未来を探して 第2章(後編)

by:tipa08   

 “チハヤ”はワープを終え、安定航行状態に突入すると、平時の推進器である四基のプラズマエンジンを止め、それぞれの隣に装備されたイオンエンジンを起動させる。このイオンエンジンにはサイレンサーが装備されており、熱などの警戒システムに探知されやすい情報を軽減する事が出来る。
「もう一度手順を確認する」
 パイロットなど、作戦に直接関わる者のみ集められたブリーフィングルームにスピーカーによって補強されたオラルドの声が響き渡る。
「この作戦は、惑星“アーニグ”において、迫害を受けている者達が隔離されているコロニーに対して細菌兵器が使用される、という匿名の何者かによって持ち込まれた情報に基づいて行われる」
 “アドボラ”自体も情報を収集しているが、このような密告、通報によってアクションを起こすという事の方も多い。
「罠の可能性もあるが、この情報以前から“アーニグ”の動向は調査していた。その調査によると大きな動きは無く、罠の可能性は低い」
 “アドボラ”を標的とした罠であるなら、対戦闘機、対艦艇の備えが必要であるが、艦艇の配備といった大きな動きは確認されていなかった。
 細菌兵器は通常輸送に紛れ込ませる等で“アドボラ”から隠す事が出来るが、罠であるならあえて情報を掴ませる物だろうというのも、罠でないと判断する根拠であった。
 オラルドは、その説明を終えてから、本題である手順の説明に入った。
「まず、長距離警戒衛星を無力化するため、ロメオ班が警戒衛星に忍び寄り、これを無力化する」
 メインモニターに地表のほとんどが砂に覆われた惑星が表示され、それを包むような何本かの線が表示される。これは静止軌道上に存在する、宇宙からの脅威を監視する監視衛星の軌道であった。
「無力化するのはA1、A2、B2。アップデートを適用した痕跡は見られず、ウイルスさえ注入すれば問題ないはずだ」
 三つの線が着色されピックアップされる。警戒衛星は定期的にアップデートされる事によってウイルスなどの妨害手段に対抗するのだが、“アーニグ”は大分前に開拓が中止された惑星であるし、危険も少ない惑星であった事から更新が放置されているため、“アドボラ”が所有する既存のウイルスが有効である。
 このウイルスに感染した警戒衛星は異常なしというデータを送信し続けるため、平常の異常を検知すれば報告するオートモードであれば“チハヤ”は見つからずに目標に接近できる。データを手動で参照するマニュアルモードであれば探知される可能性があったが、アップデートを怠る状況からもわかるように手動で確認する人員は確保されていない。
「そして、この未完成の農業用コロニーにこの艦を隠し、探査チームを出撃させる」
 モニターの画像は未完成のドーナツ状のスペースコロニーに変わる 。
「探査チームは目標に向かって移動。調査を実施し、匿名の情報が事実かどうかを確かめる」
 ドーナツから矢印が伸びて、一般的な居住用コロニーに向かう。
「防衛戦力にGUFは含まれず、PMCである“アーニグディフェンス”のみである。戦闘艦艇は持たず、輸送艦二隻に宇宙戦闘機十数機のみだ」
 モニターに民間船として見かける事も多い小型の輸送艦と、SF-19という宇宙戦闘機の姿が表示される。
「これに加え、コロニーの周囲には自動防衛システムが存在すると考えられるが、警戒衛星との連動システムであるからウイルスによって無力化できるだろう」
 モニターには小惑星に固定された粒子砲や、ミサイルランチャーが映し出される。このシステムは起動のキーがシステムによる異常検知であるため、警戒衛星が沈黙していれば作動しないシステムである。
「事実かどうか判明した場合の対応だが、事実ならば細菌兵器を無力化する。事実でない場合は即座に撤収する」
