未来を探して 第5章(前編)

by:tipa08   

「敵拠点の熱源、すべてダミーです」
「陸戦隊に被害なし。撤収します」
 “アドボラ”討伐艦隊旗艦ザードリア改級戦闘艦“パラダイス”艦内の艦隊司令室にオペレーターの声が響く。
「まあ、予想通りだな」
 髭を蓄え、初老のようにも見える艦隊司令官がその髭を触りながら呟く。
「戻ってくる可能性もある、陸戦隊収容後、揚陸艦とその護衛艦はここに留まれ」
 命令を飛ばしつつ、司令官は目の前の端末でショートメッセージを作り送信した。
「セントラルアースのいいようには使われんよ」
「司令、何か?」
 司令がぼそっと呟いた一言に艦長が反応する。
「いや、なんでもない」
 司令は誤魔化すようにポケットから煙草を取り出そうとして、艦長の厳しい視線を向けられる。
「禁…」
「分かっているよ、禁煙だろう?」
 はぁ、とため息をつきながら、大きく声を張り上げて命令を出す。
「艦隊、移動を開始。目標JA1267」
 その指示を伝達するため、オペレーターが行動を開始し、艦長は“パラダイス”を動かすための指示を出し始めた。
 巨艦の機関に火が灯り、ゆらりと動き始め、それを中心に多数の戦闘艦艇が動き出した。

 

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「まあ、GUFはこの程度で逃れられる相手じゃないのは明らかだ」
 世界樹の拠点を離れてから、何度も短距離のワープを繰り返す事で敵の混乱を狙っている。それを指示した本人、オラルドがかなり自信なさげにそう言う。
「ワープアウト反応。大きさから探査ポットと推測」
 “チハヤ”の艦橋にその声が響く。
「やっぱり読まれてるな」
 ため息のような息を漏らしながらオラルドが立ち上がる。
「ポットから小型物体が射出。ワープしました」
 広大な空間では、電波よりもワープの方が速いという事が多い。そのため、遠距離と通信するためにはワープ可能な小型ポットを用いる事が多い。偵察ポットから射出されたのはその通信ポットであった。
「まあ、GUFの本気から逃げようと思えばここを使うしかないからな」
 外の稲妻を見ながらオラルドが呟く。アステロイドやデプリ等が密集し、自然や人工的に生じた電気が溜まり、発生した多くのノイズによって電子機器類に影響が出る宙域。そこがここJA1267であった。
「ここでワープすれば痕跡を追うのは困難だ。だが、ワープの前に一戦必要かもしれんな」
 この宙域でワープを行えば、ワープの後に残る痕跡は多くのノイズによって掻き消され追撃は困難となる。しかし、逆にノイズはワープ開始の為の計算にも影響を及ぼす。多くの時間をかけなければ予想外の場所に飛ばされ、最悪の場合は死に繋がる。
「センサーが頼りにならない以上、AI制御で時間稼ぎとは行かない。有人機によってギリギリまで戦闘を行い、ワープ直前で収容する」
 モニターに艦隊の陣形と迎撃の手順が表示され、オラルドはそれについて解説しようとするがため息をつく。
「収容している間に追いつかれるのがオチだな。やはり戦力を切り捨てるしかないか……」
 時間稼ぎをしている戦力を収容するという事は敵の足枷が無くなるという事でもある。足枷の無くなった敵は一気に接近し、ワープする前に攻撃を加えるだろう。それを防ぐためには、足止めの戦力をワープさせずに戦う事を選択するしかない。
 オラルドは大きく息を吸い、覚悟を決めたように強い声で声を発した。
「よし、“ワカミヤ”のみワープさせる。“チハヤ”“アキツシマ”はGUF艦隊に対して攻撃、彼らを足止めする」
 再び息を吸って、オラルドは再び口を開いた。
「“ワカミヤ”の護衛は最低限に留め、戦闘部隊はその全力を持って足止めを行う」
 “ワカミヤ”は、拠点で物資を積み込む段階で必須の物を詰め込んである。これが最優先の護衛対象で、それ以外の艦にも重要物資は搭載されているが、その優先度は“ワカミヤ”程ではない。
「デプリを活用した戦い方が容易なフェアリースーツ、宙雷艇を中心に敵の進行を妨害。戦闘機隊はそれを支援する」
 多くの物が存在している、デプリベルトで隠れる為には、隠れられる大きさかつ、デプリに激突しても耐えられる装甲がある事が望ましい。宙雷艇はこのような場所で活躍する事を想定した艦艇であるため、その条件を十分に満たしている。ファアリースーツは装甲が無いものの、高い機動力で容易に回避可能であるし、その小ささはあらゆる物に隠れる事が可能であるため、デプリを活用するのは極めて得意である。
「時間が無い。個別の指示は無線で出す。出撃の準備に掛かってくれ」
 オラルドがそう言うと、艦橋に集まっていたメンバーは全員行動を開始し、艦内は出撃の準備の為、大きく動き始めた。

