縦書き
行開け
マーカー

Vanishing Point / ASTRAY #05

分冊版インデックス

5-1 5-2 5-3 5-4 5-5 5-6 5-7 5-8 5-9 5-10

 


 

ここまでのあらすじ(クリックタップで展開)

 「カタストロフ」の襲撃を逃れ、キャンピングカーでの移動を始めた三人はまず河内池辺で晃と合流、それぞれのメンテナンスを行うことにする。
 途中、河内池辺名物の餃子を食べる三人。その後、「カタストロフ」の襲撃を受けるものの撃退し、RVパーク池辺で一同は一泊することになる。
 河内池辺を離れ、隣の馬返に赴いた三人は馬返東照宮を観光する。
 その戻りに、辰弥は「カタストロフ」に襲われている一人の少女を保護するが、彼女はLEBだった。
 「カタストロフ」から逃げ出したという「第十号ツェンテ」、保護するべきと主張する日翔と危険だから殺せと言う鏡介の間に立ち、リスクを避けるためにもツェンテを殺すことを決意する辰弥。
 しかし、ナイフを手にした瞬間にPTSDを発症し、ツェンテの殺害に失敗する。
 それを見た日翔が「主任に預けてはどうか」と提案、ツェンテは晃に回収してもらうこととなった。
 |磐瀨《いわせ》県に到着した三人は路銀を稼ぐため、|千体《せんだい》市にあるアライアンスから「近隣を悩ませる反グレを殲滅しろ」という依頼を受ける。
 依頼自体はなんということもないものだったため、メンテナンスを受けてから依頼に挑むが、そこに「カタストロフ」が乱入してくる。
 しかも、乱入した「カタストロフ」の構成メンバーはLEB、一瞬の隙を突かれた辰弥が昏倒してしまう。
 だが、絶体絶命の状況を覆したのは辰弥自身だった。
 反転したカラーの辰弥の動きに、日翔と鏡介は辰弥の中にノインの人格が存在し、このような状況では肉体を制御して動けるということに気付く。
 依頼完遂後、館県と齶田県を通過した三人は高志県に到達する。
 高志県のグルメを堪能しつつ、日翔は旅銀稼ぎのために裏フードファイトに出場、その食欲からライバルの料理を強奪、見事優勝するのだった。
 しかし、いつもはメンテナンス後に来る「カタストロフ」の襲撃が来ず、辰弥はツェンテが襲撃犯を呼び寄せているのではないか、と考える。

 

 荘川郷に到着した三人はバギーラ・レインの話題を出しつつ荘川郷のグルメについて話す。

 

 荘川郷グルメを楽しむ三人。売店の店主におまけをしてもらいつつも様々な料理を堪能する。

 

 メンテナンスのために三人は晃と合流する。辰弥はツェンテを警戒するが、今回もツェンテは来ていないと言われる。

 

 メンテナンスを受ける三人。その中で、日翔と鏡介は辰弥の前では死ねないと改めて誓う

 

 晃が先に寝たところで、辰弥たちは朴葉味噌で酒盛りを始める。

 

 「カタストロフ」の襲撃に、辰弥たちは応戦する。

 