 モニターには離脱ルートが示される。農業用コロニーと居住用コロニーから直線が伸び、中間点でその直線が合流するとその線は一つになり、惑星を離れていく。
「それでは、各自準備を頼む。問題が発生した場合逐次報告。以上だ」
 オラルドはそれを言い切るとブリーフィングルームを出ていった。
 それを皮切りに座っていた者たちが次々と各自の作業を行うために扉をくぐり、駆けていく。
 スミスもそれに続き、航空機整備甲板に向かって移動する。廊下は作戦を前に艦の点検を行う者、持ち場に向かうために走る者、必要物資を移動させる者などであふれており、スミスの思っていた時間より多くかかってしまっていた。
 整備甲板も“チハヤ”の艦載機だけでなく、“ワカミヤ”から預かった艦載機もおり、こちらも大分手狭になっていた。
「スミス、こちらギリアさん。今回は彼が面倒を見てくれるから」
 シアがいきなり話しかけてきて、彼女の横にいる男性を紹介する。体格がよく、肌が良く日焼けしており、パッと見るだけなら、目をそらしたくなるような怖さを纏っている。
「ああ、よろしく。マミヤ君だったか?」
 声もなかなか低かったので、スミスは少し縮まりながら返事をする。
「はい、スミス・マミヤです。よろしくお願いします」
 会釈程度のお辞儀もする。
「よろしく、ギリア・パシェアだ」
 ギリアは手を伸ばしてきたので、スミスはその手を取り、握手する。
「私と君と数名は待機メンバーだ。何も仕事が無いといいな」
 そう言いながら手を放し、ギリアは整備甲板を見渡した。
「こっちの方は問題なさそうだな。ファアリースーツの確認は?」
 出撃前の確認はとても大切なパイロットの仕事である。いつもと違うという違和感から見逃された異常を発見する事ができる。整備を行う整備士は普段使ってはいないため、違和感からの発見は中々無いのだった。
「今からです」
「そうか、確認が終わったら艇整備甲板の方に来てくれ。そっちの作業を手伝ってくる」
 ギリアはそう言うと、少し走って移動を始めた。
「了解です」
 遠ざかり始めていたが、スミスは一応返事をし、敬礼の真似事をして声が届かなくてもわかるようにした。
 それを確認したギリアの返礼は整ったものであった。
「ギリアさんは元軍人なの、敬礼の仕方習ってもいいかもね」
 シアもそう言うと自分の作業をするためにスミスから離れていった。彼女は探査チームであったから、スミスとは別行動であった。
 ミアは世界樹の拠点の防衛に残っているからこの“チハヤ”にもいない。“チハヤ”が彼女の母艦ではあるが、小所帯である“アドボラ”は変則的な編成が多く。母艦はメインの自室があるくらいの意味しかない。
 スミスはフェアリースーツを装着し、簡単なテストを実施した。初めてのテストであったから、用意された手順書を片手にテストを行い、スーツを脱いだ。
 それから、戦闘機と整備士たちの間を通り、エアロックに入り、艦内用宇宙服を身に着け、無重力空間である艇整備甲板に入る。
 チトセ型が宙雷艇母艦であるゆえんである艇整備甲板はこの艦で最も大きい、現在も二隻の小型宙雷艇であるライトニングⅣが固定されている。
 艦底部のハッチは開いており、数名の作業員が筒のような物を準備している。
「マミヤ君、こっちだ」
 ギリアがスミスから少し離れたキャットウォークから声をかけてくる。声といっても、宇宙服内蔵の指向性の小型無線を仲介している。
 スミスはそのキャットウォークに向けて床を蹴り、飛び上がり、手すりを掴み、勢いを止めてキャットウォークに着地する。
「上手いな、俺は陸軍だったから苦手なんだよ」
 そんな事を呟きつつ、ポケットを漁る動作をするが止める。
「どうしました?」
「いや、ちょっとな。昔のせいさ」