 

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「ワープアウト。僚艦のワープアウトも確認」
 “パラダイス”の艦隊司令室にその声を皮切りに様々な報告が行われる。
「多くのセンサーはやはり使い物にならんか」
 報告を聞いていた司令が呟き、艦長がそれに同意する。
「ですね。幸いにもジャミング環境下での状況と類似しています。戦闘に大きな影響はないでしょう」
 強力な電波を照射し、相手の目を潰すジャミングは宇宙進出以前から存在する物だ。民間船ならともかく、あらゆる状況を想定する軍艦はその状況でも戦闘が行えるように設計されている。帯電によってノイズの多いこの環境もジャミングを受けているのとそう変わらず、流石に能力の低下はあるものの、戦闘という行動に大きな制約が課せられた訳では無かった。
「敵発見。ライトニングⅣ宙雷艇、数1」
 オペレーターの報告にニッと軽く口を緩ませながら、司令が発言する。
「やはりここだったか。艦隊雷撃戦用意。散布パターンはB」
 艦隊戦の初撃は射程の長い魚雷から始まる。その鉄則は相手が小規模でも適応されるし、爆発によって広範囲にダメージの与えられる魚雷はデプリに隠れる敵を脅かすにも大きな効果がある。
「航空隊、出撃用意完了との事。どうします?」
 艦長が司令に尋ねる。ザードレア改級は、ザードレア級の航空機運用能力を大幅に強化した艦で、軽空母程の艦載機が運用可能な所謂航空戦艦であり、航空機による攻撃が可能であった。
「出撃させ、艦隊周辺で待機。魚雷炸裂後に突入させろ」
 司令の発した命令を艦長が航空隊の指揮官に伝える。通達が終わると同時に艦後部に設けられたV字型航空機甲板が映し出された管制用モニターに甲板上に設けられたカタパルトによって次々と急加速していく艦載機が映る。
「全艦、戦闘準備良し」
 その声を聞いた司令は立ち上がり、静かに、しかしはっきりとした声で戦いの火蓋を落とした。
「これより、前方の“アドボラ”に対する攻撃を始める。全艦、雷撃戦始め」
 総勢14隻の艦艇から、多数の白い筋が生まれ、その筋は吸い込まれるようにデプリベルトに消えると、多数の閃光を生み出した。

 

