある程度の関係があるの。その加減で、ある程度は情報が入ってきていたからスミス君の事は知っていたって訳だよ」
 大体の質問とその回答が終わったタイミングでオラルドがコックピットから出てくる。
「世界樹に来ることにも、調査にも問題は無いそうです。今から“チハヤ”に戻るので乗ってください」
 オラルドは搭乗口から身を乗り出すようにしながら、手で機内に招き入れる動作をする。
「よし、ちょっと時間が空いちゃうけど続きは世界樹で話そうか。色々機械を買ったところを見ると上がったらすぐ修理で話す時間も無いだろうし」
 マリンはそう言うとササっとコンスタレーションに乗り込み、サリュアもそれに続く。
「幼馴染ちゃんと喋らなくてもいいのかい?」
 スミスの後ろからミアが茶化すように話しかけてくる。
「いや、何を話したらいいのかわからなくて」
 スミスは頭を掻きながら答える。
「そっかー。まあしばらくは世界樹にいるみたいだしゆっくりでもいいと思うよ」
 ミアはスミスの肩をポンと叩くと、彼女もコンスタレーションに乗り込む。
 スミスは最後に周囲を見渡して、積み残し等が無いか確認してからコンスタレーションに乗り込んだ。
 ハッチが閉まると同時に、機体は駐機スペースからマスドライバーに向かい移動する。止まっていた駐機スペースは滑走路よりもマスドライバーに近い位置にあったらしく、入った時よりも圧倒的に速く到着し、混雑もしていなかった為宇宙にあっという間に到達した。
 コンスタレーションが“チハヤ”“ワカミヤ”に合流すると、マリンが言った通りすぐに修理に取り掛かる事となり、宇宙での作業もできるスミスとミアも作業に駆り出されたため、スミスは再開した二人とは話す機会が得られなかった。
 半日と経たないうちに簡易の修理は完了し、即座に二艦はワープを行い、世界樹に向けて航行を再開した。
 その“アドボラ”の一行の後ろに一隻の艦が存在する事に彼らは気付いていなかった。
「ワープ座標特定、ワープ先の通報艦に監視を要請します」
 砲の代わりに大量の索敵機材を搭載したGUFの通報艦“ナイアガラ”。その艦内にある情報を統合する情報処理室でオペレーターが発言する。
「損傷で警戒が甘くなってるらしい。今回は逃がさん」
 その声を聞いた艦長が手に持った電子煙草を掴む力を強めながらそう言った。
 世界樹にある“アドボラ”の一大拠点が発見されるのも時間の問題であった。

 

後半に続く

 


 

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