 そう言いながらキャットウォークの丁度真下、筒のような物の作業を見つめる。
「人間魚雷、うちの独自開発の中じゃあ一番優秀かもしれんな」
 人間魚雷セイレーンは“アドボラ”が魚雷の推進器を利用して開発した小型の特務艇である。“アドボラ”の装備品の中にはこういった独自開発機もあるが、この“セイレーン”以外は大体比較対象となる既存品があるから、評価は良くない。
 人間魚雷という兵器は、魚雷に人の運搬機能を持たせたものである。小柄であるから元々より探知されにくく、探知対策も小型であるから安価に出来るため特殊作戦の足に使われる兵器である。
 ちなみに宇宙空間における魚雷というのは、ミサイルの中で高度な航法装置を備え、フライバイなども利用し長距離も航行する物をさす用語であるが、艦首から放たれるミサイルの事を示していたり、単に大型ミサイルの事をそう読んだりと定義は安定していない。
「あれで衛星まで近づくんですか?」
「ああ、そうなるな」
 テストの為に少しだけセイレーンのエンジンが光を放つ。
「そういえば、シアを見たときそんなに驚かなかったと聞いたが」
 ふと思いついたという感じでスミスに尋ねる。
「いえ、すごい技量だと驚きましたが」
 何を聞かれたのか今一パッとせず、スミスは戸惑いながら返す。
「そうか、サレリアでは普通なのか」
 ギリアはその反応を受け暫く考え、納得する。
「あいつは大分人間に近いんだが、代わりに獣人種族と気付かれず、耳を見られた時は大体少しは驚かれてしまうらしい。俺も驚いてしまった」
 ギリアは昔の失敗を思い出してヘルメットを掻く。
「そんなに珍しいですかね?」
「すっかり忘れていたが、サレリアは獣人が珍しく無いんだよ。あそこは理想郷を目指して作られた星でもあるからな」
 すっかり忘れていたという表情でギリアが語る。
「そうなんですか?」
 スミスは全く知らなかった。
「ああ、だから外に出ていく事はあまり考えない教育なんだ。16時みたいな表記は大学入るまで勉強しなかったと思うが」
 宇宙空間では昼も夜も軌道によって大きく変化する、そのため午前午後の感覚など無くなってしまうため、現在の時計は24時間表記が一般的である。
「私は知ってましたけど、周りはあまり知りませんでしたね」
 スミスは父が宇宙で仕事をしていることもあり、24時間時計は慣れ親しんだものだった。
「じゃあ、差別と向き合った事は無いか?」
「そういう事になります」
 セイレーンの準備が終わり、作業員が離れていく。
「機会があれば説明しよう。ガエ、セイレーンはどうだ?」
 離れていく作業員に話しかける。
「問題なしです。配置についた方がいいですよ!」
 かなり小柄の作業員はそう言うと、作業員の休憩スペースに消える。セイレーンの準備が終わり次第作戦が開始されるから待機班も配置につかなくてはならない。
「そうしよう! マルゥアは知っているか?」
 前半は休憩スペースの簡易エアロックに向けて、後半はスミスに向けて言った。
「はい。でもあった事は無いです」
 マルゥアはある異星人が宇宙船運用の為に作り出した人工生命体で、その異星人の居住区らしき区画が破損した超大型宇宙船に乗って地球圏にやってきた。
 どこでも入れるよう小柄で、四肢も宇宙空間での行動が前提だから細い。脳を小さくは出来なかったのか、頭は人間とそう変わらない。その外見は昔のポピュラーな宇宙人像と同じであり、グレイと呼ばれる場合もある。ちなみに、彼らは地球に来た事は無いそうだ。
「さっきの彼がそうだよ。さて、移動しよう」
 そう言うと、ギリアは別のキャットウォークに向けて飛び上がり、到着した先でスミスの方を見る。
 スミスはそれに続いて飛び上がって移動した。
 それから、二人は航空機整備甲板にある通称スクランブルボックスに移動し、待機班の残り数名と共に待機する。