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「ふにゃーーーーーー」
 ミアの何故か猫のような悲鳴が無線で伝わる。スミスも半ば悲鳴を上げかけていたが、悲鳴を上げれば集中が途切れて命を失うかもしれないとそれを押し込んでいた。シアも無言で集中して回避を続ける。
 炸裂した多数の魚雷を直接喰らった者は誰もいなかったが、その魚雷が命中したり、炸裂に巻き込まれたデプリの破片が加速し、その一部が散弾のように三人に向かっていた。
「せい!」
 ミアがスラスタを活用して、ある程度の大きさのあるデプリバットのように振り、向かってくる破片を跳ね返す。進路を変えた破片はスミスに向かって飛び、彼を掠める。
「ごめーん」
 ミアがスミスに謝罪するが、スミスはそれに答える余裕もなく回避を続ける。二人から見るといつも同じように喋っているミアはかなり不思議な存在であった。
 しばらく回避の為に行動を続け、デプリはようやく落ち着く。
「スミス、ようやく落ち着きました。敵は?」
 近くの岩石に身を寄せながらスミスが尋ねる。
「正面から接近中」
 “チハヤ”からのレーザー通信の仲介しているシアがスミスに告げる。ノイズの多い宙域であるから、短距離以上の無線通信はまともに使用できない。そのため、ノイズの影響の少ないレーザーを用いた中継役が必要となる。
「見えた」
 デプリの合間を縫うイオンエンジンの残す航跡が多数の模様を描いている。その速度はとても障害物の多い宙域を飛行しているとは思えず、練度の高さが見て取れる。
 三人は全力を込めて先制攻撃のフェアリーガンを放つ。しかし、それはすべてデプリに命中する。
「ありゃ、結構逸れるのね」
 この宙域の帯電は、“粒子”の動きにも影響を及ぼしていた。高出力の粒子弾は中々曲がらないものであるが、遠距離射撃となると流石に微々たるズレが生じただけでも外れてしまう。
「ミサイルランチャーに切り替えます?」
 フェアリースーツの魅力は粒子操作能力を攻撃力に転換できるフェアリーガンであるが、基本は宇宙戦闘服であるため、それ以外の多様な装備も使用可能であり、対戦闘機用のミサイルランチャーもその一つであった。
「誘導できない以上、戦闘機に対しては力不足」
 ミサイルは弾速こそ粒子弾と比べて遅いが、誘導される事によって戦闘機の複雑な軌道に、対応できる。しかし、その誘導が出来ない以上、弾速の速いフェアリーガンの方が有利であった。
「とりあえず、撃ち続けるしかないね」
 当たらなければ、とにかく撃つしかない。何発かは当たるかもしれないし、弾幕を恐れて回避機動を選択し、時間が稼げるかもしれない。
 三人はデプリを狙っているのか、戦闘機を狙っているのかよくわからなくなっていたが、ひたすら撃ち続けた。もし相手が今までのような相手であったら、その弾幕を回避するべく進路を変えるのだろうが、GUFの高い技量と勇敢さを持つパイロットたちは適切な僅かな進路変更のみでそれらを回避しながら、“アドボラ”に向けて突入を続ける。
「この距離なら!」
 機体の形をしっかり確認できるほどの距離の戦闘機に向けて、スミスは発砲しようとしたが、勘に近い違和感を覚えスラスタを吹かしてその場を離れる。
 先ほどまでスミスがいた地点にパルスレーザーが掃射され、急に移動したスミスを追いかけるようにその線が移動を開始する。
 スラスタをランダムに吹かし、予想困難なスピンでその線を乱しながら、スミスは辺りを見渡す。
「ラルコース!」
 デプリに掴まり、低姿勢で射撃しているそれは射撃の光で目立ってこそいるが、もし射撃を止めてしまえばその体は目立たなくなるだろう。ラルコースの足はこのような宙域の戦闘でも大きな力を発揮する。
「無人機のはずじゃあ」
 激しい攻撃を回避しながらスミスが漏らす。それに対して、シアが答える。
「あれは新型。限定的だけど有人で操作が可能になってる」
 そう解説を加えながら、シアはエンジンに向けてフェアリーガンを放ち、ラルコースは力を失ったように倒れる。
「そういえば、前見たのと姿が違うような」
 スミスがじっくりと眺めると、パルスレーザーの位置や機首などが異なっている事に気が付いた。すると、いきなり機体の一部が開き、GUFのパイロットスーツを着た兵士が飛び出し、GUF艦隊の方へ向かう。
「そっちも気になるだろうけど戦闘機!」
 ミアが叫んだ通り、戦闘機は三人の防衛ラインを抜け、少しデプリの密度が低い地点で、サルフィン隊とドックファイトを繰り広げ始めていた。
 三人はそれを支援するべく、敵戦闘機に向けて粒子弾の射撃を開始した。

 

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「戦闘機隊、敵と交戦中」
 オペレーターの報告が艦隊司令室に響く。
「フェリア1とのレーザー通信確立。情報来ました」
 その声と同時に司令室のメインモニターに“アドボラ”艦隊が映し出される。戦闘機隊の突入は観測を担当するラルコース隊がの目くらましであった。
「彼は優秀だが、部下はまだまだだな……」
 ラルコース隊に与えた任務は弾着観測であるのに敵と交戦し、あろうことか撃破されたフェリア2についての愚痴を艦隊司令が口にする。
「砲撃諸元入力始め」
 砲術担当の士官が報告をしながらコンソールを操作する。センサーが頼りにならないため、射程内でも命中する確率はかなり少ないが、至近距離まで近づいたセンサーがあるなら、その情報を元に射撃を加える事ができる。宙域の影響で生じたズレも、観測データがあれば修正を加えながら射撃が可能であるため、射撃を開始すれば、いつかは必ず当たる状態であった。
「砲撃戦、始め!」
 艦隊司令の号令と共に、“パラダイス”と三隻の主力艦から幾筋もの光が伸び、いくつかのデプリが塵と化す。
「観測データ受信。修正します」
「二点からの観測が理想だがな。もっと借りてくるんだったな」
 観測が任務であるのに戦闘を行い撃破されたフェリア2に対する文句でもあったが、そもそも観測に使用するラルコースを二機しか調達できなかった自身への文句でもあった。
「修正射、撃ちます」
 再び光が伸び、今回は艦隊をはっきりと掠めるのがモニターの映像でも確認できた。
「次は当たりますね」
 艦長がモニターを注視しながら呟く。そう何度も外すものではない。モニターに映る内の一隻は間違えなく次の攻撃で撃破できる。艦の誰もがそう思っていた。
「撃ちます」
 砲術担当の士官の短い言葉と共に、再び“アドボラ”に向けて攻撃が行われた。

 