「ノイン、ありがと!」
 辰弥がノインをねぎらう。
『むふー!』
 辰弥に並走しながらノインがドヤ顔で特殊個体のLEBを指さした。
『やっぱあいつ防いだ!』
「それは想定の範囲内――っと!」
 辰弥が大きく跳躍する。人間の身体能力をはるかに上回る跳躍力で特殊個体のLEBの頭上を取り、辰弥はもう一つのカプセルを指先で割る。
 ノインも再度辰弥の髪を棘にトランスさせ、今度は特殊個体のLEBの周囲に突き刺す。
 その棘の檻の中――LEBに向けて生体銃をフルオートで発砲しながら辰弥は中に飛び込んだ。
「逃がさない!」
「チィ!」
 檻の中で、LEBが舌打ちをしてマチェットを構える。
「こんなもの!」
 マチェットを檻に叩き込む。その衝撃に辰弥が一瞬顔をしかめるが、すぐに平然としてナイフを生成し、LEBの懐に飛び込む。
「生憎と、マチェット程度で叩き壊せる強度じゃないんだよね!」
 痛いことは痛いんだけど、と言いつつ辰弥がLEBにナイフを叩き込む。
「だったら殺すまで!」
 マチェットでナイフを受け止め、LEBがナイフ越しに辰弥を睨む。
「お前だけは、俺が――!」
 ヘルメットのシールドがミラー加工されているため、辰弥からはLEBの表情は伺えない。
 しかし、自分に対して明確な憎悪を殺意を持っていることはその気迫からびりびりと伝わってきた。
 一体、何がこの個体を駆り立てる――そう思いながら辰弥はLEBのマチェットを弾き、もう一歩踏み込む。
 振り抜かれたナイフがLEBの腕を浅く切る。
『エルステのボケ! 何やってんの!』
 ノインが辰弥を叱咤する。
 だが、辰弥はというと相手が痛みに一瞬怯んだにもかかわらず後ろに跳んで距離を開けていた。
「く――っ」
 辰弥が、ナイフを握る右手を左手で掴む。
 ナイフを取り落としそうになるほど震える右手に、今はダメだと自分を叱咤する。
『エルステ!』
「駄目だ……。今攻めないと……!」
 髪を超硬合金にトランスさせて作った檻の中、追い詰めたも同然の状態で攻めないわけにはいかない。
 それでも、辰弥は踏み込むことができなかった。
 過呼吸を起こしそうになるところを必死で抑え込み、目の前のLEBを睨む。
「君だけは――!」
 量産型はそこまで脅威ではない。しかし、この特殊個体のLEBは自分に明確な憎悪を向けているだけに早急に排除しなければいけない。
 辰弥が思うように動けないことをいいことに、LEBがマチェットを振り上げる。
『んもー!』
 咄嗟にノインが檻に使った棘の一本を動かしてマチェットを受け止めた。
『エルステ、しっかりしろ! ぴーてぃーえすでぃーやってる場合じゃないぞ!』
(分かってる――!)
 辰弥も必死に意識を引き留め、目の前のLEBに体当たりした。
 ノインが檻を解除し、体当たりをまともに受けたLEBは後ろにあった無人のトラックに叩きつけられた。
 即座に辰弥がU字状の枷を生成して投げつけ、LEBの両手両足をトラックに張り付ける。
「くそ――!」
 悪態をついたLEBが辰弥に憎悪の目を向ける。
「さて、御尊顔の拝見と行きますか――」
 ナイフを手にしたまま、辰弥が一歩近寄る。
「お前は――」
 近寄ってくる辰弥に、LEBが叫んだ。
「そうやって俺殺すのか!」
「――っ」
 LEBの叫びに、辰弥の動きが止まった。
 「俺も殺すのか」――その言葉がなぜか引っかかる。
 そうだ、殺すつもりだ。LEBなんて、一人残らず。
 だから目の前の個体も特殊個体であったとしても例外なく殺す。
 それなのに、なぜこの言葉が棘のように引っかかるのか――。
「俺、は――」
 唐突に脳裏を過ぎる千歳の最期。人工循環液ホワイトブラッドに塗れた千歳の顔が、目の前のLEBに重なって見える。
「ちと、せ――」
 なぜ彼女の名前が出たのかも分からない。
 だが、辰弥は無意識に千歳の名を口にしていた。
「ッ、その名を呼ぶな!」
 LEBの叫びに、辰弥がはっとする。
「どうして――」
 ――どうして、千歳のことを知っている?
 いや、相手は「カタストロフ」なのだから構成員だった千歳のことが知られていてもおかしくはない。それなのに、なぜか違和感を覚える。
 しかし、LEBは辰弥のその問いを別の意味で捉えていた。
「お前ごときが口にしていい名前じゃない!」
 枷から抜け出そうとLEBがもがくが、トラックに深くまで食い込んだ枷と、力がかけにくい体勢で拘束されたために抜け出せない。