 その部屋の中で、ポーカーであるとか短時間で終わる遊びを中心に暇を潰していた。長時間のものは、緊急時に中途半端で終わって消化不良感が残る場合が多いからだ。
「スミス! オラルドさんが呼んでるぞ! 艦橋だ」
 鳴った受話器を取った一人のパイロットが艦橋からのメッセージを伝える。
「はい、了解です」
 スミスは、別のパイロットと興じていたパズルゲームを中断して立ち上がる。そのパイロットは勝っていたから文句は無いようあった。
 整備甲板を抜け、通路に入り、艦橋に入る。
 チトセ型は戦闘艦艇ではないから、艦橋と情報の統合、戦闘の指揮を行うCICは一体化しており、かなり広々としている。
「スミスくん、少し聞きたいことがある」
 オラルドがモニターを示しながらそう言う。モニターには齧られたドーナツのようなコロニーが映っていた。
「ファームⅢ型の構造で発見されにくい所は何処だと思う?」
 聞かれたのは“チハヤ”の隠し場所であった。
「えっと、ちょっと待ってください」
 ファームⅢ型は最もポピュラーな小型農業コロニーであったから、大学で農業を専攻していた、スミスも構造を把握していた。“チハヤ”の大きさ。建設がどこまで進んだのかを確認し、発言する。
「えっと、この第5シャフトが良いと思います」
 ドーナツの中心、宇宙船が利用するスペースポートとドーナツの農業区画をつなぐシャフトのうち一本を指し示す。
「ほう」
「ここのシャフトには応急用のライトがありますから、発電機等の発熱源が多くあるんです」
 廃棄されていても、熱発生源がある所の熱と無い所の熱であれば、無い地点の熱の方が疑うだろうという考えであった。
「なるほど。合理的だ。操舵手、このポイントに艦を運ぼう」
 スミスの考えにおかしい所を感じなかったオラルドはそれを採用する。
 操舵手と相談を終えると、艦内放送のマイクを取った。
「警戒衛星の無力化に成功した。探査チームは出撃の準備を頼む」
 オラルドは艦内放送用のマイクを置くと、細かい打ち合わせの為に艦内無線機を取ろうとする途中で思い出したようにスミスに声をかける。
「スミスくんはこのまま残ってほしい。コロニーの構造が手に入らなかったんだ。助言が欲しい」
 そう言ってから、無線機で細かい打ち合わせを始めた。農業用コロニーは艦橋の窓からは見てもかなり大きくなっていた。

 

= = = = =

 

 “チハヤ”が農業用コロニーの第五シャフトに固定され、探査チームは出撃した。
 探査チームはシアを中心に数名の戦闘員で編成されており、その足はサルフィンに搭載されたセイレーンだった。
 彼らは、レーダーはすでに無力化しているが、念には念を入れてデプリ等遮蔽物の多い航路を取り、隔離コロニーに近づき、此処でセイレーンをサルフィンから分離させ、それで外壁に接近し、外壁に設けられた非常用エアロックに張り付くと、ハッキングを用いて開放警報システムを無力化し、侵入する。
 非常用エアロックは地下貨物輸送用のリニアシステムと接続されていた。通路の標識から目標の方向を判断する。
 スペースポートと空調システムを捜索するため、チームは二手に分かれる。シアはスペースポート側だった。
 運よく無人輸送システムにしがみつくことが出来たから、素早く目標に到達したシア達は、スペースポートの共通規格コンテナがひしめく貨物保管スペースの捜索を
 開始した。
 コントロールシステムの物資搬出記録を調べた所、目標だと疑われる物は二つ。片方は空調システムに輸送されているようだったから、そちらのチームに連絡する。こちらにあるコンテナを探し出し、開封を試みる。
「駄目です。ハッキングでは困難です」
 電子専門の戦闘員が試した結果を報告する。
「私がやる」