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 GUF艦隊の砲撃は見事に“アドボラ”艦隊を捉え、真っ直ぐに直進していた。しかし、それは不自然に向きを変え、艦隊から大きく離れた位置を通過する。
「“アキツシマ”大型粒子制御フィールドジェネレーターダウン! 復旧不能!」
 これまで戦闘に使われてこなかった“アキツシマ”にはあるシステムが搭載されていた。
 粒子砲などの根幹技術である、電気を用いて粒子を制御する“粒子制御フィールド”、その大型展開装置であった。この装置を用いれば、サーミル程ではないが粒子をある程度制御する事ができる。通常、戦闘艦の砲撃など操作可能な物ではないがこの宙域の電気の力が加わり向きを変える事が出来た。
 その代償として、“アキツシマ”のフィールドジェネレーターは使用不可能になってしまったが、“アドボラ”にはそれで十分であった。
「“ワカミヤ”ワープ開始」
 1斉射分、たったそれだけの時間だったが、その時間が生まれた事によって“ワカミヤ”はワープをすることに成功した。これで“アドボラ”の活動が途絶える事は無い、しばらくは待たねばならないが、いずれ再び動き出すだろう。
「こっちはどうするか、だな」
 オラルドは“ワカミヤ”のいた空間を眺めつつ、呟く。GUFは“ワカミヤ”さえ逃げられれば“アドボラ”にとっての勝利とは知らない。そのため、攻撃は続くだろう。
「敵宙雷戦隊、距離を詰めます」
 砲撃が無力化されたためか、さらに接近しようとGUF艦隊が動く。ドックファイトは砲撃が始まった時点で下火となり、今はGUF戦闘機隊の撤収に合わせ、サルフィン隊も後退し、ドックファイトは終了していた。
 そんな中、フェアリースーツの三人はデプリに隠れながら、接近してくる艦隊に対し、粒子弾を放ち散発的ながら攻撃を加えていた。
 ミサイルは誘導できず、デプリによって射線が通らない粒子砲は反撃に使えない。相手が通常の艦隊であるならば、三人は優位であった。
 しかし、相手がGUFで1,2を争う精鋭と呼ばれる第11宙雷戦隊であった事が不幸であった。
 二隻の駆逐艦から放たれた粒子弾がある一点で交わり、多数の粒子弾が周囲に拡散する。クラスターショットと呼ばれる、粒子と粒子の衝突を粒子弾規模で発生させ、本来は点
 の攻撃である粒子砲で範囲攻撃を実現する戦術である。
 通常はコンピューター制御と正確なセンサーに基づき行われる戦術であるが高練度の
 第11宙雷戦隊は、それらが限られた環境でもそれを次々と成功させ、影を次々と制圧していく。
「これは厳しいなあ」
 ミアが珍しく完全に萎れた声で呟く。その目の前で、先ほどまで隠れていた場所を多数の粒子弾が抉る。
 スミスもシアも、必死で回避を続け、攻撃の機会は全く得られていない状態であった。

 

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「“ロングソード”、出すぎだ」
 第11宙雷戦隊旗艦“フブキ”の艦橋で戦隊司令官が僚艦に指示を出す。多くの戦いを経験してきた彼と部下は、初めて出会うフェアリースーツに対しても有効な戦闘を続けていた。
「しかし、不思議だな」
 ぽつりと漏らすように、しかしはっきりとした口調で司令官はそう言った。
「次は“シラヌイ”とタイミングを合わせろ。どうしました?」
 艦に命令を出しながら、艦長が司令官の声に顔を向ける。
「粒子がここまで乱れるものだったかと思ってな」
 モニターに“シラヌイ”と連携しクラスターショットを行おうとした粒子弾が“シラヌイ”のそれと交わらず、デプリを破壊する様子が映し出された。
「確かに我々の経験よりズレは大きいですね」
 艦長は確かにそうだと思ったが、それは環境によって変化する事で経験と比べても大きな意味は無いのではと思いながら返事をする。
「いや、違う。粒子弾がランダムすぎないかという事だ」
 司令官の言葉に、艦橋の全員が粒子弾の動きに注目する。放たれた光は確かに先ほどとは全く違う軌跡をたどる。
「なにかがいると?」
 艦長が尋ねる。
「ああ、それはさっき使われたような、粒子制御フィールドの残骸が影響しているかもしれんし。あるいは…」
 そのあるいは、の先を口にしようとした瞬間であった。“アキヅキ”が多くのデプリを薙ぎ払いながら、動く大きく動く何かに気付き、報告した。
「前方に大型生物。……これは、サーミルSS級です!」
 それは、特別警戒を要する宇宙生物の個体に付けられるSS級を持つ超大型のサーミルであった。

 

後半に続く

 


 

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