 辰弥が動揺しているため、時間は稼げたようだが、このままでは逃げられない、そうLEBが悟ったタイミングで生き残っていた他のLEBや一般構成員の動きが変化した。
 日翔や鏡介と交戦していた量産型LEBが一斉に後ろに下がる。
「あぁ? 逃げるのか?」
 追撃しようとする日翔を鏡介が止める。
「深追いするな」
 「カタストロフ」側は、指揮官らしき人物からデータリンクで撤退を命じたのだろう、煙幕を焚き一斉に闇の中へと消えていく。
「BS! 撤退しろ!」
 撤退命令が出ているのに動きがない特殊個体のLEBに業を煮やしたか、構成員の一人がそう声をかける。
「くそ――!」
 BSと呼ばれたLEBが、低く呻いた。
「こんなところで使いたくなかったが――」
「っ、まずい!」
 逃げるつもりか、と辰弥がナイフを手に走り出す。
 だが、辰弥が到着する前にLEBはぬるりと枷から抜けて身を翻した。
「な――」
 ナイフが届かず、辰弥が目を見開く。
 その一瞬で煙幕が炊かれ、LEBの姿が煙の向こうに消えていく。
 枷は確かにLEBをトラックに張り付けていた。それなのにLEBは枷から逃れた。
 腕だけなら手錠抜けなり逃れる方法はあったかもしれない。しかし、辰弥は確かに見ていた。
 磔にされたLEBの手足が細くトランスし、枷から抜けたのを。
 トランスができる――つまり、ノインと同じ第二世代。
 量産型はトランス能力を備えない第一世代の状態の辰弥をクローンしているのかトランスは使わなかった。明らかにトランスすれば乗り切れる状況でも使ってこなかったのでそれは判断できる。
 しかし、この特殊個体のLEBはトランスを使用した。
 ということは第十一号エルフテではなく11エルフなのか――。
 いや、「カタストロフ」にいるらしい所沢が追加で入手した辰弥の遺伝子情報を完全再現してエルフテを造り出した可能性も否めないが、所沢にそこまでの能力があるのか、と疑ってしまう。
 それなら最初に量産型が出てきた時点で全てトランス可能型でもおかしくない。襲撃してくるのは毎回トランスのできない量産型で、この特殊個体だけがトランスできたと考えると所沢はトランス可能な個体を造れないのではないか、そう考えたほうが納得できる。
 それならこのBSと呼ばれた特殊個体はナンバリングとしてはどういう扱いになるのか。
 エルフテか、エルフか――。
 いや、そんなことはどうでもいい。問題はノインが「量産型よりエルステに似ている」と言っていたことだ。
 そう考えると今の辰弥により近い状態だと言える。
 ノインと融合した辰弥の遺伝子情報を「カタストロフ」が持っているはずがないので、厳密に言えば武陽都にいた頃の辰弥に近いと言えるが、そうなると所沢が少し前の辰弥を限りなく近く再現できないという判断は覆される。考えようによってはコストか再現性の都合で第一世代の量産が容易だからと考えることもできる。
 だが、それでももう一つ否定すべき点がある。
 それはこの個体だけが自我を持って攻撃してくる点だ。
 量産型に自我らしきものはない。いや、あったとしても思考力を完全に奪われている。
 それなのにBSだけは自我があり、明確に辰弥に殺意を、憎悪を向けてきた。
 この違いは何なのか。単純にクローニングしただけなら量産型と同じように自我を奪えばいい。
 それを行っていない理由――。
 いくら考えたところで所沢の思考など分かるわけもないが、辰弥は考えてしまった。
 晴れていく煙幕の向こうにBSの、「カタストロフ」の姿はない。
 残されたのはいくつもの死体と銃弾によって穿たれた痕だけ。
 今回も生き延びることができた、それは喜ばしいことのはずなのに、何故か苦い思いだけが胸の中に広がっていく。
「辰弥、大丈夫か!」
「傷は――もうふさがっているか」
 日翔と鏡介が駆け寄ってくる。
「……うん、大丈夫」
 心ここにあらず、といった様子で辰弥が頷いた。
 あの個体は一体何なのか、ただそれだけが辰弥の心を支配していた。

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

第5章-8へ

Topへ戻る

 


 

「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。

 マシュマロで感想を送る この作品に投げ銭する