 それだけ言うと、シアはロックに手を近づけてそれを破壊する。
 そして慎重にコンテナを開くと、中にはいくつかの耐衝撃ボックスが入っていた。
 その一つを慎重に開放すると、ボックスの大きさからすると小さく感じる筒が出てきた。その表面には生物兵器を意味する警告標識が大きく書かれていた。

 

= = = = =

 

「Cx-0113Bz?」
 シアから暗号通信で送られてきた細菌兵器の名前にスミスは首を傾げた。
「HIV2という通称の方が有名だな。HIVウイルスとは構造的にも何も関係は無いんだが」
 防衛配置の調整の為に艦橋に来ていたギリアがスミスに説明する。
「免疫作用を破壊するウイルスで、感染した者は免疫能力を失う」
 追加の暗号通信が入り、換気システムの物は細菌兵器では無かったと報告される。
「すると、一般的な病気でも死ぬようになってしまう。ウイルスは免疫を破壊した段階で死滅するようになっているから証拠が残らない」
 通常の細菌兵器を利用すれば即座に特定されるが、このウイルスであれば、死因は他の病気であるため、原因がすぐには明らかになりにくい。
「まあ、突然多くの人が一般的な病気で死ぬのはおかしいし、このウイルスが認知されてからはほとんど意味が無くなったけどな」
 ギリアはスミスの顔が少し暗かったので少し軽い口調に変えた。
 オラルドはシアに暗号で焼却手段を指示していく。
 その時だった、レーダー手が声を上げた。
「31がレーダー波検知、構造物による反響で詳細不明」
 その報告はコロニー外部に設置したポッドの一つがレーダー波を探知したという物だった。
「機数は分かるか?」
「最低で2機。方位距離確定せず」
 艦橋が慌ただしく動き始める。
「こちらもレーダーを使用しますか?」
「そんな事をしたら見つかる。まだこちらを完全に捉えた訳では無いはずだ」
 今こちらがレーダーを探知しているように、敵も探知できる。こちらの位置を把握していない場合、むしろ位置を知らせてしまう結果になる。
「敵は2機、接近中、方位不明」
 レーダー手によって、情報が更新される。
「スミス君、遊撃してくれ」
 オラルドが指示を出す。
「はい、出ます」
 スミスは素直に艦橋を飛び出して、整備甲板でファアリースーツを着込み艦外に出る。
 シャフト内は狭く、飛び出した際に外壁に衝突しかけたが、立て直す。
「敵は至近の農業区画に侵入、迎撃をお願いします」
 通信手の指示に従って、農業区画に向けて慎重に加速した。
 農業区画はスペースポートから見て外側の大地部分と内側の採光部分に分かれている。
 大地部分はある程度の遮蔽に使えそうな物があったが、採光部分はただガラスが広がるだけの空間で、隠れる事の出来る場所は無い。
 スミスは両部分を歩行するアザラシに長い足の生えたような兵器を発見した。
「マリコースみたいなやつです」
 サレリアで見た事のある兵器に似ていたからその名を伝える。
『ああ、その原型のラルコースだろう』
 ラルコースは強襲用無人戦闘ロボットで、戦闘機に足をつけ、壁面などに張り付くことでコロニー内など安定して戦闘が出来るように設計された機体である。
 その特性が評価され、水中用に改装されたのがマリコースである。
『もう少し待ってくれ、焼却と同時に行いたい』
 こちらと探査チーム、どちらが先に行動を起こしてしまうと、もう片方に影響しかねない。
「了解です」
 スミスは敵に見つからないように大地部分に降下し、水が流れていない水路に隠れる。
 採光部分を歩くラルコースを見ると時折立ち止まり、周囲を捜索、そして移動という動作を繰り返している。
「10秒後に攻撃してくれ。“チハヤ”も出港させる」
 スミスは指示通りに10数える。10、9、8,7,6,5,4,3,2!
 飛び出して攻撃しようと思った瞬間、光が辺りを照らした。太陽光収集ミラーが焼却の光を反射したのだ。
 二機のラルコースはそちらの光に気を取られ、スミスは丁度その隙を付く形となった。
 スミスはまず採光部分にいるラルコースに向けてフェアリーガンを可能な限り全力で放った。
 光の筋はラルコースの右足に命中し、右足を吹き飛ばした。
 次に放った攻撃は、胴体に直撃し機体は四散した。
 大地部分のラルコースはスミスに向けて素早く両側面に装備された三連装ランチャーからグレネードを打ち出す。
 スミスは慌てて高度を下げ、水路に激突するようにして着地する。その上空で六発ものグレネードが炸裂し、周囲を明るく染める。
 続けて降下したスミスの位置を予想し、機首に装備された粒子砲の防護カバーを開け粒子砲を放つ。
 粒子砲は水路までの大地をえぐったが、水路までは達しなかった。それを確認したラルコースは再度粒子砲を射撃する。
 スミスは素早く飛びあがった、それに即座に対応し、粒子砲のサイドに四丁搭載されているパルスレーザーがスミスに向けて飛ぶ。
 数発が掠めるが、空調用吸気口の裏側に隠れ射線から逃れた。
「すぐに次が来るぞ!」
 そのギリアの声に反応して、スミスは再び飛び上がる。
 吸気口が粒子砲によって吹き飛び、さらに上空にグレネードが散布され、逃げ道をふさごうとする。
 しかし、ラルコースのAIは宇宙戦闘服を着た兵士を想定して射撃を制御している。フェアリースーツの全力で飛翔したスミスを捉える事は出来ず。再び、明るく照らすだけとなった。
 上空を取ったスミスは構えて、フェアリーガンを放った。その攻撃は照準が甘く、ラルコースの装甲を掠めるにとどまり、致命傷を与える事は出来なかった。
 二撃目を放とうとしたスミスであったが、機体上部に装備されている対空用のパルスレーザーの射撃を受け回避に切り替える。
 この対空射撃はしつこく、スミスは中々攻撃に移行できなかったが、強制冷却の為に射撃が途切れた瞬間に振り返り、攻撃に移行しようとしたが力加減を誤り、過剰に回転し敵を正面に捉える事が出来なかった。
 冷却を終えた対空パルスレーザーが射撃を再開する。とっさに大地方向に向けて回避したスミスに向けて、機首の四門のパルスレーザーも射撃に加わる。
 五門ものパルスレーザーの射撃は、スミスの逃げ道を塞ぐ。
 しかし、その前にラルコースは粒子砲に貫かれ、スミスは大きなダメージを負わなかった。
「スミスくん、一度戻ってくれ」
 ラルコースに向けて粒子砲を放った“チハヤ”に戻るようにオラルドからの指示が飛ぶ。
 スミスは素直にその指示に従って、“チハヤ”に着艦する。
 “チハヤ”は外壁を砲撃で破壊し、宇宙に飛び出した。
 宇宙に飛び出した“チハヤ”の艦橋は慌ただしさを増していた。
「レーダーに感。宇宙戦闘機、数10」
 レーダー手が報告する。
「…SF-19だといいがな」
 オラルドはぼやくように呟く。ラルコースのような情報に無い機体が配備されていたという事は、追加の供与があったという事だ。戦闘機も最新鋭の物に変化していてもおかしくはない。
「ひとまず迎撃で問題ないか?」
 ギリアがオラルドに確認を取る。
「“チハヤ”の出力では振り切れそうもない。そうするしかない」
 敵戦闘機隊は着々と“チハヤ”との距離を詰めている。このままだと、探査チームとの合流までに追いつかれる計算だ。
「よし、待機班全機発進。マミヤ君は上部外壁に移動し、そこで待機」
 ギリアがスミスに指示をだす。
 スミスはその指示に従って、発艦していくサルフィンに続き、再び艦外に飛び出すと、所定の位置に移動した。
 上部外壁は所々に手すりが取り付けられていたため、スミスはその一部に掴まり、次の指示を求める。
「ここで何をすれば?」
「“粒子”供給ポートと接続し、そこから迫ってきた敵を撃ってくれ」
 “チハヤ”はチトセ級の中では重武装の艦であったが、純粋な戦闘艦と比べると火力が劣る。その火力を補うために、フェアリースーツは砲塔のように使用される場合があった。
 今回のスミスのように連戦となる場合は特に用いられる手段で、休息と、“粒子”の補給をしながら、戦闘は続行できるという利点がある。
 スミスは外壁に目を走らせ、ポートを見つけると、近づきポートを開き格納されていたホースにアダプタを取り付け、スーツの供給口に装着する。
 スミスの目の前に表示されているHMDの粒子残量ケージがチャージ中を示す状態に切り替わったのを確認すると、艦の後方に目を凝らした。
『敵の戦闘機はQF-38A! SF-19もいたがミサイルだけ撒いて逃げやがった』
 迎撃に向かったファースパイから敵についての情報が入る。
「ミサイル確認、高速数6」
 レーダー手がSF-19のばら撒いたミサイルが“チハヤ”接近中である事を知らせる。
 それの報告とほぼ同時に、スミスの視界にはパルスレーザーの光や、閃光といった戦闘が始まったことを示す光景が広がった。
 “チハヤ”からの艦側面に取り付けられたミサイルランチャーから数発のミサイルが発射される。
「マミヤ君、君の視界に接近中のミサイルを表示する。可能なら迎撃してくれ!」
 そのギリアの声と同時に、スミスのHMDに複数のUIと同色の6つの点が表示される。その点の周囲で爆発が起こると、4つの点は消滅する。
 スミスが一つの点に意識を集中させると、その点から線が伸び、線の先端に新たな点が表示される。
「注視すれば予想位置が表示される、それに向かって射撃してくれ」
 スミスは、点がミサイルで、新たに表示された点はそれかと理解すると、早速フェアリーガンの照準を合わせ、粒子弾を放つ。
 射撃の度、予想位置が変化する。それに合わせて射撃をするが、当たらない。これは粒子弾の速度に合わせ、予想位置を調整しているためで、扱いなれていないスミスの射速が安定しないのが原因であった。
 ミサイルが“チハヤ”に接近すると、射速の違いによる予想位置の誤差が減り、スミスの射撃が命中し、ミサイルは爆散する。
 残りの一発は“チハヤ”の後部粒子砲が迎撃し、破壊する。
 安堵するスミスに無線機の声が響く。
『二機抜けた!』
 スミスの視界に映る情報が更新され、二つの点が表示される。
 “チハヤ”のミサイルランチャーから数発のミサイルが再び発射され、点の付近で炸裂するが、消滅はしなかった。
 スミスは片方に狙いを定めると、表示された予想位置に向けて攻撃を行ったが、射速による誤差に加え、相手が狙いをつけづらい機動を取っていることもあり、命中する事は無かった。
 形を識別できるほどの距離で“チハヤ”の粒子砲と共同で一機を撃墜するも、もう一機に攻撃コースへの侵入を許す、パルスレーザーが弾幕を形成するが、QF-38Aは気にせず突入を続行し、吊り下げられた二発の大型爆弾を分離させると、敵機は反転する。
 分離された大型爆弾は、慣性で“チハヤ”に接近する。
 パルスレーザーの弾幕は継続して形成され、いくつか命中しているが、効果が無い。
 命中するか、という寸前で横から粒子弾が大型爆弾を襲い、二発の大型爆弾は爆散する。
「探査チーム、合流」
 シアの声と同時に、爆弾を分離した敵機が探査チームのサルフィンによって撃墜される。
『こっちも終わった。GUFが来ないうちにトンズラと行こう』
 迎撃に向かったサルフィン隊も戻ってくる。
「全隊被害なし、作戦を終了する」
 オラルドがそう宣言する。外に出ていた機体がすべて“チハヤ”に収容されるのを確認すると、“チハヤ”はワープの準備に入る。
「初めての実戦はどうだった?」
 フェアリースーツ用ロッカーで、シアがスミスに尋ねる。
「よく、分からないです」
 それを聞いてシアは軽く微笑む。
「そんなもの、戦う事に抵抗はない?」
 その質問に、スミスは少し悩んでから返事をする。
「やはり分かりませんが、嫌とは思いませんでした」
 正直な気持ちを示したスミスに対してシアは頷きながらこう呟く。
「そう。…はっきりしないものだけど、感想位は持っておいてもいいかも、ミアの質問攻めが待っている」
 それを聞いたスミスは頭を捻る。その様子を見ながらシアはすぐそこある椅子に座り、シートベルトで自分の体を固定する。
 スミスもそれに続き、シートベルトを締める。
 “チハヤ”はワープに移行し、“アーニグ”より離脱した。

 

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